第5章 住みよい環境の基盤づくり 第1節 2

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第1節 障害のある人の住みよいまちづくりと安全・安心のための施策

2.ユニバーサルデザインの考え方を踏まえたバリアフリー施策の推進

「バリアフリー法」に基づく「移動等円滑化基準」は、施設施工者・管理者に対して、施設等(旅客施設、車両等、道路、路外駐車場、都市公園、建築物等)の新設等の際の適合義務、既存の施設等に対して適合努力義務を課している。

また、「バリアフリー法」に基づく「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(令和2年国家公安委員会・総務省・文部科学省・国土交通省告示第1号)に係るバリアフリー整備目標を策定し、ハード・ソフト両面での一層のバリアフリー化に取り組んでいる。現在の同整備目標は、2021年度から5年間を目標期間としているものであり、2026年度以降の新たな整備目標の策定に向けて、2024年5月から障害当事者団体や有識者等が参画する検討会を開始した。2026年度以降の新たな整備目標では、現在の同整備目標の達成状況や策定時からの社会経済情勢の変化、障害当事者団体等や有識者等から頂いた御意見を踏まえつつ検討を行っている。

加えて、「交通政策基本法」(平成25年法律第92号)に基づく「交通政策基本計画」においても、バリアフリー化等の推進を目標の1つとして掲げ、共生社会の実現に向けた、全国各地における高い水準の面的なバリアフリー化及び公共交通機関における更なるバリアフリー化を推進している。また、市町村では、「移動等円滑化促進方針」及び「移動等円滑化基本構想」に基づき、移動等円滑化促進地区及び重点整備地区において面的かつ一体的なバリアフリー化を推進している。バリアフリー化の促進に関する国民の理解を深め協力を求める「心のバリアフリー」を推進するため、高齢者、障害のある人等の介助体験や擬似体験を行う「バリアフリー教室」等を開催しているほか、バリアフリー施策のスパイラルアップ(段階的・継続的な発展)を図っている。

図表5-1 「移動等円滑化の促進に関する基本方針」における整備目標について
項目 2023年度末
(現状値)
2025年度末までの
数値目標
鉄軌道 3,000人以上/日及び
基本構想の生活関連施設に
位置付けられた2,000人以上/
日の鉄軌道駅における
バリアフリー化率
段差の解消※1 約94%※5 原則100%
視覚障害者誘導用ブロック※2 約45%※5 原則100%
案内設備※3 約77%※5 原則100%
障害者用トイレ※4 約92%※5 原則100%
ホームドア・可動式ホーム柵の設置番線数 2,647番線
(559番線)※6
3,000番線
(800番線)※6
鉄軌道車両 約60%※7 約70%
バス 3,000人以上/日及び
基本構想の生活関連施設に
位置付けられた2,000人以上/
日のバスターミナルに
おけるバリアフリー化率
段差の解消※1 約93%※5 原則100%
視覚障害者誘導用ブロック※2 約86%※5 原則100%
案内設備※3 約79%※5 原則100%
障害者用トイレ※4 約72%※5 原則100%
乗合バス車両 ノンステップバス 約71%※7 約80%
リフト付きバス等(適用除外車両) 約9%※7 約25%
空港アクセスバス※8 約41%※7 約50%
貸切バス車両 1,229台※7 約2,100台
タクシー 福祉タクシー車両 52,553台※7 約90,000台
ユニバーサルデザインタクシー※9 9%※7 100%
旅客船 2,000人以上/日の旅客船
ターミナルにおけるバリア
フリー化率
段差の解消※1 約94%※5 原則100%
視覚障害者誘導用ブロック※2 約82%※5 原則100%
案内設備※3 約65%※5 原則100%
障害者用トイレ※4 約94%※5 原則100%
旅客船(旅客不定期航路事業の用に供する船舶を含む。) 約58%※7 約60%
航空 2,000人以上/日の航空旅客
ターミナルにおけるバリア
フリー化率
段差の解消※1 100%※5 原則100%
視覚障害者誘導用ブロック※2 約98%※5 原則100%
案内設備※3 約95%※5 原則100%
障害者用トイレ※4 100%※5 原則100%
航空機 100%※7 原則100%
道路 重点整備区域内の主要な生活関連経路を構成する道路におけるバリアフリー化率 約71% 約70%
都市公園 規模の大きい概ね2ha以上
の都市公園におけるバリア
フリー化率
園路及び広場 約64% 約70%
駐車場 約56% 約60%
便所 約64% 約70%
路外駐車場 特定路外駐車場 約75% 約75%
建築物 床面積の合計が2,000m2以上の特別特定建築物 約64% 約67%
信号機等 主要な生活関連経路を構成する道路に設置されている信号機等のバリアフリー化率 約99% 原則100%
主要な生活関連経路を構成する道路のうち、道路又は交通の状況に応じ、視覚障害者の移動上の安全性を確保することが特に必要であると認められる部分に設置されている音響信号機及びエスコートゾーンの設置率 約66% 原則100%
基本構想等 移動等円滑化促進方針の作成 44自治体 約350自治体
移動等円滑化基本構想の作成 325自治体 約450自治体
心のバリアフリー 「心のバリアフリー」の用語の認知度 約23%※10 約50%
高齢者、障害者、妊産婦等の立場を理解して行動ができている人の割合 約85%※10 原則100%
※1:バリアフリー法に基づく公共交通移動等円滑化基準第4条(移動経路の幅、傾斜路、エレベーター、エスカレーター等が対象)及び鉄軌道駅に限っては公共交通移動等円滑化第18条の2への適合をもって算定。
※2:バリアフリー法に基づく公共交通移動等円滑化基準第9条への適合をもって算定。
※3:バリアフリー法に基づく公共交通移動等円滑化基準第10条~12条への適合をもって算定。
※4:バリアフリー法に基づく公共交通移動等円滑化基準第13条~15条への適合をもって算定。また、トイレを設置している施設における割合。
※5:旅客施設の各項目の実績値については、新型コロナウイルス感染症に対する行動制限の緩和等により旅客施設の利用者数が増加し、集計対象となる旅客施設数が前年度より増加した影響を受けている。
※6:1日当たりの平均的な利用者数が10万人以上の鉄軌道駅。
※7:各車両等に関する2020年4月に施行された公共交通移動等円滑化基準への適合をもって算定。
※8:1日当たりの平均的な利用者数が2,000人以上の航空旅客ターミナルのうち鉄軌道アクセスがない施設(指定空港(27空港))へのバス路線運行系統の総数における、バリアフリー化した車両を含む運行系統数の割合。
※9:タクシーの総車両数に対するユニバーサルデザインタクシーの導入数が約25%以上である都道府県の割合。
※10:2024年10月に実施したインターネットモニターアンケート「公共交通機関を利用する際の配慮について」による。
資料:国土交通省

