第1章 高齢化の状況(第3節 トピックス1)

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第3節 <特集>高齢者の住宅と生活環境に関する意識(トピックス1)

トピックス1 地域で支えあい、誰もが安心と生きがいを持って暮らせるまちづくり~青森県八戸市における成年後見制度利用促進の取組~

青森県八戸市は、少子高齢化が進行する中、成年後見制度の担い手を確保するため平成23年度に厚生労働省のモデル事業として専門職又は親族以外の後見人である市民後見人の養成を行い、以後、市民後見人や成年後見制度の利用推進のため、市民後見推進協議会や成年後見センターを設置した。八戸市では「地域で支えあい、誰もが安心と生きがいを持って暮らせるまちづくり」の実現を目指し、さらなる成年後見制度利用促進に向けた取組を行っている。その取組について紹介する。

1 八戸市の概況

八戸市は、青森県南に位置しており、平成17年に山間部を多く含む南郷村と合併したことで、沿岸から内陸部までを内包する自治体となった。合併当時は総人口約245,000人、高齢化率19.6%であったが、平成27年の国勢調査では総人口約231,000人、高齢化率27.8%となり、全国平均よりもやや速いペースで人口減少と少子高齢化が進行している。さらに令和22年(2040年)の将来推計は、総人口約176,000人、高齢化率42.5%と推計されており、少子高齢化は深刻となっている。

八戸市 地図1

市内には商業、医療及び高等教育等の機関が多数立地し、社会資源が充実していることから、八戸圏域(八戸市、三戸町、五戸町、田子町、南部町、階上町、新郷村及びおいらせ町)の住民の日常生活圏は八戸市を中心に形成されている。また、圏域全体における生活関連機能向上のため平成21年に八戸圏域定住自立圏を形成し、平成29年に八戸市が中核市に移行した後は、八戸圏域連携中枢都市圏として様々な分野で広域連携の取組を進めている。

八戸市 地図2

2 八戸市における高齢者福祉施策の概要

八戸市では、総合計画や地域福祉計画といった上位計画のもと第7期高齢者福祉計画(計画期間:平成30年度~令和2年度)を策定し、「誰もが安心と生きがいをもって暮らせる、ふれあいのある健康で明るい社会づくり」を目指すべき将来像として定めた。令和22年(2040年)に向け、地域包括ケアシステムの構築・深化、介護サービスの充実、生きがいづくりの推進、権利擁護を推進するための施策を実施している。

地域包括支援センターは、平成18年度に直営1か所でスタートし、平成30年4月に市内全12か所の日常生活圏域に高齢者支援センター(委託型の地域包括支援センター)を設置し、高齢者に対する相談支援や地域包括ケアシステム推進のための体制を強化した。

併せて、認知症施策を推進するため、各センターに認知症地域支援推進員を配置し、「青森県認知症の人と家族の会」や認知症疾患医療センター等と連携しながら、市民向け認知症フォーラムの開催、認知症サポーターの養成、八戸市のマスコットキャラクター「いかずきんズ」とのコラボレーションによる啓発用動画の作成及びSNS等での情報発信を行っている。

認知症たすけるすけのPR動画のコード

また、高齢者が安心して住み続けられる地域を実現するため、八戸学院大学(小柳研究室)協力のもと、平成29年度から地域住民と学生が地域について意見交換するワークショップを開催し、ニーズの抽出やニーズを充足する方法の検討をしているほか、高齢者、障害者、社会福祉法人の活力による新たな生活支援サービスの創設につなげる取組を行っている。

3 成年後見制度の利用促進に関する取組

(1)市民後見人の養成から成年後見センター設置までの経緯

八戸市では、平成23年頃から成年後見制度に関する相談の増加、認知症高齢者の保護の顕在化のほか、職能団体からは担い手不足の懸念が挙がったため、同年度に市民後見人養成研修を実施した。研修を修了した50人のうち39人が市民後見人名簿に登録したが、そこでは後見人を受任するにあたり行政や福祉専門機関からの活動支援を望む声が多く挙げられた。

