第2章 令和2年度高齢社会対策の実施の状況(第2節 1)

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第2節 分野別の施策の実施の状況(1)

1 就業・所得

「就業・所得」については、高齢社会対策大綱において、次の方針を示している。

少子高齢化が急速に進展し人口が減少する中、経済社会の活力を維持するため、全ての年代の人々がその特性・強みをいかし、経済社会の担い手として活躍できるよう環境整備を図る。

現在の年金制度に基づく公的年金の支給開始年齢の引上げ等を踏まえ、希望者全員がその意欲と能力に応じて65歳まで働けるよう安定的な雇用の確保を図る。また、65歳を超えても、70代を通じ、またそもそも年齢を判断基準とせず、多くの者に高い就業継続意欲が見られる現況を踏まえ、年齢にかかわりなく希望に応じて働き続けることができるよう雇用・就業環境の整備を図るとともに、社会保障制度についても、こうした意欲の高まりを踏まえた柔軟な制度となるよう必要に応じて見直しを図る。

勤労者が、高齢期にわたり職業生活と家庭や地域での生活とを両立させつつ、職業生活の全期間を通じて能力を有効に発揮することができるよう、職業能力の開発や多様な働き方を可能にする施策を推進する。

職業生活からの引退後の所得については、国民の社会的連帯を基盤とする公的年金を中心とし、これに企業による従業員の高齢期の所得確保の支援や個人の自助努力にも留意し、企業年金、退職金、個人年金等の個人資産を適切に組み合わせた資産形成を促進する。さらに資産の運用等を含めた資産の有効活用が計画的に行われるよう環境整備を図る。

(1)エイジレスに働ける社会の実現に向けた環境整備

ア 多様な形態による就業機会・勤務形態の確保
(ア)多様な働き方を選択できる環境の整備

地域の多様なニーズに応じた活躍を促す観点から、地方自治体を中心に設置された協議会等が実施する高年齢者の就労促進に向けた生涯現役促進地域連携事業を実施し、先駆的なモデル地域の取組の普及を図った。

また、定年退職後等において、臨時的・短期的又は軽易な就業を希望する者に対して、意欲や能力に応じた就業機会、社会参加の場を総合的に提供するシルバー人材センター事業について、各シルバー人材センターにおける就業機会の拡大・会員拡大等の取組への支援を行い、特に、人手不足の悩みを抱える企業を一層強力に支えるため、サービス業等の人手不足分野や介護、育児等の現役世代を支える分野での高齢者の就業を促進するための取組を支援する高齢者活用・現役世代雇用サポート事業を実施した。また、多様化する高年齢者のニーズに対応するため、平成28年より都道府県知事が業種・職種及び地域を指定した場合に限り、派遣及び職業紹介の働き方において就業時間の要件緩和が可能となり、令和2年度までに712地域で要件緩和がなされた。

なお、令和2年度第3次補正予算において、シルバー人材センターにおいて、「新たな日常」の下で、必要な感染症防止対策を講じつつ、十分な就業機会の確保と創出を行うための取組を行うための支援を行った。

また、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保に向け、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を解消するための規定等が整備された「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律第76号)が令和2年4月1日に施行された。大企業に対し、同法に基づく是正指導等を実施することにより、着実な履行確保を図った。

中小企業に対しては、令和3年4月1日の適用に向けて、事業主が何から着手すべきかを解説する「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」や、各種手当・福利厚生・教育訓練・賞与・基本給について、具体例を付しながら不合理な待遇差解消のための点検・検討手順を詳細に示した「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」等を活用し、周知を行った。また、パートタイム・有期雇用労働者の均等・均衡待遇の確保に向けた事業主の取組を支援するために、事業主に対する職務分析・職務評価の導入支援・普及促進等を行った。

加えて、企業における非正規雇用労働者の待遇改善等を支援するため、平成30年度より47都道府県に「働き方改革推進支援センター」を設置し、労務管理の専門家による個別相談やセミナー等を実施した。

