第1章 高齢化の状況(第3節 トピックス6)

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第3節 高齢者の暮らし~経済や生活環境に関する意識(トピックス6)

トピックス6 高齢者の交通安全対策

高齢化の進展に伴い、全事故死者数が減少する中、高齢者の事故死者数はほぼ横ばいで推移しており、平成28年中の全交通事故死者数に占める割合は54.8%と過去最高を更新している(平成27年中:54.6%)。

また、高齢の運転者が第1当事者となる交通死亡事故件数もほぼ横ばいで推移しているが、交通死亡事故の件数自体が減少しており、28年中の全交通死亡事故件数に占める割合は28.3%(平成27年中:27.7%)とこちらも過去最高となっている。

高齢者の事故死者数が全体の過半数を占め、また、高齢化の進展により、今後更に高齢の免許保有数が増加し、高齢運転者による交通死亡事故の増加も懸念されることから、悲惨な交通死亡事故を減らしていくためには、高齢の歩行者及び自転車利用者(以下「高齢歩行者等」という。)の交通事故、また高齢運転者による交通事故の両面から、高齢者に係る交通事故防止対策を検討し、推進していく必要がある。

このような中、28年11月15日「高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議」を開催し、高齢運転者による痛ましい事故を防止するため、政府一体となって取り組んでいる。

ここでは、そのような高齢者に係る交通事故防止のための取組状況を取り上げる。

I 高齢者を取りまく現状

(1)高齢化の進展

平成28年10月1日現在、65歳以上の人口は3,459万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は27.3%と約4人に1人となっている。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、今後、高齢化率は、総人口が減少する中で高齢者人口が増加することにより上昇を続け、48(2036年)に、33.3%と3人に1人となり、54年(2042年)以降高齢者人口が減少に転じた後も上昇傾向にあり、77(2065)年には38.4%に達すると推計されている。

(2)高齢の運転免許保有者の増加

平成28年末の運転免許保有者数は約8,221万人で、27年末に比べ約6万人(0.1%)増加した。このうち、75歳以上の免許保有者数は約513万人(75歳以上の人口の約3人に1人)で、27年末に比べ約35万人(7.3%)増加し、今後も増加すると推計される。

(3)高齢歩行者等の交通死亡事故の発生状況

状態別(自動車乗車中、二輪車乗車中、自転車乗用中、歩行中)の死者について、高齢者の死者数及びその占める割合は、歩行中が1,003人(73.7%)、自転車乗用中が342人(67.2%)と、他の状態(自動車乗車中643人(48.1%)、二輪車乗車中142人(20.8%))と比較して高い水準にあり、高齢歩行者等が死亡する事故が多くなっている。

(4)高齢運転者による死亡事故の発生状況

75歳以上の運転者の死亡事故件数は、75歳未満の運転者と比較して、免許人口10万人当たりの件数が2倍以上多く発生している。

また、75歳以上の運転者による死亡事故について、件数自体は10年間ほぼ横ばいで推移しているものの、死亡事故件数全体が減少する中、全体に対する構成比は上昇傾向にあり、平成28年は全体の13.5%を占めている。

II 高齢者に係る交通事故防止に向けた取組

高齢者に係る交通事故防止を図るため、政府は、「本格的な高齢社会への移行に向けた総合的な高齢者交通安全対策について」(平成15年3月27日 交通対策本部決定)に基づき、また事故の発生状況等を踏まえ様々な取組を行っている。

(1)従前からの取組

ア 高齢歩行者等の交通事故防止に資する車両安全対策

  • 安全基準の拡充・強化

    高齢者をはじめとする歩行者等の交通事故を防止するためには、歩行者等が自動車の接近に気づきやすくする対策を講じることが必要である。このため、国土交通省では、平成28年10月に、前照灯の自動点灯(オートライト)や、走行音が静かなハイブリッド自動車等に備える車両接近通報装置の安全基準を整備した。

    このうちオートライトについて、高齢歩行者の死亡事故は、日没前後の薄暮時に集中している。薄暮時は、視力が低下して周囲が見えにくい高齢歩行者と、まだよく見えるとの思い込みから前照灯を点灯しない運転者が混在することなどにより、接近してくる自動車について、高齢歩行者がその存在を見落としたり、距離や速度感を誤ったりすることが事故原因の一つと考えられる。このような状況において、薄暮時における自動車の被視認性の向上は、高齢歩行者の事故防止に有効であると考えられる。これらのことからも、国土交通省では、乗用車及びバス・トラック等の大型車に対し、周囲が一定の暗さになると前照灯が自動で点灯するオートライト機能を義務付ける法令を平成28年10月に公布した。

