市場開放問題苦情処理推進会議建議│OTO 市場開放問題苦情処理体制内閣府

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市場開放問題苦情処理推進会議建議

平成9年6月18日
市場開放問題苦情処理推進会議

本報告書は、「市場開放問題苦情処理推進会議運営要領」（平成6年2月25日、市場開放問題苦情処理対策本部長決定）に基づき、過去に市場開放問題苦情処理体制（OTO）で扱った案件に共通する事項について審議し、我が国の基準・認証制度等に関する問題の所在を明確化し、必要な対応を意見として取りまとめたものである。

市場開放問題苦情処理対策本部におかれては、本報告書を受けて速やかに具体的な対応を検討し、それに基づく措置を取られたい。

Ⅰ．はじめに

世界経済がますます一体化し、いわゆる大競争時代を迎える中で、時代の要請に応えられなくなった各般のシステムの変革が喫緊の課題になっている。こうした認識のもと、現在行政改革、経済構造改革等のいくつかの改革が強力に推進されている。また、その一環として我が国経済を国際的に開かれたものとし、自己責任原則と市場原理に立脚した自由で公正な経済社会としていくことを基本的な課題として、規制緩和の計画的推進が図られている。

市場開放問題苦情処理体制（OTO）の活動は、市場アクセスの改善の観点から規制等の見直しを行うものであり、本年3月に再改訂された「規制緩和推進計画」（平成9年3月28日閣議決定）においても「市場アクセスの改善に資する規制緩和を推進するため、市場開放問題苦情処理体制（OTO）の機能を積極的に活用する。」とされている。

OTOは、本年2月で発足以来15年を経た。OTOにおいてこれまで扱ってきた個別の苦情は約550件に達する。さらに、我々市場開放問題苦情処理推進会議（OTO推進会議）は平成4年度（1992年度）から内外の事業者等からの問題提起を受けて年1回、「基準・認証制度等に係る市場開放問題についての意見」をまとめているが、この問題提起プロセスにおいては、過去5回のプロセスを経て約240件に及ぶ案件を扱い、うち約100件について我々は必要な対応を意見として述べた。

今回の建議は、市場アクセス改善の重要性にかんがみ、これまでのOTOの苦情処理や問題提起プロセスの実績を活かして、市場開放問題苦情処理推進会議（OTO推進会議）に与えられた機能を最大限活用して我が国の市場アクセスの一層の改善、ひいては経済構造改革に積極的に寄与しようというものである。

Ⅱ．建議の視点

我々は、経済構造改革を推進するに当たっては、「市場アクセスの改善」を通じた消費者利益の増大という観点が重要であることを強調したい。市場アクセスの改善は、人、物、資金、情報が自由に移動する時代にあって、「世界の潮流を先取りする開かれた経済社会システム」を創造するために不可欠の視点である。また、市場アクセスの改善により、海外からの輸入や投資が増加すれば、従来なかったような財・サービスが我が国の市場に登場することによって消費者の選択の幅が広がり、また、内外価格差の縮小に貢献する。それと同時に、産業の高コスト構造の是正が図られ、内外の企業による多様な競争を通じて我が国経済が効率化・活性化し、ひいては雇用機会の創出にも資するのである。また、それはとりもなおさず企業が国を選ぶ時代の中で、国際的に魅力ある事業環境を整備し、経済の空洞化を阻止するという課題にも応えることになるのである。このように市場アクセスの改善は、経済構造改革を進めるに当たり主体的に取り組むべき課題である。

1．基準・認証制度等の問題点：適合性評価と民間団体の問題

政府における法令上の規制緩和や規格・基準の国際的整合化の努力にもかかわらず、内外の事業者等からは、我が国の市場アクセスが実際にはそれほど改善していないのではないかという根強い不満がある。まず、OTOにおいて平成に入ってから受付・処理をした苦情及び問題提起をみると、外国検査データの受け入れ要望も含め、規格・基準に対する適合性を評価する活動（検査・試験や特定の規格・基準との適合性を証明する認証等）に関するものが約3分の1を占めていることが注目される。規格・基準の設定の必要性に関するもの、国際的整合性などその規格・基準の内容に関するものがそれに続いている。

さらに、規制緩和が進展すれば、基準・認証制度等における認可法人、公益法人、任意団体といった民間団体（以下、単に「民間団体」という。）の問題が重要性を増してくると考えられることから、特に、民間団体の規格策定、適合性評価業務にかかる案件の検討を行った。我々が扱った案件からは、国際規格への整合化あるいは外国規格に合格した製品の受入れを求めるものが多く、民間団体の策定している規格や適合性評価の業務について、民間団体が自主的に必ずしも国際規格に整合していない規格を設けて行っている適合性評価手続が、実際には国の制度と同様に事実上大きな影響力を持ち、市場アクセスを妨げている場合がある。

2．市場アクセス改善に向けた動き

我々がこれまで扱った案件については、我々が提出した具体的な意見に基づき、中には対応に時間がかかり過ぎているもの等十分な対応がなされていないものもあるが、政府において、総じて着実な対応が行われており、いくつかの分野では、法改正を含め大胆な見直しが実施に移されつつある。我々は、こうした評価すべき具体的対応の中に、他の制度においても取り入れることが期待される基準・認証制度等の方向性を探るよう努めた。

国際的にも、基準・認証制度等が貿易・投資の障壁となりうることが益々強く認識されている。各国が一層の市場アクセスの改善を進める上で守るべきルールとしてWTOの諸協定が合意されている。とりわけTBT協定（貿易の技術的障害に関する協定）及びSPS協定（衛生植物検疫措置の適用に関する協定）において貿易に対し不必要な障害をもたらすことがないようにルールが定められている。さらに、サミット、OECD、APECにおいても突っ込んだ合意がなされている。EUにおいては、域内統合のみならず、域外との相互承認を積極的に働きかける段階に入っている。最近では、とりわけ、適合性評価の手法や結果の受け入れに対する関心が高まっており、1回の検査（適合性評価）が世界中の市場で受け入れられることが望ましいという考え方が次第に定着しつつあるが、これは、OTOで扱った案件の傾向にも符合するものである。