そこで、平成24年度に市民後見推進協議会を設置し、市民後見人を推薦する仕組や支援体制について協議するとともに、市民後見人の士気及び質を確保するため、市民後見人フォローアップ研修を年4回以上実施し、家庭裁判所からの市民後見人の推薦依頼を待つこととした。

その結果、平成25年度に第1号の市民後見人が誕生し、日常的な相談には市担当課と市社会福祉協議会が対応し、必要に応じて市民後見推進協議会が助言又は審議をすることで、着実に後見活動が実施されることを期待した。実際の後見活動では、大きなトラブルは生じなかったものの細やかなフォローを行うための十分なマンパワーを確保する必要があると考えたため、市の成年後見制度の活用と市民後見を推進するため中核機関の創設に向け、先進地視察や関係機関との協議を経て、平成28年度に市社会福祉協議会への委託により成年後見センターを設置した。

(2)国の成年後見制度利用促進基本計画で示された市町村の役割に関する八戸市の対応
① 市町村計画の策定

八戸市では、成年後見制度の利用が必要な人に対して、年齢や障害の有無を問わず誰もが利用できるような体制づくりのため一体的な計画を策定する必要があると考えたため、改訂期にあたる第7期高齢者福祉計画を市町村計画として位置づけ、地域福祉計画や障害福祉計画と一体的に策定した。また本計画には、調査審議機関の設置や権利擁護支援のためのネットワークづくり、市民後見人の育成・支援体制の整備、周知の強化に取り組むことを掲げている。

② 調査審議を行う機関(市民後見推進協議会)の設置

八戸市では、既存の市民後見推進協議会を調査審議機関に位置づけた。当協議会は、市附属機関設置条例に基づき、成年後見制度の利用支援や市民後見人の養成等に関し必要事項を調査審議し、意見を述べるための機関である。これまでに、家庭裁判所に推薦するための市民後見人候補者との面接及び受任調整会議、市民後見人養成後の体制、八戸圏域の成年後見制度の実態把握調査に関すること等、成年後見制度の利用促進に向けた審議を行っている。

市民後見推進協議会の様子

当協議会の事務局は市が担い、委員は成年後見制度に精通している弁護士、司法書士、社会福祉士、社会福祉協議会及び学識経験者(大学)で構成され、審議事項に応じオブザーバーとして成年後見センター又は家庭裁判所が出席している。これまで被後見人12人(令和2年1月末現在)に対する市民後見人の推薦を行い、現在は、市民後見人と専門職後見人との複数後見、親族又は専門職後見人から市民後見人に引き継ぐリレー方式等、市民後見人の受任方法が多様化している。

③ 中核機関(成年後見センター)の整備及び地域連携ネットワーク作り

八戸市では、市が独自に設置した成年後見センターを中核機関に位置づけた。業務内容は、権利擁護総合相談、市民後見の推進、ネットワークづくり及び普及啓発の4つに大別される。

権利擁護総合相談は、年齢や障害の有無を問わずに受け年間300~400件対応している。窓口や電話での相談対応だけでなく、必要に応じて施設や家庭裁判所等への同行訪問、ケース会議の開催や出席等を通じた「チーム」による支援も行っている。

市民後見の推進については、市民後見人の養成研修及びフォローアップ研修の開催、「はちのへ市民後見人連絡会」の活動支援を行っている。なお、令和元年度までに87人が約50時間にわたる養成研修を修了した。

ネットワークづくりについては、市の附属機関である市民後見推進協議会で全体的な方向性の議論を行いながら関係機関の連携強化に努めているほか、平成30年度に成年後見センター内に弁護士、司法書士、社会福祉士、精神保健福祉士(病院)、学識経験者(大学)、はちのへ市民後見人連絡会、家庭裁判所、高齢者支援センター及び市担当課を委員とする成年後見ネットワーク会議(地域連携ネットワーク協議会)を設け、関係機関等との連携強化や支援体制を充実させるための協議を行っている。