さらに、職務、勤務地、労働時間を限定した「多様な正社員」制度の普及・拡大を図るため、オンラインセミナーを開催し、雇用管理上の留意事項や企業の取組事例について周知を行った。また、「多様な正社員」制度の一類型である「短時間正社員制度」について、その導入・定着を促進するため、制度導入・運用支援マニュアルをパート・有期労働ポータルサイトに掲載し、短時間正社員制度の概要や企業の取組事例等の周知を行った。

高齢者を含め多様な人材の能力を活かして、イノベーションの創出、生産性向上等の成果を上げている企業を「新・ダイバーシティ経営企業100選」として表彰し、ダイバーシティ経営のすそ野の拡大を図っている。令和2年度は、1経営層への多様な人材の登用、2キャリアの多様性の推進、3働き方・マネジメント改革、4外国人・シニア・チャレンジドの活躍、5企業という組織の垣根を超えた人材活躍の5テーマを重点テーマとして設定し、令和3年3月に14社(大企業9社、中小企業5社)を表彰した(図2-2-1)。また、「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」(平成30年6月改定)をもとに、中長期的な視点でダイバーシティ経営を推進し、特に先駆的な取組を行っている企業を選定する「100選プライム」を、2社選定した(図2-2-2)。

図2-2-1 「新・ダイバーシティ経営企業100選」ロゴマーク
図2-2-2 「100選プライム」ロゴマーク

加えて、副業・兼業については、平成30年1月に策定したガイドラインを令和2年9月に改定し、副業・兼業の場合の労働時間管理及び健康管理について、労働者の申告等による副業先での労働時間の把握や簡便な労働時間管理の方法を示すなど、ルールを明確化した。また、労働時間の申告の際に活用できる様式例などを盛り込んだガイドラインのわかりやすい解説パンフレットを作成し、周知を行った。

(イ)情報通信を活用した遠隔型勤務形態の普及

テレワークは、高齢者の就業機会の拡大及び高齢者の積極的な社会への参画を促進する有効な働き方と期待されている。

令和2年7月17日に閣議決定された「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」においては、「テレワークは、働き方改革を推進するに当たっての強力なツールの一つであり、また今般の新型コロナウイルス感染症対策として人と人との接触を極力避け、業務継続性を確保するためにも不可欠なものであり、具体的かつ効果的な形で普及が進むようにする」とされている。そのため、関係府省では、テレワークの一層の普及拡大に向けた環境整備、普及啓発等を連携して推進しており、ウィズコロナ・ポストコロナの「新たな日常」、「新しい生活様式」に対応した働き方として、適切な労務管理下における良質なテレワークの導入・実施を進めていくことができるよう、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」の改定を行った。また、テレワーク相談センターや国家戦略特別区域制度に基づいて設立した東京テレワーク推進センターを通じた相談対応やコンサルティングの実施、企業等に対する労務管理や情報通信技術に関する専門家の相談対応、事業主・労働者等を対象としたセミナーの開催、中小企業を支援する団体と連携した全国的なテレワーク導入支援体制の構築、テレワークに先進的に取り組む企業等に対する表彰の実施、テレワーク導入経費に係る支援、中小企業等担当者向けテレワークセキュリティの手引き(チェックリスト)の作成、企業によるテレワーク宣言を通じての取組の紹介等により、適正な労務管理下における良質なテレワークの普及を図った。また、テレワークによる働き方の実態やテレワーク人口の定量的な把握を行った。

さらに、平成29年から、関係府省・団体が連携し、2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)(注)の開会式が予定されていた7月24日を「テレワーク・デイ」と位置付け、全国一斉のテレワークを実施している。平成30年には7月23日から27日の期間を「テレワーク・デイズ」と設定し、3年目となる令和元年には、さらに規模を拡大し、7月22日から9月6日の期間を「テレワーク・デイズ2019」としてテレワークの実施を呼びかけたところ、2,887団体、約68万人が参加した。令和2年には、新型コロナウイルス感染症の拡大により、東京2020大会の延期が決定されたが、新しい生活様式を定着させ、感染拡大の防止と社会経済活動の維持の両立を持続的に可能とすることが必要であることから、引き続き、柔軟な働き方を実現するテレワークの全国的な推進を行うため、期間を限定せず、継続したテレワーク推進の呼びかけ、情報提供等の強化を行った。


