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全米被害者支援機構(NOVA)の活動

IV 「危機応答チーム」の活動の実際

 「危機応答チーム」(Crisis Response Team)(CRTの略語が用いられることが多い)およびその活動内容については、さまざまに定義され、また説明される。以下においては、NOVAのマニュアル(3)に従い、「危機応答チーム」の定義、活動、およびその具体的な運営方法を紹介することとする。なお、この章は翻訳であるので、節の番号の振り方は他の章とは異なっているが、ご了解をお願いしたい。


[はじめに]

A 定義
  1.  NOVAの「地域社会危機応答チーム」の定義は次の通りである。
     地域社会全体にわたって心的外傷を生じさせるような出来事の直後において、援助の要請に24時間以内に対応しうる、訓練を受けたボランティアの集団。

  2.  「地域社会全体にわたって心的外傷を生じさせるような出来事」の定義は次の通りである。
     地域社会の全体にわたって心的外傷を生じさせるような出来事とは、生命を脅かすような傷害や死亡を生じさせる出来事のことである。その出来事が広範囲の心的外傷を生じさせるかどうかを判断するために参照すべき基準は、以下の要素を含むが、これに限定されるものではない。

    a. 人々が互いに親しい関係で結ばれている地域社会において発生した出来事であること

    b. 複数の目撃者が存在する出来事であること

    c. たとえば公的な人物の暗殺や保育所での児童殺害のように、その事件の直接の被害者が地域社会にとって特別な重要性を有する出来事であること

    d. 地域社会が修羅場あるいは極端な悲惨的状況にさらされるような出来事

    e. メディアの大きな関心を呼び起こすような出来事

(3)Marlene A. Young, Responding to Communities in Crisis: The Training Manual of the Crisis Response Team, Kendall/ Hunt Publishing Company, 1994, pp.12-1 - 12-13.

B 最近の地域社会の危機の例としては、ロングアイランドの鉄道における大量殺人事件、ニュージャージーにおける検察官補の強盗殺人事件、サンタモニカにおける火事、中西部における洪水、アラバマにおけるアムトラックの列車の脱線事故などが挙げられる。


[具体的な内容]

A 危機応答チームの目的
  1. 大惨事の直後において地元の援助者が直後および長期的な活動計画を立てるのを支援する。

  2. 地元の援助者の大惨事に対応しようとする試みを援助する。

  3. 地元の援助者に対して、危機応答や心的外傷への長期的ストレス反応について訓練する。

  4. 危機的な状況に置かれている人々へのデブリーフィングの模範を示して、地元の援助者を支援する。

B サービスの段階
  1. 印刷物、訓練の概要、ビデオテープ、その地域における活用資源一覧表などを含む、災害支援に関する資料を送る。

  2. 電話相談を行なう。なおそのような相談は、地域社会との以下のような合意に基づかなければならない。

    a. 地域の機関は、その大惨事への対応において主導的役割を果たすものとする。NOVAがその人を通じて援助を提供することができる連絡担当者を決定する。
    連絡担当者は、大惨事への対応に際して生じたことがらを一日に2回電話によりNOVAに連絡するものとする。

    b. NOVAは他機関の紹介や相談に毎日24時間態勢で対応する。

    c. NOVAは地域の職員およびボランティアの電話によるデブリーフィングに対応する。

  3. 地域の危機応答チームを援助するための現場での対応については、以下の指針に従うものとする。

    a. 地域の機関が対応組織が作られたことを確認し、主任連絡担当員が指名されること。

    b. 主任連絡担当員はNOVAの訓練を受けており、また危機応答および介入に関するNOVAの方式を理解していなければならない。

    c. 地域の機関は、職員およびボランティアを、危機応答に関するNOVAの方式に従って活動できるように訓練しなければならない。

    d. NOVAは、「全米危機応答チーム」から1名ないし2名を、その地域社会に派遣するものとする。派遣されたものの役割は相談、指導および訓練に関する支援に限定される。これらのものは、直接的な個人および集団に対するカウンセリングという介入活動に関わってはならない。

