第5章 住みよい環境の基盤づくり 第1節 5
第1節 障害のある人の住みよいまちづくりと安全・安心のための施策
5.公共交通機関、歩行空間等のバリアフリー化の推進
(1)公共交通機関のバリアフリー化
ア 法令等に基づく公共交通機関のバリアフリー化の推進
① 「バリアフリー法」に基づく公共交通機関のバリアフリー化の推進
公共交通機関のバリアフリー化については、2000年11月に施行された「旧交通バリアフリー法」に基づく取組が行われてきたが、「バリアフリー法」においても、公共交通事業者等に対して、鉄道駅等の旅客施設の新設、大規模改良及び車両等の新規導入に際し、当該構造及び設備について、「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備並びに旅客施設及び車両等を使用した役務の提供の方法に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第111号。以下本章では「公共交通移動等円滑化基準」という。)への適合を義務付けている。また、2020年5月に「バリアフリー法」を改正し、2021年4月より、「バリアフリー法」に基づき整備された旅客施設及び車両等において、バリアフリー設備の機能を十分に発揮するために職員の操作等の役務の提供が必要な場合には、公共交通事業者等に対して当該役務を提供すること(いわゆる「ソフト基準」の遵守)が義務付けられることとなった。さらに、既設の旅客施設・車両等についても「公共交通移動等円滑化基準」に適合させるよう努めなければならないこととしている。
② 旅客施設に関するガイドラインの整備
公共交通機関の旅客施設のバリアフリー整備内容等を示した「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン」の改訂版を2024年3月に公表し、整備の在り方を具体的に示すことで、利用者にとって望ましい旅客施設のバリアフリー化を推進している。
③ 車両等に関するガイドライン等の整備
公共交通機関の車両等のバリアフリー整備内容等を示した「公共交通機関の車両等に関する移動等円滑化整備ガイドライン」の改訂版を2024年3月に公表し、整備の在り方を具体的に示すことで、利用者にとってより望ましい車両等のバリアフリー化を推進している。
また、「旅客船バリアフリーガイドライン」の改訂版を2021年11月に公表し、障害のある人等を始めとした多様な利用者の多彩なニーズに応え、全ての利用者がより円滑に旅客船を利用できるようなバリアフリー化の指針として、その望ましい整備内容等を示している。
④ 役務の提供の方法に関するガイドライン
公共交通機関の旅客施設及び車両等に整備されたバリアフリー設備を使用した役務の提供の方法等を示した「公共交通機関の役務の提供に関する移動等円滑化整備ガイドライン」の改訂版を2024年3月に公表し、役務の提供の方法の在り方を具体的に示すことで、利用者にとってより望ましいソフト面のバリアフリー化を推進している。
イ 施設整備及び車両整備に対する支援
① 鉄道駅等旅客施設におけるバリアフリー化に対する助成及び融資
「都市鉄道整備事業」及び「地域公共交通確保維持改善事業」などにおいて、鉄道駅等旅客施設のバリアフリー化に要する経費の一部補助を実施している。
また、地方公営企業の交通事業のうち、地下鉄事業のバリアフリー化を含む建設改良事業に対する財政融資及び地方公共団体金融機構の融資制度が設けられている。
② 障害のある人にやさしい車両の整備に対するの助成及び融資
ノンステップバス、リフト付きバス、福祉タクシー、低床式路面電車(LRV)等の導入に対して、「ポストコロナを据えた受入環境整備促進事業」などにおいて経費の一部補助を行っている。
なお、地方公営企業の交通事業のうち、バス事業及び路面電車事業のバリアフリー化を含む建設改良事業に対する財政融資及び地方公共団体金融機構の融資制度が設けられている。また、ノンステップバス、リフト付きバス及びユニバーサルデザインタクシーに係る自動車重量税及び自動車税環境性能割の特例措置が講じられているほか、低床式路面電車(LRV)に対する固定資産税の特例措置が講じられている。
③ 共有建造における国内旅客船のバリアフリー化の推進
バリアフリーの高度化・多様化に資する船舶(車椅子対応トイレ、エレベーター等障害のある人等の利便性及び安全性の向上に資する設備を有する船舶)を建造する場合に、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の船舶共有建造制度が活用されている。