(注)令和2年3月30日に、東京オリンピックは令和3年7月23日から8月8日に、東京パラリンピックは同年8月24日から9月5日に開催されることが決定された。
イ 高齢者等の再就職の支援・促進

「事業主都合の解雇」又は「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準に該当しなかったこと」により離職する高年齢離職予定者の希望に応じて、その職務の経歴、職業能力等の再就職に資する事項や再就職援助措置を記載した求職活動支援書を作成・交付することが事業主に義務付けられており、交付を希望する高年齢離職予定者に求職活動支援書を交付しない事業主に対しては公共職業安定所が必要に応じて指導・助言を行った。求職活動支援書の作成に当たってジョブ・カードを活用することが可能となっていることから、その積極的な活用を促した。

主要な公共職業安定所において高年齢求職者を対象に職業生活の再設計に係る支援や、特に就職が困難な者に対する就労支援チームによる支援及び職場見学、職場体験等を行った。

また、常用雇用への移行を目的として、職業経験、技能、知識の不足等から安定的な就職が困難な求職者を公共職業安定所等の紹介により一定期間試行雇用する事業主に対する助成措置(トライアル雇用助成金)や、高年齢者等の就職困難者を公共職業安定所等の紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対する助成措置(特定求職者雇用開発助成金)を実施した(表2-2-3)。

表2-2-3 高年齢者雇用関係助成金制度の概要
トライアル雇用助成金
・常用雇用への移行を目的として、職業経験、技能、知識の不足等から安定的な就職が困難な求職者を公共職業安定所等の紹介により、一定期間試行雇用した事業主に対して助成
特定求職者雇用開発助成金 (特定就職困難者コース)
・高年齢者(60歳以上65歳未満)等の就職困難者を公共職業安定所等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して賃金相当額の一部を助成
特定求職者雇用開発助成金 (生涯現役コース)
・65歳以上の離職者を公共職業安定所等の紹介により、1年以上継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して賃金相当額の一部を助成
65歳超雇用推進助成金
・65歳以降の定年延長や継続雇用制度の導入を行う事業主、高年齢者の雇用管理制度の導入又は見直し等や高年齢の有期雇用労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して助成
資料:厚生労働省

さらに、再就職が困難である高年齢者等の円滑な労働移動を強化するため、労働移動支援助成金により、離職を余儀なくされる高年齢者等の再就職を民間の職業紹介事業者に委託した事業主や、高年齢者等を早期に雇い入れた事業主、受け入れて訓練(OJTを含む。)を行った事業主に対して、助成措置を行い、能力開発支援を含めた労働移動の一層の促進を図った。あわせて、中途採用者の能力評価、賃金、処遇の制度を整備した上で、45歳以上の中高年齢者を初めて雇用した事業主に対して、60歳以上の高年齢者を初めて雇用した場合の助成額の上乗せも含めた助成措置を実施し、中高年齢者の労働移動の促進を図った。

また、高年齢退職予定者のキャリア情報等を登録し、その能力の活用を希望する事業者に対してこれを紹介する「高年齢退職予定者キャリア人材バンク事業」を(公財)産業雇用安定センターにおいて実施し、高年齢者の就業促進を図った。

ウ 高齢期の起業の支援

日本政策金融公庫(国民生活事業・中小企業事業)において、高齢者等を対象に優遇金利を適用する融資制度(女性、若者/シニア起業家支援資金)により開業・創業の支援を行った。