    e. 「全米危機応答チーム」が現地から自分の本拠地に戻った直後に、NOVAは長期的な計画に役立てることのできる勧告を地域社会に提供するものとする。

  4. 現場での危機応答チームの配置。以下においてはサービスの諸段階のうち配置につき、それがどのように行われるかについて論じることとする。
C 配置のために適切なチームの構成員を選択するための指針
  1. 問題となっている大惨事の型、およびその種の悲劇に関する個人の経験の型についての評価がなされるべきである。同種の大惨事を経験した者がチームのメンバーとして活用されないことがしばしばあるが、それは危機応答に関わることによって解決がなされていない反応が引き起こされることがあるからである。他方、同種の大惨事を経験した者が介入を行うに際して識見を示すことがあるが、それも経験の賜物なのである。

    a. ほとんどの危機介入チームにおいては、以下のような専門職の代表との連携が行われなくてはならない(しかしながら、一人の人が二つ以上の役割を確実にこなすことができることもしばしばある)。
    1) 法執行機関を代表する者(その代表者が現在は管理部門を担当するものであっても警邏の警察官の経験があることが望ましい)
    2) 心理学者あるいは精神科の医師
    3) 被害者支援サービスを行うカウンセラー
    4) 聖職者
    5) 医師
    6) 児童カウンセラー

    b. チームのメンバーの特性を地域社会の人々の特性と一致させる努力がなされるべきである。考慮されるべき特性としては、人種的・民族的構成、社会経済的背景、教育的背景、都市部であるか農山村部であるか、言語、宗教的背景などがある。

    c. 個人の性格も考慮されるべきである。理想的な危機介入チームの構成員はカリスマ的であり、柔軟性に富み、如才なく、かつ忍耐強いチームワークが得意な人である。また常識を有しており、自己中心的ではなく、自分が貢献していることについての認識に関心を持っていることが望ましい。

    d. チームの構成員のすべてが地域社会に対する危機介入の訓練を受けるつもりであり、またNOVAの危機応答に関する指針、デブリーフィングの指針および訓練要領を遵守するつもりであること。

    e. チームの構成員のすべてがボランティアであること。

  2. チームの構成員の役割

    a. チームの指揮者(leader):チームと地域社会の間の公式的な連絡係としての役割を果たす。現地におけるチームの構成員の配置を行なう。メディア担当の係りが別に指定されていない場合には、スポークスマンとしての役割を果たす。必要に応じて構成員のデブリーフィングと保護・管理を行なう。一般的には、チームの指揮者は学術博士あるいは医学博士の学位を有する男性の精神保健の専門家であることが望ましい。

    b. チームの管理者(manager):管理者は、有給であれ無給であれ、通常はNOVAの本部職員である。管理者は全ての後方支援部門を担当する。チームとNOVA本部との連絡係を担当する。チームの指揮者に対して指令書を準備するほか、必要な援助を行なう。物品およびNOVAの資料の配送を担当する。危機応答活動の終結の際に、NOVA本部に報告を行なう。

    c. メディア連絡係:メディアからの全ての問い合わせを担当する。必要に応じて記者会見を開催する、チームの指揮官が担当する場合を除いては、チームのスポークスマンとしての役割を担当する。メディア連絡係は、チームの管理者または指揮者が兼ねても構わない。

    d. チームのその他の構成員:チームメンバー全員は、与えられた任務の全てを果たさなくてはならない。構成員は、危機応答に関する基本的な事柄について3時間の講義を行なうことができる能力を持っていることが期待される。

  3. 時間に制約がある場合において、大惨事への危機応答の際の地域社会での滞在時間は、一般的には約48時間である。数日、数週間あるいは数ヶ月にわたる大惨事の場合では、滞在期間は長期となることもある。しかしながら一つのチームが連続して滞在するのはおそらく5日までである。長期の滞在が必要な場合には、第二のチームが第一のチームと交代することになる。
  4. 地域、地区あるいは州のチームが存在する場合において、NOVAの指針を用いることのできる場面は次のようなときである。

    a. 地域の支援者が心的外傷に直面しているとき

    b. 外部のチームの方が政治的敵対や地域における対立を荒立てないような場合や後方支援が促進されるような場合

    c. 地域社会に対する援助を行なうために、あるいは現在活動しているチームが経験したことがないような問題を処理するために、全国的な組織の「配備」が求められているとき

    d. 地域にチームが存在する場合には、地域のチームの指導部の許可が無ければ、NOVAは大惨事への危機応答をすることはない。ただし地域のチームが適切さを欠いていることについての明確な理由が地域の代表によってなされている場合には、この限りではない。