なお、地方公営企業の交通事業のうち、船舶事業のバリアフリー化を含む建設改良事業に対する財政融資及び地方公共団体金融機構の融資制度が設けられている。
(2)歩行空間等のバリアフリー化
ア 福祉のまちづくりの推進
障害のある人が自立して生活し、積極的に社会参加していく上で、まち全体を障害のある人にとって利用しやすいものへと変えていくことの重要性が、近年、広く認識されるようになっている。このため、幅の広い歩道の整備や建築物の出入口の段差の解消、鉄道駅舎のエレベーターの設置やホームドア等の転落防止設備の導入、音響信号機等の整備等による障害のある人の円滑な移動の確保、公園整備等による憩いと交流の場の確保等、福祉の観点も踏まえた総合的なまちづくりが各地で進められている。
国土交通省においては、「バリアフリー法」に基づき、公共交通機関、建築物、道路等の一体的・連続的なバリアフリー化を推進している。
このほか、福祉のまちづくりへの取組を支援するため、以下のような施策を実施している。
① 公共交通機関の旅客施設等を中心としたまちのバリアフリー化の推進
障害のある人が介助なしに外出し、公共交通機関を利用できるようにするためには、歩行者交通、自動車交通、公共交通が連携し、一連の円滑な交通手段を確保することが必要である。このため、駅等の交通結節点において駅前広場やペデストリアンデッキ、自由通路等を整備するとともに、エレベーター、エスカレーター等の歩行支援施設の整備を行っている。
さらに、障害のある人等に配慮した活動空間の形成を図り、障害のある人等が積極的に社会参加できるようにするために、快適かつ安全な移動を確保するための動く通路、エレベーター等の施設の整備や障害のある人等の利用に配慮した建築物の整備等を行う「バリアフリー環境整備促進事業」を実施している。
② 農山漁村における生活環境の整備
農林水産省においては、障害のある人に配慮した生活環境の整備を図るため、「農山漁村地域整備交付金」や「農山漁村振興交付金」等により農山漁村地域における広幅員歩道の整備や段差の解消等について支援している。
③ 普及啓発活動の推進
総務省では、地方公共団体が行う障害のある人、高齢者、児童等全ての人が自立して生き生きと生活し、人と人との交流が深まる共生型の地域社会の実現に向けた取組を支援するため、ハード・ソフト両面から必要な地方財政措置を講じている。ソフト事業として、ユニバーサルデザインによるまちづくりや特定非営利活動法人等の活動の活性化を推進する地方公共団体の取組に要する経費に対して、普通交付税措置を行うとともに、ハード事業として、ユニバーサルデザインによるまちづくり、地域の少子高齢化社会を支える保健福祉施設整備、共生社会を支える市民活動支援のための施設整備等に対して、地域活性化事業債等により財政措置を講じている。
国土交通省では、地方公共団体が面的・一体的なバリアフリー化を進めるため、「移動等円滑化促進方針」及び「移動等円滑化基本構想」の作成を促進している。また、国民一人一人が、高齢者や障害のある人の困難を自らの問題として認識し、その社会参加に積極的に協力する「心のバリアフリー」社会を実現するため、主に小・中学校生を対象とした「バリアフリー教室」を開催している。
高齢者や障害のある人の自立と社会参加を促進するためには、高齢者や障害のある人等が公共交通機関等の施設を円滑に利用できるようにすることが必要であるが、バリアフリー施設の整備といったハード面の対応だけではなく、国民一人一人が高齢者や障害のある人等の移動制約者を見かけた際に進んで手を差し伸べる環境づくりといったソフト面の対応も重要である。
このため、多くの国民が高齢者や障害のある人等に対する基礎的知識を学び、車椅子利用体験や視覚障害者擬似体験・介助体験等を行うことを通じて、バリアフリーについての理解を深めるとともに、ボランティアに関する意識を醸成し、誰もが高齢者や障害のある人等に対して自然に快くサポートできる「心のバリアフリー」社会の実現を目指すことを目的として、全国各地で「バリアフリー教室」を開催している。
2022年度には、全国で171件の「バリアフリー教室」を開催し、約9,200人の参加を得た。小中学生を始めとした児童・生徒や、鉄道やバスといった公共交通関係事業に関わる現場職員等、様々な方にご参加いただいており、本教室が高齢者・障害のある人等の移動制約者に対する理解とボランティアに関する意識啓発の一助となっている。
