第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 1
第1節 障害のある子供の教育・育成に関する施策
1.特別支援教育の充実
(1)特別支援教育の概要
障害のある子供については、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立や社会参加に必要な力を培うため、一人一人の教育的ニーズに応じ、多様な学びの場において適切な指導を行うとともに、必要な支援を行う必要がある。現在、特別支援学校や小・中学校(※1)の特別支援学級、通級による指導(※2)においては、特別の教育課程や少人数の学級編制の下、特別な配慮により作成された教科書、専門的な知識・経験のある教職員、障害に配慮した施設・設備等を活用して指導が行われている。特別支援教育は、発達障害も含めて、特別な支援を必要とする子供が在籍する全ての学校において実施されるものであり、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対しても、合理的配慮の提供を行いながら、必要な支援を行う必要がある。
2023年5月1日現在、特別支援学校(小学部・中学部)及び小・中学校の特別支援学級の在籍者並びに小・中学校の通級による指導を受けている児童生徒の総数は約64万人(※3)となっており、増加傾向にある。また、通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合は、小・中学校においては約8.8%、高等学校においては約2.2%となっている(※4)。
※1:本節において、小学校には義務教育学校前期課程、中学校には義務教育学校後期課程及び中等教育学校前期課程、高等学校には中等教育学校後期課程を含める。
※2:通級による指導
小・中学校及び高等学校の通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対して、ほとんどの授業(主として各教科などの指導)を通常の学級で行いながら、一部の授業について障害に基づく種々の困難の改善・克服に必要な特別の指導を特別の場で行う指導形態。対象とする障害種は、言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、LD、ADHD、肢体不自由及び病弱・身体虚弱。
※3:通級による指導を受けている児童生徒の総数は、2021年度通年の数。
※4:当該割合は、2022年度の値。
(2)多様な学びの場の整備
ア 特別支援教育に関する指導の充実
① 多様な学びの場における教育
障害のある子供には、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、通級による指導、通常の学級における指導といった多様な学びの場が提供されている。2018年度からは高等学校段階における通級による指導が開始されている。また、障害のため通学して教育を受けることが困難な幼児児童生徒に対しては、教師を家庭、児童福祉施設や医療機関等に派遣して教育(訪問教育)を行っている。
2017年4月には、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領、2019年2月に特別支援学校高等部学習指導要領を公示し、(ア)重複障害者である子供や知的障害者である子供の学びの連続性、(イ)障害の特性等に応じた指導上の配慮の充実、(ウ)キャリア教育の充実や生涯学習への意欲向上など自立と社会参加に向けた教育等を充実させた。
幼稚園、小・中学校及び高等学校における特別支援教育については、学習指導要領等において、個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成するなど個々の児童生徒等の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的・組織的に行うこととしている。また、2023年3月に閣議決定された「障害者基本計画(第5次)」においても、障害者が就学前から卒業後まで切れ目ない指導・支援を受けられるよう、幼児児童生徒の成長記録や指導内容等に関する情報を、情報の取扱いに留意しながら、必要に応じて関係機関間で共有・活用するため、本人・保護者の意向等を踏まえつつ、医療、保健、福祉、労働等との連携の下、個別の指導計画や個別の教育支援計画の活用を促進することが明記された。
2023年3月13日に公表された、「通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への支援の在り方に関する検討会議」報告において、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への具体的な支援の在り方について示された方向性を踏まえ、特別支援学校と小・中・高等学校のいずれかを一体的に運営するインクルーシブな学校運営モデルを創設することについて、「障害者基本計画(第5次)」に明記されたところであり、2024年度から新規事業として実施すべく関連予算を計上している。