日本政策金融公庫(国民生活事業・中小企業事業)の融資制度(地域活性化・雇用促進資金)において、エイジフリーな勤労環境の整備を促進するため、高齢者(60歳以上)等の雇用等を行う事業者に対しては当該制度の利用に必要な雇用創出効果の要件を緩和(2名以上の雇用創出から1名以上の雇用創出に緩和)する措置を継続した。

また、中高年齢者等の雇用機会の創出を図るため、40歳以上の中高年齢者等が起業する際に必要となる、雇用の創出に要する経費の一部を助成する措置を実施してきたところであるが、その一定期間経過後に生産性が向上している場合には、別途上乗せの助成金を支給する制度改正を行った。

エ 知識、経験を活用した高齢期の雇用の確保

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(昭和46年法律第68号)は、事業主に対して、65歳までの雇用を確保するために継続雇用制度の導入等の措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)を講じるよう義務付けており、高年齢者雇用確保措置を講じていない事業主に対しては、公共職業安定所による指導等を実施するとともに、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の高年齢者雇用アドバイザー及び65歳超雇用推進プランナーによる技術的事項についての相談・援助を行った。

「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(昭和41年法律第132号)第9条に基づき、労働者の一人ひとりにより均等な働く機会が与えられるよう、引き続き、労働者の募集・採用における年齢制限禁止の義務化の徹底を図るべく、指導等を行っている。

また、企業における高齢者の雇用を推進するため、65歳以上の年齢までの定年延長や66歳以上の年齢までの継続雇用制度の導入を行う事業主、高齢者の雇用管理制度の見直し又は導入等や高年齢の有期雇用労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対する支援を実施した。また、継続雇用延長・定年引上げに係る具体的な制度改善提案を実施し、企業への働きかけを行った。

さらに、令和2年3月に成立した「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第14号)に基づく、事業主に対する70歳までの就業機会雇用確保の努力義務化等について関係省令及び指針を公布し、令和3年4月からの円滑な施行に向け、周知啓発を行った。

高年齢労働者が安心して安全に働ける職場づくりや労働災害の防止のため、令和2年3月に策定した「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)の周知及び労働災害防止団体による個別事業場支援の利用勧奨を行った。また、高年齢労働者の安全・健康確保の取組を行う中小企業等を支援するエイジフレンドリー補助金を創設するとともに、高年齢者の特性に配慮した独創的・先進的な取組の実証試験を行い、高年齢労働者の安全衛生対策を推進した。

公務部門における高齢者雇用において、国家公務員については、現行の「国家公務員法」(昭和22年法律第120号)に基づく再任用制度を活用し、65歳までの雇用確保に努めるとともに、特に雇用と年金の接続を図る観点から、「国家公務員の雇用と年金の接続について」(平成25年3月閣議決定)に基づき、令和元年度の定年退職者等のうち希望者を対象として、公的年金の支給開始年齢まで原則再任用する等の措置を講じた。

地方公務員については、雇用と年金を確実に接続するため、同閣議決定の趣旨を踏まえ、必要な措置を講ずるように各地方公共団体に対して必要な助言等を行った。

また、国家公務員の定年の引上げについては、第201回国会に「国家公務員法等の一部を改正する法律案」を提出したが、令和2年6月に審議未了のため廃案となった。政府としては、平成30年の人事院の意見の申出も踏まえ、公務員の定年引上げに向けた取組を進めている。

地方公務員の定年の引上げについては、国家公務員の検討状況を踏まえつつ、地方公共団体の意見も聴きながら具体的な検討を進め、地方公務員法等の一部を改正する法律案を第201回国会に提出し、継続審議となっている。

オ 労働者の職業生活の全期間を通じた能力の開発

職業訓練の実施や職業能力の「見える化」のみならず、個々人にあった職業生涯を通じたキャリア形成支援を推進した。

さらに、高齢期を見据えたキャリア形成支援を推進するため、労働者のキャリアプラン再設計や企業内の取組を支援するキャリア形成サポートセンターを整備し、労働者等及び企業に対しキャリアコンサルティングを中心とした総合的な支援を実施した。