新幹線におけるバリアフリーについては、東京2020大会を契機として、障害当事者団体、鉄道事業者等からなる検討会において議論を重ねた結果、2021年7月より新造された車両に対して、列車定員に応じた車椅子用フリースペースを備えた、世界最高水準のバリアフリー環境を有する車両の導入が進められている。
また、特急車両についても、新幹線車両と同様に、障害当事者団体、鉄道事業者等からなる意見交換会において議論を重ねた結果、2023年4月より新造された車両に対して、新幹線と同水準の車椅子用フリースペースを備えることが義務付けられた。
鉄道駅のバリアフリー化は、全ての方が鉄道を安全・安心かつ円滑に利用できる環境の整備に資するものであり、その推進は大変重要である。国土交通省としては、2020年12月に新たなバリアフリー化の目標を定め、エレベーター等の整備対象駅の拡大やホームドアの整備の加速化に取り組んでいる。
この整備目標の達成に向け、都市部では鉄道駅バリアフリー料金制度(2021年12月創設。2024年3月末時点で17社より届出)、地方部では予算措置による重点的支援と、それぞれの特性に応じた措置を活用しながら、全国の鉄道駅のバリアフリー化を推進していくこととしている。
2024年2月より東日本旅客鉄道株式会社の「えきねっと」及び西日本旅客鉄道株式会社の「e5489」による障害者割引乗車券のウェブ申込みサービスが開始された。
マイナポータルに登録済みのマイナンバーカードを用いて身体障害者手帳情報及び療育手帳情報をオンラインで確認することにより、身体障害者割引、知的障害者割引を適用した乗車券の申込みが可能となった。みどりの窓口での障害者割引乗車券の発売も引き続き取り扱われる。
◆鉄道駅における主な整備内容
(ホームドア)
イ 都市計画等による取組
都市計画における総合的な福祉のまちづくりに関する取組としては、適切な土地利用や公共施設の配置を行うとともに、障害のある人に配慮した道路、公園等の都市施設の整備、「土地区画整理事業」や「市街地再開発事業」などの面的な都市整備を着実に進めていることがあげられる。
市町村が具体の都市計画の方針として策定する「市町村の都市計画に関する基本的な方針(市町村マスタープラン)」の中に、まちづくりにおける高齢者や障害のある人等への配慮を積極的に位置付けることも考えられる。
全国の都市の再生を効率的に推進する観点から、地域の歴史・文化・自然環境等の特性を活かした個性あふれるまちづくりを実施するため、「都市再生整備計画」に基づく事業(都市再生整備計画事業)に対して、「社会資本整備総合交付金及び防災・安全交付金」による支援を行っている。さらに、「都市再生整備計画」に基づく事業のうち「立地適正化計画」に位置付けられた誘導施設や公共公益施設整備等に対して集中的に支援する制度として「都市構造再編集中支援事業」を2020年度に創設している。これらの制度の活用により、全国各地において、地域住民の生活の質の向上と地域経済・社会の活性化、持続可能で強靱な都市構造への再編に向けた取組が進められており、その一環として、バリアフリー化等を通じて、安心・快適に過ごせるまちづくりが多くの市町村で実施されている。
「市街地再開発事業」等においては、再開発ビルに一定の社会福祉施設等を導入するものを「福祉空間形成型プロジェクト」と位置付け、通常の助成対象に加え、共用通行部分整備費、駐車場整備費等を助成対象とするとともに、社会福祉施設等と一体的に整備する場合の整備費に関する助成額の割増を実施しており、これにより、再開発ビルへの社会福祉施設等の円滑な導入を促している。
また、バリアフリー化等に対応した施設建築物を整備する場合に生じる付加的経費について、別枠で補助を行っている。
ウ 歩行空間のバリアフリー化
移動は就労、余暇等のあらゆる生活活動を支える要素であり、その障壁を取り除き、全ての人が安全に安心して暮らせるよう歩道、信号機等の交通安全施設等の整備を推進している。
「バリアフリー法」に基づき、駅、官公庁施設、病院等を結ぶ道路や駅前広場等において、高齢者や障害のある人を始めとする誰もが安心して通行できるよう、幅の広い歩道の整備や歩道の段差・傾斜・勾配の改善、踏切道におけるバリアフリー対策、無電柱化、視覚障害者誘導用ブロックの整備等による歩行空間のバリアフリー化を推進している。また、整備に当たっては、「バリアフリー法」を踏まえて、駅構内、病院など公共的施設のバリアフリー化やノンステップバスの導入等と連携して整備を行っている。
また、「移動等円滑化のために必要な道路の構造及び旅客特定車両停留施設を使用した役務の提供の方法に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第116号)に基づく道路の整備や管理を行うに当たり必要な考え方を示した「道路の移動等円滑化に関するガイドライン」を周知し、道路のユニバーサルデザイン化を推進している。
