第1章 高齢化の状況(第3節 <視点2>)

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第3節 <視点2> 先端技術等で拓く高齢社会の健康

【目的】

29年度「高齢者の健康に関する調査」結果を紹介し、課題の解決可能性が期待される先端技術等の科学技術の現状を紹介する(資料出所は特に断りのない限り内閣府「高齢者の健康に関する調査」(平成29年))。

内閣府「高齢者の健康に関する調査」(平成29年度)

  • 調査地域:全国
  • 調査対象者:全国の55歳以上(平成29年1月1日現在)の男女個人(施設入所は除く)
  • 調査時期:平成29年12月16日~平成30年1月14日(ただし、年末年始にあたる12月26日~1月5日は、調査の実施を休止した。)
  • 有効回収数:1,998人(標本数男女あわせて3,000人)
  • [都市規模区分]
  • 大都市 東京都23区・政令指定都市
  • 中都市 人口10万人以上の市
  • 小都市 人口10万人未満の市
  • 町村 郡部(町村)

【構成】

章立て 科学技術
1.高齢者の健康と日常生活 ロボットセラピー、サポカーS
2.医療サービスの利用と移動手段 遠隔医療
3.インターネット・リテラシー シニアがシニアに教えるパソコン教室

【概要】

1 高齢者の健康と日常生活

主観的な健康状態が「良い」者は、外出頻度、会話頻度、社会的な活動への参加のいずれにおいても「良くない」者よりも活発である結果が見られた(図1-3-1)。

図1-3-1 家族や友人との会話(択一回答)(主観的な健康状態別)

健康自認が「良くない」者が日常生活において不活発になり、不活発になることでますます健康自認が下がる、という悪循環が生じることのないよう、健康自認が「良くない」層の特性や実態を踏まえて対策を講じることが有益。

また、単身世帯が増加する中、調査からは単身世帯において特に外出や会話の頻度が特に低いという結果を得た(図1-3-2)。就業や社会活動、多世代交流など多様な形で高齢期の社会生活を支援することが望ましい。

図1-3-2 家族や友人との会話(択一回答)(世帯別)

■科学技術で拓く日常生活の健康

科学技術を用いて会話や外出を増やすことは可能だろうか。

実用例の1つに、AIを使ったセラピー・ロボットがある。さきがけとなったのは国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)が2004年に発表したロボット・セラピー用の「アザラシ型ロボット・パロ」。タテゴトアザラシの赤ちゃんをモデルに、体長57センチメートル、重さは2.5キログラム。センサーやマイクロフォンを備え、外部刺激や朝昼夜のリズムなどから生き物らしい動きをする。また学習機能により、新しい名前を学習したり、なでられた際の反応など持ち主の好みに応じた行動を学習したりして、使ううちに個性を獲得するようになっている(図1-3-3、図1-3-4)。

図1-3-3 アザラシ型ロボット・パロ
図1-3-4 介護老人保健施設でのロボット・セラピー

介護老人保健施設における実証研究によれば、社会的効果(高齢者同士や介護者との会話の増加)や心理的効果(うつの改善等)が見られたという。

また、科学技術は高齢期の外出促進にも役立てることが期待できる。

運転免許の自主返納などを機に外出頻度が急減する場合があるが、高齢期にも安全に運転できるような車が利用できるのであれば、日常の買い物などの必要に応じて外出機会を得る契機になるものと思われる。

国は、高齢運転者の安全運転を支援する先進安全技術を搭載した自動車「セーフティ・サポートカーS」(サポカーS)の愛称で官民を挙げた普及啓発に取り組んでいる。自動ブレーキ、ペダル踏み間違い時加速抑制装置、車線逸脱警報、先進ライトなどを備え、高齢運転者による交通事故防止に一定の効果が期待されている(図1-3-5、図1-3-6)。

図1-3-5 サポカーSの自動ブレーキの例
図1-3-6 サポカーSの啓発ロゴ

2 医療サービスの利用と移動手段

主観的な健康状態が「良くない」者や70代後半以降では、約2~3割の者が医療サービス利用時の移動手段を家族による送迎に頼っている(図1-3-7)。「あまり良くない」では約2割、「良くない」では約3割が医療サービスを週に1回以上利用しており、送迎で頼りにされる家族の負担にも留意する必要がある。

図1-3-7 「医療サービス」利用時の移動手段(択一回答)(主観的な健康状態別)