国内においても重要な動きがある。平成5年（1993年）には、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため、許認可等の審査基準の設定・公表の義務等を定める行政手続法が成立（平成6年施行）し、平成6年（1994年）には、製造物の欠陥により被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償責任を一般的に定めた製造物責任法（PL法）（平成7年施行）が成立した。これらは、それ自体いずれも幅広い分野を対象にしたルールであり、業種別の規制法等に基づいた裁量の広い事前規制に基づく行政から、ルールに基づく透明な行政運営と民事責任ルールを活用した事後救済に比重を移した行政への道を開くものであり、市場アクセスの改善のためにも重要な意義を持つものである。

3．基準・認証制度等の改善の方向性

以上を踏まえ、市場アクセスの一層の改善のためには、行政の透明性を向上させつつ、企業・消費者の自己責任原則の下に、市場メカニズムを最大限活用すべく、行政は基本的にルールからの逸脱を事後的に監視・是正することを任務とするという考え方に立つとともに、国際的な整合性の確保の観点を踏まえ、基準・認証制度等の国内制度の見直しを一層推進する必要があると考える。また、その際、安全性等の社会的規制については、本来の政策目的に沿った必要最小限のものとすることが必要である。

具体的には、政府がそもそも規格・基準を設定して規制すべき分野かどうか、特に現時点においても必要かどうかを厳しく問い直し、必要な規格・基準については、その明確化や国際的整合化に努めるばかりでなく、その規格・基準に適合しているか否かの適合性評価制度について、実効性ある改善策を講じることが重要である。

4．民間慣行への取り組み

さらに、民間団体の規格の策定や適合性評価活動を含め、民間慣行も市場アクセス改善の実効性を確保するためには、検討を要する重要な課題である。政府によって規制の撤廃・緩和や基準・認証制度等の国際的な整合性が図られたとしても、民間団体の行動が市場アクセスを阻害することとなっている場合がある。

建議においては、こうした活動が市場アクセスに与える影響にかんがみ、主として、政府において、民間慣行に対しどのような対応が必要かについて、当該団体及びその慣行への政府の関与の程度について検討を行ったが、市場アクセス改善が、我が国として主体的に取り組むべき課題であることにかんがみ、以下で述べることについては、経済界や各種の民間団体においても自らの課題として受け止め、真剣に取り組むことが望ましい。

Ⅲ．市場アクセス改善のための課題

国内外の市場アクセスに係る重要な動きを踏まえつつ、過去にOTOで具体的に取り扱った案件の検討からは、今後の市場アクセスの一層の改善のためには次に掲げる諸点が、政府において積極的対応が必要な課題として浮かび上がって来るものである。

各制度の所管省庁においてもこれらの点を判断材料とし、それぞれの所管の制度につき市場アクセスの一層の改善という観点からその見直しを行うべきである。また、今後OTOにおいて個別具体的な苦情や問題提起を受けて案件の処理を行う際には以下の点を判断基準として適用する必要がある。

1．規格・基準の策定に係る課題

(1) 規格・基準の設定の必要性及びその内容の見直し

規格・基準の設定の必要性及びその内容を技術の進歩、規制緩和の要請、消費者ニーズの多様化、規格・基準の国際的調和の要請等の観点から適時・適切な見直しを行うことが必要である。

JIS規格（工業標準化法）においては、生産者、使用者、消費者等の関係者の観点を幅広く取り入れ、ゼロベースの点検（全面的見直し）を3年間で行うこととしており、こうした積極的な対応は評価できる。また、JAS規格（農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律）においても、国際規格との整合化を進めるとともに生産・流通・消費の実態を踏まえ、不要となった規格・基準の廃止やニーズに則した改正を積極的に進めることとしている。このような対応を含め、規格・基準の包括的な見直しを行うことが必要である。なお、規格・基準の制定・改廃に当たっては、関係省庁が連携して、可能な限り、JIS規格と強制法規の技術基準や政府調達の調達基準等との整合化を図るべきである。

(2) 新しい製品に適した規格・基準の整備等

海外からの新しい製品等に適した規格・基準が我が国にはないことにより、輸入に支障が生じている場合がみられる。こうした新しい事態への対応を図り、かつ消費者の利益に資するため、必要に応じ、従来の法体系の大胆な見直しを行い、新しい製品にも対応できるような規格・基準の整備等を行うことが重要である。栄養補助食品については、これを新しいカテゴリーとすることについて、積極的に対応する必要がある。また、トレーラーハウスについては、トレーラーハウス等に関する各種スペック及び米国における規制等の明確化に伴い、関係省庁において我が国の現行法令等との関係について速やかに検討を進め、積極的な対応を行うべきである。

さらに、規格を策定する際には、民間規格を積極的に取り入れることも考慮する必要があるが、その際には、海外事業者を始めとするアウトサイダーとの間で公平性に配慮する必要がある。

(3) 明確な規格・基準の整備

我が国の規格・基準には具体的ではなく、政府や民間の適合性評価機関の裁量が大きいものがあり、市場アクセスの観点から問題になるものが多い。行政等の裁量の余地を少なくするよう、規格・基準はできる限り明確に規定すべきである。また、これにより適合性評価制度の簡素化も可能となる。水道法では給水装置の構造及び材質について省令において基準が整備され、これにより自己認証を基本とする制度となった。

(4) 国際規格への整合化

ISO／IECやFAO／WHO合同食品規格委員会（いわゆるコーデックス委員会）などの国際標準化機関等で策定された規格が存在する場合には原則としてそれを基礎として用いるとともに、国際規格が存在しない分野においてはその策定作業に積極的に貢献することが必要である。国際規格への整合化の原則は、早くから我が国の方針として努力がなされてきたが、我が国固有の規格・基準に適合させるために国際的に適合している製品の構造変更や検査のために求められるコストは依然として多くの案件に共通する問題である。最近でも果汁にかかるJAS規格の国際規格への整合化に係る案件があり、前向きの対応がなされつつある。このような対応を含め包括的な見直しが必要である。

また、国際規格が作成されるのを待って対応するのではなく、その案が準備された段階で同時平行的に国内規格・基準の整備を図るなど、国内規格・基準の国際規格への整合化を最大限迅速化することも必要である。

なお、国際規格が存在しない分野においても仮に、日本の規格・基準が独特であればその妥当性について明確に説明できることが必要である。長年にわたり日本独特の出力算定方式をとってきた漁船用推進機関については、見直しに当たり国際的整合化のとれた出力算定方式を採用すべく迅速な対応が図られたところである。