② 障害のある児童生徒の教科書・教材の充実
特別支援学校の児童生徒にとっては、その障害の状態等によっては、一般に使用されている、教科書発行者の発行する検定済教科書が必ずしも適切ではない場合があり、特別な配慮の下に作成された教科書が必要となる。このため、文部科学省では、従来から、文部科学省著作の教科書として、視覚障害者用の点字版の教科書、聴覚障害者用の国語(小学部は言語指導、中学部は言語)、知的障害者用の国語、算数(数学)、音楽及び生活の教科書を作成している。
さらに、特別支援学校及び特別支援学級においては、検定済教科書又は文部科学省著作の教科書以外の図書(いわゆる「一般図書」)を教科書として使用することができる。
また、文部科学省においては、拡大教科書など、障害のある児童生徒が使用する教科用特定図書等(※5)の普及を図っている。
具体的には、多くの弱視の児童生徒に対応できるよう標準的な規格を定め、教科書発行者による拡大教科書の発行を促しており、2023年度に使用された小・中学校の検定済教科書については、標準規格の拡大教科書がほぼ全点発行されている。また、標準規格の拡大教科書では学習が困難な児童生徒のために、一人一人のニーズに応じた拡大教科書等を製作するボランティア団体などに対して教科書デジタルデータの提供を行い、拡大教科書等の製作の効率化を図っている。このほか、通常の検定済教科書において一般的に使用される文字や図形等を認識することが困難な発達障害等のある児童生徒に対しては、教科書の文字を音声で読み上げるとともに、読み上げか所がハイライトで表示されるマルチメディアデイジー教材等の音声教材を提供できるよう、関係協力団体(大学・特定非営利活動法人等)に効率的な製作方法等の調査研究を委託し、成果物である音声教材を無償提供するなど、その普及推進に努めている。
さらには、近年の教育の情報化に伴い、2020年度から実施されている学習指導要領を踏まえた「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の支援のため、2018年に「学校教育法」(昭和22年法律第26号)等の改正等を行い、2019年度より、視覚障害や発達障害等の障害等により紙の教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の困難を低減させる必要がある場合には、教育課程の全部において、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書(※6)を使用することができることとなった。これに関し、文部科学省では、2022年度から引き続き2023年度において、特別支援学校及び特別支援学級を含む全国全ての小・中学校等を対象として、英語等の学習者用デジタル教科書を提供し普及促進を図る事業等を実施した。
※5:教科用特定図書等
視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため検定済教科書の文字、図形等を拡大して複製した図書(いわゆる「拡大教科書」)、検定済教科書を点字により複製した図書(いわゆる「点字教科書」)、その他障害のある児童生徒の学習の用に供するために作成した教材であって検定済教科書に代えて使用し得るもの。
※6:学習者用デジタル教科書
紙の教科書の内容の全部(電磁的に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く。)をそのまま記録した電磁的記録である教材。
例えば、以下のような活用方法により、教科書の内容へのアクセスが容易となることが期待される。
①文字の拡大、色やフォントの変更等により画面が見やすくなることで、一人一人の状況に応じて、教科書の内容を理解しやすくなる。
②音声読み上げ機能等を活用することで、教科書の内容を認識・理解しやすくなる。
③漢字にルビを振ることで、漢字が読めないことによるつまずきを避け、児童生徒の学習意欲を支える。
④教科書の紙面を拡大させたり、ページ番号の入力等により目的のページを容易に表示させたりすることで、教科書のどのページを見るかを児童生徒が混乱しないようにする。
⑤文字の拡大やページ送り、書き込み等を児童生徒が自ら容易に行う。
③ 学級編制及び教職員定数
公立の特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級においては、障害の状態や能力・適性等が多様な児童生徒が在籍し、一人一人に応じた指導や配慮が特に必要であるため、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(昭和33年法律第116号。以下本章では「義務標準法」という。)及び「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」(昭和36年法律第188号)に基づき、学級編制や教職員定数について特別の配慮がなされている。
・学級編制
