第1章 高齢化の状況(第3節 トピックス2)
第3節 <特集>高齢者の住宅と生活環境に関する意識(トピックス2)
トピックス2 新しい就業・社会参加の形を目指して~公益社団法人鹿児島市シルバー人材センターの取組~
シルバー人材センターは、高齢者が働くことを通じて生きがいを得るとともに、地域社会の活性化に貢献する組織として、全国の市区町村ごとに1,299団体(平成30年度末現在)が設置されている。昭和55年に名称を「シルバー人材センター」として以降、順調に会員数を増やしてきたが、平成21年度の約79万人をピークに会員数はやや減少傾向にある(平成30年度会員数713,640人)。これは、定年の延長や継続雇用制度の普及等に伴い、60歳代前半層の新規会員の加入が減少していることなどが理由として考えられる。
こうした中、鹿児島市シルバー人材センターは、平成30年度に会員増加数が全国1位となるとともに、従来のシルバー人材センターにはなかった新しい就業・社会参加の形も開拓している。同センターの様々な取組を紹介する。
1 鹿児島市シルバー人材センターの現状
鹿児島市シルバー人材センターは、昭和56年に設立された。組織の基盤となる会員数は、平成30年度に3,691人と前年度に比べ450人の増加となり、過去最高の会員数となった。また、女性会員の数が1,460人と4年前と比べて2倍になった。会員の平均年齢は71歳(令和2年1月現在)で、会員は月10日程度、週20時間以内の就業で、従来から庭木の剪定、空き地の草刈り、家事支援(掃除・洗濯)、子供の世話などを行ってきたが、近年では人手不足分野における企業等への派遣(福祉施設、保育園等の補助作業)や「ワンコインまごころサービス」(後述)等を行っている。
各会員は日々の就業において、豊富な経験・知識・技能を生かし、誠実に熱心に取り組んでおり、事業主や地域住民からも高い評価と信頼を得て、地域になくてはならない存在になっている。
2 鹿児島市シルバー人材センターの特徴的な取組
(1)女性の参加拡大
鹿児島市シルバー人材センターでは、「会員数の拡大」を重要課題の一つに掲げ、高齢者に対し就業を通じた社会参加を積極的に働きかけている。鹿児島では大都市に比べ、専業主婦やパートタイム労働者がまだまだ多いことが考えられることから、60歳代の女性をターゲットとしたさまざまなイベントを開催し、センターのイメージアップを図りながら、シニア女性の参加を促している。
シニアの女性に元気と夢を与えるセミナーとして、女性限定入会セミナーやシニアビューティーアップ講座を開催している。60歳以上の女性を対象にした美容講座や化粧品会社等の協力による体験ブースを設置するといった取組のほか地元で知名度の高い講師を招き、タイプ別のコミュニケーションの取り方の講演を行った。こうしたセミナーや講座の中でシルバー人材センターの事業の紹介、女性向けの就業情報、入会案内も併せて行っている。
また、平成30年度には女性会員によるファッションショーを開催し、定員200名に300名を超える観客が詰めかけ、地元でも大きく取り上げられた。
(2)「ワンコインまごころサービス」の実施
ワンコインまごころサービスは2種類に分かれる。「100円サービス」は10分以内の作業で、ゴミ出しなどを、また、「500円サービス」は30分以内で日用品の買い物などを想定している。会員のうち約500人がこのサービスに従事しており、高齢者の安否確認の役割も担っている。
利用者は年々増加しており、平成30年度は累計で1,584人が利用し、利用回数も9,094回となった。
ワンコインまごころサービスは、包括支援センター等との連携により地域の困っている高齢者を地域の会員で支える事業として、行政サービスではカバーできない、これまで手の届かなかった部分のサービスを提供することで、利用者から「安心して暮らせるようになった」等の声が寄せられている。
(3)高齢者が主役のイベント
鹿児島市シルバー人材センターでは、令和元年10月29日に鹿児島市内での記念イベント「シニアオータムフェスインかごしま2019」を開催した。会員数4,000人突破等を記念し、シニア世代の方に「もっと明るく楽しい人生を過ごして欲しい」との思いを込めて、会員、市民の方を対象に企画し、880人の方が来場した。
会員による演芸、歌と踊り、プロによる奄美島唄、ヴァイオリン演奏等を行い、出演者と会場が一体となったステージで、来場者からは「心を癒された。元気な歌や踊りに元気をもらった。」などの声も聞かれた。
(4)同好会活動などの実施
会員は、仕事だけでなく、同じ趣味を持った仲間で10以上の同好会活動(書道、観光ガイド、ゴルフ、卓球、山歩き、手芸、フォークダンスなど)を盛んに行っている。
また、女性会員を中心とした多才な芸能、技能(舞踊、手品、太鼓、三味線など)をもった「ひまわり劇団」を平成30年度に結成し、福祉施設等への訪問活動を行っており、入所されている多くの市民の方に喜んでいただいている。
3 まとめ
本格的な人口減少社会に突入し、人手不足が深刻化することが見込まれており、高齢者の活躍が強く求められている。高齢者世帯や共稼ぎ世帯が年々増加し、家庭での困りごとも増えている。一方で、地域のために何かしたい、まだまだ輝きたいという思いを持った元気な高齢者が増えてきている。
このような新たな時代の中で、シルバー人材センターは単なる高齢者の就業の受け皿としてだけではなく、希薄になりつつある地域社会のコミュニティーを再生し、地域のにぎわいをつくりだしていくための一つの核のような存在となりつつある。「まちのシルバー人材センター」として、地域密着を旨とし、市民に愛され、頼られ、常に側にいる存在となっている。
鹿児島市シルバー人材センターでは会員世代を「銀の卵」と呼んでいる。かつて、1964年東京オリンピックが開催されたころ、日本の高度経済成長を担う働き手であった若者は、「金の卵」と呼ばれていたが、そこから半世紀がたち、豊富な知識や経験を持っているシルバー世代となった。「銀の卵」は再び熱意をもって地域に貢献することによって、その熱意を地域に伝え、少子高齢化の社会を支えている。