  • 先進安全自動車(ASV)推進計画

    国土交通省では、ASV推進計画の下で、先進安全技術を活用して運転者の安全運転を支援する自動車の開発・普及・実用化を促進している。第5期ASV推進計画(平成23年度~平成27年度)では、通信を利用して自動車の前方等に歩行者がいることを運転者に伝え、事故回避の支援を行うシステムの開発等を促進するため、本システムの基本的な設計コンセプト等を整理した基本設計書をとりまとめた。

イ 高齢者に対する交通安全教育等の取組

加齢に伴う身体機能の変化が行動に及ぼす影響、交通ルール等を理解させるため、高齢者の事故実態等に基づき、各種教育資機材を積極的に活用した参加・体験・実践型等の交通安全教育を実施している。

特に、走行車両の直前直後横断等の法令違反に起因する死亡事故が多いことや横断時における特性に基づいた交通安全教育を実施している。

また、薄暮時から夜間における歩行者及び自転車利用者の交通事故防止に効果が期待できる反射材用品等の普及を図るため、各種媒体を活用した積極的な広報啓発活動及び反射材用品等の視認効果や使用方法等についての理解を深める交通安全教育を実施している。

ウ 道路交通法の改正

高齢運転者対策の推進を図るための規定の整備等を内容とする道路交通法の一部を改正する法律(以下「改正道路交通法」という。)が、平成27年6月に公布され、29年3月12日に施行された。

改正道路交通法により、一定の違反行為をした75歳以上の運転者に対して臨時認知機能検査を行い、その結果が直近において受けた認知機能検査の結果と比較して悪くなっている者等について、臨時高齢者講習を実施することとされた。

また、運転免許証の更新時の認知機能検査又は臨時認知機能検査の結果、認知症のおそれがあると判定された者について、その者の違反状況にかかわらず、医師の診断を要することとされた。

さらに、改正道路交通法の施行に合わせて、運転免許証の更新時の高齢者講習について、認知機能検査で認知症のおそれがある又は認知機能が低下しているおそれがあると判定された者に対する講習は、ドライブレコーダー等で録画された受講者の運転状況の映像を用いた個人指導を含むこととし、講習時間を3時間として高度化を図る一方、このほかの者に対する講習は、講習時間を2時間として合理化を図った。

エ 運転免許証の自主返納制度の周知

高齢運転者が身体機能の低下等を理由に自動車等の運転をやめる際には、本人の申請により運転免許を取り消し、運転免許証を返納することができる。

また、運転免許証の返納後5年以内に申請すれば、運転経歴証明書の交付を受けることができ、金融機関の窓口等で本人確認書類として使用することができる。

警察では、申請による運転免許の取消し及び運転経歴証明書制度の周知を図るとともに、運転免許証を返納した者への支援について、地方公共団体を始めとする関係機関・団体等に働き掛けるなど、自動車等の運転に不安を有する高齢者等が運転免許証を返納しやすい環境の整備に向けた取組を進めている。

(2)高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議以降の取組

高齢運転者による死亡事故が相次いで発生したことを踏まえ、平成28年11月15日、「高齢運転者による交通事故防止対策に関する関係閣僚会議」を開催した。

同会議では、安倍総理から、このような大変痛ましい事故を防止するため、

  • ①認知症対策を強化した改正道路交通法が29年3月から施行されることから、その円滑な施行に万全を期すこと
  • ②自動車の運転に不安を感じる高齢者の移動手段の確保を進めること
  • ③更なる対策の必要性について、専門家の意見を聞きながら、検討を進めること

の3点について、取り得る対策を早急に講じるとともに、政府一丸となって対策に取り組むよう指示があった。

これを受け、高齢運転者による交通事故防止について、関係行政機関における更なる対策の検討を促進し、その成果等に基づき早急に対策を講じるため、28年11月24日、交通対策本部の下に関係省庁局長級を構成員とする「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」を設置して検討を進め、29年6月を目途に全体的な取りまとめを行うこととしている。

  • <ワーキングチームの名簿>
  • (議長)内閣府政策統括官(共生社会政策担当)
  • 警察庁交通局長
  • 総務省大臣官房地域力創造審議官
  • 厚生労働省老健局長
  • 経済産業省製造産業局長
  • 国土交通省総合政策局長

ア 改正道路交通法の円滑な施行

大幅な増加が見込まれる臨時適性検査・診断書提出命令を適切に実施するため、医師会等関係団体と連携して、医師の診断体制の確保に努めるとともに、主治医の診断書の様式のモデル及び診断書記載ガイドラインを作成するなど、診断書の正確性、信頼性の担保を図っている。

また、都道府県警察において連絡責任者及び連絡担当者を指定し、都道府県医師会等との連携強化に努めている。

さらに、高齢者講習等については、認知機能検査で認知機能が低下しているおそれがないと判定された者及び75歳未満の者に対する講習が合理化をされたことを踏まえ、当該講習を効率的に実施するとともに、警察施設において講習等を実施するなどの取組により、実施体制の充実に努めている。

