第1章 高齢化の状況(第3節 2(2))
第3節 前例のない高齢社会に向けた対策・取組の方向性
2 前例のない高齢社会を活力あり安心できるものにしていくための対策と取組の方向性
(2)高齢者の意欲と能力を職場で活用することで「世代を通じたワークライフバランス」を実現するための取組
高齢者の意欲をいかし、能力を活用していくことは、本格的な高齢社会を活力あるものとしていくためには必要不可欠であり、そのために取り組むべき最初の課題が高齢者の就労促進である。65歳までの継続雇用という法的な枠組みができて、その実効を高め、希望する人が全員65歳まで働ける社会を実現していくことは重要な取組である。さらに60代後半や70代でも就労意欲を持つ人は相当程度おり、こうした人たちの意欲を活用できる仕組みについても取り組んでいくことが求められる。
高齢者が意欲や能力に応じて働くことを可能としていくためには、労使双方が意識を変えて取組を進めていくことが求められる。
企業については、まず高齢者は意欲・体力が低下して戦力として使えないという先入観を変えていくことが求められる。一方で高齢者を一律に捉えるのではなく、意欲や体力、本人の希望を考慮して働き方のメニューを用意すれば高齢者は十分に戦力になる。就業形態、就業日数・時間など多様な働き方を可能にすることで高齢者の活用を図っている企業も多く見られるようになっている。こうした企業の取組は、今後の企業の社会的責任であるといえるが、それは高齢者のみならず若い世代も含めたモラールの向上や、円滑な技能の伝承を通じて企業の活力向上というメリットにもつながる。
労働者としても、若い時期から高齢期の就労が可能となるように準備に取り組むことが求められる。職業能力開発に努め、高齢期になっても必要とされる技能や知見を身につけることが重要である。さらに、高齢期においても自己啓発に継続的に取り組むことも求められる。そのことは再雇用に結び付かなくても、企業を離れても通用する能力を身につけることで再就職や創業に結び付けている例も見られるようになっている。また、高齢者の中には、従来の無償のボランティアとは異なるものの、経済的なメリットは多くは望まず、有償ボランティア・有償NPO活動のような形でむしろ生きがいを求めて就労する人の例も見られるようになっており、こうした多様な就労形態も高齢者の能力を活用していく上で重要となっている。
現在、様々な場面で労働者のワークライフバランスの実現が政策課題になっているが、それは高齢者にとっても考えるべき問題である。より多くの就業を希望する高齢者にとっての「ワークライフバランスの実現」は、むしろより「ワーク」に向けられる時間を増やす方向で取り組まれる必要があり、そのためには、労使双方の意識を変えていくことが重要である。若い世代、子育て世代の中で長時間労働に苦しんでいる者たちの「ワーク」をより多くの就業を希望する高齢者が分担していくことができれば、若い世代・子育て世代と高齢世代の相互でワークライフバランスを実現することも可能になり、「世代を通じたワークライフバランス」を実現することにつながる。
【事例集:(勤務形態を工夫するなどにより高齢者の意欲や経験を活用している企業の事例)、(高齢者が意欲をいかして自ら創業している事例)、(高齢者がいきがいのために就労し社会に貢献している事例)を参照】