第2章 第3節 5 (2)超高齢社会に対応するための調査研究等の推進と基盤整備
第3節 分野別の施策の実施の状況
5 高齢社会に対応した市場の活性化と調査研究推進のための基本的施策
(2)超高齢社会に対応するための調査研究等の推進と基盤整備
ア 医療イノベーションの推進
医療イノベーションを関係府省が一体となって推進するため、平成24年6月6日、医療イノベーション会議は、「医療イノベーション5か年戦略」を決定し、その内容は、同年7月31日に閣議決定した「日本再生戦略」に盛り込まれた。
イ 高齢者に特有の疾病及び健康増進に関する調査研究等
高齢者の介護予防や健康保持等に向けた取組を一層推進するため、要介護状態になる大きな要因である認知症、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)等に着目し、それらの予防、早期診断及び治療技術等の確立に向けた研究を行った。
微小ながんを超早期に発見し、がんの特性を正確に把握するための画像診断システム等や、微小ながんを追跡しながらピンポイントで治療する次世代放射線治療機器等の研究開発を行う「がん超早期診断・治療機器総合研究開発プロジェクト」、生体内において幹細胞の増殖・分化・再生を促進する次世代再生医療技術や、小柄な体格にも適用可能な小型の埋込み型補助人工心臓の研究開発を行う「次世代機能代替技術研究開発事業」を推進している。また、中小企業等のものづくり技術を活かして、医療現場の課題・ニーズに応える医療機器の開発・改良を推進するため、①医療現場からのニーズが高く、課題解決に資する研究課題を選定し、②優れたものづくり技術(切削、精密加工、コーティング等)を有する中小企業等と、それらの課題を有する医療機関や研究機関等とが連携した「医工連携」による医療機器の開発・改良について、③臨床評価、実用化までの一貫した取組を実施している。
また、悪性新生物(がん)・生活習慣病等の疾患の早期診断・治療薬開発に資する分子イメージング技術の実証に向けた研究等を行うとともに、次世代のがん医療の実現に向けて、革新的な基礎研究の成果を厳選し、診断・治療薬の治験等に利用可能な化合物等の研究を推進している。さらに、こうした成果も活用しつつ、個人に最適な医療の実現に向けた取組を引き続き推進している。
また、アルツハイマー病等の認知症の疾患発症経路・病態の解明により、予防法・治療法や早期診断方法の開発に向けた研究基盤を整備した。
ウ 高齢者の自立・支援等のための医療・リハビリ・介護関連機器等に関する研究開発
高齢者等の自立や社会参加の促進及び介護者の負担の軽減を図るためには、高齢者等の特性を踏まえた福祉用具や医療機器等の研究開発を行う必要がある。
そのため、福祉用具及び医療機器については、福祉や医療に対するニーズの高い研究開発を効率的に実施するためのプロジェクトの推進、短期間で開発可能な福祉用具・医療機器の民間による開発の支援等を行った。
その研究開発の一つとして、高齢者の生活支援・社会参加拡大などに寄与するため、ヘルスケアや生活支援などの分野での活用を目指し、ネットワークを通じた情報収集や情況分析を行うことにより、きめ細やかな動作を実現するネットワークロボット技術の研究開発を実施するとともに、日常生活における行動・コミュニケーション支援において必要となる簡単な動作や方向、感情などを強く念じた際に生じる脳からの信号を利用し、移動支援機器やコミュニケーション支援機器などに伝えることを日常的に可能とする技術の研究開発を推進した。
また、「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」(平成5年法律第38号)に基づき、福祉用具の実用化開発を行う事業者に対する助成や、研究開発及び普及のために必要な情報の収集・分析及び提供を実施した。
介護者支援等で役立つ生活支援ロボットについては、人との接触度が高く、より一層の安全性が求められるため、関係者と連携しながら対人安全技術等の開発や対人安全性基準、安全検証手法の確立を進めるとともに、国際標準化に向けた取組を実施した(表2-3-19)。
○就労支援分野(就労、職業訓練など)
・上肢筋力が弱い人のための全方向駆動型モバイルアームサポート
オフィスチェアや電動車いすに取り付け、上肢の上下、前後左右方向の動きを支援するアームサポート。
・高齢者の振え(本態性振戦)を抑えるセミオーダー手首装具
個人の手の形状にフィットし、スパイラルデザインで、手首の動きを安定させる装具。
○自立支援分野(排泄、入浴、就寝・起床、移乗、移動など)
・エネルギー制御技術を利用した点字読取装置及び点字/文字プリンタ
サーマルヘッドによる点字読取、音声出力、点字/文字がプリントできる装置。
・車イス乗車用電動三輪車
車イスに乗ったまま、簡単なレバー操作で乗り降りでき、ステアリング・ブレーキ・スイッチ、走行中の風雨や飛来物から運転者を保護するルーフなどを装備した、スクーター感覚で運転できる電動三輪車。
