第2章 高齢社会対策の実施の状況(第3節4(1))
第3節 分野別の施策の実施の状況
4 生活環境
「生活環境」分野については、高齢社会対策大綱において、次のような方針を示している。
住宅は生活の基盤となるものであることから、生涯生活設計に基づいて住宅を選択することが可能となる条件を整備し、生涯を通じて安定したゆとりある住生活の確保を図る。そのため、居住水準の向上を図り、住宅市場の環境整備等を推進するとともに、親との同居、隣居等の多様な居住形態への対応を図る。また、高齢期における身体機能の低下に対応し自立や介護に配慮した住宅及び高齢者の入居を拒否しない住宅の普及促進を図るとともに、福祉施策との連携により生活支援機能を備えた住宅の供給を推進する。
高齢者等すべての人が安全・安心に生活し、社会参加できるよう、自宅から交通機関、まちなかまでハード・ソフト両面にわたり連続したバリアフリー環境の整備を推進する。
また、関係機関の効果的な連携の下に、地域住民の協力を得て、交通事故、犯罪、災害等から高齢者を守り、特に一人暮らしや障害を持つ高齢者が安全にかつ安心して生活できる環境の形成を図る。
さらに、快適な都市環境の形成のために水と緑の創出等を図るとともに、活力ある農山漁村の形成のため、高齢化の状況や社会的・経済的特性に配慮しつつ、生活環境の整備等を推進する。
(1)安定したゆとりある住生活の確保
本格的な少子高齢社会、人口減少社会を迎え、現在及び将来における国民の豊かな住生活を実現するため、平成18年6月に「住生活基本法」(平成18年法律第61号)が制定された。
「住生活基本法」においては、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策の推進に関して、4つの基本的理念(〔1〕現在及び将来の住生活の基盤となる住宅の供給等、〔2〕住民が誇りと愛着を持つことのできる良好な居住環境の形成、〔3〕民間活力、既存ストックを活用する市場の整備と消費者利益の擁護、〔4〕低額所得者、高齢者、子育て家庭等の居住の安定の確保)を定めるとともに、基本理念の実現に向けた各主体の責務、基本的な施策等を定めており、同年9月には、同法に掲げられた基本理念や基本的施策を具体化し、推進するための基本的な計画として「住生活基本計画(全国計画)」を閣議決定した(表2-3-20)。
ア 良質な住宅の供給促進
(ア)持家の計画的な取得・改善努力への援助等の推進
良質な持家の取得・改善を促進するため、勤労者財産形成住宅貯蓄、独立行政法人住宅金融支援機構の証券化支援事業及び勤労者財産形成持家融資を行っている。また、住宅ローン減税制度について、適用期限を5年延長するとともに、最大控除可能額の過去最高水準までの引き上げや、個人住民税からの控除制度を導入した。さらに、認定長期優良住宅を新築等した場合の所得税額からの控除制度を創設した。
(イ)良質な民間賃貸住宅の供給促進
高齢者世帯の増加に対応するため、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(平成13年法律第26号。以下「高齢者住まい法」という。)に基づき、高齢者向けのバリアフリー化された優良な賃貸住宅の供給の促進を図ることとしている。このため、地域優良賃貸住宅制度により、整備費の助成、地方公共団体による家賃減額に対する支援を実施している。また、住宅金融支援機構において高齢者世帯向け優良賃貸住宅融資を実施している。
(ウ)公共賃貸住宅の適切な供給
地域における多様な需要に応じた公共賃貸住宅の供給を促進するため、以下の通り公営住宅、都市再生機構賃貸住宅、公社賃貸住宅等それぞれの目的に応じた住宅の供給に努めている。
公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対して良質な賃貸住宅の供給を行うことを目的に整備が行われており、平成19年度末のストックは約218万戸となっている。
都市再生機構賃貸住宅は、大都市地域等においてファミリー向け賃貸住宅を中心に供給されており、平成20年度末の管理戸数は約76万戸となっている。
公社賃貸住宅は、地方住宅供給公社により、地域の賃貸住宅の需要状況に応じ、住宅金融支援機構融資や地方公共団体融資等の資金を活用して供給されており、平成20年度末の管理戸数は約15万戸となっている。
また、既設公営住宅及び既設都市再生機構賃貸住宅について高齢者の生活特性に配慮した設備・仕様の改善を推進するとともに、特に老朽化した公共賃貸住宅については、居住水準の向上を図るため、建て替え・改善を計画的に推進している。
(エ)住宅市場の環境整備