(5) 性能規格・基準化の積極的推進

規格・基準の策定に当たり、素材・仕様を詳細に規定する仕様規格・基準は明確であるが、他方、同様の性能を持っていても規定されている以外のものは排除されてしまうことから、海外の製品を含め多様な製品が流通できるよう仕様規格・基準を性能規格・基準に改めることが必要である。

給水装置の構造・材質については、材質基準を国が明確化するにあたり、性能規定化が図られた（水道法給水装置の構造及び材質の基準に関する省令）。建築基準法、船舶安全法においても性能規定化の検討がなされているが、早急に実施すべきである。多くの基準・認証制度等において仕様規格・基準がなお用いられている現状においては、今後更に一層、性能規格・基準化を積極的に進めるべきである。

ただし、性能規格・基準化に当たっては従来以上に適合性評価を透明かつ効率的なやり方により行う必要性があり、適合性評価機関のありかた等についてあわせて議論する必要がある（2.も参照）。また、中小企業の利便等を図る観点から、仕様規格・基準と併用することも考えられる。

2．規格・基準への適合性評価に係る課題

(1) 適合性評価への競争原理の導入

検査、認証等の適合性評価業務を民間に広く開放し、適合性評価機関を複数化することにより、競争原理を働かせるなど、検査、認証等のためのコストの低下や質の向上を図るべきである。JIS規格においては従来専ら国により行われている認証業務を内外の民間機関に開放することを予定しており、建築基準法においても、行政の役割であった建築確認や検査等を民間に行わせることを検討しているが、こうした対応は評価できる。国や特定の民間団体に独占的に適合性評価義務を行わせているその他の制度においても原則としてこうした業務を民間にも幅広く開放すべきである。

(2) 海外の適合性評価機関の積極的活用及び相互承認の推進

外国の優秀な適合性評価機関の積極的な活用を図り、再検査等に伴うコストの増加を避けるべきである。例えば、電気機械器具防爆構造規格の場合には、規格は国際規格に整合化しており、法令上の根拠をもつ団体が適合性評価を行っているが、外国での適合性評価の信頼性等の問題から再度国内における検査が必要とされている。早急に検討を進め、積極的な対応が必要である。こうした対応を行う際には、適合性評価に関するISO／IECガイドライン等を活用し、それを満たす機関には幅広く適合性評価の資格を開放する等の対応をなすべきである（3-(1)も参照）。

また、こうした対応は他国で行われた適合性評価についての相互承認を進める基盤となるものである。EUにおいては、OECD諸国等との間で積極的な相互承認交渉を行っており、幾つかの分野において、本年5月末には米国とEUとの間で基本的合意に至った。我が国においても主要国との間の相互承認の推進について包括的な枠組みの整備も含め、積極的対応が必要である。また、国と適合性評価機関との関係を明確にした上で（3-(1)も参照）、適合性評価制度については、EUにおける取り組みも参考に、市場アクセスにも留意した適合性評価のシステムを早急に整備すべきである。

(3) 第三者認証を義務付けない制度への移行

明確な規格・基準を整備することにより、原則として、自己確認を基本とし、第三者認証を義務付けない制度へと移行し、適合性評価制度の大胆な簡素化を図るべきである。規格・基準が策定された当時に比し、事業者の品質管理や技術能力が格段に向上している場合が多く、規格・基準への適合性を事前に政府において確保することは必ずしも必要ない。他方、その際には、信用力や試験・検査能力の不足する海外事業者や中小事業者等のために任意の試験所認定制度や第三者認証制度を整備することも重要である。JIS規格においては、試験所認定制度を国際的なルール（ISO／IECガイドライン）に基づいて整備することとしており評価できる。

他の制度においても、可能な限り、工業標準化法改正により導入された新たな認証制度の活用を含め積極的に対応を進めるべきである。他方、第三者認証等を義務付けない場合には、任意の第三者認証機関の位置づけによっては適合性評価制度がかえって不透明なものになりかねないので、第三者認証等が義務でない旨流通段階に十分周知徹底する必要がある。

(4) 適合性評価手続の簡素化・迅速化

政府等による適合性評価が不可欠な場合には、可能な限りその簡素化、迅速化、検査間隔の延長を図るべきである。船舶安全法においては、検査の間隔の延長、自主的な保守整備記録の活用等を実施する予定にしており、評価できる。また、同法においては、事業者の品質管理に関する国際規格（ISO9000シリーズ）を活用して、検査の合理化を検討中である。他の制度においても、事業者の品質管理体制等を適合性評価の項目としている場合には、原則として、国際規格の活用等により、簡素化・迅速化を図るべきである。

3．民間慣行等への対応に係る課題

(1) 民間団体の規格・基準、適合性評価業務への対応

民間団体が規格・基準を設定し、適合性評価業務を行う場合には、法令に根拠があって行う場合と、法令の根拠なく当該団体の自主事業として行われている場合の二つの場合がある。

1) 法令上の根拠がある場合

所管省庁において、上記(1)(2)の原則を遵守するとともに業界関係者に過度に依存する等の不適切なことがあれば早急に改めるなど、適切な法の運用を行わねばならない。

これまで国から公益法人に、法律上の基準にかかる検査について通知によって検査が依頼され、かつ、当該法人では実態的には業界関係者が検査を行っているという事例がみられたが、こうしたことは早急に改めるとともに、法令上の根拠を明確にし、国との関係を透明化すべきである。公益法人については、「『公益法人に対する検査等の委託等に関する基準』について」（平成8年9月20日閣議決定）において、検査等の基準の明確性や当該法人の役職員に係る中立性等の要件がみたされる場合のみ、国は検査等の委託を行うこととする等の措置を平成12年度末までに行うものとされているが、これを可能な限り前倒しして行うべきである。特に、かつてOTOの苦情の対象となった民間団体については早急に措置すべきである。

2) 法令上の根拠がない場合

民間団体における自主的な事業についても、規格の標準化によるコストダウンや品質の向上のほか、消費者の商品選択に資する有益な情報を提供する場合もあるものの、国際的な規格と整合的でない場合等には、実質的に外国製品の輸入や対日直接投資の阻害要因となりうることに十分留意が必要である。政府において規制の緩和がなされたとしても、民間団体が同種の規格を残し、適合性評価業務を行う場合、実質的に規制緩和の意義が失われる恐れがある。市場アクセスの改善のためには、この分野における適切な対応が、重要な課題である。

