第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 2
第1節 障害のある子供の教育・育成に関する施策
2.障害のある子供に対する福祉の推進
(1)障害児保育の推進
障害のある児童の保育所での受入れを促進するため、1974年度より障害児保育事業において保育所に保育士を加配する事業を実施してきた。
当該事業については、事業開始より相当の年数が経過し、保育所における障害のある児童の受入れが全国的に広く実施されるようになったため、2003年度より一般財源化し、2007年度より地方交付税の算定対象を特別児童扶養手当の対象児童から軽度の障害のある児童に広げる等の拡充をしている。
また、2015年度より施行した子ども・子育て支援制度においては、①保育所、幼稚園、認定こども園において、障害のある児童等の特別な支援が必要な子供を受け入れ、地域関係機関との連携や、相談対応等を行う場合に、地域の療育支援を補助する者を配置、②地域型保育事業について、障害のある児童を受け入れた場合に特別な支援が必要な児童2人に対し保育士1人の配置を行っている。
さらに、保育現場におけるリーダー的職員を育成するため、2017年度より開始した「保育士等キャリアアップ研修」の研修分野に「障害児保育」を盛り込み、障害児保育を担当する職員の専門性の向上を図っている。
なお、障害児保育の研修分野を含めた保育士等キャリアアップ研修を修了し、リーダー的職員となった者に対して、その取組に応じた人件費の加算を実施している。
加えて、障害児保育に係る地方交付税について、2018年度には、措置額を約400億円から約880億円に拡充するとともに、障害児保育に係る市町村の財政需要を的確に反映するため、各市町村の保育所等における「実際の受入障害児数」(2020年度以降、障害児保育のための加配職員数に2を乗じた数(以下本章では「加配対象受入障害児数」という。)を上回る場合は、加配対象受入障害児数)に応じて地方交付税を算定することとした。
このほか、障害のある児童を受け入れるに当たりバリアフリーのための改修等を行う事業を実施している。
(2)放課後児童クラブにおける障害のある児童の受入推進
共働き家庭など留守家庭の小学生に対して、放課後等に適切な遊びや生活の場を与える放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)においては、療育手帳や身体障害者手帳等を所持する児童に限らず、これらの児童と同等の障害を有していると認められる児童も含めて可能な限り障害のある児童の受入れに努めている。また、こども家庭庁及び文部科学省では、「放課後児童対策パッケージ」(令和5年12月25日付通知)において、放課後児童クラブと学校関係者や専門機関・施設等の関係機関との連携について改めて促しているところである。
障害のある児童の受入れを行っている放課後児童クラブは、年々、着実に増加しており、2023年5月現在で、全25,807クラブのうち約61%に当たる15,841クラブにおいて、59,660人を受け入れている状況である。障害のある児童の受入れに当たっては、個々の障害の程度等に応じた適切な対応が必要なことから、専門的知識等を有する職員を配置するために必要な経費を補助している。
また、2017年度からは、障害のある児童3人以上の受入れを行う場合について、更に1名の専門的知識等を有する職員を配置するために必要な経費の上乗せ補助や医療的ケア児の受入れを行う場合について、看護師等を配置するために必要な経費の補助を行っている。
さらに、2022年度からは、障害のある児童3人以上の受入れを行う場合について、最大3名の職員を加配できるよう補助を拡充するとともに、医療的ケア児の受入れを行う場合について、看護師等が当該児童への送迎や病院への付き添い等を行った場合の補助を創設しており、障害のある児童が放課後児童クラブを適切に利用できるよう支援している。
(3)療育体制の整備
ア 障害児支援の充実
障害のある児童に対しては、できるだけ早期に必要な発達支援等を行うことによって、基本的な生活能力の向上を図り、将来の社会参加へとつなげていく必要がある。このため、健康診査等により障害の早期発見を図るとともに、適切な療育を実施する体制の整備を図っている。
また、「障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえて障害保健福祉施策を見直すまでの間において障害者等の地域生活を支援するための関係法律の整備に関する法律」(平成22年法律第71号)の公布に伴う「児童福祉法」(昭和22年法律第164号)の一部改正等により、障害児支援については、身近な地域で支援を受けられるようにする等のため、従来の障害種別に分かれていた体系について、2012年4月から通所による支援を「障害児通所支援」に、入所による支援を「障害児入所支援」として利用形態の別によりそれぞれ一元化し、障害児支援の強化を図っている。
さらに、学齢期における支援の充実を図るために「放課後等デイサービス」を、保育所等に通う障害のある児童に対して集団生活への適応を支援するために「保育所等訪問支援」を創設した。
