第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 3
第1節 障害のある子供の教育・育成及び学生支援に関する施策
3.社会的及び職業的自立の促進
(1)特別支援学校と関係機関等の連携・協力による就労支援
障害のある人が、生涯にわたって自立し社会参加していくためには、企業等への就労を支援し、職業的な自立を果たすことが重要である。しかしながら、2024年5月1日現在、特別支援学校高等部卒業者の進路を見ると、福祉施設等入所・通所者の割合が約6割、就職者の割合は約3割となっており、近年横ばいの状況が続いている。
障害のある人の就労を促進するためには、教育、福祉、医療、労働などの関係機関が一体となった施策を講じる必要がある。
このため、文部科学省では、厚生労働省と連携し、各都道府県教育委員会等に対し、就労支援セミナーや障害者職場実習推進事業等の労働関係機関等における種々の施策を積極的に活用することや、福祉関係機関と連携の下で就労への円滑な移行を図ることなど障害のある生徒の就労を支援するための取組の充実を促している。
(2)高等教育等への修学の支援
障害のある人が障害を理由に高等教育への進学を断念することがないよう、修学機会を確保することが重要である。このため、文部科学省では、出願資格について、必要に応じて改善することや、合理的配慮の提供により、障害のない学生と公平に入学試験を受けられるようにすることなど、適切な対応を求めている。
また、大学・短期大学・高等専門学校(以下本章では「大学等」という。)における障害のある学生の在籍者数が増加したことや、「改正障害者差別解消法」により、私立を含む全ての大学等での、障害のある学生への合理的配慮の提供の義務化されたこと等を踏まえ、「障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)」をとりまとめ、各大学等へ周知している。併せて、先進的な取組や知見を持つ大学等が中心となり、大学等や関係機関等が参加・連携するプラットフォームを形成し、大学等や学生等からの相談対応や専門的知識を有する障害学生支援の人材育成等を通じて、高等教育機関全体における障害学生支援体制の推進を図る「障害のある学生の修学・就職支援促進事業」を実施した。
独立行政法人日本学生支援機構においては、大学等における障害のある学生への支援の充実に資するよう、全国の大学等における障害のある学生の状況及びその支援状況について把握・分析するための実態調査、各大学等が適切な対応を行うために参考にできる事例集の周知、理解・啓発促進を目的としたセミナーや実務者育成のための研修会の開催などを行っている。
大学入学共通テストや各大学の個別試験において、点字・拡大文字による出題、筆跡を触って確認できるレーズライター15による解答、文字解答・チェック解答16、パソコンやタブレット端末の利用、試験時間の延長、代筆解答、試験問題の読み上げ等の受験上の配慮を実施している。
令和7年度大学入学共通テストの受験上の配慮においては、より丁寧な情報提供が行えるように、「受験上の配慮案内」の配慮内容や申請書類に関する記載について見直しを行っている。
学校施設については、障害のある人の円滑な利用に配慮するため、従来よりエレベーターやスロープなどのバリアフリー化に関する施設整備を進めるとともに、支障なく学生生活を送れるよう、各大学等において授業支援等の教育上の配慮が行われている。
聴覚障害及び視覚障害のある人のための高等教育機関である筑波技術大学(茨城県つくば市)では、「伝わる・伝える」教育を信条に、個々の学生の障害・発達特性に即した教育支援を提供することで、主体的に考え、自律的に行動する力、自立した社会人・職業人として社会に貢献できるコミュニケーション力、更には、多様な文化を理解し、グローバルな幅広い視野をもって発信・行動する力を身につけた人材の育成に取り組んでいる。同大学で培われた教育支援と情報保障のノウハウは、国内外の教育機関でも広く活用され、聴覚障害・視覚障害のある人に対する高等教育の充実と発展に大きく貢献している。
テレビ・ラジオ放送等のメディアを効果的に活用して、遠隔教育を行っている放送大学では、自宅で授業を受けることができ、障害のある人を含め広く大学教育を受ける機会を国民に提供しており、障害のある学生に対しては、放送授業の字幕放送化の推進や単位認定試験における点字出題や音声出題、試験時間の延長等を行っている。また、知的障害のある人やその支援者への生涯学習支援につながる学習コンテンツの作成に向けた検討を行っている。