第一に、政府は、これら民間団体の自主的な認証業務が国の業務と誤解されないよう関与の仕方に十分留意すべきである。国の基準・認証制度等において、法令の規定からは、無関係なことが明確であるにもかかわらず、ある民間団体の認証を取得することが、実質的に国の認証等を取得するための必要条件であったり、十分条件となっているような運用を行うことは、厳に慎まなければならない。また、政府が実質的に認証業務に参加していること等がこうした誤解を生む場合もあるので、そうした可能性のある場合には参加しないことが必要である。

第二に、民間団体の中でも、特に、公益法人については、民法上その業務が主務官庁の監督下にあり、必要な命令をすることができるとされており、主務官庁において、規格の策定、適合性評価について、市場アクセスの観点から適切な業務が確保されるよう指導を行うなど、所要の対応を行うべきである。さらに、当該団体の広報資料等の中の表現等に配意する等により、国との関連について誤解を生まないよう指導を行うべきである。

(2) 独占禁止法の厳正運用による競争制限的な民間慣行の是正

民間団体の規格の設定及び、適合性評価業務については、その内容又はその実施態様等によっては、それらの行為が競争制限的に機能する場合がありえる。独占禁止法は、事業者団体が、一定の分野における競争を実質的に制限することや事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること等を禁止している。例えば、ある事業者団体の適合性評価を受けなければ事業活動が困難な状況において、特定の事業者によるその適合性評価の利用を正当な理由なく制限する場合、ある事業者団体が、事業者に、自らの規格に適合しない製品を取り扱う販売店との取引を拒絶するよう働きかけるような場合、特定の事業者に対して差別的な内容の規格を設定し、その利用・遵守について指示・要請等を行う場合などが考えられる。こうした場合には独占禁止法に照らし厳正に対処すべきである。

基準・認証制度等にかかる場合ばかりでなく、およそ競争制限的な民間慣行は、市場ルールからの逸脱であり、その是正はルールの監視を任務とすべき政府の重要な役割である。なかでも内外の事業者の公正かつ自由な競争を促進するため、独占禁止法の厳正な運用が重要である。政府は必要に応じ、その実態を調査し、競争制限行為に対する独占禁止法の厳正な適用を行うとともに、背後に競争制限的な行政指導が存在する場合には、それを早急に改めることにより、競争制限的な民間慣行の是正を図るべきである。例えば、流通段階における商慣習において、競争制限的な民間慣行がみられるのであれば、厳正に対処することが必要である。

4．国内制度の一層の透明化に係る課題

(1) 行政手続法の精神を最大限活かした対応

行政の透明性の向上は、市場アクセスの改善の観点からも重要な課題である。こうした観点からは、まず行政手続法を遵守すべきことは当然であるが、たとえ法的には義務とはなっていないとしても可能な限り審査基準・処分基準等の作成及び公開を自主的に行うなど、行政手続法を定めた際の「行政の透明性の確保」という精神を最大限活かした対応が必要である。

OTOで扱った案件においては行政手続法において適用除外となっている分野に関するものが散見されるが、行政手続法の適用除外になっているとしても行政の運営の公正の確保と透明性の向上を図るという法の精神が尊重されるべきである。

(2) 市場アクセスに関連深い制度の積極的な広報活動

苦情等の処理状況をみても、いまだに制度に対する誤解から生じているものも多くある。また、現在政府部内で進められている規制緩和の進展の成果についてはそれが実際の市場アクセスの改善につながるためには、十分な広報が必要であり、インターネット等も活用した制度の概要等に関する一層の積極的な広報活動等が必要である。特にOTOの苦情の対象となった制度については、市場アクセスに関連の深い分野であるので、特にその概要を容易に把握できるよう取り組むべきである。

また、その際、貿易・投資の分野における国際語としての英語の重要性にかんがみ、重要な資料は極力英訳することが必要であり、行政運用の判断基準となる通達、通知でも特に重要なものは英訳すべきである。

(3) 地方支分部局に対する指導の充実

輸入検査手続に限らず、具体的な問題は、地方支分部局の対応をきっかけに生じている事例が見られる。地方支分部局の制度の運用が本省が示している方針との違いが苦情の原因となっていることがあるので、窓口への本省の方針を徹底する。本省における市場アクセス改善の取り組みを内外の事業者が具体的に接する窓口まで十分浸透することが重要である。

(4) 国際ルールを遵守した対応

規格・基準の策定や適合性評価手続等については、WTOのTBT／SPS協定の規定を遵守して情報提供を積極的に行うべきである。特に、規格・基準の策定にあたって外国人等、幅広い第三者の意見を聞く機会を十分持ち、手順を国際的規約に基づいたものとすべきである。

5．消費者、企業の自己責任の確立に係る課題

PL法と行政上の製品安全規制とは意義・目的を異にするものではあるが、PL法の定着が企業側の品質管理や安全設計等への取り組みへの強化等を促進することによって、行政上の安全規制の必要性を低下させる可能性があるということにも注意が払われるべきであろう。

新規参入する内外の企業にとって、基準・認証という事前規制とPL法による事後的な損害賠償責任の双方において責任を負うことは、コストの面でも事業の将来性の面でも大きな制約要因となる可能性がある。企業の自己責任原則の確立を目指し、事前規制については、国際的整合性を持った必要最小限のものにとどめるとともに、その代わりに参入後製品の欠陥によって被害が発生した場合の責任はその製品を製造し（あるいは輸入し）、流通に置いた製造業者（あるいは輸入業者）等が負うというPL法の精神を最大限活用すべきである。

特に、規格・基準への適合性を事前に政府において確保することを見直し、原則として、政府及び第三者認証を義務付けない制度、すなわち自己確認を基本とする制度への移行を積極的に図る必要がある。電気用品取締法においては、PL法の施行にあわせて政府の認証の対象から自己確認の対象へと多数の品目を移行させたところであるが、他の制度においても同様の対応を促進すべきである（2-(3)も参照）。

また、こうした移行を実施するための環境を整備するために、消費者に対する十分な情報提供を積極的に推進するとともに、消費者の自己責任原則の確立を目指し、消費者が経済行為の主体として主体的な意思決定を行うために必要な基礎知識と能力を育てていくことを支援するための施策の充実が必要である。さらに、環境整備の一環として企業においても、消費者に対する情報開示（ディスクロージャー）の強化が求められている。

