第1章 障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けて 第2節
第2節 障害者差別解消法に関する取組
2024年4月、事業者による障害者への合理的配慮の提供の義務化等を内容とする改正「障害者差別解消法」が施行された。政府では、改正法の施行を機に、相談体制の充実、事例の収集・共有の強化、周知啓発の強化等に取り組んでいる。
(1)相談体制の整備
ア 地方公共団体における相談窓口の体制
市町村や都道府県においては、住民や事業者等のため、相談窓口を設置している。約10年の間で増加傾向にあるが、2025年4月現在、全体で約6割の設置2となっている。地方公共団体別にみると、都道府県では約9割で設置されている一方、市町村においては約6割の設置であり、市町村での相談窓口の設置が課題となっている。国においては、マニュアルの作成やブロック別研修会などを通じて、相談窓口の設置に向けた支援を行っている。
イ 各府省庁における相談窓口の体制
国においては、各事業分野における国の相談窓口について、整理・一覧化し、「事業分野相談窓口(対応指針関係)」として、内閣府ホームページに公表している。
対応指針を策定している16府省庁を対象とし、各府省庁に設置されている相談窓口の体制等について、改正「障害者差別解消法」の施行直前からの期間(2024年3月1日~2025年4月30日)の状況を調査した。
各府省庁から164分野について回答があったところ、相談窓口の体制については、164分野全てで窓口を定めており、全ての窓口において電話による相談が可能となっているものの、メールや書面の聴覚情報を必要としない方法により相談が可能な窓口はそれぞれ8割程度に留まった。その他、フォームによる相談を受け付けている窓口もあった。なお、164分野のうち、期間中に実際の相談が寄せられた窓口は13分野であった。
ウ 「つなぐ窓口」
障害を理由とする差別の相談がどの相談窓口においても対応されないことのないよう、内閣府において試行的に設置されていた「つなぐ窓口」は2025年度から本格実施されることとなった。この窓口は、障害のある人や事業者、都道府県・市区町村等からの障害者差別に関する相談に対して法令の説明や適切な相談窓口等につなぐ役割を担ってきた。
2025年9月には障害特性に関わらず容易に相談できるように、フォームによる相談や電話リレーサービスを利用できる手話リンクによる相談を受け付ける専用ウェブサイトを開設した。
2025年度中に2,094件3の相談が寄せられ、相談者の意向も踏まえて地方公共団体等へ取り次いだ件数は206件である。改正「障害者差別解消法」が施行された2024年度に比べると相談件数は減少しているものの、月平均で170件を超える相談が寄せられた。また、専用フォームが開設された9月以降は電話以外による相談件数の割合が上昇している。
相談件数を、障害種別に見ると、精神障害が最多で2割を占めている。次いで、発達障害、肢体不自由となっている。また、相談事案の相手方の業種は、行政が最多で、次いで医療・福祉、教育・学習支援、生活関連サービス・娯楽となった。
エ 人材の確保・育成
地方公共団体等の人材育成に向け、内閣府においては、「障害を理由とする差別の解消の推進国・地方公共団体における相談窓口担当者向け相談対応マニュアル」を2024年度に改定した。同マニュアルは、実践編と法令編の二部構成であり、実践編には、関係機関の役割、相談対応の一連の流れや留意事項等の適切な相談対応に資する情報が記載されている。相談窓口に初めて配属された職員にも活用できるような概要版や動画版について、一部を内閣府ホームページに公開しているほか、地方公共団体へ周知を行った。
オ 障害者差別解消支援地域協議会の設置の促進
障害のある人や事業者からの相談等には、当事者や行政の相談窓口だけではなく、関係機関で連携して対応することが必要なケースもある。このため、「障害者差別解消法」では、国及び地方公共団体の機関は、「障害者差別解消支援地域協議会」(以下本章では「地域協議会」という。)を組織することができるとしている。
地方公共団体の「地域協議会」の設置率は増加傾向にあり、2025年4月1日現在、都道府県及び指定都市においては全て、中核市等(中核市、特別区及び県庁所在地の市(指定都市を除く。))においては約9割が設置済みである。一方、一般市(指定都市及び中核市等以外の市)では約8割、町村においては約6割と、一般市や町村における設置率が低い傾向にある。この背景には、人員や知識及びスキルの不足などがあげられている。このため、各地域で「地域協議会」の設置や活性化に向けた的確な助言等ができる人材育成等を図ることを目的としたブロック別研修会4を開催しており、2025年度は6ブロック(北海道・東北、関東甲信越、東海北陸、関西、中国四国、九州沖縄)で開催し、200名を超える職員等が参加した。
| 選択肢 | 合計 | 類型 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 都道府県 | 指定都市 | 中核市等 | 一般市 | 町村 | ||
| 設置済み | 1,198 | 47 | 20 | 78 | 535 | 518 |
| 設置していない | 590 | ― | ― | 11 | 171 | 408 |
| 計 | 1,788 | 47 | 20 | 89 | 706 | 926 |
(2)一般市及び町村における設置状況の推移
(2)障害者の差別解消に向けたその他の取組等
ア 事業者等の取組状況調査
内閣府では、事業者による合理的配慮の提供を義務付ける改正「障害者差別解消法」の施行から1年が経過したことを受け、同法に規定されている業種別の「対応指針」に基づく、合理的配慮の提供、相談体制、研修等の状況について調査を実施5した。ここでは、その調査結果の概要について記載する。
