第1章 高齢化の状況(第2節 コラム2)
第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向(コラム2)
コラム2 ドイツにおける認知症の人への有償ボランティアのサービス
ドイツでは総人口8199万人中157万人が認知症患者と推計されている。認知症の人が地域の中でよりよく生きていくために、専門職および無償ボランティアによる支援に加えて専門職とボランティアの中間的なかたちである有償ボランティアも認知症の人の支援をしている。
ドイツの公的介護保険制度と有償ボランティア
ドイツにおける有償ボランティアの制度は、1994年の介護保険制度のスタート段階では導入されていなかったが、2002年の改定によって認知症の人に対して専門職以外による見守りも開始され、2008年の改定の際にそれが拡大されている。さらに、2017年からは介護施設で従来任意だった付き添い、活性化、人間的な交流などのサービスを介護の専門資格を持たない支援者によって行うことが義務化されることになり、有償ボランティアの重要性が増している。
有償ボランティア制度の概要
有償ボランティアの一つに「敷居の低い世話サービス」がある。ここでは、日常生活支援のみで身体介護は行わず、在宅訪問と施設などでサービスを提供する。
サービス実施団体はサービスプロバイダーや市民団体である。有償ボランティアはサービス実施団体から1時間当たり7.98ユーロの支払いを受けるが、最低賃金の時給8.50ユーロを下回っている。なお、ボランティア収入が年間2,400ユーロ以下の場合は非課税である。
一方、要介護者が支払う金額は、個人でサービスを受ける場合は1時間15ユーロで、専門職による公的介護保険サービスの場合(1時間33ユーロ)の約半分である。
有償ボランティア組織の代表へのインタビュー(カリタス連合会 敷居の低い世話サービス代表Lisa Conze氏)
私たちのサービスの対象者は認知症の人85名と障害者20名だ。有償ボランティアは70人で女性が多く男性は2人しかいない。ほとんどの方が年金生活者だ。
有給職員の役割は、サービス提供に必要なボランティアを集め、研修をして顧客とのマッチングをすることである。
ボランティア希望者は、30時間の研修と15時間の実習を受ける。その内容は、一つは障害、認知症の基礎知識とコミュニケーションだ。どのように障害者、または認知症の方たちと付き合うか、1人ひとりに何をしたらいいのか話をする。信頼を得るという意味でも、認知症の人に1日のリズムを作るという意味でも、定期的に同じ人が行くことが大切だ。
また、どこまでやるべきか、どこからは専門職に任せるべきかという境界線を教える。例えばトイレに付き添うというのはしてもいいが、シャワーをの介助は専門職に任せるべきである。また、家の中を片付けたいと思っても、それは仕事ではないということをはっきりさせる。
それから、守秘義務は重要だということを教える。これは非常に大切だ。定期的に訪ねるので家の事情が分かってしまう。一方で近所の人たちは何が起こっているか非常に興味深く思っている。
このサービスを受けたいという希望者が多く、断らないといけないこともある。できるだけ待たせないようにするために常にボランティアを探している。ボランティアは雇用契約ではないのでやりたくないと言われたら強制できない。長く世話をしていた人が亡くなると休みが必要なこともある。
顧客は専門職とボランティアのサービスのどちらを受けてもいいが、支払額が違ってくる。いま「介護困難」と言われていて介護士不足だ。そういう中で専門職を日常生活支援に投入することは難しい。
将来、無償ボランティアは難しくなっていくと思う。いまの無償ボランティアは、自分は社会から大きなものを得て、それを返そうという気持ちがある。しかしその余裕がない人はお金を少しは欲しいという気持ちになる。無償ボランティアには非常に信心深い人もいるがそのような人は少なくなっている。
有償ボランティアとサービス利用者へのインタビュー
(ボランティアA)
土曜日の10時から18時、知的障害のある女の子を車で迎えに行って自分の家に連れてきて世話をする。彼女は料理好きで一緒に料理をしたり、アイスを食べに外出したり、遊園地に行ったりする。私の家の庭いじりの手伝いをしてもらったり、マニキュアをしたいと言うのでさせてあげたりもする。
それから、週に1回1時間半85歳の男性の世話もする。その人の家で昔を思い出すような話をする。もう1人、奥さんがブリッジに通うのでそのあいだ週に2回2時間ずつ92歳の認知症の男性の世話もしている。よくカフェに行くが、その家の素敵なテラスで過ごすこともある。また庭の植物の世話をして奥さんに喜ばれた。活動は、相手の希望を聞き出してプランを作る。
私はすこし歩行が難しいので自分の車が必要だが年金は少ない。ガソリン代などの車の費用が必要だ。時間があり過ぎて時間を投資したいとも思う。いいことをしていると思う満足感もあるし、仕事ではないので本当に自主的な気持ちでできる。
(ボランティアB)
2年前まで23年間病院で看護助手をしていた。週に4時間の活動で認知症のお年寄りの男性と女性のところに行っている。コーヒーを飲み、ゲームをしたり、新聞を読んだり、短い物語を読んだり、遠足に行ったりする。相手に合わせてその時にふさわしいプログラムを作る。私の年金の額も遺族年金も多くないのでとても助かる。今の額で十分だ。これ以上は要らない。今の仕事は気に入っている。
(サービス利用者の家族)
父が介護保険の認定を受けた時に、私も妻も仕事をしているので助けを得たいと思った。実は敷居の低い世話サービスも専門職のサービスもよく分からず、意識して選んだわけではない。ただ、介護保険からもらえる介護費はとても安い。それを最大限に生かして何とかしたいという相談をして、このサービスを教えてもらった。ボランティアには非常に感謝している。
収入を考えると有償ボランティアよりも一般的な就労にメリットがあるが、フルタイムは長時間すぎる、パートであっても指示通りに仕事をこなすのはつらいという人にとっては有償ボランティアが好ましい働き方となる可能性がある。また、有償ボランティアは社会貢献をしているという充実感も得られる。さらに、有償ボランティアが日常生活支援の役割を担うことは、人材の数の限られた専門職が専門性を活かした業務に集中しやすくなる面もある。
(国際長寿センター「地域のインフォーマル・セクターによる高齢者の生活支援、
認知症高齢者支援に関する国際比較研究2015」を参考とした。)