6．対日投資促進等の課題

(1) 対日投資促進の課題

これまで我々が扱った案件には、従来の輸入拡大という観点だけではなく、国際的に魅力ある事業環境を整備するという観点から、対日投資促進のための課題として取り組むべき問題も含まれるようになってきた。対日投資の促進は、新たな技術や優れた経営資源の移転などを通して、我が国経済の効率化・活性化に資するとともに、企業の海外進出に伴う地域経済の空洞化に適切に対応する上でも重要である。対日投資の促進を図る観点としては、例えば投資家が優れた人材を確保することは、その事業活動を活発にする上で重要である。こうした観点から上陸審査基準、有料職業紹介に係る問題が提起され、総じて前向きな対応が取られつつあり、今後とも必要な対応を着実に進めるべきである。

(2) 申請等の負担の軽減に係る課題

輸入時等の各種の申請・届出、文書保存等に係る負担の軽減は、利用者の利便の向上、国際的に魅力ある事業環境の整備という観点から推進するべきである。例えば、植物防疫法及び家畜伝染病予防法においては、法改正により、輸入関係省庁間での電算システムの活用による輸入手続全体の簡素化・迅速化（ペーパーレス化）を行っており、こうした対応は評価できる。また、法令上保存義務がある書類に関し、マイクロフィルム等による保存を認めることについて積極的に対応すべきである。

さらに、「申請負担軽減対策」（平成9年2月10日閣議決定）により、申請等に伴う手続の簡素化、電子化、ペーパーレス化について、原則として平成10年度（1998年度）末までに可能なものから早期に実施に移すこととされており、これを積極的に推進すべきである。

4．むすび

開放的、競争的でかつ透明性の高い市場は、様々な分野にわたって、法律、命令等に基づく諸規制から、政府及び民間の慣行にいたるまで、一つ一つの制度を改善していく努力によって生まれるものである。そのためには、現在積極的に行われている規制の緩和や撤廃を着実に実施するとともに、今後とも日本市場にアクセスすべく現実に取り組んでいる内外の事業者等からの個別・具体的な苦情を貴重な問題提起として積極的に位置づけ、それに真摯に対応することが必要である。

我々は、過去の苦情や問題提起案件を今一度見直し、共通する事項について審議を深め、ここに建議を行った。現在政府において行われている構造改革の中で市場アクセス改善の観点が、より積極的に位置づけられ、具体的な対応がなされることを切望するものである。我々としても建議を踏まえた市場アクセス改善努力を十分フォローアップするとともに、必要に応じ、改善策について意見を述べることとしたい。

（参考）

以下では、「Ⅱ.建議の視点」を得るに至った検討作業の成果を参考として示す。

1. 過去のOTO案件の整理と分類

(1) 過去のOTO案件の整理

OTOで扱った案件に共通する問題の所在を明確にすべく、OTOにおいて定められている苦情の受付・処理の一般原則に基づいて平成元年（1989年）以降の案件、計408件を苦情類型別に整理・分類した。その結果は第1表に示す通りである。

過去の問題提起案件及び苦情を整理すると、「5検査手続き等の簡素化・迅速化に努めること」が最も多く、その内訳としては、必要な提出資料の縮減を求めるもの、手続等に係る審査期間の短縮を求めるもの、検査及び審査方法の見直しを求めるものが大勢を占める。続いて、「1政府介入の縮小に努めること」（政府規制からの除外、規格・基準の削減）、「4規格・基準の明確化・定量化を図ること」（運用基準の明確化・定量化）、「2国際規格・基準への整合化に努めること」（国際規格・基準への整合化、外国規格に合格した製品等の受入れ）、「3外国検査データの受入れに努めること」、「6その他国内制度の透明性の確保等に努めること」（制度及び規制理由の説明を求めるもの、民間慣行の是正を求めるもの、申請手続における英語使用を求めるもの）の順に案件の数が多い。

こうした結果をみると、これまで例えば、「基準・認証制度の改善について」（昭和58年3月26日、基準・認証制度等連絡調整本部）、「市場アクセス改善のためのアクション・プログラムの骨格」（昭和60年7月30日、政府・与党対外経済対策推進本部）等によって種々の方策がとられたが、まだ我が国の市場アクセスには問題が残っていることがうかがえる（注1）。

（注1）これまでの市場アクセス改善施策の主な内容
1] 「基準・認証制度の改善について」（昭和58年3月26日、基準・認証制度等連絡調整本部）
認証手続における内外無差別を法制度的に確保するための法改正とともに、基準・認証制度の改善として、以下の5項目が指摘されている
ア透明性の確保、イ国際化の推進、ウ外国検査データの受入れ促進、エ認証手続の簡素化・迅速化、オ輸入手続の改善
2] 「市場アクセス改善のためのアクション・プログラムの骨格」（昭和60年7月30日、政府・与党対外経済対策推進本部）
（アクション・プログラムの基本原則）
ア「原則自由、例外制限」の基本的視点に立ち、政府介入をできるだけ少なくして、消費者の選択と責任に委ねる。
（以下略）

（第1表）OTO案件の苦情類型別の整理・分類（平成元年（1989年）以降）

苦情の類型	件数
1 政府介入の縮小に努めること (1) 規制対象からの除外 (2) 規格・基準の削減	144 71 73
2 国際規格・基準への整合化に努めること (1) 国際規格・基準への整合化 (2) 外国規格に合格した製品等の受入れ (3) その他	114 79 34 1
3 外国検査データの受入れに努めること (1) 外国検査データの活用 (2) 申請者作成データの受入れ	45 43 2
4 規格・基準の明確化・定量化を図ること (1) 運用基準の明確化・定量化 (2) 適切な基準の作成、現行基準の改正	134 92 42
5 検査手続き等の簡素化・迅速化に努めること (1) 提出資料の縮減 (2) 審査期間の短縮 (3) 些事にわたるチェック照合の廃止 (4) 検査頻度の縮減 (5) 検査及び審査方法の見直し (6) 関係窓口開庁時間の延長 (7) 担当職員の増員 (8) 検査費用等の軽減 (9) 検査施設等の拡充 (10) その他	188 47 48 4 15 43 11 2 11 3 4
6 その他国内制度の透明性の確保等に努めること (1) 規格・基準の制定・変更時の事前意図公告 (2) 外国人を含む関係者への意見提出機会の供与 (3) 法令の英訳 (4) 手続きマニュアルの作成 (5) 民間慣行等の是正 (6) 制度及び規制理由の説明 (7) 申請手続きにおける英語使用	39 1 4 2 3 8 18 3
7 その他 (1) 模造品の排除 (2) その他	7 3 4
合計	671