ライフステージに応じた住み替えや買い換えを通じて既存住宅ストックを有効に活用し得るような市場を整備するため、既存住宅流通市場、住宅リフォーム市場等の環境整備に向けた施策を展開している。
また、訪問販売等による住宅リフォーム工事契約に伴う被害が発生し、社会問題になっている状況を踏まえ、消費者が安心してリフォームや耐震改修ができるよう、全国の都道府県・市町村で約1,500箇所のリフォーム相談窓口を設置している。
さらに、「明日の安心と成長のための緊急経済対策」(平成21年12月閣議決定)で創設された住宅版エコポイント制度において、エコリフォームと併せて行うバリアフリーリフォームについてポイント発行対象とし、住宅の省エネ化と併せて、住宅のバリアフリー化を促進している。
イ 多様な居住形態への対応
(ア)持家における同居等のニーズへの対応
高齢者の多様な居住形態に対応した住宅供給を促進していく必要があるため、住宅金融支援機構において、親族居住用住宅を証券化支援事業の対象としているとともに、親子が債務を継承して返済する親子リレー返済(承継償還制度)を実施している。
(イ)高齢者の民間賃貸住宅への入居の円滑化
民間賃貸住宅においては、家賃滞納等への不安から高齢者の入居が敬遠される事例が見られることから、高齢者住まい法に基づき、高齢者の入居を拒まない賃貸住宅の登録・閲覧や、高齢者居住支援センターにおいて登録された賃貸住宅(登録住宅)に入居する高齢者世帯の家賃に係る債務保証を行うことにより、高齢者の居住の安定確保を図っている。なお、当該家賃債務保証制度においては、家賃債務に加え、原状回復や訴訟に要する費用についても保証の対象にしている。
また、地方公共団体、NPO、社会福祉法人、関係団体等が連携して、高齢者等に対する居住支援等を行うあんしん賃貸支援事業により、上記制度と併せ、高齢者等の入居の円滑化と安心できる賃貸借関係の構築の支援に取り組んでいる。
(ウ)高齢者のニーズに対応した公共賃貸住宅の供給
公営住宅においては、高齢者世帯を優先入居の対象とする老人世帯向公営住宅を供給している。また、60歳以上の者については単身入居を認めるとともに、高齢者世帯の入居収入基準を地方公共団体の裁量で一定額まで引き上げることを可能にしている。
都市再生機構賃貸住宅においては、高齢者同居世帯等に対して、新規賃貸住宅募集時の当選倍率優遇、既存賃貸住宅募集時の優先申込期間の設定を行うとともに、1階又はエレベーター停止階への住宅変更を認めるなどの措置を行っている(表2-3-21)。
年度 | 老人世帯向 公営住宅建設戸数 |
地域優良賃貸住宅 (高齢者型)管理開始戸数 |
都市再生機構賃貸住宅の優遇措置戸数 | 住宅金融支援機構の 割増貸付け戸数 |
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賃貸 | 分譲 | 計 | ||||
平成10年度 | 2,057 | 305 | 3,143 | 571 | 3,714 | 34,832 |
11 | 2,333 | 3,974 | 4,349 (946) |
531 | 4,880 | 11,831 |
12 | 1,476 | 65 | 8,265 (2,317) |
212 | 8,477 | 4,951 |
13 | 1,216 | 5,392 | 10,344 (4,963) |
123 | 10,467 | 2,822 |
14 | 1,203 | 4,751 | 8,959 (4,117) |
149 | 9,108 | 1,115 |
15 | 627 | 4,204 | 7,574 (3,524) |
45 | 7,619 | 558 |
16 | 724 | 4,380 | 5,510 (3,353) |
0 | 5,510 | 244 |
17 | 1,333 | 4,355 | 2,944 (1,662) |
0 | 2,944 | 60 |
18 | 859 | 3,359 | 2,957 (1,294) |
0 | 2,957 | 18 |
19 | 525 | 3,117 | 1,529 (843) |
0 | 1,529 | 0 |
20 | 374 | 2,984 | 1,221 (684) |
0 | 1,221 | 0 |
資料:国土交通省 | ||||||
(注1)平成17~20年度の老人世帯向公営住宅建設戸数については実績見込みである。 | ||||||
(注2)地域優良賃貸住宅(高齢者型)管理開始戸数は高齢者向け優良賃貸住宅の管理開始戸数を含む。 | ||||||
