第2 分野別の基本的施策-4
4 生活環境
高齢者の居住の安定確保に向け、高齢者向け住宅の供給を促進し、重層的かつ柔軟な住宅セーフティネットの構築を目指すとともに、住み慣れた地域の中で住み替えの見通しを得やすいような環境整備を進める。また、高齢者のニーズを踏まえ将来にわたり活用される良質な住宅の供給を促進し、併せて、戸建てや共同住宅の特性の違いにも留意しつつ、それらが適切に評価、循環利用される環境を整備することを通じ、生涯にわたって豊かで安定した住生活の確保を図るとともに、高齢者が保有する住宅の資産価値を高め、高齢期の経済的自立に資するとともに、その資産の次世代への適切な継承を図る。
地域における多世代間の理解や助け合いを行える地域コミュニティづくりを推進する。地域公共交通ネットワークを再構築するとともに、福祉・医療等の生活機能や人々の居住をまちなかや公共交通沿線に立地誘導し、徒歩や公共交通で移動しやすい環境を実現するため、コンパクト・プラス・ネットワークを推進する。また、快適な都市環境の形成のために水と緑の創出等を図るとともに、活力ある農山漁村の再生のため、高齢化の状況や社会的・経済的特性に配慮しつつ、生活環境の整備等を推進する。
高齢者を含む全ての世代の人が安全・安心に生活し、社会参加できるよう、住宅等から交通機関、まちなかまでハード・ソフト両面にわたり連続したバリアフリー環境の整備を推進する。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催も視野に取組を進める。
関係機関の効果的な連携の下に、地域住民の協力を得て、災害から高齢者を守るとともに、高齢者が交通事故や犯罪の当事者となることを防止し、高齢者が安全に生活できる環境の形成を図る。また、成年後見制度が一層利用されるように環境整備を図る。
(1)豊かで安定した住生活の確保
ア 次世代へ継承可能な良質な住宅の供給促進
高齢者等全ての人にとって安全・安心で豊かな住生活を支える生活環境の構築に向け、住宅の安全性、耐久性、快適性、エネルギーの使用の効率性その他の住宅の品質又は性能の維持及び向上により、良質な住宅ストックの形成を図る。また、若年期からの持家の計画的な取得への支援等を引き続き推進する。
イ 循環型の住宅市場の実現
良質な既存住宅の資産価値が適正に評価され、その流通が円滑に行われるとともに、国民の居住ニーズと住宅ストックのミスマッチが解消される循環型の住宅市場の実現を目指し、建物状況調査・保証、住宅履歴情報の普及促進等を行うことで、既存住宅流通・リフォーム市場の環境整備を進める。
また、高齢者が有する比較的広い住宅を、子育て世帯等向けの賃貸住宅として活用するための住み替えを支援する。
ウ 高齢者の居住の安定確保
高齢者が、地域において安全・安心で快適な住生活を営むことができるよう、サービス付きの高齢者向け住宅の供給等により、住宅のバリアフリー化や見守り支援等のハード・ソフト両面の取組を促進する。また、民間事業者等との協働により、公的賃貸住宅団地等の改修・建替えに併せた福祉施設等の設置を促進する。
公的保証による民間金融機関のバックアップなどによりリバースモーゲージの普及を図り、高齢者の住み替え等の住生活関連資金を確保する。
さらに、一人暮らし高齢者が増加する中、高齢者が、その特性に応じて適切な住宅を確保できるよう、改正住宅セーフティネット法[7]に基づき、民間賃貸住宅等の空き室や空き家を活用した、高齢者等の住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の供給を促進する。加えて、民間賃貸住宅への円滑な入居を促進するため、地方公共団体、宅地建物取引業者、賃貸住宅管理業者、居住支援を行う団体等から構成される居住支援協議会について、市区町村による設置や都道府県の協議会への参画を促進するとともに、居住支援協議会や改正住宅セーフティネット法に基づく居住支援法人に対する支援を行い、住み慣れた地域の中で住み替えの見通しを得やすいような環境整備にも留意しつつ、民間賃貸住宅に関する情報の提供や必要な相談体制の整備等を図る。
(2)高齢社会に適したまちづくりの総合的推進
ア 多世代に配慮したまちづくり・地域づくりの総合的推進
高齢者等全ての人が安全・安心に生活し、社会参加できるよう、自宅から交通機関、まちなかまでハード・ソフト両面にわたり連続したバリアフリー環境の整備を推進するとともに、医療・福祉・商業等の生活サービス機能や居住の誘導・整備による都市のコンパクト化と公共交通網の再構築を始めとする周辺等の交通ネットワーク形成を行うことにより、高齢者や子育て世代にとって安心して暮らせる健康で快適な生活環境を実現する。
交通システムについては、超小型モビリティ等、先進技術等を活用し、高齢者や子育て世代等の住生活や移動を支援する機器等の開発導入を促進するとともに、新しい交通システムの普及に向けた取組を図る。
また、誰もが身近に自然に触れ合える快適な都市環境の形成を図るため、都市公園等の計画的な整備を行う。
さらに、中高年齢者が希望に応じて地方やまちなかに移り住み、多世代の地域住民と交流しながら、健康でアクティブな生活を送り、必要な医療・介護を受けられるような、「生涯活躍のまち」づくりを進める。こうした取組と併せ、地域における多世代間の理解や助け合いを行える地域コミュニティづくりを推進する。
イ 公共交通機関等の移動空間のバリアフリー化