さらに、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」では、重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成する道路に設置されている信号機等については、2025年度までに、原則として全ての当該道路において、バリアフリー対応型信号機等の設置等の移動等円滑化を実施することが定められている。特に、当該道路のうち、道路又は交通の状況に応じ、視覚障害のある人の移動上の安全性を確保することが特に必要であると認められる部分に設置されている信号機等の移動等円滑化については、2025年度までに、原則として全ての当該部分において、音響信号機の設置及びエスコートゾーンの設置を行うことを目標としている。そのため、音響により信号表示の状況を知らせる音響信号機や、歩行者等と車両が通行する時間を分離して交通事故を防止する歩車分離式信号、横断歩道上における視覚障害のある人の安全性及び利便性を向上させるエスコートゾーン等の整備を推進している。
加えて、冬期の安全で快適な歩行空間を確保するため、中心市街地や公共施設周辺等における除雪の充実や消融雪施設の整備等のバリアフリーに資する施設整備を実施している。
エ 特定路外駐車場のバリアフリー化
高齢者、身体に障害のある人等を含む全ての人々が安全で快適に自動車の利用ができるよう、特定路外駐車場のバリアフリー化を図ることが必要である。
「バリアフリー法」に特定路外駐車場のバリアフリー化が位置付けられ、同法の規定に基づき、「移動等円滑化のために必要な特定路外駐車場の構造及び設備に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第112号)を制定し、バリアフリー化を推進している(2022年度末現在の特定路外駐車場のバリアフリー化率:72.1%)。
また、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」において、特定路外駐車場のバリアフリー化の目標を定めており、引き続き、目標達成に向け、地方公共団体及び関係団体等に対して周知の徹底を図り、特定路外駐車場のバリアフリー化を一層推進していくこととしている。
改定を受けた踏切道でのバリアフリー対策について
2020年5月改正の「バリアフリー法」や2021年3月改正の「移動等円滑化のために必要な道路の構造及び旅客特定車両停留施設を使用した役務の提供の方法に関する基準を定める省令」(以下本頁では「道路移動等円滑化基準」という。)を踏まえ、2022年3月に「道路の移動等円滑化に関するガイドライン」(以下本頁では「ガイドライン」という。)が作成された。「ガイドライン」は、「バリアフリー法」や「道路移動等円滑化基準」に加えて、障害のある人や高齢者等を始めとした全ての人が利用しやすいユニバーサルデザインによる道路空間の在り方について、具体的に示した目安である。
2022年4月、奈良県内において視覚に障害のある方が踏切道内で列車に接触してお亡くなりになる事故が発生したことを受け、2022年6月に「ガイドライン」を改定した。その後、2023年9~10月に実施した踏切道での視覚障害者誘導方法に関する実験を踏まえ、2024年1月に「ガイドライン」を図のとおり改定し、踏切道手前部の視覚障害者誘導用ブロックと踏切道内誘導表示の設置方法や構造について規定した。
改定された「ガイドライン」を踏まえ、踏切道手前部の視覚障害者誘導用ブロックと踏切道内誘導表示の設置等について、対策が必要な特定道路(注1)や地域ニーズのある道路(視聴覚障害者情報提供施設等の障害者施設近隣など)と交差する踏切道を優先的に、「改良すべき踏切道」として「踏切道改良促進法」(昭和36年法律第195号)に基づき指定(以下本頁では「法指定」という。)し、道路管理者と鉄道事業者が連携した上で、対策を推進する。
〇「道路の移動等円滑化に関するガイドライン」2024年1月改定https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/bf/kijun/pdf/all.pdf
注1:バリアフリー基本構想に位置付けられた生活関連経路を構成する道路等で国土交通大臣が指定する道路
その他、2016年度以降「改良すべき踏切道」として法指定した踏切道に対し、全方位型警報装置、非常押ボタンの整備、障害物検知装置の高規格化を引き続き推進する。