(1)基本理念

「バリアフリー法」に基づく措置は、「共生社会の実現」、「社会的障壁の除去」に資することを旨として行わなければならないことが基本理念として明記されている。

(2)公共交通施設や建築物等のバリアフリー化の推進

「バリアフリー法」では、公共交通機関・建築物・道路・路外駐車場・都市公園について、「バリアフリー化基準」に適合するように求めている。高齢者や障害のある人などが日常生活や社会生活において利用する施設の整備の促進によって、生活空間におけるバリアフリー化を進めることとしている。公共交通機関の車両等を新たに導入する際にも、基準に適合させることとしている。

また、公共交通事業者等によるハード・ソフト一体的な取組を推進するため、一定の要件を満たす公共交通事業者等に対して、施設整備、旅客支援等を盛り込んだ「ハード・ソフト取組計画」の毎年度報告・公表を義務付けている。

(3)地域における面的・一体的なバリアフリー化の推進

「バリアフリー法」において、市町村は、移動等円滑化を促進する必要がある地区を移動等円滑化促進地区とし、「移動等円滑化促進方針」を作成するよう努めることとされている。また、重点的かつ一体的に移動等円滑化のための事業を実施する必要がある地区を重点整備地区とし、「移動等円滑化基本構想」を作成するよう努めることとされている。

市町村は、図表5-2のとおり、市の中心部や旅客施設等の生活拠点を移動等円滑化促進地区として設定し、重点的に移動等円滑化を進めるべき地域を重点整備地区と定めてバリアフリー整備等を実施することにより、面的・一体的なバリアフリー化を図ることとなる。また、「移動等円滑化促進方針」及び「移動等円滑化基本構想」の作成に当たっては、利用者の視点を反映するよう、以下の制度を設けている。

ア 協議会制度

「移動等円滑化促進方針」及び「移動等円滑化基本構想」の作成の際、計画段階から高齢者や障害のある人などの参加促進を図るため、計画作成に関する協議等を行う協議会制度を法律に位置付けている。この協議会は、高齢者や障害のある人、学識経験者その他市町村が必要と認める者で構成され、「移動等円滑化基本構想」の作成の際は、特定事業の実施主体も構成員として必要となる。

協議会の構成員として市町村から通知を受けた場合は、正当な理由がある場合を除き、必ず協議会に参加することとしており、協議の場の設定を法的に担保することで、調整プロセスの促進を図ることとしている。

イ 移動等円滑化促進方針及び移動等円滑化基本構想の作成における住民提案制度

「移動等円滑化促進方針」及び「移動等円滑化基本構想」を作成する市町村の取組を促す観点から、「移動等円滑化促進方針」及び「移動等円滑化基本構想」の内容を、高齢者や障害のある人などが市町村に対し具体的に提案できる制度を設けている。

図表5-2 移動等円滑化促進方針及び基本構想のイメージ図
移動等円滑化促進方針及び基本構想のイメージ
資料:国土交通省

(4)バリアフリー化を推進する上での国及び国民の責務

ア 国民の理解促進

「バリアフリー法」では、バリアフリー化の促進に関する国民の理解を深め、バリアフリー化の実施に関する国民の協力を求めるよう努めることを国の責務として定めている。高齢者や障害のある人などの円滑な移動や施設利用への協力のほか、高齢者や障害のある人などの自立した日常生活や社会生活の確保についての理解が、国民の責務として定められている。2020年の「バリアフリー法」改正により高齢者障害者等用施設等の円滑な利用を確保する上で必要となる適正な配慮が国及び国民の責務であると明記した。

イ 「スパイラルアップ」の導入等

高齢化やユニバーサルデザインの考え方が進展する中、「スパイラルアップ」の考え方が重要となっている。「スパイラルアップ」とは、バリアフリー化のための施策や措置の内容について、当事者参画の下、検証し、その結果に基づいて新たな施策や措置を講じることで、段階的・継続的な発展を図っていくものである。「バリアフリー法」では、「スパイラルアップ」を国の果たすべき責務として位置付けている。この考え方を踏まえ、国が関係行政機関及び障害のある人を含む関係者で構成する会議を設け、定期的に移動等円滑化の進展状況の把握、評価に努めることとしている。国土交通省では、これまでに「移動等円滑化評価会議」を13回開催するなど、障害のある人等のニーズを丁寧に把握するとともに、バリアフリーに関する好事例を現地調査等による収集や、横展開により、バリアフリー施策のスパイラルアップを図っている。

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