（注）1,408 件の内訳は、平成元年（1989年）以降平成8年（1996年）までに受け付けた個別苦情179件、平成4年度（1992年度）から平成8年度（1996年度）までの問題提起案件229件（推進会議として意見を付した案件104件、その他の案件125件）である。
2．苦情の類型の大項目は、「市場開放問題苦情処理推進本部運営要領（昭和57年2月18日）」の（別紙2）「輸入手続等を含む市場開放問題及び輸入の円滑化に関する具体的苦情の受付・処理の一般原則について」に基づく。さらに、各大項目の中で共通する性質を小項目として抽出し、その小項目別に整理・分類した。
3．苦情及び問題提起の案件数は一つの苦情・問題提起において、複数の要望を含むものが数多くあるので整理分類した合計数とは一致しない。

また、最近、OTOが扱った案件には認可法人、公益法人、任意団体といった民間団体の規格・基準や適合性評価の業務について、政府との関係が必ずしも明確ではなく、市場に参入する障壁になっているというものが少なからずみられた。こうした問題は政府における法令上の規制緩和や基準の国際的整合化の進展にもかかわらず、我が国の市場アクセスが実際に大きく改善していないという不満の原因となっている可能性がある。また、表面上の規制緩和によって、かえって内外の事業者等の新規参入者にとって、かえって制度が不透明になる恐れがある。こうした問題意識の下に、特に民間団体の問題について検討を加えた。この問題については政府においてもかなり以前から問題の所在についての認識があり、例えば昭和58年（1983年）に決定された前述の「基準・認証制度の改善について」においては、そこで指摘している5項目（注1参照）について、民間団体において実施されている基準策定、認証活動にあっても徹底を図るべく政府において実情を把握するとともに措置することとしている。民間団体に関する案件を苦情の類型で整理・分類したものが、第2表である。

この分類の結果によれば、国際規格への整合化あるいは外国規格に合格した製品の受入れを求めるものが多く、これに外国検査データの受入れに努めることを求めるものを加えれば約半分を占める。法律又は法律に基づく政令に根拠を持って業務を委託されている団体が少ないことにかんがみれば、民間団体が自主的に必ずしも国際規格に整合的でない規格を設けて行っている適合性評価手続が、実際には国の制度と同様に事実上大きな影響力を持ち、市場アクセスを妨げているものが多いことがうかがわれる。

（第2表）民間団体に関する案件の苦情の類型別の整理・分類

苦情の類型	件数
1 政府介入の縮小に努めること (1) 規制対象からの除外 (2) 規格・基準の削減	6 2 4
2 国際規格・基準への整合化に努めること (1) 国際規格・基準への整合化 (2) 外国規格に合格した製品等の受入れ	19 8 11
3 外国検査データの受入れに努めること (1) 外国検査データの活用 (2) 申請者作成データの受入れ	4 3 1
4 規格・基準の明確化・定量化を図ること (1) 運用基準の明確化・定量化 (2) 適切な基準の作成、現行基準の改正	10 6 4
5 検査手続き等の簡素化・迅速化に努めること (2) 審査期間の短縮 (4) 検査頻度の縮減 (5) 検査及び審査方法の見直し (8) 検査費用等の軽減	10 1 1 7 1
6 その他国内制度の透明性の確保等に努めること (5) 民間慣行等の是正 (6) 制度及び規制理由の説明	3 1 2

（注）第1表の（注）を参照のこと。

(2) 市場アクセス改善への積極的な取り組み

過去OTOで扱った案件においては、個別苦情については、その6割において、輸入促進的な解決がなされているところである。また、問題提起プロセスにおいて市場開放問題苦情処理推進会議（OTO推進会議）が意見を述べた項目については、市場開放問題苦情処理対策本部（OTO対策本部）において、政府としての決定がなされ、内外に対する公約となっている。

我々は、おおむね意見を述べた翌年に当該案件の政府における進捗状況をフォローアップしている。進捗が十分でない案件は、対応が完了するまでフォローアップを続けているが、近年はいくつかの分野で当推進会議の意見を踏まえた基準・認証制度の抜本的な見直しが行われている。第3表にまとめた案件における所管省庁の対応は、市場アクセス改善の観点から評価できるものである。

規格・基準については、従来から国際規格への整合化等の努力が行われてきたところであるが、最近、規格・基準を詳細に記述する仕様規格・基準を必要最小限の性能を定めた性能規格・基準に変更するといった対応がみられる。

検査、認証等の適合性評価については、従来、政府においてもまた民間に委託する場合であっても一団体が、独占的に行うことが多く、また、海外の規格に合格していたり、認証を取得しているにもかかわらず、国内に入ってから再度コストのかかる複雑な検査等を行わねばならないという批判が多かったものである。これまで、適合性評価の簡素化を図るために、外国検査データの受入れや相互承認の推進が図られてきたところであるが、今年になって工業標準化法では適合性評価機関の活用等に国際的なガイドラインを用いて、海外の機関も含め複数の民間機関に業務を行わせるための制度改正が行われた。また、水道法においては、給水装置の構造・材質について第三者認証を義務付けない制度への移行が図られた。

こうした対応は市場アクセス改善の観点から評価できるものであり、他の類似の制度においても十分参考にされるべきものと考える。

（第3表）市場アクセス改善の観点から評価できる制度改正の事例

1] 電気用品取締法（平成7年7月改正施行令施行）
・政府の適合性評価を必要とする甲種電気用品を比較的危険性の高いものを除き117品目について自己認証で足りるとする乙種への移行、乙種電気用品の届出書類の合理化をPL法の施行に伴い実施した。さらに、引き続き乙種への移行を検討している。
・国際規格であるIEC規格への整合化作業を進めている。