(3)移動支援
ア 福祉タクシー等の普及促進
障害のある人等の輸送をより便利にするため、「地域公共交通確保維持改善事業」により福祉タクシー車両の導入等に対して経費の一部補助を行うなど、福祉タクシーの普及促進を図っている。
また、バス事業者、タクシー事業者のみによっては十分な輸送サービスが確保できないと認められる場合において、移動手段の確保のために必要であると地域の関係者による協議が調った場合には市町村や特定非営利活動法人等による自家用車を使用した福祉有償運送を可能としている。これらにより、福祉タクシーと福祉有償運送がそれぞれ多様なニーズに応じて輸送を提供し、障害のある人等の外出が促進されることが期待される。
また、屋外での移動が困難な障害のある人について、外出のための支援を行うことにより、地域における自立生活及び社会参加を促すため、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(平成17年法律第123号)に基づく「地域生活支援事業」において、各市町村が地域の特性や利用者のニーズに応じて、個別支援型、グループ支援型及び車両移送型など柔軟な形態で、ガイドヘルパーの派遣などのサービスを提供する「移動支援事業」を実施している。
イ 移動支援システムの規格開発
障害のある人等がITを活用して社会・経済に積極的に参画できる環境を整備するため、2004年度に「高齢者・障害者配慮設計指針-移動支援のための電子的情報提供機器の情報提供方法(JIS T0901)」を制定した。
ウ 障害のある人に対する運賃・料金割引
鉄道、バス、タクシー、旅客船、航空の各公共交通機関では、身体障害者手帳の交付を受けた身体に障害のある人、療育手帳の交付を受けた知的障害のある人及びその介護者に対して、各事業者の経営判断により運賃・料金の割引を実施している。
また、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた精神障害のある人及びその介護者の運賃・料金の割引については、これまで導入促進に向けて、公共交通事業者等に対し、理解と協力を求めてきており、その結果、航空では約9割、旅客船では約7割、鉄道では約6割、乗合バスでは約4割、タクシーでは約5割の事業者が導入するなど、公共交通機関における導入事業者数は着実に増加している。
有料道路では、身体障害者手帳の交付を受けた身体に障害のある人が自ら運転する場合や、身体に重度の障害のある人又は重度の知的障害のある人の移動のために介護者が運転する場合において、通行料金の割引を実施している。
また、精神障害者保健福祉手帳については、2006年10月1日より身体障害者手帳及び療育手帳と同様に写真貼付を行うこととし、本人確認を容易にし、手帳の信頼性を向上させ、各自治体における公共施設の入場料や公共交通機関の運賃に対する割引等の支援の協力を得やすくしている。さらに、発達障害のある人及び高次脳機能障害のある人について、手帳の交付の対象であることを明確化するため、2011年4月には、手帳の診断書の様式及び判定基準を改正した。
また、障害者割引の適用を受ける際の本人確認について、障害者手帳の提示に代えて、交通系ICカードやスマートフォンのアプリ等を活用した確認方法が公共交通事業者等において実施されている。
エ 駐車禁止の交通規制からの除外措置
一定の障害のある人に対して駐車禁止除外指定車標章を交付し、駐車禁止の交通規制の対象から除外している。
オ 車椅子使用者用駐車施設等の適正利用の推進
「バリアフリー法」では、国、地方公共団体、国民、施設設置管理者等の責務等として、車椅子使用者用駐車施設等を含む高齢者障害者等用施設等の適正な利用の推進が位置付けられている。国土交通省では、車椅子使用者用駐車施設等の適正利用の推進に関するソフト面での対応として、「車椅子使用者用駐車施設等の適正利用に関するガイドライン作成に係る検討会」を開催し、地方公共団体、施設設置管理者等及び国民における理解の増進と協力の確保等を図るための望ましい考え方を、「車椅子使用者用駐車施設等の適正利用に関するガイドライン」として取りまとめ、公表した。
カ 歩行空間における移動支援サービスの普及・高度化
