第1章 障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けて 第1節 2
第1節 行動計画を踏まえた取組
2.障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた取組
(1)行動計画策定の経緯
政府では、2024年7月3日の旧優生保護法国家賠償請求訴訟の「最高裁判決」を受け、同月26日、障害のある人に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた取組を強化するため、内閣総理大臣を本部長、全閣僚を構成員とする「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部」を設置した。旧優生保護法の被害者や障害当事者など多くの方々からヒアリングを行うなど検討を進め、同年12月27日、「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画」(以下本章では「行動計画」という。)を決定した。
「行動計画」においては、「障害の社会モデル」の考え方を踏まえ、「我が国は、特定の疾病や障害を有する者に対する優生上の見地からの偏見や差別をはじめ、障害のない人を基準とし障害のある人を劣っているとみなす態度や行動と決別しなければならない。」とした。この決意の下、障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた取組の強化として、①障害のある人の子育て等の希望する生活の実現に向けた支援の取組、②公務員の意識改革に向けた取組、③「心のバリアフリー」の取組を、政府一丸となって推進するとともに、ヒアリングにおいて障害当事者等から示された問題意識についても引き続き検討することとした。
2025年3月12日に開催した第83回障害者政策委員会において、政府から「行動計画」についての報告を行い、障害者団体の代表者を含む委員等からの意見を聴取した。委員からは、公務員への研修プログラムへの障害当事者の確実な参画、インクルーシブ教育の重要性、女性への複合差別の課題への対応などについての意見があったところであり、これらを踏まえて施策を実施している。また、「旧優生保護法問題の全面解決に向けた協議」や、その下での3つの作業部会を実施し、優生保護法被害全国原告団、優生保護法被害全国弁護団及び優生保護法問題の全面解決をめざす全国連絡会からの意見を踏まえ、更なる取組を検討している。
(2)行動計画の実施
ア 子育て等の希望する生活の実現に向けた支援の取組の推進
「行動計画」では、「障害のある人は結婚、出産、子育てができない」とする偏見を払拭するとともに、結婚、出産、子育てを含め、障害のある人の意思決定の支援に配慮しつつ、希望する生活の実現に向けた支援のための取組を記載している。
厚生労働省及びこども家庭庁では、障害のある人の希望に基づく生活やこどもの養育を支えるために必要な障害福祉サービスや子育て支援等が確実に行われるよう、地方公共団体に対して適切な連携体制の整備を依頼するとともに、個別の具体的な支援事例を事例集としてまとめた。
また、2024年度には、自治体や事業者、支援者に対してこの連携体制についてわかりやすく周知し、障害当事者の方への適切な支援を促進するため、解説動画を作成して公表した。また、取組事例集について障害当事者の方にも理解しやすいイラストや伝わりやすい文章に編成したリーフレットを作成した。
さらに、知的障害者を始めとする全ての人が、生きていく上での基本となる「性」について学ぶためのハンドブックや、支援者や家族等が活用できる「支援の手引き」を作成した。これらを通じ、障害のある人の自己決定権やからだの権利が尊重されるべきものであることを示すとともに、性に関するからだの仕組みや恋愛・結婚等の人間関係について解説し、周知・広報している。
(資料:厚生労働省・こども家庭庁)
(資料:厚生労働省)
イ 公務員の意識改革に向けた取組の強化
障害のある人に対する偏見や差別の根絶に向けた施策を推進するに当たり、行政機関においては、正しい知識をもって対処する必要がある。「行動計画」では、公務員の意識改革に向けて、障害のある人への偏見や差別は許されないことについて強く打ち出すとともに、障害者差別の解消に関する周知や研修に力を入れることとした。
政府では、まず、全ての府省庁の大臣等から、その職員に向けて、障害のある人への偏見や差別を許さない旨のメッセージを発出した。内閣府では、2025年1月23日に内閣官房長官訓示として発出している。また、各大臣等からのメッセージの発出と同時に、「障害者差別解消法」に基づく「国等職員対応要領」を周知したところであり、今後も、毎年1回以上、全ての職員に対して周知を行うこととしている。
