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平成15年度 交通事故被害者支援事業報告書

第3章 パートナーシップ事業

第2節 ネットワーク機能の検討

I 交通事故被害者支援におけるネットワーク化と自助グループ

(1) 交通事故被害者支援機関の間のネットワーク

1. 経緯
 我が国でネットワークというと、各都道府県警察の「被害者支援連絡会」がある。具体的にどのような機関が含まれているかというと、例えば、弁護士会が連携機関として以下のようなものをあげている。
 弁護士会、警察庁、検察庁、犯罪被害者の組織(例:全国犯罪被害者の会、交通事故被害者の会など)、精神的支援では(社)被害者支援都民センター・東京都立精神福祉センター・日本臨床心理士会、女性、児童に対する犯罪では東京都児童相談センター・東京都女性相談センター・(財)東京女性財団、暴力団犯罪についは(財)暴力団追放運動推進都民センター・日弁連ないし単位会の民事介入暴力に関する委員会、経済的支援では(財)法律扶助協会・福祉事務所(区、市、都)など。
 交通事故の被害者支援の展開を考える上で、すでに活動を開始しているこうした既存の犯罪被害者ネットワークを最初に概観することは参考になると思われる。

 被害者自身が直面する問題は、多種多様であるだけでなく、複数の問題にかかわることになる。被害者のために総合的な支援組織ができればよいのだが、現実にはまだそのような形での組織は存在しない。そこで、被害者支援活動を行うそれぞれの機関は、専門分野以外の問題については速やかに被害者を他の支援機関に紹介する必要が生じる。この紹介が行われるためには、各被害者支援機関が他の支援機関の活動についての正確な情報を持っていることが必要になり、関係機関の間の協力関係が形成されることが不可欠である。それは結局、被害者支援機関のネットワークを形成することが重要だということになる。
 例えば、東京都犯罪被害者支援連絡会は、警視庁犯罪被害者支援室を事務局とするもので、「被害者の抱える問題は、広範多岐にわたっており、一つの機関・団体だけでなく、被害者支援に関わりを持つ多くの機関・団体が相互に協力、連携することが不可欠の用件と」なり、「これらが一体となった被害者支援ネットワークを構築し、相互に協力、連携して、被害者に対する支援活動を効果的に推進することを目的として」設立されたという。現在、参加機関・団体は35だが、新たな参加団体も増えているようで、さらに活動の幅を広げていくようである。

 最近では、被害者を支援する民間の活動が全国各地で行われるようになり、次第に一般にも知られるようになってきている。これらの組織も、相互に連携を図ることによって、よりよい支援活動ができるというものである。また、同じ趣旨の下、全国各地で活動している組織同士が交流を深めることは、絆の輪を広め、互いの組織への刺激となり、重要である。我が国には、「全国被害者支援ネットワーク」という、民間機関の間のネットワークを代表するものがある。この支援ネットワークは、昨年(2003年)10月3日に、同日を「犯罪被害者支援の日」とする制定記念・中央大会を開いた。このとき集まった各団体は、それぞれが訴えたいこと、知ってほしいことを沢山抱えているということで、中央大会で、そして冊子で、その一端を披露している。「こうしたネットワークに集う者たちにとって、犯罪被害者の声はその活動の原点であると同時に道標となるもの」である。
 この被害者支援ネットワークは、1991年10月3日、「犯罪被害給付制度発足10周年記念シンポジウム」において発せられた一遺族の声がきっかけとなり、発展してきたものである。このネットワークに期待されている役割は、(1)被害者支援に関する社会への広報、啓発と教育、(2)全国各地における民間支援組織設立の推進と連携、(3)民間支援組織の支援スタッフの教育と研修、(4)犯罪被害者の権利を擁護する諸施策の実現や法整備を促す活動、(5)被害者・遺族の自助グループへの支援と、連携であるという。このうち(3)については、「被害者支援者の研修」委員会が、(4)については、「被害者の権利」委員会が、(1)・(2)・(5)については、事務局が中心となって活動している。このように振り返ってみれば、ここ十数年という歴史ながら、我が国でも一歩一歩確実に被害者の支援活動は前進してきたといえよう。
 『犯罪被害者支援ガイドブック』(東京都犯罪被害者支援連絡会、平成15年)によれば、被害者に直接的、間接的に関わるネットワーク会員同士が、相互の業務内容に通じることや担当者同士の意思疎通を図ることで、被害者がいずれの窓口に行っても、その問題に的確に対応できる機関・団体などに引き継いだり、紹介したりすることができる、とする。
ネットワークの効用として、