1学級の児童生徒数の標準については、数次の改善を経て、現在、公立特別支援学校では、小・中学部6人、高等部8人(いわゆる重複障害学級にあってはいずれも3人)、公立小・中学校の特別支援学級では8人となっている。
・教職員定数
公立の特別支援学校における児童生徒数が増加していることや障害が重度・重複化していることに鑑み、大規模校における教頭あるいは養護教諭等の複数配置や、教育相談担当・生徒指導担当・進路指導担当及び自立活動担当教師の配置が可能な定数措置を講じている。
2011年4月の「義務標準法」の一部改正では、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒を対象とした通級による指導の充実など特別支援教育に関する加配事由が拡大された。
また、2017年3月の「義務標準法」の一部改正により、2017年度から公立小・中学校における通級による指導など特別な指導への対応のため、10年間で対象児童生徒数に応じた定数措置(基礎定数化)を行うこととしている。このほか、特別支援学校のセンター的機能強化のための教員配置など、特別支援教育の充実に対応するための加配定数の措置を講じており、高等学校における通級による指導の制度化に伴い、2018年3月に「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律施行令」(昭和37年政令第215号)を改正し、公立高等学校における通級による指導のための加配定数措置を可能とした。
④ 教員の専門性の確保
教員の資質向上を図るため、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所においては、特別支援教育関係の教員等に対する研修や講義配信を行っているほか、独立行政法人教職員支援機構においても、各地域の中心的な役割を担う教員を育成する研修において、特別支援教育に関する内容が含まれている。さらに、都道府県教育委員会等においては、小学校等の教員等の初任者研修や中堅教諭等資質向上研修においても、特別支援教育に関する内容が含まれている。このほか、放送大学において、現職教師を主な対象とした特別支援学校教諭免許状取得のための科目が開講されている。
2022年3月31日に取りまとめられた「特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議」(※7)報告を踏まえ、特別支援教育を担う教師の専門性の向上のための取組に関して説明会や通知で教育委員会等における取組を促しているほか、2023年度には現状把握のための各種調査を実施した。
※7:特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議報告
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/173/mext_00031.html
⑤ 特別支援学校教諭免許状
特別支援学校教諭免許状の取得のためには、様々な障害についての基礎的な知識・理解と同時に、特定の障害についての専門性を確保することとなっている。そのため、大学などにおける特別支援教育に関する科目の修得状況などに応じ、教授可能な障害の種別(例えば「視覚障害者に関する教育」の領域など)を定めて授与することとしている。
また、2021年1月の中央教育審議会答申「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」の提言等を踏まえ、特別支援教育を担う教師の専門性の向上を図るため、2022年7月27日に「特別支援学校教諭免許状コアカリキュラム」(※8)を策定した。2024年度入学生からは本カリキュラムに基づいた教職課程が開始することになっている(※9)。
なお、特別支援学校教諭免許状については、「教育職員免許法」(昭和24年法律第147号)上、当分の間、幼稚園、小・中学校及び高等学校の免許状のみで特別支援学校の教師となることが可能とされているが、専門性確保の観点から保有率を向上させることが必要である。
特別支援学校の教師の特別支援学校教諭等免許状の保有率は、全体で87.2%(2023年5月1日現在)であり、全体として10年前と比べ増加しているが、特別支援教育に関する教師の専門性の向上が一層求められている中で、専門の免許状等の保有率の向上は喫緊の課題となっている。このため、各都道府県教育委員会等において教師の採用、配置、現職教師の特別支援学校教諭等免許状取得等の措置を総合的に講じていくことが必要であり、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の通信講座による研修等、免許状保有率の向上に資する取組を行っている。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/173/mext_00001.html
※9:特別支援学校教諭の養成は、2023年4月現在約170の大学で行われている。
⑥ 支援スタッフの積極的な登用