この調査は、主に、業界団体における取組状況調査、民間企業における取組状況調査、合理的配慮の好事例調査からなる。取組状況調査については、改正法施行直前の2024年3月1日から、施行後1年が経過した2025年4月30日までの期間を調査対象期間として、2026年1月に調査を実施した。業界団体における取組については、各府省庁を通じて所管業界団体452団体に対して調査票を配布し、186団体から回答を得た。民間企業における取組については、事業活動の相手方として障害のある方が想定される特に顧客と接する可能性の高い事業に係る産業分類の民間企業について、層化無作為抽出を行い、1万社に対して調査票を送付し、1,520社から回答を得た。好事例については、取組状況調査の結果等を踏まえ、2団体10企業に対してヒアリング調査を実施した。調査結果については、「障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト」において公表し、法の周知啓発にも活用していく。
① 業界団体における取組
「障害者差別解消法」や「対応指針」について、所管省庁等から回答した団体に対する周知、回答した団体から所属企業等に対しての周知はいずれも約8割の団体で行われている。障害を理由とする差別に関する専用相談窓口を設置している団体も一部見受けられたが、障害を理由とする差別に限らない総合的な相談窓口を設置している団体は約1割であり、相談窓口を設置していない団体に相談が寄せられた場合には、行政機関へ相談するよう促しているという回答が最多となった。こうした結果から、行政機関による対応や「つなぐ窓口」の果たす役割が大きいことが示唆された。また、障害を理由とする差別の解消に関する研修については、「障害者差別解消法」について単独で実施している場合と他の研修と兼ねて実施する場合、それぞれ約1割だった。
2024年度中及び2025年度中に業界団体として対応した取組については、アンケートの実施、マニュアルの作成、好事例の共有などの回答があった。
| 業種 | 取組事例 |
|---|---|
| 金融業、 保険業 |
|
| 小売業 |
|
② 民間企業における取組
調査対象期間内に従業員に対して「障害者差別解消法」等の周知を行っていた企業は約3割と、団体や企業に対する周知状況と比較して低い割合に留まっており、企業内の職員への浸透が課題であることがうかがえる。
各事業者における障害を理由とする差別に関する社内マニュアルや社内規則の策定状況については、「定めている」と回答をした事業者は約3割であり、業種別にみると、「金融業、保険業」「医療、福祉」「運輸業、郵便業」が高い割合となっている。また、従業員規模別にみると、従業員数が多い企業ほど、高い割合となっている。
障害を理由とする差別に関する従業員向けの研修については、「実施している」と回答した企業は約2割であり、業種別にみると「医療、福祉」、「金融業、保険業」、「運輸業、郵便業」が高い割合となった。また、「実施している」と回答した事業者の割合は従業員数が多いほど高くなっており、大企業においては取組が進められている一方で、中小事業者における従業員への浸透に課題がある。
社内研修を実施していない理由(自由記述)としては、小規模で研修体制が整備されていないこと、研修時間を確保することが困難であること、手本となるような教材等がないこと等が挙げられた。
③ 調査結果を踏まえた今後の取組
企業内における従業員への浸透に課題があることから、業所管省庁において、業界向けに、研修実施の重要性など、対応指針の周知徹底を図ることが重要である。さらに、事業者から寄せられた、研修体制が不十分、時間的制約がある、手本となる教材等がないといった課題に対応するため、内閣府において、企業向けのオンライン研修を引き続き実施することや啓発資料を充実させることなどを通じて、企業内における理解や取組がより一層進むよう働きかけていく。
イ 周知・啓発
「障害者差別解消法」について、内閣府では、以下のような周知・啓発活動に取り組んでおり、これらの活用を通じて、合理的配慮の提供を始めとする障害者差別の解消に向けた取組の裾野がさらに広がるとともに、同法に対する国民の理解が一層深まることが期待される。
① 事業者等への普及・啓発
「障害者差別解消法」の概要や、事業者に求められる対応等の理解を目的として、「令和7年度企業担当者のための「障害者差別解消法」に関するセミナー~バリアのない社会に向けた企業の実践~」をオンラインで5回実施した。
〈2025年度の実施概要〉
○日時:2026年3月16日~3月18日の3日間、①13:00~14:30 ②16:00~17:30
○内容:内閣府による法令解説、障害のある講師による講演、講師による講演、企業による取組・事例の紹介。企業による取組・事例の紹介では、「長野市障害者にやさしいお店登録制度」に登録している飲食店を始め、16日①全日本空輸株式会社②積水ハウス株式会社、17日①西日本旅客鉄道株式会社②株式会社ファーストリテイリング、18日①株式会社三井住友銀行の障害を理由とする差別の解消に向けた取組や社内研修等について紹介した。
② 国民全体への普及啓発
「障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト」上では、検索機能を持つ「障害者差別解消に関する事例データベース」へ随時事例を掲載している。
ウ 主務大臣等による行政措置
事業者における障害者差別解消に向けた取組は、主務大臣の定める対応指針を参考にして、各事業者により自主的に取組が行われることが期待される。
しかしながら、事業者による自主的な取組のみによっては、その適切な履行が確保されず、例えば、事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合など、特に必要があると認められるときは、主務大臣又は地方公共団体の長等は、事業者に対し、行政措置を講ずることができるとされている。
2 障害者差別に関する相談を一元的に受け付ける窓口(ワンストップ相談窓口)を設置している地方公共団体の割合。
3 実績の集計値は、速報値。
4 埼玉県蓮田市、幸手市、白岡市、宮代町及び杉戸町においては、「地域協議会」を共同で設置し、事務局を基幹相談支援センターと輪番の幹事市町が担っている。研修会では、2025年度の幹事町である杉戸町から同協議会についての取組の共有を行った。
5 障害者差別の解消に関する事業者等の取組状況調査を、株式会社矢野経済研究所に委託して実施した。