第2章 高齢社会対策の実施の状況(第3節2(5))

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第3節 分野別の施策の実施の状況

2 健康・福祉

(5)高齢者医療制度の改革

ア 後期高齢者医療制度の廃止と新たな制度の検討

後期高齢者医療制度については、制度に対する国民の御意見等を踏まえ廃止することとし、廃止後の新たな制度の具体的なあり方を検討するため、平成21年11月に、厚生労働大臣の主宰により、関係団体の代表、高齢者の代表、学識経験者からなる「高齢者医療制度改革会議」が開催された。同会議においては、検討に当たっての基本的な考え方として、「後期高齢者医療制度の年齢で区分するという問題を解消する制度とする」、「高齢者の保険料が急に増加したり、不公平なものにならないようにする」、「市町村国保の広域化につながる見直しを行う」等の6原則が示され、この原則に基づき検討が進められている。

イ 現行制度の問題点の解消等

後期高齢者医療制度を廃止するまでの間、制度本体の見直しに先行して、現行制度の様々な問題点は速やかに解消を図ることとしている。具体的には、<1>資格証明書(保険料を特別の事情がなく1年以上滞納した場合に被保険者証の代わりに交付され、医療機関の窓口で一旦、医療費の全額を支払い、後日、申請により窓口負担を引いた医療費が還付される仕組み)は原則として交付しないこととする、<2>健康診査について、現行制度への移行に伴い受診率が低下していることから、各広域連合において受診率向上計画を策定し着実な取組を進める、<3>人間ドックについて、現行制度への移行に伴い実施市町村数が減少していることから、国からの費用助成を拡充し、再開を要請する、<4>75歳以上という年齢に着目した診療報酬は廃止するなどの取組を進めている。
また、高齢者の方々に混乱や不安を生じさせないよう、現行の負担軽減措置については継続することとし、<1>70歳から74歳までの方の窓口負担を1割に軽減する措置や、<2>所得の低い方及び被用者保険の被扶養者であった方の保険料を軽減する措置を継続するための費用として、平成21年度第二次補正予算に約2,900億円を計上した。
さらに、後期高齢者医療制度の財政運営期間は2年間とされていることから、平成22年度は保険料の改定年であるが、22年度及び23年度の保険料については、何ら措置を講じない場合、高齢化の進行等により大幅な上昇が見込まれていた。このため、各広域連合及び都道府県に対して、<1>広域連合の20年度及び21年度の財政収支上の剰余金を充当することに加え、<2>都道府県に設置されている財政安定化基金を取り崩すとともに、<3>特に保険料の増加率が高い都道府県に対しては、基金を積み増して取り崩すことにより、保険料の上昇を抑制するよう要請し、厚生労働省においても、基金を取り崩すことを可能とするための改正法案を22年通常国会に提出した。この結果、被保険者一人当たりの保険料の増加率は全国平均で約2.1%となり、大幅な増加抑制が図られたところである。

ウ 特定健診・特定保健指導

特定健診・特定保健指導は、医療保険者を実施主体として健診後のフォローアップを充実させること、また結果として医療費の伸びの適正化にも資するとの趣旨で平成20年度から実施されているが、制度初年度である20年度の実施率は伸び悩んだ。要因として、初年度ということもあり、<1>制度への理解が深まっていなかったこと、<2>契約の締結の遅れにより健診の開始時期が遅れたことなどが考えられる。
平成21年度においては、契約の早期締結に向けた支援、様々な手法による制度の周知徹底を進め、引き続き、特定健診・特定保健指導の実施率の向上に努めた。

エ 老人医療費の動向

医療費の動向に着目すると、平成19年度の老人医療費は、約11兆2,753億円であり、国民医療費に占める割合は33.0%となっているが、近年の傾向としては、我が国の国民医療費は国民所得の伸びを上回る伸びを示してきている。今後、急速な高齢化の進展に伴い、一人当たり医療費の高い高齢者が増えていくことにより、医療費の増大は避けられないと考えられる(図2-3-11)。

また、平成19年度の老人一人当たりの診療費は、若人と比較すると、4.8倍(入院7.4倍、外来3.9倍)となっており、その主な要因として、高齢者は、入院、外来とも受診率が高く(入院6.7倍、外来2.5倍)、一件当たり受診日数が多い(入院1.4倍、外来1.3倍)ことがあり、年間の一人当たりの受診回数(日数)は若人と比較して多くなっている(入院9.2倍、外来3.3倍)(図2-3-12)。

図2-3-12 老人医療費の特性

さらに、老人医療費の水準をみると、一人当たり老人医療費は、最大と最小で約37万円(約1.5倍)の格差がある(図2-3-13)。

図2-3-13 一人当たり老人医療費の診療種別内訳(全国平均との差)~平成19年度~
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