■科学技術で拓く医療サービスへのアクセス

近年の科学技術を用いて医療サービスへのアクセスを容易にする方策の一つとして、情報通信技術を活用した遠隔医療が挙げられる。

遠隔診療には、医師が患者を診療する際に別の専門医からオンラインでアドバイスを受けるケース(医師間)や、医師がコンピューターの画面を通して自宅や高齢者福祉施設にいる患者の状態を確認して診察するケース(医師・患者間)がある。手術の予後の確認などフォローアップ目的の通院を遠隔医療で代替することができれば、移動負担の軽減により医療サービスへのアクセスも容易になる。

旭川医科大学病院では、1994年から情報通信技術を活用して遠隔医療を進めてきた(図1-3-8)。例えば眼科で手術を受けた患者が専門的な術後管理を必要とする場合などに、患者の近所の主治医のもとで旭川医科大学病院の執刀医の診察も受けることができるような取り組みを行っている。また、自宅療養中の患者向けに家庭用情報端末を開発し、血圧などのバイタルデータをこの端末から送信させることで、遠隔でモニタリングできる仕組みも備えている。

図1-3-8 旭川医科大学病院の眼科における遠隔診療(概念図)

さらに2016年からは、モバイル端末を用いた「クラウド医療」も行っている(図1-3-9)。地方病院からインターネット上のクラウドを介して送られてくる患者情報を専門医がスマートフォンやタブレット端末で閲覧し、診断や治療方針のアドバイス、旭川医科大学病院への救急搬送の必要性有無の判断などを行うもので、心疾患などが発症してから治療開始までの時間が短縮されるなどの効果を得ている。

図1-3-9 旭川医科大学病院が推進する「クラウド医療」(概念図)

3 インターネット・リテラシー

医療や健康に関する情報を積極的にインターネットに求める行動は調査対象者の3割程度にみられ、特に年齢が低いほど盛ん(図1-3-10)。

図1-3-10 医療や健康に関する情報をインターネットで調べることがあるか(主観的な健康状態別)

女性単身世帯を除いては、得られた情報をほぼ信用して行動の根拠にしているという者の割合は低く、他の情報と合わせて判断したり単に参考にしたりするだけという者が大勢を占めた(図1-3-11)。

図1-3-11 インターネットの情報を行動の根拠にしているか(択一回答)

インターネットでは様々な情報が発信されており、得られた情報が必ずしも正しいものであるとは限らない。正しい情報を取捨選択する目を持つことが求められる。

■科学技術で健康を拓くためのインターネット・リテラシー

高齢期に入ってから初めてインターネット・リテラシーを習得することは、一般的には難しいものと思われがちである。しかし、「シニアが情報技術を身につけ、その技術を活用して中高年等の情報に関する学習支援、生きがい作り、仲間作り」を推進している高齢者の活動団体がある。

平成29年度に内閣府特命担当大臣の「社会参加章」を受章した名古屋市の「NPO法人PCマスターズ」は、名古屋市高齢者就業支援センターのパソコンインストラクター講習の修了者で結成されたグループ(図1-3-12)。

図1-3-12 NPO法人PCマスターズ活動風景

16年間にわたりシニア向けのパソコン教室や個人指導を実施している。構成員の平均年齢は71歳(平成29年現在)。これまでの受講者は個人指導が約6,000名、講座指導が約4,000名で、初心者向けの講座からパソコン検定準2級対策講座まで幅広く提供している。ネット犯罪や情報流出の被害を防ぐためのセキュリティの観点も盛り込まれている。

シニアがシニアに教えることで、高齢期には習得が難しいのではないか、安全に利用できるのだろうか、といった点に応えるとともに、高齢期ならではのインターネットの役立て方の共有にもつながることが期待される。

こうした取り組みは各地に好事例が見られ、平成28年度及び29年度には、2団体が内閣府特命担当大臣の「社会参加章」を受章した。

  • 宮崎市の「NPOシニアネット佐土原」(パソコン等を「使う」能力を一から養うものや、インターネット安全講座のように「正しく使う」能力を養う講座を開講、平成28年度)
  • 世田谷区のNPO法人シニアSOHO世田谷(シニアがシニアに教えるiPhone,iPad講座)

内閣府では、高齢者に困難と思われる内容で取り組みの成果を上げ、積極的な社会参加活動を実施している団体等を、よりよい高齢社会づくりの好事例として選考・授章している。詳しくは以下のウェブサイト参照。

○「エイジレス・ライフ実践事例」及び「社会参加活動事例」の募集と紹介

https://www8.cao.go.jp/kourei/kou-kei/age_list_all.htm

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