  5. 現地におけるチームの構成員の行動指針

    a. チームの構成員は可能であれば全員が大惨事の現場に行くものとする。

    b. チームの指揮者の許可なしには、チームの構成員はメディアに話してはならない。

    c. チームの意思伝達の秘密が守られないところでは、死体に関する冗談(morgue humor)を言ってはならない。

    d. チームの構成員は、チームの指揮者の許可を得ることなしに、会見などの約束をしてはならない。

    e. チームの構成員は、原則として、他の構成員と夕食および朝食を一緒にとることを心に留めておかなくてはならない。ただし他の予定などがチームの指揮者によって認められている場合はその限りではない。

    f. チームの構成員は、地域において接触のある人々の行為や行動についての悪口は、たとえそのことが他の構成員と認識を共有することであっても、言ってはならない。

    g. チームの構成員は、地域の受け入れ側の人々に対して、食物、輸送、資料のコピーや他の援助を求めるなどの個人的な要求をしてはならない。

    h. チームの構成員の身体が快適であることに、高い優先順位がおかれるべきではない。このことは、場合によっては、構成員は食物、睡眠、練習なしに出動することがあることを意味する。チームの構成員は、厳しい気候に晒されることもある。宿泊施設は豪華ではなく、また食物は劣ったものであるかもしれない。地域の受け入れ側に苦情を言うべきではないし、また構成員の間で文句を言うとしても可能であれば最小限のものに止めておくべきである。

    i. チームの構成員はNOVAの代表としてその地域社会にいるのであるから、指示されたとおりに活動を行うべきであって、チームの指揮者や管理者に承認されていない行為を行ってはならない。

    j. チームの構成員は、チームの指揮者または管理者によって定められた全ての規則を遵守しなければならない。定められた規則に違反した構成員は、即座に戻されるものとする。

    k. チームの構成員の服装基準
    1) 男性:スーツあるいは背広型の上着、履き心地のよい靴、リラックスするときのカジュアルな服。
    2) 女性:ワンピースあるいはスーツ。赤あるいはピンクが主な服装、あるいは黒尽くめの服装は望ましくない。履き心地のよい靴、およびワンピースやスーツ用の靴。但し、つま先が露出しているものは不可。過剰な装身具類は不可。必要なときのために、スラックスおよび歩行用の靴を準備する。
    3) 雨具やオーバーコートなど、天候の変化に対応できるものを忘れてはならない。
    4) 特定の職業の象徴となるものを持ってゆく。たとえば、聖職服、法執行官のバッジ、看護婦のバッジ、制服など。

D 危機介入チームによる対応の「ハウツー」
  1. 援助サービスの提供、あるいは援助の要請への対応

    a. 電話:被害者支援機関、法執行機関、検察官、郡の責任者、市長などがから、自分が中心的な連絡担当者であるとの申し出がある。

    b. 提供:自分がNOVAの誰であるかをまず述べる。危機応答チームがどのようなものであるかを簡明に説明する。相手方が援助を望んでいるかどうかを尋ねる。

    c. 今まで支援を受けたところを示し、そこに問い合わせをするように案内する。

    d. チームの構成員になる見込みのある人10人ないし12人に連絡を取る。出動の待機をするつもりがある者を見つける。

    e. 地域の主要な連絡担当者が、危機応答チームが必要であると判断した場合は、チームの構成員を72時間まで待機させる。彼らに自分の荷物の準備をさせ、次の指示があるまで出動の準備をさせる。

