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コラム6 アメリカにおける高齢者コミュニティ

平成22(2010)年度に内閣府が60歳以上の人に対して実施した、「第7回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」によると、現在、住んでいる住宅への入居時期は、日本は2000年以降(現住地に居住して10年未満)の人は17.0%であり、1970年代以前に入居した(現住地に30年以上居住している)人が52.1%と半数以上であった。これに対しアメリカでは、2000年以降に入居した人は、35.0%で日本の2倍以上、1970年代以前に入居した人は28.4%で日本の約半分であり、シニアになってからライフスタイルに合わせて転居することが日本に比べて多い。ここでは、そうしたアメリカにおける高齢者の転居先となっている高齢者コミュニティについて紹介する。

アメリカでは、日本のように一生同じ家に住み、子どもが家を受け継ぐという習慣はなく、子どもが学校を卒業し親元から離れて生活を始めると、大きな家では維持する手間や費用がかかるため、夫婦で小さな家に住み替えていく習慣がある。

アメリカには、リタイアメント・コミュニティと呼ばれるゴルフ場を中核として住居に加え、娯楽、医療等が整備されたアクティブシニアのための街が2,000以上存在している。その名が示すように、退職された方を居住者とする街で、多くは55歳以上を居住の条件としている。退職後ゴルフ場を持った住宅地に住むことは、アメリカの人達の夢とも言われており、アメリカのリタイアメント・コミュニティの最大の特徴になっている。

しかし、このリタイアメント・コミュニティには世代の偏りによる「世代間交流の不在」、快適な環境のもとでの「知的刺激の不在」という課題もあった。その課題を解決したのが大学連携型コミュニティである。このコミュニティは大学の敷地内や近隣に設置されており、居住するシニアは生涯学習講座で学び、再びキャンパスライフを体験することができるようになっている。

例えば、マサチューセッツ州のラッセル・ビレッジでは、入居条件として年間450時間以上の講座を受講することとなっていたり、他の大学ではシニアが講師になる講座もあり、元弁護士や元投資銀行家、元エンジニアが学生のキャリア・アドバイザーになっている。そして、シニア自身も学んだり教えたりすることで「何かに打ち込んでいる」、「誰かの役に立っている」という実感を得ることができるようになっている。シニアが講師になる例として、フロリダ州にあるエッカート大学では、社会の様々な分野で豊かな人生経験を積んだ高齢者専門集団が講師陣となって、若い学生達に様々の知恵や経験を教えている。最大の特徴は、高齢者が受け身で学ぶのではなく、実世界で体験し身につけた知恵を積極的に若者達に教えている点にある。

このような形態の高齢者コミュニティは、高齢化が今後も進展する日本にとって、参考となる事例の一つであろう。


*アメリカに関する記述は以下の資料を参考にした。
「海外に学ぶアクティブシニアのライフスタイル」(三菱総合研究所 松田智生)2011年10月
「人口減少国ニッポンの処方箋」(未来工学研究所 和田雄志)2007年10月
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