イ 社会全体で高齢者の生活を支える体制の整備

今後更に高齢化が進む中、自動車の運転に不安を感じる高齢者が、自家用車に依存しなくとも生活の質を維持していくことが課題となっていることから、国土交通省では、平成29年3月10日に、地域交通や高齢者の移動特性に対して知見を有する学識者や福祉や運輸事業等の関係団体の代表者等からなる「高齢者の移動手段の確保に関する検討会」を開催。高齢者が安心して移動できる環境の整備について、その方策を幅広く検討し、6月を目途に中間取りまとめを行う。

ウ 高齢者の特性が関係する事故を防止するために、専門家の意見を聴きながら更なる対策の必要性についての検討

  • 高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議の開催

    「高齢運転者交通事故防止対策ワーキングチーム」が設置されたことを受け、警察庁では、平成29年1月16日、行政法、社会学、自動車工学、交通心理学等の学識者や医療・福祉等の関係団体の代表者等から成る「高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議」を開催。高齢運転者に係る詳細な事故分析を行い、専門家の意見を聞きながら、高齢者の特性が関係する事故を防止するために必要な方策を幅広く検討し、6月を目途に検討の方向性について提言を取りまとめる。

  • 自動車メーカーへの「高齢運転者事故防止対策プログラム」の策定要請(国土交通省)

    国土交通省では、相次ぐ高齢運転者による交通事故を受けて、国内乗用車メーカー8社に対し「高齢運転者事故防止対策プログラム」の策定を要請した。メーカー各社は、策定したプログラムに基づき、自動ブレーキ及びペダル踏み間違い時加速抑制装置などの先進安全技術について、研究開発の促進、機能向上及び搭載拡大、ディーラー等における普及啓発等に取り組むこととしている。

  • 「安全運転サポート車」の普及啓発に関する関係省庁副大臣等会議の開催

    国土交通省、経済産業省、金融庁及び警察庁は、高齢運転者による交通死亡事故の発生状況等を踏まえ、高齢運転者の安全運転を支援する先進安全技術を搭載した自動車(安全運転サポート車)の普及啓発を図るべく、平成29年1月に「安全運転サポート車の普及啓発に関する関係省庁副大臣等会議」を開催した。同会議において、安全運転サポート車のコンセプトや当面の普及啓発策、先進安全技術の一層の普及促進のための環境整備等について検討を進め、3月に中間取りまとめを行った。

    中間とりまとめでは、高齢運転者による事故実態を踏まえた「安全運転サポート車」(Ver.1.0)のコンセプトを定義し、同車の愛称を「セーフティ・サポートカーS(サポカーS)」と定めたうえで、官民をあげた普及啓発に取り組むほか、自動車アセスメントの拡充や一定の安全効果が見込まれる水準に達した先進安全技術の基準の策定等について検討することとしている。

    セーフティ・サポートカーS
    自動ブレーキの例
    ペダル踏み間違い時加速抑制装置の例
  • 高速道路における逆走対策の一層の推進

    高速道路における逆走対策のより一層の推進を図るため、民間企業等から逆走車両を検知、警告、誘導する技術を募集し、30年度から実用化を目指して実道での検証等を行う技術を選定した。

エ 全国交通安全運動における取組

平成29年春の全国交通安全運動では、「子供と高齢者の交通事故防止~事故にあわない、おこさない~」を運動の基本とし、高齢者やその家族に対して、改正道路交通法の概要、運転免許証の自主返納制度や返納者に対する支援措置等についての普及啓発等にも取り組んだ。

III 高齢者の交通事故防止に向けた今後の対策

国、地方公共団体、関係機関等が一体となって総合的な交通安全対策に取り組んできた結果、交通事故死者数は大幅に減少し、平成28年には67年ぶりに4千人を下回った。しかし、その中で、交通事故死者数に占める高齢者の割合は54.8%と過去最高を記録し、また、死亡事故件数が減少している中で、75歳以上の高齢運転者による死亡事故件数はほぼ横ばいで推移している。高齢者に係る交通事故は高齢化が進む我が国にとって重要な課題であり、更なる対策が求められている。

28年3月に決定された「第10次交通安全基本計画」においては、32年までに交通事故死者数を2,500人以下とし、「世界一安全な道路交通」を実現することを目標に掲げている。その実現のためには、これまでの交通安全対策の深化はもちろんのこと、交通安全に資する先端技術を積極的に取り入れた新たな時代における対策に取り組むことが必要である。

高齢者の交通安全については、関係省庁のみならず関係機関、民間企業、地域社会の一体となった取組を推進することにより、その向上を図り、世界一安全な道路交通を実現していかなければならない。


※ 平成29年3月末現在、診断への協力に加え、診断を必要とする者への紹介まで了承した医師は4,011人に上っている。
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