第2 分野別の基本的施策

上記の高齢社会対策の推進の基本的考え方を踏まえ、就業・所得、健康・福祉、学習・社会参加、生活環境、研究開発・国際社会への貢献等、全ての世代の活躍推進の分野別の基本的施策に関する中期にわたる指針を次のとおり定め、これに沿って施策の展開を図るものとする。

1 就業・所得

少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中、経済社会の活力を維持するため、全ての年代の人々がその特性・強みをいかし、経済社会の担い手として活躍できるよう環境整備を図る。

現在の年金制度に基づく公的年金の支給開始年齢の引上げ等を踏まえ、希望者全員がその意欲と能力に応じて65歳まで働けるよう安定的な雇用の確保を図る。また、65歳を超えても、70代を通じ、またそもそも年齢を判断基準とせず、多くの者に高い就業継続意欲が見られる現況を踏まえ、年齢にかかわりなく希望に応じて働き続けることができるよう雇用・就業環境の整備を図るとともに、社会保障制度についても、こうした意欲の高まりを踏まえた柔軟な制度となるよう必要に応じて見直しを図る。

勤労者が、高齢期にわたり職業生活と家庭や地域での生活とを両立させつつ、職業生活の全期間を通じて能力を有効に発揮することができるよう、職業能力の開発や多様な働き方を可能にする施策を推進する。

職業生活からの引退後の所得については、国民の社会的連帯を基盤とする公的年金を中心とし、これに企業による従業員の高齢期の所得確保の支援や個人の自助努力にも留意し、企業年金、退職金、個人年金等の個人資産を適切に組み合わせた資産形成を促進する。さらに資産の運用等を含めた資産の有効活用が計画的に行われるよう環境整備を図る。

(1)エイジレスに働ける社会の実現に向けた環境整備

ア 多様な形態による就業機会・勤務形態の確保

高齢期は、個々の労働者の健康・意欲・体力等に個人差があり、雇用就業形態や労働時間等についてのニーズが多様化することから、多様な雇用・就業ニーズに応じた環境整備を行うことにより雇用・就業機会の確保を図る。あわせて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できる環境も整備する。特に、ICTを活用したテレワークは、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方であり、テレワークの一層の普及拡大に向け、環境整備、普及啓発等を推進する。

また、退職後に、臨時的・短期的又は軽易な就業等を希望する高齢者等に対して、地域の日常生活に密着した仕事を提供するシルバー人材センター事業を推進する。さらに、地方公共団体が中心となって、シルバー人材センター、事業主団体、労働者団体など地域の様々な機関と連携して高齢者の就業機会を創る取組を推進する。

その他、労働者が様々な変化に対応しつつキャリア形成を行い、高齢期に至るまで職業生活の充実を図ることができるよう、必要な情報を提供するとともに、事業主による援助を促進する。副業・兼業については、労働者の健康確保に留意しつつ、普及促進を図る。

イ 高齢者等の再就職の支援・促進

ハローワークに生涯現役支援窓口を設置し、多様な技術・経験を有する高齢求職者が、幅広く社会に貢献できるよう、職業生活の再設計に係る支援や支援チームによる就労支援を行うほか、職業能力開発、求人開拓、雇用情報提供等を実施する。

また、地域における高齢者の就業促進に当たり、地方公共団体の意向を踏まえつつ、都道府県労働局と地方公共団体が一体となって地域の雇用対策に取り組むための雇用対策協定の活用を図る。

ウ 高齢期の起業の支援

高齢期に自らの職業経験を活用すること等により、高齢者が事業を創出し、継続的な就業機会の確保ができるよう、起業の意欲を有する高齢者に対して、起業に伴う各種手続等の相談や日本政策金融公庫の融資を含めた資金調達等の支援を行う。

エ 知識、経験を活用した高齢期の雇用の確保

生涯現役社会の実現に向けて、65歳までの定年延長や65歳以降の継続雇用延長を行う企業への支援を充実させる。あわせて、職業能力の開発及び向上、賃金・人事処遇制度の見直し、その他諸条件の整備に係る相談・援助などを実施するとともに、高齢者の雇用に関する各種助成制度や給付制度等の有効な活用を図る。

加齢に伴う身体機能の変化を考慮して、安全と健康確保に配慮した働きやすい快適な職場づくり及び健康確保対策を推進する。

また、公務員の定年の引上げについては、高齢期の職員の知識、経験の一層の活用等の観点から、組織活力の維持、総人件費の在り方などの点も含め、人事院の協力も得つつ、具体的な検討を進める。