 以上の5点を挙げている。先の被害者支援ネットワークが、その活動の推進、発展を意識すると同時に被害者当人同士の心の触れ合いの場ともなるのに対し、警視庁の犯罪被害者支援室を事務局とするネットワークは、被害に遭った状況の改善、様々な方面からの被害者のサポートを充実させながらネットワーク活動の推進を目指そうとするもののようにみえる。いずれにせよ、今後の被害者支援活動の発展に、ネットワークが必要だということは、十分理解できる。

 警察、検察、弁護士が連携機関を組織する範囲については当然把握できるが、民間の団体の場合、各々が様々な趣旨に基づいて活動を行い、その形態も異なるので、全国にある団体のすべてを網羅するのは困難であるうえ、日々新しい活動が生じていることも考えられる。ちなみに、全国被害者支援ネットワークには、2003年10月末現在で、30団体が加盟しているという。

2. 現状
 犯罪被害者については、上記のような動きが見られる。確かに、交通事故被害者は犯罪被害者の中の一部であり、交通事故被害者だけでネットワークを形成することにはデメリットがある、という考え方もある。しかし、交通事故被害者は(交通)犯罪の被害者であるという捉え方をすれば、現在ある犯罪被害者支援の制度・組織を活用することは当然可能なので、そのネットワークについて上記で分析してきたわけである。
 本年(2004年)早々に出された警察庁の報告によれば、平成15年中の交通事故死者数は、7,702人、前年比で624人の減少。そして、昭和32年以来46年ぶりに8,000人を下回った。負傷者数は、1,181,431人で、こちらは前年比13,576人の増加であった。これに対し犯罪白書を見ると、(交通関係業務上過失を除く)一般刑法犯による死亡者数は、(平成14年で)1,368人、負傷者数は46,762人である。確かに、交通事故の死亡者数が減少していることは、傾向としては認められるものの、その数は、一般刑法犯による死亡者数の5倍以上で、毎年大変多くの尊い命が犠牲となり、多くの人が負傷していることがわかる。今後、犯罪被害者支援機関の間のネットワークのみならず、交通事故被害者関係機関の間でもネットワークが充実することは、単純にこの数を見ただけでも、できるだけ早期に実現するようにすることが望ましいといえるだろう。

