コラム5 地域包括ケアシステムの推進について
高齢者を対象とした調査によると、60歳以上のおよそ3人に2人は医療や介護が必要になっても自宅で過ごしたいと考えているが(第1章第2節 図1-2-6-2参照)、高齢者が住み慣れた地域で尊厳を持って安心して生活できるようにするためには、いざという時に医療や介護が受けられる環境を整備して安心感を醸成する必要がある。このため、現在、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスを日常生活圏域内において有機的かつ一体的に提供する「地域包括ケアシステム」が推進されている。
ここでは、新潟県長岡市及び千葉県柏市の事例を紹介する。
(新潟県長岡市)
新潟県長岡市では、「高齢者総合ケアセンターこぶし園」が市内で医療施設や介護施設を運営するとともに、市内12か所にサポートセンターを設け、在宅の高齢者に対して24時間体制で施設と同様のサービス(ホームヘルプサービス、配食サービス、ショートステイ等)を提供している。こぶし園では、サポートセンターを運営する中で地域交流を重視しており、カフェテラス(地域交流スペース)やキッズルーム(児童の遊び場)を設けているサポートセンターもある。また、「サポートセンターしなの(健康の駅 ながおか)」には、市から委託を受けた露天風呂付きの入浴施設やトレーニングルーム、診療所も併設されており、地域に住む一般の方の利用も可能となっている。入浴施設は、子ども料金を設けて若い世代の利用を促進しており、地域の健康・活力の拠点としての役割も担っている。また、震災などの災害時には施設の職員だけではなく地域の住民の協力が必須であるとの認識から、地域の住民の参加も得て防災訓練を行うなど、地域との連携強化に努めている。
(千葉県柏市 豊四季台団地)
千葉県柏市の豊四季台団地では、住民6,000人のうち65歳以上の高齢者が約4割を占めており、団地の建て替えを機に、平成21(2009)年に柏市、東京大学高齢社会総合研究機構及び都市再生機構の三者で柏市豊四季台地域高齢社会総合研究会を立ち上げ、「地域包括ケアシステム」の検討・実践を進めている。具体的には、主治医の訪問診療を補完する診療所の確保、病院の短期受入れベッドの確保、24時間対応できる訪問看護・介護の充実と多職種の連携等により在宅医療を推進することや、医療・介護を一体的に提供するサービス付き高齢者向け住宅の整備に向けて取り組んでいる。また、高齢者が生きがいを持って働くことができるようにするため、農業、生活支援、育児、地域の食という4分野で、高齢者の経験や能力を地域課題の解決に生かすための様々な事業を23(2011)年から段階的に実施している。今後、我が国では、都市部の高齢化が進行する見通しであり、柏市における試みは、超高齢・長寿社会に対応した街づくりの参考になるだろう。