    f. チームの構成員になる見込みのある者のために、旅行に関する印刷物を用意する。

  2. 地域の主要な連絡担当者が危機応答チームを必要と判断する場合には、その者に以下のことを求める。

    a. 地域の関係機関の了承を得ること。関係機関には、以下のものが含まれる。
    1) 警察署あるいは保安官事務所
    2) 精神保健機関
    3) 危機管理機関
    4) 自治体の首長
    5) その大惨事が犯罪がらみのものである場合は、検察官
    6) その大惨事が州全体にわたるものであるか、州全体からの反応があると思われる場合は、州知事あるいは州検事総長
    7) 州の被害者支援部門
    8) 被害者支援機関
    9) その他適当と思われる機関

    b. NOVAに対して、以下のようなその地域社会の特徴を知らせるよう求める。
    1) 住民の特徴(民族、社会経済的特徴、主要な産業、教育水準、年齢、宗教)
    2) 過去において心的外傷を経験したかどうか
    3) 政治的な関心
    4) その地域の人柄

    c. 現場でのチームの本拠地の場所。少なくとも一つの、可能であれば複数の通信手段が利用できなければならない。

  3. NOVAの危機応答チームの調整者は、地域社会からの情報を基に検討して、チームの構成員を選び出す。
  4. チームの構成員と連絡を取り、旅行の手配をする。
  5. NOVAの危機応答チームの職員およびボランティアは、NOVAが対応することが明らかになり次第、必要な物品の荷造りをしなければならない。
  6. 地域の主要な連絡担当者に、以下の必要な物品を用意するよう求めなければならない。

    a. 訓練やデブリーフィングに用いるためのフリップチャート(一枚ずつめくれるようになっている解説用の図表)とその筆記用具

    b. デブリーフィング用のコーヒーと清涼飲料

    c. 可能であれば、その他の軽い飲食物

    d. 灰皿

  7. 対応する危機については、NOVAが支援を提供したときからNOVAが現場を離れるまでの間、ニュースを通じて状況を見定めなくてはならない。
  8. 地域の主要な連絡担当者は、同様に地方紙の全ての記事を保存することを求められる。
  9. チームの構成員は以下の事柄について知らされるべきである。

    a. チームの指揮者が誰であるかということ、またチームの管理者が誰であるかということ(NOVAの職員)

    b. 行動および服装に関する指針

    c. 地域社会の中において気付くことになると思われる、その地域の政治や組織に関する何らかの関心事。

    d. チームの構成員は誰でも、持ち込み手荷物については一個だけに制限される。

    e. NOVAの本部職員およびボランティアは、チームが現地で出会うことになる人や直面する重要な事柄に関する文書を提供する責任を有する。

  10. 危機に対応するための手順には、一般的には、以下の活動が含まれる。

    a. 最初の集合場所における、チームの会合(チームの構成員は、他のいかなる会合にも先立って、お互いに会わなければならない)

    b. チームの現場への訪問

    c. 地域の連絡担当者との計画に関する打ち合わせ

    d. 地域の援助者すべてに対する訓練集会

    e. 危険度が高いグループに対するデブリーフィングの集会。考えられるグループとしては以下のものがある。
    1) 救助職員
    2) 救急医療関係者
    3) 被害者および遺族
    4) 法執行官
    5) 消防士
    6) 地域の被害者支援関係者
    7) 子ども

    f. 地域社会全体に対する一回あるいは数回のデブリーフィング集会

    g. チームの構成員のための毎晩のデブリーフィング

    h. 現地を離れる前の、地域のチーム構成員との最後のデブリーフィング

    i. 地域の援助者との臨時の会合

    j. 記者会見および記者との面談

  11. NOVAの本部の職員は、以下の事後的な処理を行う。

    a. チームの構成員にお礼の手紙を書く。

    b. 地域の受け入れ担当者および援助者にお礼の手紙を書く。

    c. 現地において援助することができなかった被害者あるいは遺族に(可能である場合には)援助の申し出をする。

    d. 少なくとも以下の頻度で、現地の連絡担当者と連絡を取る。
    1) 現地訪問後1週間以内
    2) 現地訪問後1ヶ月後
    3) 現地訪問後3ヶ月後
    4) 現地訪問後6ヵ月後
    5) 現地訪問後1年後


[結論]

 「準備っていうのは、何かをする前にしておくことだよ。そうすれば、実際にするときにはバタバタしないですむんだ」
(A.A.ミルン『クマのプーさん』のクリストファー・ロビンのことば)


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