(注3)都市再生機構賃貸住宅の優遇措置戸数には、障害者及び障害者を含む世帯に対する優遇措置戸数を含む(空家募集分を含む)。 | ||||||
(注4)優遇措置の内容としては、当選率を一般の20倍としている。(平成20年8月までは10倍) | ||||||
(注5)( )内は高齢者向け優良賃貸住宅戸数であり内数である。 | ||||||
(注6)住宅金融支援機構の割増(平成10年に制度改正)貸付け戸数は、マイホーム新築における高齢者同居世帯に対する割増貸付け戸数である。 この制度は平成17年度をもって廃止されたが、平成17年度中に申込みを受け付けた貸付け戸数を平成18年度以降に表示した。 |
(エ)高齢者の高齢期に適した住宅への住み替え支援
高齢者等の所有する戸建て住宅等を、広い住宅を必要とする子育て世帯等へ賃貸することを円滑化する高齢者等の住み替え支援制度により、高齢者の高齢期の生活に適した住宅への住み替えを支援している。
また、同制度を活用して住み替え先住宅を取得する費用について、住宅金融支援機構の証券化支援事業における民間住宅ローンの買取要件の緩和を行っている。
ウ 自立や介護に配慮した住宅の整備
(ア)高齢者の自立や介護に配慮した住宅の建設及び改造の促進
加齢等による身体機能の低下や障害が生じた場合にも、高齢者が安心して住み続けることができるよう、「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」(平成13年国土交通省告示第1301号)の普及など住宅のバリアフリー化の施策を積極的に展開している(表2-3-22)。
表2-3-22 高齢者が居住する住宅の設計に係る指針の概要
○ 趣旨 ○ 主な内容
・要配慮居住者のために個別に配慮した住宅の設計の進め方
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また、高齢者に配慮した住宅の供給促進を図るため、高齢者の生活を支援する施設が合築・併設された高齢者向け優良賃貸住宅の供給を促進している。
さらに、高齢者等が居住する家屋のバリアフリー改修工事を行った場合の所得税額からの控除制度を創設するとともに、バリアフリー改修税制の適用期限を5年延長した。
住宅金融支援機構においては、高齢者自らが行う住宅のバリアフリー改修について、高齢者向け返済特例制度を適用した融資を実施している。また、証券化支援事業の枠組みを活用した優良住宅取得支援制度により、バリアフリー性能等に優れた住宅に係る金利引下げを行っている。さらに、住宅融資保険制度を活用し、民間金融機関が提供する住宅改良等資金に係るリバースモーゲージの推進を支援している。
(イ)公共賃貸住宅
公共賃貸住宅においては、バリアフリー化を推進するため、新たに供給するすべての公営住宅、改良住宅(不良住宅密集地区の改良等による住宅)及び都市再生機構賃貸住宅について、段差の解消等の高齢化に対応した仕様を標準化している。
この際、公営住宅、改良住宅の整備においては、中層住宅におけるエレベーター設置等の高齢者向けの設計・設備によって増加する工事費について助成対象としている。都市再生機構賃貸住宅についても、中層住宅の供給においてはエレベーター設置を標準としている。
(ウ)住宅と福祉の施策の連携強化
高齢者住まい法の一部を改正し、当該法律を厚生労働省との共管法に改め、国土交通大臣と厚生労働大臣が共同して基本方針を策定した。また、この基本方針に基づき、都道府県において、高齢者の居住の安定の確保に関する計画を定めることを支援している。
加齢等による身体機能の低下や障害が生じた場合でも、可能な限り自立かつ安心して在宅生活を営めるようにするためには、住宅設備等のハード面での配慮に加えて、医療・福祉サービスといったソフト面からも生活の支援を行っていくことが重要である。このため、福祉施策との連携を図りつつ、高齢者向けの公共賃貸住宅の整備を積極的に推進している。
前述のバリアフリー化された公営住宅等の供給とともに、ライフサポートアドバイザーによる日常の生活相談、安否確認、緊急時における連絡等の生活支援サービスの提供を併せて行うシルバーハウジング・プロジェクトを実施している(平成20年度末現在、858団地(22,985戸))。あわせて、民間の土地所有者等が供給する高齢者向け優良賃貸住宅や高齢者専用賃貸住宅等についても、生活援助員の派遣に対し支援を行っている(図2-3-23)。
また、一定の要件を満たし都道府県知事に届け出た高齢者専用賃貸住宅を介護保険法の特定施設として取り扱い、さらに一定の人員基準等を満たした場合には特定施設入居者生活介護の指定を受けられることとして、住宅と福祉の施策の連携を図っている。