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コラム4 70歳現役応援センター

平成24年に約10年ぶりに見直しがなされた高齢社会対策大綱では、「高齢者の意欲と能力の活用」を基本的考え方の一つに掲げ、意欲と能力のある高齢者の活躍したいという意欲を活かし、年齢にかかわりなく働くことができる社会を目指すために、多様なニーズに応じた柔軟な働き方が可能となる環境整備を図ることとされている。

ここでは、「70歳現役社会」の実現に向け、福岡県が行っている取組について紹介する。

福岡県では、「65歳からは高齢者」という意識を改め、年齢にかかわりなく、それぞれの意思と能力に応じて様々な形で活躍し続けることができる「70歳現役社会」の実現に向け、平成24年4月に総合的な支援拠点として「70歳現役応援センター」を開設した。「70歳現役応援センター」は、再就職のみならず、NPO・ボランティア活動など広範な選択肢を提供している点が特徴である。具体的には現在、1,459人がセンターに登録をしており、316人が就職、13人が社会参加の場を得た。

センターには、相談員が2名、コーディネータが2名在籍し、協力・連携をしながら、相談者のニーズに応えていく。相談員が、一人ひとりに応じたアドバイスやカウンセリングを行い、再就職、派遣、起業、NPOボランティ活動など多様な選択肢の中から、相談者とともに今後の進路を設定する。「何かやりたい」という漠然とした高齢者の思いをワンストップ窓口で受け付け、相談員と話していく中で、社会参加がよいのか、就業がよいのか、それぞれの思いを丁寧に聞いていくことで、高齢者の"漠然とした思い"を具現化していく。そして、その進路に応じた各種セミナーや技能講習の情報、NPO・ボランティア団体の活動情報などの提供や支援機関の紹介、また、就業を希望する人にはコーディネータが職業紹介を行っている。コーディネータは、相談者のニーズと、求人企業とのニーズを文字どおり1件1件「コーディネート」しており、就業する日数や曜日、就業時間といった就業形態の調整のみならず、実際に紹介するに先立ち、企業と高齢者の「人柄」のすり合わせをも行っている。6月に、同センターに求人を出した水道設備工事業の代表は「求人にあたっては、これまで社内で築いてきた社員の輪を乱すことのない人を紹介してほしい」とコーディネータに伝えた。新しく採用した人がこれまでの経験を無理やり適用しようとして、それまでうまくいっていた社内の空気を乱すようなことは困るとの思いからであった。一方で、これまでの経験を活かした「即戦力」を期待して、求人を行う企業もあり、企業内において期待される高齢者の役割は様々である。コーディネータは企業の要望を事前に紹介者に伝えることにより、ミスマッチを回避するよう最大限努めている。企業側としては、コーディネータを仲介することで、履歴書からだけでは分からない応募者の健康状態や人柄などについての情報を得ることができるとともに、企業が求める人材を採用することができる可能性が高まる。こうしたやりとりの蓄積がコーディネータとの信頼関係の構築につながり、人材を追加的に募集したり、他の企業へセンターの取組を紹介するといった「口コミ」でも雇用機会の新規開拓が広がっている。

69歳の女性は、12月よりセンターに紹介された地元の大学病院にある病院入院患者向け図書貸出のボランティアに参加している。女性は、就業の経験がなく、家に一人でいる時間が長く気持ちがふさぎがちであったところ、夫の勧めもあり、センターを訪れた。センターで紹介されたボランティアに参加するようになり、気持ちが明るくなったという。その変化は、近所の人に「最近元気だけど何かあったの。」と言われるほど。

「70歳現役応援センター」は博多駅そばの交通に便利な場所に位置しているが、開所以来、県内各地で出張相談を実施しており、登録者数は順調に増加している。同センターは、相談員やコーディネータをはじめとするセンター職員のきめ細やかな対応がセンターの最大の「売り」であると言えるだろう。平成25年度からは、より利用者の利便性を向上させるための体制づくりにも取り組む。政令市中、最も高齢化率の高い北九州市にオフィスを設置するほか、久留米市や飯塚市にも出張相談窓口を開設する。

現在、60~64歳の就業率は57.7%(※)であるが、高齢社会対策大綱においては、平成32年には63%まで引き上げることが数値目標として掲げられている。しかし、65歳以上の者を年齢で区切りに一律に支えが必要であるとする従来の固定観念が、多様な存在である高齢者の意欲や能力を活かす上での阻害要因となっている点や、これまで持っていた能力と新たに求められる能力とがミスマッチしているなど、高齢者の意欲や能力を活かす上での課題もある。

福岡県の取組は内外メディアの注目を集めており、他県のみならず、韓国からも視察が相次いでいる。こうしたスキームは全国的にも先進的な事例であるといえ、さらには今後、高齢社会となる世界各国における先進的なモデルともなりえるのであろう。

連日、たくさんの高齢者で賑わう応援センター
専門相談員が高齢者一人ひとりの希望にあった進路を提案・仲介する

(※)総務省「労働力調査」平成24年平均速報値
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