2] 植物防疫法（平成8年6月改正、平成9年4月施行）
・検疫措置の対象を国際的なガイドラインに則った手続により定める。
・輸入関係省庁間の電算システムの活用による輸入手続き全体の簡素化・迅速化（ペーパーレス化）を行う。

3] 水道法（水道法施行令の一部を改正する政令、給水装置の構造及び材質に関わる省令平成9年10月施行）
・従来水道事業者毎に運用が異なっていた制度を、給水装置の構造・材質基準に係る要件を国が明確化することによって全国統一的に運用できる制度とし、競争条件の整備を図った。
・給水装置の構造・材質基準を明確化したことにより自己認証を基本とする制度となった。
・適合性評価機関の活用やその認証のやり方に国際的な基準（ISO／IECガイドライン）を用いる。

4] 工業標準化法（平成9年9月施行予定）
・TBT協定に基づく認証手続等の国際化、サミット等での相互承認の要請等を踏まえた認証制度の抜本的見直し。
・現在国又は特定の公益法人に独占されている適合性評価業務を内外民間機関に開放し、適合性評価制度にコスト、質等の面で市場メカニズムを導入すること。
・ISOガイドラインに則って自己適合表示制度の導入を行うこととし、信用力・検査能力の不足する海外事業者等のために試験事業者制度を整備するとともに、将来的には他国との相互承認により貿易の円滑化を図る。
・国際規格との整合化作業を進めているものを除く全ての規格（約6000規格）について、ゼロベースからの見直しを9年度から3カ年で実施する。
・規格の国際提案等の、我が国からの情報発信を活性化して、国際標準化作業を強化する。

5] 建築基準法
・性能規定化によって海外製品・資材の我が国市場への参入の円滑化を図り、その際中小企業等の便宜を図る観点から仕様規定も残した2本建てとする。（枠組壁工法の技術基準告示、平成9年3月改正済み）
・諸外国の規格基準に適合し、枠組壁工法の要求性能を満たす建築資材を通則的に受け入れる。
(以下の内容の審議会答申を受け法改正を検討中）
・建築基準の性能規定を導入することより、新製品・新技術の開発の促進や、海外製品・資材の日本市場への参入の円滑化を図る。
・建築確認や検査等について、民間機関にも実施することを認めることにより行政の実効性を確保する。
・規制項目について技術の進展に応じた見直しを検討する。（以下削除）

6] 船舶安全法
・技術の進展にあわせた検査の簡素化（検査の間隔の延長、自主的保守整備の活用）を行う。（平成9年7月を目途に実施）
・技術基準について仕様要件から機能要件への見直し（性能規定化）を進める。
・認定事業場制度においてISO9000シリーズを活用して認定を進める。

2. 国内外の市場アクセスに係る重要な動き

(1) 市場アクセス改善に係る国際的な動向

OTOが扱ったような案件の解決に役立ち、かつ、広く市場アクセスの改善の観点から重要な動きが様々なところでみられる。

1) 国際標準化機関等の動き

国際標準化機関とは、規格又は適合性評価手続の標準化を行うことが認められている国際的組織のことであるが、そのうち、ISO（International

Organization for Standardization)は、鉱工業、農林業、サービス業の規格及び適合性評価手続の国際標準化作業を行っている機関である。電気分野に関する国際標準化作業を行っているIEC（International Electrotechnical Commission)とともにISO／IECガイドラインを策定している。

また、食品分野では、FAO／WHO合同食品規格委員会（Codex Alimentarius Commission、いわゆるコーデックス委員会）が、消費者の健康を保護し、食品貿易の公正を確保すること等を目的として、国連食糧農業機関（FAO）と世界保健機関（WHO）の合同で昭和37年（1962年）に設立され、国際貿易上重要な食品について、食品衛生、食品添加物・汚染物質、残留農薬、食品表示等に係る規格を策定している。

2) WTO協定

平成7年（1995年）1月に発効したWTO協定により、サービス貿易（GATS）、知的所有権、貿易投資措置等ウルグアイ・ラウンド交渉の対象となった新分野をもカバーするルールが策定され、より広範な多角的貿易体制が確立した。この協定の一つであるTBT協定（貿易の技術的障害に関する協定）は、各加盟国の規格及び適合性評価手続が国際貿易に対して不必要な障害をもたらすことのないように立案、制定又は適用されることを確保するために原則として国際規格及び国際的な指針等が使用されることを定めるとともに、規格及び適合性評価手続に係る通知、情報提供等についての手続を定めている。また、衛生植物検疫措置に関しては、SPS協定（衛生植物検疫措置の適用に関する協定）は、人、動物又は植物の生命又は健康を守るという衛生検疫措置の本来の目的が達成されるとともに、貿易に与える影響を最小限にすることを確保するための具体的なルールを提供するものであり、ウルグアイラウンド交渉において農業交渉の一部として行われ、合意に達した。

我が国の発展は、公正で透明な多角的国際経済システムに依存していることを考えれば以上の協定を率先して遵守する必要があることはいうまでもない。

（注2）TBT協定の主な内容

1) 基準を制定する際に、国際規格を原則として基礎として使用することを義務付け

2) 規格・基準に対する適合性評価手続について、国際標準化機関の定める指針、勧告を基礎として使用することを原則として義務付け

3) 国際標準化機関が定める指針又は勧告に従って認定等を受けた海外の適合性評価に関する機関について、その適合性評価手続の結果の受入れを義務付け

4) 適合性評価手続の結果の相互承認のための合意を目的に交渉することを奨励。

（注3）SPS協定の主な内容
1) 衛生植物検疫措置に関する国際的な基準、指針及び勧告がある場合、自国の衛生植物検疫措置はそれに基づくことを原則とする。
2) 科学的に正当な理由がある等の場合、加盟国は、国際的な基準よりも高いレベルの保護の水準をもたらす衛生植物検疫措置を導入し又は維持することが可能。
3) 輸入国は、自国又は第三国の措置と異なる衛生植物検疫措置であっても、適切な保護の水準を達成することを輸出国が客観的に証明する場合、当該措置を同等なものとして認める。
4) 加盟国は、管理、検査及び承認の手続を不当に遅延することなく、かつ、輸入産品が同種の国内産品よりも不利でない方法で適用する。