普及啓発については、主に成年後見制度や成年後見センター、市民後見に関する周知活動を行っており、パンフレットの作成及び配布、他団体研修への講師派遣協力、外部講師を招いた住民対象の成年後見セミナーの開催等を行っている。また、平成30年度から「成年後見制度説明会」を年2~3回実施している。この説明会は、一般住民を対象に成年後見制度や関係機関を周知することを目的とし、成年後見センターが制度等を説明した後、市民後見人が後見活動等の経験談を伝える内容となっている。このほか、令和元年度の市民後見人養成研修にも市民後見人が協力し、事前説明会や養成研修内で講話を行うといった形で後進の育成に携わっている。

市民後見人の体験談
(3)八戸圏域共同実施による成年後見制度利用促進に向けた取組

八戸市では、市民後見人名簿の登録者数が平成23年度当初の39人から平成26年度末には18人と半数以下に減少し、平成27年度を迎える頃には人材確保の取組を一層強化する必要があった。そのため、当市から連携中枢都市圏構成市町村共同で人材確保と活用を進めることを提案し、構成市町村や成年後見センター、市民後見推進協議会等と協議を重ねた。市民後見人養成研修を共同実施する上で、取組目標を定めるためにデータが必要であったため、平成28年度から八戸圏域住民を対象に成年後見セミナーを共同開催し成年後見制度の周知及び意識を高め、平成29年度に圏域内の成年後見制度に関するニーズを把握するための実態把握調査を実施した。圏域の福祉施設、医療機関、職能団体を対象にアンケート調査をした結果、約千人の潜在的ニーズがあり、専門職のみで後見活動を担うことが難しい実態が明らかとなった。これを踏まえて構成市町村で協議を重ね、令和元年度に市民後見人養成研修を共同実施するにあたっては、自治体の垣根を越えた人材活用ができる方策(市民後見人名簿登録要件の統一や複数の自治体への登録手続き等)を取り決め、令和2年度から市民後見人フォローアップ研修を共同実施することとした。

(4)はちのへ市民後見人連絡会の啓発活動

「はちのへ市民後見人連絡会」は、平成23年度の市民後見人養成研修を修了した有志が立ち上げた、八戸市市民後見人候補者並びに会員の資質の向上、成年後見制度の普及啓発を図ることを目的とした市民活動団体である。

活動内容としては、会員の資質向上のための研修会の実施、認知症フォーラム等のイベントで成年後見制度や市民後見人の啓発活動に協力するほか、地域での出前講座の開催等を行っている。

八戸市や成年後見センターでは、当連絡会の会員向け研修や啓発活動の実施にあたり、助言やチラシ作成の協力を行うなど活動の後方支援を行っている。

はちのへ市民後見人連絡会による啓発活動の様子
はちのへ市民後見人連絡会

4 まとめ

八戸市では、平成23年度の市民後見人養成を契機として、成年後見制度の利用促進に向けた取組を続けてきた。その結果、年齢や障害を条件としない共生型の成年後見センターが設置され、当センターを中核機関として市民に対する具体的な支援体制が展開された。

また、市民後見を一層推進するため、弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職、家庭裁判所や社会福祉協議会等の専門機関の協力を得て信頼性を担保し市民後見人が選任されるよう努めてきたことが、市民後見人の受任件数の増加につながったと認識している。実際に活動する市民後見人からは、「社会貢献したいとの思いで活動している」「自身のQOL向上につながる」等の意見があることから、成年被後見人を支援するだけではなく、自身の社会的居場所や活躍の場の確保にもつながり生きがいづくりの取組でもあると考えられる。

今後も、少子高齢化の進行に伴い、成年後見制度に対するニーズの増加と同時に担い手の減少が見込まれるため、関係機関及び自治体と連携して進めていくこととしている。

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