障害者差別に関する研修については、障害当事者の声を踏まえて実施することが重要である。
内閣府では、障害当事者や有識者を構成員に含む検討会を開催し、障害者差別解消のための公務員向け研修教材を作成した。旧優生保護法の被害当事者の実体験を含む同法の歴史を学ぶ動画教材と、脳性麻痺による障害当事者で、障害者政策委員会の元委員でもある玉木幸則さんの講演を含む共生社会実現のための理念を学ぶ動画教材を制作した。内閣人事局との共催により、2026年2月・3月に本教材を用いた全府省庁の幹部職員を対象とした研修を実施した。
上記教材に加え、障害当事者へのインタビューを含む個別の障害特性を理解するための動画教材と、その助けとなるテキスト教材を制作している。
資料:内閣府
法務省では、「令和7年度人権に関する国家公務員等研修会」において、「障害のある人と人権」をテーマとして、旧優生保護法の歴史的経緯や被害当事者の声を取り入れた講義等を実施し、6,580名が受講した。また、地方公共団体等の人権啓発行政に携わる職員を対象とした「令和7年度人権啓発指導者養成研修会」においても、「障害のある人」や「旧優生保護法」を必修科目として講義等を実施し、842名が受講した。
さらに、内閣府では、各府省庁や地方支分部局が実施する研修において、障害当事者による講演等の実施や教材の作成等を促進するため、障害当事者や専門家の情報を提供することとしている。
ウ 「心のバリアフリー」の取組の強化
「行動計画」では、「障害の社会モデル」を全ての人が理解し、意識と行動を変えることで社会全体の価値観を転換することを目指して、国民の意識啓発やコミュニケーションの変革を促す「心のバリアフリー」の取組を推進することとしている。
国民の意識啓発を促す取組として、内閣府においては、「ともともフェスタ2025~迎賓館からはじまる「共生社会」~」を2025年5月30日及び31日に迎賓館赤坂離宮にて初開催した。本イベントは、障害の有無にかかわらず、共に楽しむ経験を通じて、交流や相互理解を促進することを目的としたものであり、障害のある人などにより実行委員会等を編成して企画した。会場には延べ2,000人以上が来場し、オンライン配信も実施した(詳細はTOPICS(1)参照)。また、障害者団体等が行う障害特性の理解を図る啓発事業を内閣府ホームページに一覧的に掲載することとしている。
障害当事者への偏見や差別を根絶するためには人権擁護に係る取組を進めることも必要である。
法務省では、2026年2月7日に、「『あなた』と『わたし』がつながるシンポジウム~『気づき』がつくる共生社会~」と題して、障害の疑似体験も交えつつ「障害の社会モデル」や「心のバリアフリー」について理解を深めてもらうためのオンラインシンポジウムを障害当事者等の参画を得て開催し、448名が参加した。また、2024年度中に、全国の法務局・地方法務局に対し、旧優生保護法に関する研修用DVDを配布し、人権相談や調査救済活動に従事する法務局・地方法務局職員及び人権擁護委員を対象とする研修を実施した。全国の法務局・地方法務局では、インターネット上のものを含め、人権侵害の疑いのある事案を認知した場合は、人権侵犯事件として調査を行い、事案に応じた適切な措置を講じている(詳細は第4章第1節1.(2)「身近な相談支援体制整備の推進」参照)。
内閣府においては、2025年度から、「障害者差別解消法」に関する相談を受け付けて地方公共団体や関係省庁等の適切な相談窓口に取り次ぐ「つなぐ窓口」を本格実施している(詳細は第1章第2節「障害者差別解消法に関する取組」参照)。
企業や教育の場においてインクルーシブな環境づくりを進めることも重要である。
内閣府では、「障害者差別解消法」に基づき業種別に策定されている「対応指針」に関して、各府省庁に設置されている相談窓口の体制や周知状況、民間企業や業界団体における対応状況について調査した。好事例について取りまとめて公表し、事業者の理解促進や接遇対応の向上を促している(詳細は第1章第2節「障害者差別解消法に関する取組」参照)。
文部科学省では、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が可能な限り同じ場で共に学ぶことを目指し、2024年度から、特別支援学校と小・中・高等学校のいずれかを一体的に運営する「インクルーシブな学校運営モデル事業」を実施し、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が交流及び共同学習を発展的に進め、一緒に教育を受ける状況と、柔軟な教育課程及び指導体制の実現を目指した実証的な研究を行っている。