国土交通省では、高齢者や車椅子使用者を含むあらゆる人が安心・安全に移動できるユニバーサル社会の構築に向け、歩行空間における移動支援サービスの普及・高度化を推進している。一方、近年では、物流分野における人手不足や電子商取引のニーズの高まりなどもあり、自動配送ロボットが走行して宅配するといった取組が、各地で行われるようになってきており、このような取組の普及は、自動運転車椅子の普及拡大等にも通じるものがあると考えられる。そこで、これまでのプロジェクトをより効率的に展開し、持続可能なものとしていくため、2023年6月に「人・ロボットの移動円滑化のための歩行空間DX研究会」及び有識者を含めた2つのワーキンググループを設置した。ワーキンググループの取組として、現地実証等の結果を踏まえたデータ整備プラットフォームのプロトタイプ構築やデータ整備仕様の改定について検討を行うとともに、研究会の取組として2024年1月には第1回「歩行空間DX研究会シンポジウム」を開催した。
「バリアフリー法」により整備が進められている車椅子使用者用駐車施設に、それを必要としない人が駐車すること等により、真に必要な人が利用できない状況が発生していることから、各地方公共団体において、様々な施設の駐車施設の利用対象者に利用証を交付し、適正利用を促す取組(パーキング・パーミット制度)が導入されている。
当該制度では、車椅子使用者のほか、車椅子を使用しないものの移動に配慮が必要な人(高齢者、妊産婦等)も広く対象とし、そのような人向けの優先駐車区画が設けられる場合もあり、利用区分の明確化や不適正利用の減少等の利用環境改善の効果が認められている。
このような共生社会における移動環境を確保するための基本的なインフラの一つとなっている車椅子使用者用駐車施設等の適正利用について、国土交通省では、2021年度より検討を始め、車椅子使用者、車椅子使用者以外の者も含めた様々な障害者団体、事業者団体、駐車場関係団体、地方公共団体等との意見交換や議論等を経て、ソフト面での対応として、地方公共団体、施設設置管理者等及び国民における理解の増進と協力の確保等を図るための望ましい考え方を「車椅子使用者用駐車施設等の適正利用に関するガイドライン」としてとりまとめた。
今後、本ガイドラインを踏まえ、地方公共団体や施設設置管理者等において、車椅子使用者用駐車施設等の適正利用に資する取組が引き続き実施されることが期待される。
「人・ロボットの移動円滑化のための歩行空間DX研究会」の活動として、東洋大学赤羽台キャンパスINIADホールにて第1回「歩行空間DX研究会シンポジウム」を2024年1月に開催した。歩行空間における移動支援サービスの普及・高度化に向けたこれまでの経緯や取組について紹介するとともに研究会と同時に立ち上げた「歩行空間の移動円滑化データワーキンググループ」及び「歩行空間の3次元地図ワーキンググループ」の取組報告を行った。また、『「持続可能」な移動支援サービスの普及・展開に向けて』をテーマとして、有識者、民間事業者、行政機関等の関係者によるパネルディスカッションを行った。
(4)ユニバーサルツーリズムの促進とバリアフリー情報の提供
2012年3月に閣議決定した「観光立国推進基本計画」に基づき、障害のある人を含む誰もが旅行を楽しむことができるユニバーサルツーリズムを促進している。
2021年度には、心のバリアフリーについての理解を深めるため、「観光施設における心のバリアフリー認定制度」の紹介動画や研修動画を作成・公表した。また、認定施設を活用したオンライン視察を実施し、観光施設の更なるバリアフリー対応に向けて情報発信を行った。2022年度及び2023年度にも、引き続き、紹介動画や研修動画の作成・公表を行うとともに、現地モニターツアーを実施し、その成果について情報発信を行った。また、2023年度は、旅行会社が商品造成時に観光施設に求めるバリアフリー情報を検証する実証事業を実施するとともに、障害の種別等に応じた旅行商品造成に資するノウハウ集を作成した。
さらに、障害のある人を含む訪日外国人旅行者がストレスフリーで快適に宿泊できる環境を整備するため、旅館・ホテル等におけるバリアフリー化への改修の支援を実施した。
加えて、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団では、高齢者や身体に障害のある人等の移動支援のため、インターネットによる公共交通機関のバリアフリー情報提供の一環として「らくらくおでかけネット」を運用している。この「らくらくおでかけネット」では、駅・ターミナルのバリアフリー情報を提供している。
(5)公園、水辺空間等のバリアフリー化
ア 公園整備における配慮
都市公園は、良好な都市環境の形成、地震災害時の避難地などの機能を有するとともに、スポーツ、レクリエーション、文化活動などを通じた憩いと交流の場であり、障害のある人の健康増進、社会参加を進める上で重要な役割を担っていることから、利便性及び安全性の向上を図ることが必要である。