(3)障害のある学生の就職等の支援
障害のある学生の卒業した後の進路として、福祉的支援も含めて多様な選択肢が存在するため、各大学等では、障害学生支援担当部署とキャリアセンター等が連携し、障害のある学生に対して就職支援に関する情報を効果的に提供することが重要である。文部科学省では、一般雇用、障害者雇用や就労移行支援等の福祉的支援等、就労における様々な選択肢を各大学等が収集し、障害のある学生に対する情報提供を促進するため、「障害のある学生の修学・就職支援促進事業」において、大学等のキャリア支援担当者向けの研修や大学等や企業、自治体や地域の支援機関等と連携したタウンミーティングを実施している。
(4)地域における学習機会の提供
障害のある子供の学校外活動や学校教育終了後における活動等を支援するためには、地域における学習機会の確保・充実を図るとともに、障害のある人が地域の人々と共に、地域における学習活動に参加しやすいように配慮を行う必要がある。
文部科学省では、公民館や図書館、博物館といった社会教育施設について、それぞれの施設に関する望ましい基準を定めるなど、障害の有無にかかわらず、全ての人々にとって利用しやすい施設となるよう促している。
(5)生涯を通じた学びの支援
障害の有無にかかわらず共に学び、生きる共生社会の実現とともに、障害のある人が、生涯にわたり自らの可能性を追求できる環境を整え、地域の一員として豊かな人生を送ることができるようにすることが重要である。「障害者基本計画(第5次)」及び「第4期教育振興基本計画」(令和5年6月16日閣議決定)においても、障害のある人の生涯学習の推進について明記されている。
文部科学省では、「学校卒業後における障害者の学びの支援推進事業」として、学校から社会への移行期や人生の各ステージにおける効果的な生涯学習プログラムの開発、実施体制等に関する実践研究及び生涯を通じた共生社会の実現に関する調査研究を行っている。2024年度の調査研究では、障害者本人や支援者等を対象に、障害者の生涯学習の普及推進のための情報発信の在り方について、調査を実施した。実践研究は、都道府県が中心となり市区町村や大学、特別支援学校、社会福祉法人等が参画する「地域コンソーシアムによる障害者の生涯学習支援体制の構築」、市区町村と民間団体が連携して障害者を包摂する生涯学習プログラムを開発する「地域連携による障害者の生涯学習機会の拡大促進」、「大学・専門学校等における生涯学習機会創出・運営体制のモデル構築」の3メニューで37団体を採択し、障害のある人の多様な学びの場の創出や持続可能な体制整備等の実現に向けた取組を実施した。
障害のある人の学びに関する普及啓発や人材育成に向けた取組では、2019年度からは上記研究事業の成果の普及や、障害に関する理解の促進、支援者同士の学び合いによる学びの場の担い手の育成、障害のある人の学びの場の拡大を目指し、「共に学び、生きる共生社会コンファレンス」を主催した。2024年度は全国17か所において開催した。2024年10月には、障害の有無にかかわらず共に学び、生きる共生社会の実現に向けた啓発として、「超福祉の学校@SHIBUYA~障害の有無をこえて、共に学び、創るフォーラム~」を、特定非営利活動法人ピープルデザイン研究所との共催で開催した。
2017年度より、障害のある方の生涯学習を支える活動について他の模範と認められるものに対して、その功績を称える文部科学大臣表彰を行っている。2024年度は、長年にわたる個人・団体の功績を称える「功労者表彰」について40件、新しいチャレンジや分野を超えた連携の成果が認められた「奨励活動表彰」について8件を表彰した。これらの多様な活動が、今後のモデルとなり各地で広く展開されていくことを期待し、被表彰者の取組事例を事例集にまとめホームページで公開するとともに、注目すべき取組について動画で紹介している。

資料:文部科学省

資料:文部科学省
~超福祉の学校@SHIBUYA~
障害当事者を始め家族、支援者、教育関係者・福祉関係者等が学び合う啓発イベントとして、2018年から文部科学省と特定非営利活動法人ピープルデザイン研究所の共催で実施しているフォーラムイベント「超福祉の学校@SHIBUYA」が、2024年10月25日~27日にハイブリッド形式で開催された。13本のシンポジウムのうち、障害のある人にとっての生涯学習の機会が、学習を受ける障害当事者だけの学びではなく、学びに関わる全ての人々にとって新たな気付きや学びがあることに着目し「共に学ぶ」ことをテーマとした2本のシンポジウムを紹介する。
※シンポジウムはアーカイブにて視聴可能


○シンポジウム「学びの場づくりに込められた想いから『共に学ぶ』を考える」
「障害の有無に関わらず共に学び合う場」では、「学び」と「出会い」を通じて、「対話・コミュニケーション」が生まれ、お互いを認め合う対等な関係が育まれている。これは、学びの場づくりにある様々な仕掛けによって生み出されている。本シンポジウムでは、社会教育施設、大学、特定非営利活動法人、医療法人、社会福祉協議会から、多様な学びの場づくりの実践者が登壇し、その実践の仕掛けと学びの場に集う様々な人との関わりから生まれる想いに焦点を当てて、学びの場が持つ力と価値について議論した。

○シンポジウム「みんなが楽しめる博物館・美術館を目指すミュージアム・インクルージョン・プロジェクト」
博物館や美術館が、誰にでも開かれ、楽しめる場となることを目指し、様々な取組が全国各地で行われている。本シンポジウムでは、兵庫県で展開する「ミュージアム・インクルージョン・プロジェクト」、国立民族学博物館の「みんぱくSama-Sama塾」、東京都美術館の「とびらプロジェクト」の実践報告をもとに、合理的配慮に欠かせない障害当事者との「建設的な対話」のヒントと、その先にある共に学び、共に楽しめる共生社会について議論した。
15 ビニール製の作図用紙の表面にボールペンで描いた図形や文字がそのままの形で浮き上がるため、描きながら解答者が筆跡を触って確認できる器具。
16 専用の解答用紙に選択肢の数字等を記入・チェックする解答方式