高齢者や障害者等も含め、誰もが屋内外をストレス無く自由に活動できるユニバーサル社会の構築に向け、ICTを活用した歩行者移動支援の普及促進を図る。
駅等の旅客施設における段差解消等高齢者を含む全ての人の利用に配慮した施設・車両の整備の促進などにより公共交通機関のバリアフリー化を図る。
また、駅、官公庁施設、病院等を結ぶ道路や駅前広場等において、幅の広い歩道等の整備や歩道の段差・傾斜・勾配の改善、無電柱化等により歩行空間のユニバーサルデザインを推進する。
さらに、高齢者が安全・安心に外出できる交通社会の形成を図る観点から、限られた道路空間を有効活用する再構築の推進等により安全で安心な歩行空間が確保された人優先の道路交通環境整備の強化を図るとともに、高齢者が道路を安全に横断でき、また、安心して自動車を運転し外出できるよう、バリアフリー対応型の信号機や、見やすく分かりやすい道路標識等の整備を進める。
ウ 建築物・公共施設等のバリアフリー化
病院、劇場等の公共性の高い建築物のバリアフリー化の推進を図るとともに、窓口業務を行う官署が入居する官庁施設について、高齢者を始め全ての人が、安全・安心、円滑かつ快適に利用できる施設を目指した整備を推進する。
また、誰もが安全・安心に都市公園を利用できるよう、バリアフリー化を推進する。
エ 活力ある農山漁村の再生
活力ある農山漁村の再生を図るため、意欲ある多様な農林漁業者の育成・確保を推進することはもとより、高齢者が農林水産業等の生産活動、地域社会活動等で能力を十分に発揮できる条件を整備するとともに、高齢者が安心して快適に暮らせるよう、地域特性を踏まえた生活環境の整備を推進する。さらに、活力ある開かれた地域社会を形成する観点から、都市と農山漁村の交流等を推進する。
(3)交通安全の確保と犯罪、災害等からの保護
ア 交通安全の確保
高齢者に配慮した交通安全施設等の整備、参加・体験・実践型の交通安全教育の推進、認知機能検査及び高齢者講習の実施、運転適性相談の充実、運転免許証を返納した者の支援のための取組の促進、高齢者交通安全教育指導員(シルバーリーダー)の養成、各種の普及啓発活動の推進等により、高齢者への交通安全意識の普及徹底、高齢者の交通事故の防止を図る。
特に高齢運転者による交通事故防止については、「高齢運転者による交通事故防止対策について」(平成29年7月7日交通対策本部決定)に基づき、改正道路交通法[8]の円滑な施行、高齢者の移動手段の確保など社会全体で生活を支える体制の整備並びに運転免許制度の更なる見直しの検討、安全運転サポート車の普及啓発及び高速道路における逆走対策の一層の推進など高齢運転者の特性も踏まえた更なる対策を政府一体となって推進する。
生活道路において科学的データや地域の顕在化したニーズ等に基づき通過交通の排除や車両速度の抑制等の対策により高齢者等が安心して通行できる道路空間の確保を図る生活道路対策を、国、地方公共団体、地域住民等の連携により推進する。
さらに、自転車道や自転車専用通行帯、自転車の通行位置を示した道路等の自転車走行空間ネットワークの整備により、自転車利用環境の総合的な整備を推進するとともに、踏切道の歩行者対策では、「踏切安全通行カルテ」により踏切道の現状を「見える化」しつつ、踏切道改良促進法[9]に基づき、高齢者等の通行の安全対策を推進する。
イ 犯罪、人権侵害、悪質商法等からの保護
振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺等の高齢者が被害に遭いやすい犯罪、認知症等によるはいかいに伴う危険、悪質商法等から高齢者を保護するため、各種施策を推進する。
また、改正消費者安全法[10]に基づき、高齢消費者等への見守り活動を行うため、消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)の設置を推進するとともに、身近な消費生活相談窓口につながる共通の3桁電話番号「消費者ホットライン188」の周知を進め、利用促進を図る。
さらに、要介護等の高齢者に対する家庭や施設における虐待等の人権侵害については、高齢者の人権に関する啓発、人権相談及び人権侵犯事件の調査・処理を通じ、その予防及び被害の救済に努める。
ウ 防災施策の推進
災害においては、高齢者など要配慮者が被害を受けやすいことを踏まえ、避難行動要支援者名簿に関する取組を促進する等、防災施策の推進を図る。
(4)成年後見制度の利用促進
成年被後見人等の財産管理のみならず意思決定支援・身上保護も重視した適切な支援につながるよう、「成年後見制度利用促進基本計画」(平成29年3月24日閣議決定)に沿って、成年後見制度の利用促進に関する施策を総合的・計画的に推進する。特に全国どの地域においても必要な人が成年後見制度を利用できるよう、判断能力が不十分な高齢者等の権利を擁護する制度であることの周知を図るとともに、各地域において、権利擁護支援の地域連携ネットワークの構築を段階的・計画的に図る。あわせて、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度(いわゆる欠格条項)について検討を加え、必要な見直しを行う。
[7] 住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律(平成29年法律第24号)
[8] 道路交通法の一部を改正する法律(平成27年法律第40号)
[9] 踏切道改良促進法(昭和36年法律第195号)
[10] 不当景品類及び不当表示防止法等の一部を改正する等の法律(平成26年法律第71号)