特別支援教育の推進に向け、教師以外の支援スタッフの登用も積極的に進めている。障害のある子供の学校における日常生活上・学習活動上のサポートを行う「特別支援教育支援員」の配置にかかる地方財政措置の拡充や、学校における「医療的ケア看護職員」の配置にかかる経費の一部補助等を進めている。2023年度においては、特別支援教育支援員について、69,500人分の地方財政措置が講じられ、医療的ケア看護職員について、3,740人分の配置にかかる補助を行った。
また、地方公共団体において、こうした支援スタッフの配置がより促進されるよう、2021年8月に、特別支援教育支援員や医療的ケア看護職員を学校教育法施行規則上に位置付けた。
イ 学校施設のバリアフリー化
学校施設は、多くの児童生徒が一日の大半を過ごす学習・生活の場である。このため、障害のある児童生徒が支障なく安心して学校生活を送ることができるようにする必要があることはもとより、災害時の避難所など地域のコミュニティの拠点としての役割も果たすことから、施設・設備のバリアフリー化を一層進めていく必要がある。
文部科学省では、公立小・中学校等において2025年度末までの5年間に緊急かつ集中的に整備を行うための整備目標を定め、学校施設におけるバリアフリー化の取組に対する支援の一つとして、エレベーターやスロープ、バリアフリートイレなどのバリアフリー化に関する施設整備に対して国庫補助を行っている。
さらに、文部科学省ウェブサイト中に「学校施設のバリアフリー化の推進」(※10)の特設ページを開設し、取組事例集、国庫補助制度、相談窓口ほか、学校設置者を始めとする関係者が活用可能な普及啓発ポスターや行政説明資料等、学校施設のバリアフリー化の検討や実施及び機運醸成等に資する資料を掲載した。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/seibi/mext_00003.html
ウ 専門機関の機能の充実と多様化(独立行政法人国立特別支援教育総合研究所)
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所は、我が国における唯一の特別支援教育のナショナルセンターとして、国の政策課題や教育現場等の喫緊の課題等に対応した研究活動を核として、各都道府県等において指導的立場に立つ教職員等を対象に、「特別支援教育専門研修」や高等学校における通級による指導などに関する「指導者研究協議会」を実施しているほか、インターネットを通じて、通常の学級の教師を含め障害のある児童生徒等の教育に携わる幅広い教師の資質向上の取組を支援するための研修講義の配信や特別支援学校の教師の免許状保有率の向上に資する免許法認定通信教育を実施している。また、全ての学校を始めとする関係者に必要かつ有益な情報を提供するため、インターネットを活用し、発達障害に関する情報提供等を行う「発達障害教育推進センターウェブサイト」や文部科学省、厚生労働省、国立障害者リハビリテーションセンターと共同運営する「発達障害ナビポータル」、合理的配慮の実践事例の掲載等を行う「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」及びデジタル教材を中心とした支援機器等教材活用に関する様々な情報を集約した「特別支援教育教材ポータルサイト」などにより情報発信を行っている。さらに、研究成果の普及等を行う「研究所セミナー」を開催しているほか、地域における特別支援教育の理解・啓発の進展を図るため、ブロックごとに行う「特別支援教育推進セミナー」を実施するなど理解啓発活動も行っている。
このほか、都道府県及び市町村が直面する課題について、その解決を図るため参画した都道府県及び市区町村教育委員会と協働して実施する「地域支援事業」や、国際的動向や諸外国の最新情報の収集及び海外との研究交流を行う「国際事業」等を行っている(独立行政法人国立特別支援教育総合研究所:https://www.nise.go.jp/nc)。
(3)充実した支援体制の整備
ア 切れ目ない支援体制整備
2012年7月に中央教育審議会初等中等教育分科会が取りまとめた「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」において、インクルーシブ教育システムを構築する上で、教育委員会や学校等は、医療、保健、福祉、労働等の関係機関等との適切な連携が重要であり、関係行政機関等の相互連携の下で、広域的な地域支援のための有機的なネットワークを形成することが有効であることなどが示された。
文部科学省では、特別な支援が必要な子供が、就学前から卒業後にわたる切れ目ない支援を受けられる体制の整備に必要な経費(①連携体制の整備、②個別の教育支援計画等の活用、③連携支援コーディネーターの配置、④普及啓発などに係る経費)の一部を補助する事業を実施するなどして、教育委員会や学校等における取組を推進している。
イ 教育と福祉等の連携