3) EUにおける市場アクセス改善の努力

欧州統合に向けて、欧州全体を一つの市場とすべく、EU諸国が採用した市場アクセスの改善の方策は、共通の問題の検討に当たり示唆に富むものである。

欧州においては当初、市場アクセス改善のため、各品目について各国の国内基準の統一に努力した。しかし、この通称オールドアプローチは、統一基準の策定にあまりに時間がかかるため、現在、薬、食品添加物、農産物、自動車等の一部品目を除き、放棄されている。これに代わり昭和60年（1985年）から採用されているニューアプローチといわれる方法は、各国が遵守する健康及び安全性に係る「不可欠要求事項（Essential Requirements）」のみを欧州委員会レベルで決定し、それを満たしているものは、域内を自由に流通できることとしている。その際、「不可欠要求事項」以外の技術的基準は、非営利民間標準化機関に策定が委託され、任意の規格とされている。さらに、平成元年（1989年）から採用されているグローバルアプローチにおいては、域外国との相互承認を推進するために、製品、プロセス、サービスが規定された要求事項を満たしているかどうかを決定する活動、すなわち、サンプリング、試験、検査、評価、検証（検定）、適合性保証（自己適合宣言・第三者認証）、登録、認定、承認等の適合性評価手続についてのISO／IECガイドラインに準じた指針を定めた。これは、各製品ごとにどのような適合性評価手続が必要かを定め、それに適合した製品は、域外のものであってもEU域内を流通できるように定めたものであり、こうした基礎のもとに我が国を含む諸外国に相互承認協定の締結に向け、協議を推進している。豪州及びNZ並びに米国との間で合意が成立している。

4) その他

サミットのコミュニュケにおいても基準・認証手続について以下のように記述がある。「我々は、自由な市場アクセスを妨げる重大な他の障害に対しなすべきことがあると信じる。特に、一層の規制制度改革並びに試験及び認証のための手続の相互承認により、国内基準と国際基準の間の一層の収斂を奨励すること。（以下、略）」（リヨンサミット経済宣言平成8年（1996年）6月28日）

平成9年（1997年）5月に開催されたOECD閣僚理事会において、閣僚は「規制改革閣僚理事会報告書」を歓迎し、その原則を承認した。その報告書の政策勧告においては、各国の基準・認証について、「国際的合意の実効性を高め、国際的な原則を強化することにより貿易・投資の不必要な規制を撤廃する」ことが勧告されている。

具体的には、
1] WTO協定やOECDのガイドライン等にあるような貿易・投資の自由化のための国際的なルールや原則を実行し、各国と協力して強化すること、
2] 各国が同趣旨でありながら大きく異なる事項を要求することから生じる貿易・投資障壁を優先事項として削減すること、
3] 国際的に調和している基準については、政策目的を効率的かつ効果的に達成することを確保するために他国と協力して見直し、改善しながら国内規制の基礎として可能な限り利用し、発展させること、
4] 他国の適合性評価手続及び結果を、例えば相互承認等の方法により承認を進めていくこと、が勧告された。閣僚はこの勧告の実施につき合意した。また、APECにおいても、平成7年（1995年）APEC大阪行動指針において、先進工業メンバーについては平成22年（2010年）までに、開発途上メンバーについては平成32年（2020年）までに、自由で開かれた貿易及び投資という長期的目標を達成するため、基準・適合性の分野において、透明性の確保、国際規格への整合化、適合性評価に関する相互承認の達成、技術インフラの整備・拡充に関する協力の推進を進めることが合意された。相互承認についても、複数国間相互承認取り決めを策定することを通じ、強制分野における相互承認取り決めを追求するとの方針が打ち出されている。

(2) 市場アクセス改善に向けての環境整備

国内においてもここ数年基準・認証制度等一般に横断的に関わる注目すべき進展がみられている。すなわち、平成5年（1993年）には、行政処分等に関する手続きに関し、共通する事項を定める行政手続法が成立（平成6年施行）し、平成6年（1994年）には、製造物の欠陥により被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償責任を定めたPL法（平成7年施行）が成立した。

さらに、平成8年（1996年）には、公益法人に対する検査等の委託に関する基準が閣議決定された。

1]行政手続法

行政手続法は、我が国の行政運営について、行政指導が多用される傾向があるとの指摘、あるいは処分によっては審査や処理の基準が明確化されていないとの内外の指摘を踏まえ、処分、行政指導及び届出に関する手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的に制定された。この法の制定により、共通的な手続規定の対象とすることが適当でないとされた特定分野を除き、行政庁には、許認可等の審査基準の設定・公表の義務、不利益処分の処分基準の設定・公表の努力義務等が課せられた。

2]PL法

PL法は、製造物の欠陥によって生命、身体又は財産に被害が発生したことを証明した場合に、その製造物を製造した製造業者等の過失を証明しなくても、被害者が製造業者等に対して損害賠償を請求できることを定めた法律である。この法律は、欧米等における法理の進展を踏まえ、被害者の立証責任を軽減することを主な狙いとしたものであるが、同時に欠陥を有する製造物を製造した製造業者や輸入した輸入業者の損害賠償責任を立法において明確にしたということも重要である。これにより、製造業者等が消費者の安全性に対するニーズに一層即して製品を製造するようになることが期待されている。

PL法は、製品事故が発生した場合の事後的な被害救済のための製品横断的な民事責任ルールを定めるものであり、個別分野ごとの事前的な製品安全規制を中心としてきた我が国の製品安全対策のあり方の見直しという側面を持つものである。現在我が国行政の課題となっている事前規制型の行政から透明なルールの整備に重点を置いた事後監視型の行政への転換という観点からも重要な進展とみることができる。

3]公益法人に対する検査等の委託等に関する基準

さらに、公益法人の検査等についても重要な決定がなされた。公益法人の中に行政代行的行為等を行っているものがあることにもかんがみ、政府は、「『公益法人の設立許可及び指導監督基準』及び『公益法人に対する検査用の委託等に関する基準』について」（平成8年9月閣議決定）を定めた。検査等の業務を公益法人に委託等を行う場合や公益法人の独自の検査等の推薦等を行う場合の要件として、委託、推薦等が法律又は法律に基づく政令に根拠を持つこと、検査等の内容を明確にし、当該法人の裁量の余地がないこと、役職員についての職務規定の整備、官庁出身者と業界出身者の合計が理事の半数以下（委託の場合のみ）等が決定され、これらに必要な措置を平成12年度（2000年度）末までに実施することとされた。