本事業は2024年度から3か年で実施している事業であり、2025年度は、都道府県、市町村など13団体に委託している。各団体では、一体的に運営する特別支援学校と小・中・高等学校のいずれかを学校運営連携校に指定して取組を行った。事業1年目となる2024年度においては、学校運営連携校間の教育課程をコーディネートし、両校の連絡調整や助言等を実施するカリキュラム・マネージャーの配置や、カリキュラム・マネージャーや両校の設置者や校長、外部専門家等で構成する連携協議会の設置など、円滑な事業実施のための体制づくりを中心に進めてきた。
事業2年目となる2025年度においては、発展的な交流及び共同学習の研究開発が各団体において進められた。例えば、特定の教科の授業を一定期間、全時間を合同で実施する取組や、同じ題材を扱いながらも両校の児童生徒が共に学ぶ場面とそれぞれの学校で学ぶ場面を設定する単元を計画し、継続的に共に学ぶことのできる取組など、交流の側面のみならず共同学習の側面に焦点を当てた取組が試行された。また、こうした授業を実施するための体制構築として、両校の教師によるティームティーチングによる交流及び共同学習の実施、両校の教師による相互の授業参観や合同研修の実施、併任発令された特別支援学校教諭が小学校内で特別支援教育コーディネーターと共同で校内巡回するセンター的機能としての支援の実施などが行われ、両校の教師の専門性向上に資する取組も進められた。
文部科学省においては、2026年2月に中間成果報告会を開催し、各団体による取組発表等を通して、各団体における取組状況や事業2年目までに得られた成果等を全国に発信し、各地域におけるインクルーシブな学校運営に関連する取組の実施を促した。
内閣府では、「行動計画」に基づき、「ともともフェスタ2025 ~迎賓館からはじまる「共生社会」~」を2025年5月30日及び31日の2日間にわたり、迎賓館赤坂離宮を一般開放して開催した。このイベントは、インクルーシブな社会の実現に向け、障害のある人とない人が共に楽しみ、交流することにより、相互理解を促進することを目的とするものである。「ともともフェスタ」という名称にも「障害のある人とない人が共に友達になれる」との想いが込められている。
本イベントでは、「行動計画」で打ち出された障害者の政策決定への参画の理念をいかし、実行委員会とワーキングチームを作り、障害当事者団体等が企画段階から参画した。これらの場では、「ともともフェスタ」という名称の決定を始め、障害当事者のパフォーマー等の選定、手話通訳等の情報保障、バリアフリー環境の整備、広報の方法等について話し合われた。また、政府広報と協力し、SNS広告を通じて障害に関する相互理解に関する広報を行った。
(中央)三原じゅん子内閣府特命担当大臣
イベント開催日は、雨にもかかわらず2,000人以上が来場した。初日のオープニングセレモニーには、石破茂内閣総理大臣、三原じゅん子内閣府特命担当大臣、小池百合子東京都知事が登壇した。石破総理からは、「この「ともともフェスタ」が、誰もが楽しむことができるイベント運営のモデルとなることを祈念するとともに、偏見や差別のない共生社会の実現に向けて、政府一丸となって取組を進めていく」との発言があった。また、三原大臣は、2024年10月に開催された「G7包摂と障害に関する担当大臣会合」でイタリアを訪問した際、障害の有無にかかわらず生き生きと暮らす方々の姿に感銘を受けたエピソードを示しつつ、本イベントを通じた共生社会の実現に向けた思いを強調した。
ステージでは、知的障害のある当事者による「瑞宝太鼓」など障害当事者や著名人によるパフォーマンスが行われた。また、障害者団体・企業等25団体、こども家庭庁を始めとした関係省庁、地方自治体などがブースを設け参加した。ブースでは、障害のある人の作品展示や販売、障害者就労継続支援事業所によるキッチンカーの出店、手話教室、車いす等の障害体験等を各団体等が実施するとともに、旧優生保護法に関するパネル展示も行った。
障害のある人が安心して参加できる会場環境をつくるため、本イベントの開催に際し、バリアフリーの観点から、車いす利用者等が円滑に移動できるカーペットの敷設、移動式多目的トイレを設置した。また、発達障害のある人が落ち着いて過ごせるよう、カームダウンスペースの設置等を行うとともに、情報保障のための手話通訳や要約筆記のための大型スクリーンを設置した。
内閣府では、2025年度の開催において把握された当日の課題等踏まえ、イベント運営の手引きを作成し、2026年度の開催に向けた運営改善にいかしていくこととしている。
(中央:三原じゅん子内閣府特命担当大臣、
右:石破茂内閣総理大臣)