発達障害を始め障害のある子供への支援における教育と福祉の連携については、学校と障害福祉サービス事業者との相互理解の促進や、保護者も含めた情報共有の必要性が指摘されている。文部科学省と厚生労働省では、両省連携による、家庭と教育と福祉の連携「トライアングル」プロジェクトを2017年12月に発足させ、2018年3月に、教育と福祉の連携を推進するための方策及び保護者支援を推進するための方策について報告書を取りまとめた。両省は2018年5月に報告書の趣旨を広く周知するため、自治体向けに通知を発出し、各自治体における、教育委員会と福祉部局の連携の促進や、地域における支援の情報や相談窓口について記載されたハンドブックを作成するなどの保護者支援の取組の充実を促した。
文部科学省では、2018年8月に、「学校教育法施行規則」(昭和22年文部省令第11号)の一部改正を行い、「個別の教育支援計画」の作成に当たっては、児童生徒等又はその保護者の意向を踏まえつつ、医療、福祉、保健、労働等の関係機関等と当該児童生徒等の支援に関する必要な情報の共有を図らなければならないこととした。また、2019年度から3年間にわたり、学校と放課後等デイサービス事業所などの障害児通所支援事業所の連携促進に資するため、連携に際してのマニュアルを作成するモデル事業に取り組み、周知を図っている。
さらに、2023年4月には、こども家庭庁が発足したことも踏まえ、こども家庭庁、文部科学省、厚生労働省合同で課題の共有・検討等を行う「障害や発達に課題のあるこどもや家族への支援に関する家庭・教育・福祉の連携についての合同連絡会議」が設置されたところである。こうした動きを踏まえ、文部科学省では、2024年度より、発達障害のある児童生徒等に対する支援に関する家庭・教育・福祉の連携に関する好事例の収集及び事例集の作成等を行う調査研究事業を実施する。
ウ 発達障害のある子供に対する支援
「学校教育法の一部を改正する法律」(平成18年法律第80号)により、幼稚園、小・中学校及び高等学校等のいずれの学校においても、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する特別支援教育を推進することが法律上明確に規定された。
2016年6月には「発達障害者支援法の一部を改正する法律」(平成28年法律第64号)が公布され(2016年8月施行)、発達障害児がその年齢・能力に応じ、かつその特性を踏まえた十分な教育を受けられるよう、可能な限り発達障害児が発達障害児でない児童と共に教育を受けられるよう配慮することや、支援体制の整備として個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成推進、いじめの防止等のための対策の推進等が規定された。文部科学省では、2020年度から2022年度まで、発達障害の可能性のある児童生徒等に対する指導経験の浅い教師の専門性向上を図るため、研修等の機会の充実や指導・助言などのサポート体制の整備など、関係機関とも連携した支援体制の構築に取り組む事業を実施した。さらに、2021年度からは、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するための自立活動や通級による指導について、学びの保障や指導の質の向上などの観点から、ICTを活用した自立活動の効果的な指導の在り方の調査研究を実施した。これらの事業で得られた成果については、文部科学省のホームページにおいて公表している。
そして、2023年度より、児童生徒が在籍する学校において専門性の高い通級による指導を受けられるよう、通級による指導の対象となっている児童生徒にとって効果的かつ効率的な通級による指導の実施に向けたモデル構築や、管理職も含めた全ての教員が発達障害を含む特別支援教育に取り組んでいくため、管理職を始めとする教員の理解啓発・専門性向上のための体制構築等に関する研究を実施している。
こども家庭庁では、発達障害等に関する知識を有する専門員が、保育所等を巡回し、施設の職員や親に対し、気になる段階から支援を行うための体制の整備を図り、発達障害児等の福祉の向上を図ると共にインクルージョンを推進することを目的に「巡回支援専門員整備」を進めている。
エ 医療的ケアが必要な子供に対する支援
文部科学省が実施した学校における医療的ケアに関する調査の結果によると、特別支援学校や小・中学校等に在籍する医療的ケアが必要な幼児児童生徒の数は増加傾向にある。また、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(令和3年法律第81号)が2021年6月に成立し、2021年9月に施行された。このような状況を踏まえ、文部科学省では、学校において関係者が一丸となって医療的ケアに対応できるよう、医療的ケアの環境整備の充実を図るため、教育委員会や学校等における取組を支援している。
とりわけ、学校において中心となって医療的ケアを行う看護師については、学校において教員と連携協働しながら不可欠な役割を果たす支援スタッフとして、その名称を医療的ケア看護職員とし、その職務内容について「学校教育法施行規則」に規定するとともに、教育委員会等における医療的ケア看護職員の配置に係る支援等を行っている。