また、在宅で生活する重症心身障害児(者)に対し、適切なリハビリテーションや療育を提供し、日中の活動の場を確保するため、予算事業により「重症心身障害児(者)通園事業」を実施してきたが、「児童福祉法」の一部改正により、2012年度から法定化され、安定的な財源措置が講じられることとなった。
2016年6月に公布された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」(平成28年法律第65号)による改正後の「児童福祉法」において、障害児支援のニーズの多様性にきめ細かく対応して支援の拡充を図るため、重度の障害等により外出が著しく困難な障害のある児童に対し、居宅を訪問して発達支援を提供する「居宅訪問型児童発達支援」を創設した。加えて、「保育所等訪問支援」について、訪問先を乳児院及び児童養護施設にも拡大した。
支援 | 支援の内容 | |
---|---|---|
障害児通所支援 | 児童発達支援 | 日常生活における基本的な動作及び知識技能の習得並びに集団生活への適応のための支援その他の必要な支援を行うもの、又はこれに併せて治療(肢体不自由のある児童に対して行われるものに限る。)を行うもの |
放課後等デイサービス | 授業の終了後又は学校の休業日に、生活能力の向上のために必要な支援、社会との交流の促進その他の必要な支援を行うもの | |
居宅訪問型児童発達支援 | 重度の障害等により外出が著しく困難な障害のある児童の居宅を訪問して発達支援を行うもの | |
保育所等訪問支援 | 保育所、乳児院・児童養護施設等を訪問し、障害のある児童に対して、集団生活への適応のための専門的な支援その他の必要な支援を行うもの | |
障害児入所支援 | 福祉型障害児入所施設 | 施設に入所する障害のある児童に対して、保護、日常生活における基本的な動作及び独立自活に必要な知識技能の習得のための支援を行うもの |
医療型障害児入所施設 | 施設に入所する障害のある児童に対して、保護、日常生活における基本的な動作、独立自活に必要な知識技能の習得のための支援及び治療を行うもの |
また、「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)及び「経済財政運営と改革の基本方針2018」(平成30年6月15日閣議決定)を踏まえ、2018年12月に取りまとめられた「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針」に沿って、2019年10月以降、就学前の障害児について、満3歳になった後の最初の4月から小学校入学までの3年間を対象に、障害児通所支援・障害児入所支援の利用料を無償化している。
2022年6月には、主に未就学の障害児の発達支援を行う児童発達支援センターについて、地域における障害児支援の中核的役割を担うことや、障害児入所支援において、入所している児童が18歳以降、大人にふさわしい環境へ円滑に移行できるよう、都道府県及び政令市を移行調整の責任主体として明確化することについて定めた、「児童福祉法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第66号)が成立し、2024年4月に施行されたほか、「こども基本法」(令和4年法律第77号)、「こども家庭庁設置法」(令和4年法律第75号)等の成立を受けて、2023年4月にこども家庭庁が創設され、こどもまんなか社会の実現に向けて、こども施策の一層の推進が図られるとともに、障害児支援施策は同庁の下で子育て支援施策の中で一元的に推進されることとなった。
2023年12月には、「こども基本法」に基づきこども政策の方針を定めることを目的とした「こども大綱」と、こども・子育て政策の強化を定めた「こども未来戦略」が閣議決定された。その中で障害児支援については、多様な支援ニーズを有するこどもの健やかな育ちを支え、「誰一人取り残さない」社会を実現する観点から、地域における支援体制の強化やインクルージョンの推進を図ることとされた。
また、2023年12月に閣議決定された「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」では、全てのこどもの誕生前から幼児期までの心身の健やかな育ちを保障するための考え方が取りまとめられ、この中で障害児については、一人一人多様な育ちがある中で個々のニーズに応じた丁寧な支援が必要なこどもと捉えることが大切であり、障害の有無で線引きせず、全てのこどもの多様な育ちに応じた支援ニーズの中で捉えるべきであるとされた。
イ 地域における支援体制の整備
地域で生活する障害のある児童やその家族を支えるため、「児童福祉法」に基づき、児童発達支援センターや障害児通所支援事業所等において発達支援や相談支援等を行っている。
難聴児について、難聴を早期に発見し適切な支援を行うことで、難聴児の言語発達を促すことが可能であることから、保健、医療、福祉、教育が連携し、早期支援や早期療育を行う必要性が指摘されている。このため、2019年3月より、厚生労働省(2023年4月以降はこども家庭庁へ移管)及び文部科学省において、「難聴児の早期支援に向けた保健・医療・福祉・教育の連携プロジェクト」の報告を踏まえ、都道府県における新生児聴覚検査の体制整備の拡充や聴覚障害児支援のための中核機能の強化に取り組んでいる。
