第1章 高齢化の状況(第1節 事例集)

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自動車学校のスクールバスが無償で高齢者の移動手段として利用されている事例(愛知県豊田市)

愛知県豊田市は公共交通の未発達な地域が多く、市民意識調査の結果において「公共交通の便が悪い」との声が大きかった。

そこで、豊田市は市内にある自動車学校が生徒のために運行しているスクールバスに着目した。スクールバスの運行路線は市内を広くカバーしており、限られた繁忙期意外は空席がある状態であることに着目し、高齢者や障害者にもスクールバスを利用させてもらえないかと自動車学校への協力を依頼した。

当初、市はある程度の金銭的な補助を行う予定で検討を行ってきた。しかし、道路運送法の「自家用自動車による有償運送禁止の規定」をクリアすることが難しく、一旦は実施不可能と考えられたが、学校側から「社会貢献として無償で実施し実現しよう」との申し出があり、事業を開始することができた。

この事業は、平成14年以降、市内にあるトヨタ中央自動車学校と豊田自動車学校の協力を得て行われている。65歳以上の高齢者又は障害者手帳を持っている人で、一人で車両の乗り降りができる人を対象としている。市からパスカードが交付され、平日の昼間にスクールバスの路線上、もしくはあらかじめ設定された乗車位置で手を上げて合図して乗車し、路線内を自由に降車できる。

現在、パスカードの交付者は1,259人で、平成19年にはのべ6,892人が利用している。

市は、利用者の身体状態等を確認し、パスカードを交付するほか、利用方法の説明や利用者からの問い合わせなど利用者への対応に関して、自動車学校へ負担がかからないように配慮をしている。

また、自動車学校は、生徒に対して本サービスの周知を図るほか、運転手に対しても、高齢者や障害者を乗車させるにあたって、「せかさない」「大きな声で対応すること」など特に配慮をするように周知している。無償で協力をしているということもあり、自動車学校に負担がかかっているのではないかと思われるが、市との連携により利用者からの問い合わせなどが直接学校にくることもほとんどなく、事業をやることについての追加的な負担はないという。強いて言えば、利用者がスクールバスの運転手にお礼を言うあまり、「スクールバスをなかなか発車させられなかったこと」くらいだそうだ。

利用者と運転手が顔なじみになるということも多く、スクールバスの車内にバッグが忘れられていても、誰のものかすぐに分かったということもあった。また、事業が開始されてから5年が経過しているが、その間には利用者の身体状態等の変化に、スクールバスの運転手が気付き、市に報告した例もあったという。

利用者からは「以前は自分で車を運転していたが、家族から危ない。と言われ、運転するのを止めたが、スクールバスを利用することができるようになって、毎日のように外出ができるようになった。」「スクールバスの運転手さんとは顔なじみ。ほかの利用者とも話をするようになって、友達が増えた。スクールバスの生徒さんに教習の状況を聞いたり、話をするのが楽しみ。」との声があがっている。

当初、この事業は高齢者や障害者であっても自由に社会参加できるまちづくりを行うことを目的としていたが、その目的を達成するだけでなく、利用者にとってはスクールバスを通してのコミュニケーションの場を提供するという副産物をも生み出しているようだ。

自動車学校のスクールバス1

豊田市提供

自動車学校のスクールバス2

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