オ 勤労者の職業生活の全期間を通じた能力の開発

職業生涯の長期化や働き方の多様化等が進む中、勤労者がその人生において、必要な学び直しを行いライフスタイルに応じたキャリア選択を行うことができるよう、人生100年時代を見据え、リカレント教育の抜本的な拡充等、誰もが幾つになっても、新たな活躍の機会に挑戦できるような環境整備について、検討する。

また、勤労者の段階的・体系的な職業能力の開発・向上を促進し、人材の育成・確保や労働生産性の向上につなげるため、職業訓練の実施や職業能力の「見える化」のみならず、個々人に合った職業生涯を通じたキャリア形成支援を推進する。

カ ゆとりある職業生活の実現等

就業・労働時間等に関する事項について、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(平成19年12月18日仕事と生活の調和推進官民トップ会議決定、平成28年3月改定)等を踏まえ、高齢者も含めた全ての労働者の仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現を図る。

(2)公的年金制度の安定的運営

ア 持続可能で安定的な公的年金制度の運営

公的年金制度については、平成16年の制度改正以来、急速に進行する少子高齢化を見据えて、将来にわたり年金制度を持続的で安心できるものとするため、給付と現役世代の負担の両面にわたる見直しを実施し、上限を決めた上での保険料の引上げや、マクロ経済スライドによって年金の給付水準を自動的に調整する新たな年金財政の仕組みを構築してきた。

基礎年金国庫負担の2分の1への引上げに続き、予定されていた保険料の引上げが完了したことにより、収入面では、こうした年金財政の仕組みが完成をみたことを踏まえ、今後は、決められた収入の範囲内で、年金の給付水準を確保すべく、長期的視点に立って年金制度を運営していく。

イ 高齢期における職業生活の多様性に対応した年金制度の構築

年金の受給開始時期は、現在、60歳から70歳までの間で個人が自由に選べる仕組みとなっている。このうち65歳より後に受給を開始する繰下げ制度について、積極的に制度の周知に取り組むとともに、70歳以降の受給開始を選択可能とするなど、年金受給者にとってより柔軟で使いやすいものとなるよう制度の改善に向けた検討を行う。

また、在職老齢年金については、高齢期における多様な就業と引退への移行に弾力的に対応する観点から、年金財政に与える影響も考慮しつつ、制度の在り方について検討を進める。

ウ 働き方に中立的な年金制度の構築

働きたい人が働きやすい環境を整えるとともに、短時間労働者に対する年金などの保障を厚くする観点から、短時間労働者の就労実態や企業への影響等を勘案しつつ、更なる被用者保険の適用拡大に向けた検討を着実に進める。

(3)資産形成等の支援

ア 資産形成等の促進のための環境整備

私的年金制度は公的年金の上乗せの年金制度として、公的年金を補完し、個人や企業などの自助努力により、高齢期の所得確保を支援する重要な役割を担っている。個人型確定拠出年金(iDeCo)について加入者範囲の拡大等や中小企業が利用しやすい制度の導入の周知等を行うとともに、確定給付企業年金についてリスク分担型企業年金制度等の周知等を行うことにより、私的年金制度の普及・充実を図る。

また、退職金制度が老後の所得保障として果たす役割は依然として大きいことに鑑み、独力では退職金制度を持つことが困難な中小企業等を対象とした中小企業退職金共済制度の普及促進を図る。

ゆとりある高齢期の生活を確保するためには計画的に資産形成を進めることが重要であることから、上記の諸制度に加え、つみたてNISA(少額投資非課税制度)等の普及や利用促進を図るとともに、勤労者が資産形成を開始するきっかけが身近な場で得られるよう、職場環境の整備を促進する。特に、地方公共団体や企業における取組を促していく等の観点から、まずは国家公務員がつみたてNISA等を広く活用するよう、「職場つみたてNISA」等の枠組みを導入し、積極的なサポートを行うなど、政府として率先して取組を進める。

イ 資産の有効活用のための環境整備

高齢期に不安なくゆとりある生活を維持していくためには、それぞれの状況に適した資産の運用と取崩しを含めた資産の有効活用が計画的に行われる必要がある。このため、それにふさわしい金融商品・サービスの提供の促進を図る。あわせて、住み替え等により国民の住生活を充実させることで高齢期の不安が緩和されるよう、住宅資産についても有効に利用できるようにする。また、低所得の高齢者世帯に対して、居住用資産を担保に生活資金を貸し付ける制度として、都道府県社会福祉協議会が実施している不動産担保型生活資金の貸与制度の活用の促進を図る。

高齢投資家の保護については、フィナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学)の進展も踏まえ、認知能力の低下等の高齢期に見られる特徴への一層の対応を図る。

前のページ | 目次 | 次のページ