 交通事故に遭った被害者(及びその遺族)に対して行われる支援は、基本的には、犯罪の被害に遭ったケースと同様の支援が行われる。まずは、被害者や遺族と応対する専門の警察官が、被害者の下に駆けつけ、捜査の手順や刑事手続を説明したり、被害者の家族や職場などに連絡をとったりする。被害者が亡くなった場合には、葬儀の手配などのために、警察署の被害者支援のネットワークを利用することもできる (このネットワークは、地域の医師、弁護士、会計士、福祉事務所、不動産会社、葬儀会社、警備会社が加入しているというが、地域によってその構成は異なるという。) 。さらに、直接的支援、カウンセリング、被害者への通知、裁判傍聴の付き添い、法廷での意見陳述にも、民間の支援団体や、地元の福祉事務所、精神保健福祉センター、検察庁の被害者支援員、弁護士会などが活動している。また交通事故の特徴として、ほとんどの場合に損害保険会社が関与してくる。被害者の示談交渉になると、加害者に代わって任意保険会社の担当者が行い、加害者や加害者の家族などまったく顔を見せないことも多いようである。こうした場合には、被害者の傷ついた心は一層打撃を受けかねない。精神的なケアについては、いつ、どんなときでも対応できるようにしておきたいものである。
 以上のような様々な支援活動が、事故が起きたあとの一連の経過から浮かび上がってくる。しかし、先に指摘されたように、地域的なばらつきが見られるということになると、個々の事件により対応も異なる場合もあるだろう。こうした事故に伴い被害者が遭遇する状況を断片的でなく、全体として各団体が把握し、互いの連携を密にしておくことが肝要だ、ということになる。
 ここで、交通事故の被害者・遺族に対する調査を見てみることとする。
 「被害者らが相談に赴いた窓口」は、1.都道府県の交通事故相談所、2.市町村の交通事故相談所、3.警察の相談所。「さらにこれから相談したい窓口」は、1.都道府県の交通事故相談所、2.警察の相談所、3.市町村の交通事故相談所。一方、これまで相談したかどうかにかかわらず、これから相談したい相談窓口は、1.日弁連交通事故相談センター、2.交通事故紛争処理センター、3.警察の相談所となっている。
 その他の相談窓口としては、都道府県交通安全活動推進センター、法律扶助協会、法務省の人権相談、被害者の会や遺族の会など、民間の被害者支援組織、その他、である。
 この結果をどう解釈するかは単純ではない。しかし、事件後間もない被害者にとって、(裁判等を含む)事故処理について直面しなければならないことに、できるだけ多くの情報を得たいという気持ちがあることは否定できない。そうなれば、各都道府県や市町村の相談所が上位に位置するのは推測できることである。また、上記のような窓口が上位の理由としては、警察との連携ができているか、という点も考慮されるべきであろう。民間の支援組織が上位でないのも、現時点で全都道府県に支援機関が出来ているわけではないし、各組織によって活動内容も様々である。ある一定の人員や活動内容を備えてはじめて、警察との連携も可能となることも考えなければならない。
 それゆえ、数字が高くないからといって、民間の被害者支援組織やその会などについて軽視することはできない。被害者にとってまず否応なく直面する事故後の処理・手続とは別に、心のケアを中心に対応する民間組織は、明らかに役割が異なるのである。今後の展開を考えれば、上記に掲げる各窓口の連携が進めば進むほど、数の変化の可能性も高まるだろう。
 ところで、交通事故被害者による講演活動は、被害者支援というよりは、加害者に犯した事故の重みを理解してもらう、被害者を一人でも少なくしようとする、という趣旨で、意義深いものがあるという。講演活動は、交通安全関係団体や、交通刑務所などの主催となるが、啓蒙活動として効果が高い。こうした活動がますます行われるようになるためにも、さまざまな団体のネットワークの充実がかぎとなるだろう。

(2) 交通事故被害者支援におけるネットワーク化の具体例

 交通事故に遭った被害者・遺族(及び後遺症者)の関係の活動は、その活動内容によってさまざまなものが考えられる。広報活動中心のグループ、政策改善・変更を求めるグループ、ネットワーク活動の支援団体、精神的ケア中心のグループ、経済的支援を目指すもの、そして自助グループがある。また単独で活動するものもある。それぞれの趣旨に基づく活動が全国各地で行われたり、相互にネットワークを築いているものもあるだろう。
 ここでは、交通事故被害者遺族の活動の一例を紹介し、具体的な動きを追うこととする。

「交通事故被害者遺族への支援例」
大学生だったご子息を飲酒運転者により奪われ、悪質な運転者への量刑の見直しを訴える署名活動を行い、「危険運転致死傷罪」成立につなげた交通事故被害者遺族への支援から。

 被害直後から、相互に協力する体制が整っていれば、適切な支援を受けることが可能であり、関係機関や社会や周囲から二次被害、三次被害を受けることが少なくなるし、被害者であっても、人の目を気にせず被害体験を活かし社会改革をしたいと思えるようになる。
 被害者になったことで気づかされた社会の理不尽さや不平等さを、堂々と発言できそれを受け止める度量のある社会は、一人一人の人権が尊重される、次の世代が暮らしやすい、成熟した社会でもあると思う。