2022年2月には、新生児聴覚検査体制の整備、地域における支援(協議会の設置等)、家族等に対する支援(情報提供等)、学校等関係機関における取組等を内容とする、「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針」を策定し、都道府県においては、本指針を踏まえ、難聴児の早期発見・早期療育を総合的に推進するための計画を作成し、地域の保健、医療、福祉、教育の連携体制の確保を進めている。
また、医療的ケア児について、2021年9月、議員立法により、医療的ケア児及びその家族に対する支援に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、保育及び教育の拡充に係る施策その他必要な施策並びに医療的ケア児支援センターの指定等について定めた「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が成立し、施行された。
こども家庭庁では、「医療的ケア児等総合支援事業」により各都道府県における医療的ケア児支援センターの設置を始め、各地域における支援体制の整備の推進等を図っている。医療的ケア児支援センターの開設が各地で進められ、2024年2月に全47都道府県において設置された。
また、こども家庭庁では、2023年度から「地域障害児支援体制強化事業」により各都道府県における児童発達支援センター等の機能強化を始め、各地域における障害児の支援体制の強化を図っている。
さらに、2023年には令和5年度補正予算により「地域におけるこどもの発達相談と家族支援の機能強化事業」を開始し、地域の保健、子育て、福祉等と医療機関との連携体制を構築し、こどもの発達相談を実施するとともに、必要な発達支援や家族支援につなぐなど、こどもや家族の支援ニーズに適切な時期に対応できる体制整備を進めている。
2023年5月には、2024年度から2026年度末までを計画期間とする「第3期障害児福祉計画」において、児童発達支援センターを中核とした重層的な地域支援体制の構築、障害児の地域社会への参加・包容(インクルージョン)を推進する体制の構築、各都道府県が難聴児支援のための中核機能を果たす体制を確保すること、各都道府県、各圏域及び各市町村が、医療的ケア児とその家族へ適切な支援を届ける「医療的ケア児コーディネーター」を配置すること等を目標とするよう、同計画の基本指針を策定した。
これらにより、障害のある児童とその家族が必要な支援を受け、地域で安心して暮らすことのできる体制の整備を図っている。
加えて、2024年4月の障害福祉サービス等報酬改定において、児童発達支援センターを中核に、身近な地域でニーズに応じた必要な発達支援が受けられる体制整備を進めるとともに、地域の障害児支援体制の充実を図ることとしている。
2023年4月1日に、「こどもまんなか社会」の実現に向けてこども家庭庁が発足し、障害児支援については、こども政策全体の中で進めていくこととされた。
2023年12月22日には、全てのこども・若者が心身の健康や周りの環境にかかわらず健やかに成長し、将来にわたり幸せに生活できる「こどもまんなか社会」の実現に向けて、こども家庭庁の発足と同時に施行された「こども基本法」に基づき、幅広いこども政策の方針を定めることを目的とした「こども大綱」が閣議決定された。
また、同日、若者・子育て世代の所得を増やすこと、社会全体の構造や意識を変えること、全てのこどもと子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援していくことを基本理念として掲げ、若い世代が希望どおり結婚し、希望する誰もがこどもを持ち、安心して子育てできる社会、こどもたちが笑顔で暮らせる社会の実現に向けて、「こども未来戦略」も閣議決定された。
その中で障害児支援については、多様な支援ニーズを有するこどもの健やかな育ちを支え「誰一人取り残さない」社会を実現する観点から、地域における支援体制の強化やインクルージョンの推進を図ることとされた。
具体的には、障害の有無にかかわらず、安心して暮らすことができる地域づくりを進めるため、地域における障害児支援の中核的役割を担う児童発達支援センターの機能強化を行うとともに、保育所等への巡回支援の充実を図ることとしている。
また、医療的ケア児、聴覚障害児など、専門的支援が必要なこどもや若者とその家族への対応のための地域における連携体制を強化することや、こどもや若者本人のみならず、保護者やきょうだいの支援を進めること、障害や発達の特性を早期に発見・把握し、適切な支援・サービスにつなげていくとともに、乳幼児期・学童期・思春期の支援から一般就労や障害者施策への円滑な接続・移行に向けた準備を、保健、医療、福祉、保育、教育、労働など関係者の連携の下で早い段階から行っていくことを進めることとしている。
さらに、2024年4月から、補装具が障害のあるこどもの日常生活に欠かせないものであり、成長に応じて交換が必要なものであることを踏まえ、保護者の所得にかかわらず利用できるよう補装具費支給制度の所得制限を撤廃することとした。