・トイレットペーパーオートフィーダー
片麻痺や点滴を受けたりしていて片手が使えない状態にある人が、トイレットペーパーを片手一本で、容易に一人で切り取れるトイレットペーパーオートフィーダー。
・自立支援向けコミュニケーションロボット
音声認識による対話をもとにコミュニケーションをとることで高齢者や要介護者の自立を促し、QOL向上を図るとともに介護者の負担軽減が可能なコミュニケーションロボット。
・高齢者ロコモティブシンドローム予防用具
運動器障害により要介護になるリスクの高い状態であるロコモティブシンドロームを予防するため、高齢者を対象とした段階的圧迫着衣によるロコモティブシンドローム予防用具。
・被介護者の排泄時の自立支援用衣類
被介護者が自立して排泄行動が行えるように、尿取パッドが衣類および下着を脱がなくても取り出せる自立支援下着及び繰り返し利用が可能の尿取パッド。
○介護支援分野(排泄、入浴、予防、移動、監視など)
・介護する女性・高齢者にやさしい車イス用ブレーキ
指の力を使わず、腕の力で車イスのブレーキがかけられ、上り坂、小回り、段差も楽にこなせる。
・ALS患者のためのIT文字盤及び意志伝達装置
CCDカメラ+処理回路一体型タブレットPCのIT文字盤と連動する多機能意志伝達ソフトによる患者と介護者のコミュニケーション機器。
・介護作業軽労化スーツ
中腰姿勢などが多い介護現場で、介護労働に適した筋力補助を行うことができる着用感もよい作業スーツ。
・簡単な動作で乗り降りできる車イス型移乗器
利用者の体格や症状等に合わせ、各部の高さ・位置が調整ができ、多種のベッドやトイレ等より広い環境へも適用できる、ワンタッチ操作の移乗機器。
○生体機能代行(補助)分野(人工臓器、義手・義足など)
・視覚障害介護対象者の社会生活向上のためのスクラレルレンズ
スチーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡などの眼疾患者用視覚補助具としての特殊ハードレンズ。
・小型酸素発生装置
呼吸弱者に室内外場所を問わずいつでも酸素を補給できる軽量小型の酸素発生器。
・高透湿性・高緩衝性能を有するシリコーン複合化断端袋
義肢使用において断端肢へかかる剪断力を緩衝するために使用する高透湿性かつ高緩衝性能を有する断端袋。
○その他
・ロコトレ座イス
高齢者や障害者が容易に足腰のトレーニングが行え、ロコモティブシンドロームによる要介護者発生のリスク軽減が期待できる。
・ベッド部材等の高性能リフレッシュ装置
ベッドのマットレスの芯まで強力洗浄、すすぎ、乾燥ができ、マットレスの再生機能を付加したリフレッシュ装置。
また、ロボット技術による介護現場への貢献のため、平成24年11月12日に「ロボット技術の介護利用における重点分野」を策定するとともに重点分野のロボット介護機器の開発・実用化を行う企業等を支援するため「ロボット介護機器開発パートナーシップ」を組織し、各重点分野におけるロボット介護機器の今後の開発の方向性について議論を行った。
エ 情報通信の活用等に関する研究開発
高齢者等が情報通信の利便を享受できる情報バリアフリー環境の整備を図るため、高齢者等向けの通信・放送サービスに関する技術の研究開発を行う者に対する助成等を行っている。
また、最先端の情報通信技術等を用いて、運転者に対し、周辺の交通状況等をカーナビゲーション装置を通じ視覚・聴覚情報により提供することで危険要因に対する注意を促す安全運転支援システム(DSSS)やITSスポット等、高齢者等の安全快適な移動に資するITS(高度道路交通システム)の研究開発及びサービス展開を実施した。
また、最先端の情報通信技術(IT)を活用して、高齢者等の歩行の安全を確保するため、携帯端末を用いた情報提供、移動支援に関する研究開発等を実施している。
オ 高齢社会対策の総合的な推進のための政策研究
(ア)団塊の世代の意識に関する調査
平成24年度は、団塊の世代が65歳に達し始めるため、その世代を中心とした意識調査を通じて団塊の世代の特性を把握し、高齢者が高齢社会の担い手として活躍することを促進する方策を検討することを目的として、団塊の世代の意識に関する調査を実施した。
(イ)高齢社会対策総合調査・研究等
高齢社会対策総合調査として高齢社会対策の施策分野別にテーマを設定して高齢者の意識やその変化を把握している。平成24年度は、主として健康・福祉分野に関連して、高齢者の健康状態、いきがい、食生活、介護、医療に関する点など、高齢期において安定した生活を送るために重要と思われる諸項目を調査する「高齢者の健康に関する意識調査」を実施した。
また、高齢者等の安全・安心な生活の実現のために、独立行政法人科学技術振興機構が実施する戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)において、研究者と関与者との協働による社会実験を含んだ、高齢社会の問題解決に資する研究開発を推進した。