II 交通事故被害者自助グループの今後の課題

 次第にさまざまな被害者支援活動が拡大し、相互のネットワークが重視されていくことが必至であると思われる中で、自助グループの役割にも大きな期待が寄せられるだろう。自助グループは、他の支援活動とは異なる意義を有している。事故による被害者自身がこの自助グループの活動へ参加することを通じて、被害者本人の内面にさまざまな影響を与えられるからである。世間的には、「自助」と聞いてもまだイメージがわかない人も大勢いるだろう。しかし、先に見たように、年間で8,000人弱の事故による死者が、そして100万人以上の負傷者が記録されている現実からも、多くの被害者・遺族の「声にならない叫び」が押し寄せてくるようである。被害者支援活動がこの分野に力を注ぐことは意義深いことだということは理解できる。

 しかし、その実態については、正確に把握されていない。各地で産声をあげた自助グループは、全国でいくつ存在するのか、具体的にはどのような内容の活動を行っているのか、活動のめざす方向性は妥当であるのか、などの点について総括しているような組織はないのである。例えば、都民センターでは、各自助グループとは、必要なときに連絡をとる程度のところがほとんどで、連携をとる段階には至っていないという。そのような中でも同センターと(社)いばらき被害者支援センター等、数カ所の各自助グループ間のネットワークはすでにある。また別に、自助グループの連合体というものもあれば、個々の自助グループが他機関とネットワークを築けるものと思う。このように、自助グループの活動はグループによって非常にさまざまなのである。順序としては、まず全国各地に自助グループを備える必要性がある。そして、各自助グループが独自の活動内容を求め、築いていくのと並行して、同じ趣旨のもとに作られたグループ同士が、互いの活動内容を報告し合い、今後の発展に向けて刺激し合っていくことが重要となる。この点については、「被害者の自助グループを育成するために、精神科医や心理関係者、弁護士等を公的機関が助言者として派遣してくれる人的・経済的支援制度が十分に行われることと、安心して被害者が集まれる場所の確保。グループ同士のネットワークと、研修制度があればより効果的なグループ活動が展開できる」ことが、すでに提言されている。今回の事業として、自助グループの立ち上げ支援が行われたことは、その一歩を踏み出したものといえるだろう。

 被害者・遺族は、自助グループを通じて、互いの経験を共有し合うだけではなく、心の内に閉じ込められていたものを少しずつ口に出していくことで、感情のコントロールが可能になる。さらに、自助グループのネットワークを実現すれば、その活動を通じて、社会へ反映させることで、亡くした者を活かしているという意義を実感することができるのである。他のグループ、他の機関とネットワークを持つことは重要である。自助の効果として、うつ傾向の改善、社会への信頼の回復、感情のコントロールがあることは、常に念頭においておくべきことである。

 自助グループを大きく2種類に分類すると、一つは民間の支援組織に付随するものと、独自の活動を行うものがある。それぞれの団体が、それぞれの趣旨の下に活動している、という状況が、ネットワーク機能がなかなか進んでいかない要因にもなっている。
 被害者・遺族、あるいは支援者が、一人でできることはどうしても限られてしまう。先に述べたように、個人を超えたネットワークの必要性は十分にある。では、ネットワークにはどのようなモデルが考えられるか、というと、民間の支援組織に付随するもの、付随する者同士のネットワーク、例えば東京や水戸などで、それぞれの地域に複数ある自助の間のネットワーク、独自に活動しているもの(行政に関わっていないもの)もある。実際に、これらすべてを視野に入れるのは困難である。そこで独自に活動するものは、まずはネットワークの対象から除くことになるだろう。
 ネットワーク形成に向けて、まずは、民間の支援組織に付随する、あるいは連絡のとれる自助グループを対象にして進めていくことになる。

 交通事故被害者のネットワークについて今後の方向性を考えるならば、まず年間を通じて活動一般を統括する事務局の存在を確保されることが望ましい。(事務局については、新たに設ける、既存の団体の代表で作る、既存の団体で順番に担当する、など考えられる。)そして、各団体の代表による、定期での会合等を設ける必要があるだろう。
 活動内容としては、


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