都市公園の整備に当たっては、安全で安心した利用のため「バリアフリー法」に基づく基準や支援制度により、出入口や園路の段差解消、高齢者や障害のある人等が利用可能なトイレの設置等を進めている。2023年3月には「都市公園の移動等円滑化整備ガイドライン【改訂第2版】事例集」を公表し、都市公園のバリアフリー化を一層推進している。(2022年度末現在の規模の大きい概ね2ha以上の都市公園におけるバリアフリー化率(園路及び広場:約64%、駐車場:約56%、便所:約63%))。
全国の国営公園においては、身体等に障害のある人や介添する人に対する入園料金を免除することにより、野外活動の機会の増進や経済的負担の軽減を図っているほか、国営昭和記念公園等においては、障害のある人も楽しく安全に遊ぶことができるバリアフリー化した遊具等を設置している。
国立公園等においては、主要な利用施設であるビジターセンター、園路、公衆トイレ等のユニバーサルデザイン化や、利用者の利便性を高めるための情報提供等の取組を推進している。
イ 水辺空間の整備における配慮
河川、海岸等の水辺空間は、公園と同様に、障害のある人にとって憩いと交流の場を提供するための重要な要素となっている。河川では、水辺にアプローチしやすいスロープや手すり付きの階段等の整備によるバリアフリー化に取り組み、高齢者、障害のある人、こども等を含む全ての人々が安心して訪れ、憩い楽しめる河川空間を創出している。また、日常生活の中で海辺に近づき、身近に自然と触れ合えるようにするため、海岸保全施設のバリアフリー化を推進している。
ウ 港湾緑地・マリーナ等における配慮
港湾緑地は、誰もが快適に利用できるよう、計画段階から周辺交通施設との円滑なアクセス向上に配慮するとともに、施設面においてもスロープ、手すりの設置や段差の解消等のバリアフリー対応が図られるよう取り組んでいる。また、マリーナ等については、障害のある人でも気軽に安全に海洋性レクリエーションに参加できるよう、マリーナ等施設のバリアフリー化を推進している。
2022年度末 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
総施設数 | 段差の解消 | 視覚障害者誘導用 ブロック |
案内設備 | トイレの 総施設数 |
障害者用トイレ | |||||
旅客施設全体 | ― | ― | 93.5% | ― | 44.6% | ― | 77.0% | ― | ― | 92.1% |
鉄軌道駅 | 3,460 | 3,237 | 93.6% | 1,499 | 43.3% | 2,662 | 76.9% | 3,249 | 2,996 | 92.2% |
バスターミナル | 44 | 41 | 93.2% | 38 | 86.4% | 34 | 77.3% | 35 | 25 | 71.4% |
旅客船ターミナル | 15 | 14 | 93.3% | 10 | 66.7% | 8 | 53.3% | 13 | 11 | 84.6% |
航空旅客ターミナル | 42 | 39 | 92.9% | 41 | 97.6% | 39 | 92.9% | 42 | 42 | 100.0% |
2022年度末 | ||
---|---|---|
総番線数 | 設置番線数 | |
全鉄軌道駅におけるホームドア又は可動式ホーム柵 | 19,919 | 2,484 |
平均利用者数10万人/日以上の鉄軌道駅における ホームドア又は可動式ホーム柵 |
1,056 | 493 |
2022年度末 | |||
---|---|---|---|
車両等の総数 | 移動等円滑化基準に適合している車両等 | ||
鉄軌道車両 | 52,150 | 29,699(56.9%) | |
バス | ノンステップバス | 44,282 | 30,117(68.0%) |
リフト付きバス等 | 10,192 | 664(6.5%) | |
空港アクセスバス | 172 | 69(40.1%) | |
貸切バス | ― | 1,157 | |
福祉タクシー | ― | 45,311 | |
UDタクシー | 173,041 | 33,272(19.2%) | |
旅客船 | 659 | 370(56.1%) | |
航空機 | 602 | 602(100.0%) |
重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成する道路等で国土交通大臣が指定するもの。