さらに、近年、小・中学校等においても医療的ケア児が増加傾向であることから、教育委員会等における医療的ケアに関する体制の整備等の参考となるよう、「小学校等における医療的ケア実施支援資料~医療的ケア児を安心・安全に受け入れるために~」を2021年6月に公表するとともに、小・中学校等で医療的ケア児を受入れ、支える体制の在り方について調査研究を実施している。また、2023年度においては「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の施行等を踏まえ各自治体での取組が進められる中で、安心・安全な医療的ケアの実施に向け、各自治体等の医療的ケア児の支援体制に関する調査やヒアリング等を通して、医療的ケアの実施体制の整備に向けた課題の整理を行う調査研究を行った。
加えて、医療的ケア児が安心して安全に学校等に通うことができるよう、主治医と学校医等との連携を推進する観点から、2020年度の診療報酬改定において、医療的ケア児が通う学校の学校医又は医療的ケアに知見のある医師に対して、医療的ケア児が学校生活を送るに当たって必要な情報を主治医が提供した場合の評価が新設されるとともに、医療的ケア児が普段利用している訪問看護ステーションから学校が必要な情報提供を受けられる機会が拡充された。また、2022年度の診療報酬改定において、算定対象先が追加され、文部科学省では、診療報酬改定を踏まえ、医療的ケア児の教育機会や医療安全を確保する観点から、主治医から学校医等への診療情報提供に基づく医療的ケアの流れやその際の留意事項等を整理し、教育委員会等に周知している。また、2024年度の診療報酬改定において、歯科医師から学校歯科医等に対して必要な情報を提供した場合の評価が新設された。
オ 私学助成
私立の小学校から大学までの学校(特別支援学校を含む。)における障害のある児童・生徒・学生等の就学への配慮や、特別支援学校、特別支援学級を置く小・中学校及び障害のある幼児が就園している幼稚園等の果たす役割の重要性から、これらの学校の教育環境の維持向上及び保護者の経済的負担の軽減を図るため、「私立学校振興助成法」(昭和50年法律第61号)に基づき、国は経常的経費の一部の補助等を行っている。
カ 家庭への支援等
文部科学省と地方公共団体は、障害のある子供の特別支援学校や小・中学校の特別支援学級等への就学支援の充実、障害のある子供の保護者等の経済的負担を軽減するため、その負担能力に応じて就学奨励費を支給している。2023年度からは、新たに高等学校に就学する視覚障害のある生徒への「教科用図書購入費」についても補助対象とし、「新入学児童生徒学用品・通学用品購入費」について、特別支援学校及び小中学校の特別支援学級等への就学予定者の保護者等のうち、要保護児童生徒などの特に支援が必要な保護者等に対して、就学前に支給を実施した場合も補助対象とすることに加え、補助上限額の引き上げも行った。
GIGAスクール構想の実現に向け、特に、障害のある児童生徒に対しては、障害のある児童生徒が1人1台端末を効果的に活用できるよう、一人一人に応じた入出力装置の整備を併せて支援するとともに、1人1台端末の一層の利活用を推進するため、特別支援教育就学奨励費等においてオンライン学習に必要な通信費についても支援を行っている。端末の活用に当たっては、児童生徒の障害の状態や特性等に応じた取組として、例えば、視覚障害のある児童生徒の場合、拡大機能、白黒反転機能等を搭載した端末を活用することで、各児童生徒においてより文字を見やすい状況を実現できるほか、聴覚障害のある児童生徒の場合、発話をテキスト変換する端末を使用することで、授業のやり取りを視覚的に理解することが可能になる。このように、一人一人の教育的ニーズに応じた適切な指導や必要な支援をするに当たっての強力なツールとなることから、端末を積極的に活用し、各教科等の学習効果を高めたり、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するための指導に効果を発揮したりする取組が重要である。
また、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(NISE)においては、専門研修の参加者等が、1人1台のタブレット端末等を始めとするICT機器を活用した指導方法や、教室における合理的配慮の可能性を模擬授業などの演習を通じて体験的に学ぶことを目指す施設設備である「ICT活用実践演習室[あしたの教室(通称)]」を設置し、専門研修等の参加者や見学者に対応している。同研究所がこれらの体験等から得られる知見を整理して情報を発信することや、先導的な機器を充実させることで研究所の基礎的研究活動の研究設備としての機能も期待できる。
さらに、障害のある児童生徒の指導における適切なICTの活用を目的に、各地域における指導・支援の充実を図るため、ICT活用について指導実績がある教職員に対し、特別支援教育におけるICT活用に関わる指導者研究協議会を実施している。加えて、学校現場に役立つ事例を紹介したリーフレットの作成等を通じて障害のある児童生徒のICT活用の支援を行っている。