教育訓練休暇制度の普及促進を図るとともに、教育訓練給付制度の活用により、労働者個人のキャリア形成を支援し、労働者の自己啓発の取組を支援した。また、労働者の中長期的なキャリアアップを支援するため、「雇用保険法等の一部を改正する法律」(平成29年法律第14号)に基づき、平成30年1月以降、専門実践教育訓練給付の給付率及び上限額の引上げ(最大60%→70%、年間上限48万→56万円)等を行っている。

カ ゆとりある職業生活の実現等

「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(平成19年12月18日仕事と生活の調和推進官民トップ会議策定、平成28年3月改定)等を踏まえ、高齢者も含めた全ての労働者の仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現を図ることが重要である。

我が国の労働時間の現状を見ると、週労働時間60時間以上の雇用者の割合が1割弱となっており、また、年次有給休暇の取得率は近年5割程度の水準で推移している。

この状況を踏まえ、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」(平成4年法律第90号、以下「労働時間等設定改善法」という。)及び「労働時間等見直しガイドライン」(「労働時間等設定改善指針」(平成20年厚生労働省告示第108号))に基づき、時間外・休日労働の削減及び年次有給休暇の取得促進を始めとして労使の自主的な取組を促進する施策を推進している「働き方改革関連法」(平成30年法律第71号)が成立し、「労働基準法」(昭和22年法律第49号)が改正され、「罰則付きの時間外労働の上限規制」や、子育て等の事情を抱える働き手のニーズに対応した「フレックスタイム制の見直し」、「年5日の年次有給休暇の確実な取得」等の内容が規定されるとともに、「労働時間等設定改善法」が改正され、勤務間インターバル制度の導入、短納期発注や発注内容の頻繁な変更を行わない等取引上の必要な配慮が努力義務化されたため、これらの改正内容をまとめたリーフレットによる周知・啓発を図っている。

また、長時間労働対策を総合的に推進するため、平成26年9月30日に設置した厚生労働大臣を本部長とする「長時間労働削減推進本部」の取組として、企業経営陣へ働きかける等により、企業の自主的な働き方の見直しを推進した。

(2)誰もが安心できる公的年金制度の構築

ア 持続可能な公的年金制度の構築

平成16年の法改正において、将来世代の負担を過重にしないため、将来の保険料の上限を固定し、その範囲内で年金の給付水準を調整することで、おおむね100年程度で給付と負担の均衡をはかる「マクロ経済スライド」という仕組みを導入している。

さらに、平成28年の「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第114号)においては、平成30年4月より、マクロ経済スライドについて、できる限り早期に調整する観点から、名目下限措置を維持した上で、未調整分が生じた場合に翌年度以降の年金額改定の際に、物価・賃金上昇の範囲内で反映する仕組み(キャリーオーバー制度)を導入した。また、令和3年4月から、賃金・物価スライドについて、支え手である現役世代の負担能力に応じた給付とする観点から、賃金変動率が物価変動率を下回る場合には賃金変動率に合わせて改定する考え方を徹底することとした。

令和2年度の年金額改定は、マクロ経済スライドによる調整を反映させた上で、0.2%のプラス改定となった。

また、今後の社会・経済の変化を展望すると、人手不足が進行するとともに、健康寿命が延伸し、中長期的には現役世代の人口の急速な減少が見込まれる中で、特に高齢者や女性の就業が進み、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる。こうした社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図る必要がある。

こうした中で、令和元年財政検証結果を踏まえ、短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大、高齢期の就労と年金受給の在り方等について全世代型社会保障検討会議等で議論を行い、令和元年12月19日には「全世代型社会保障検討会議中間報告」を取りまとめ、同年12月27日に社会保障審議会年金部会において議論の整理を取りまとめた。これらを踏まえ、短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大、在職中の年金受給の在り方の見直し、受給開始時期の選択肢の拡大等の内容を盛り込んだ「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第40号。以下この節において「国民年金法等の一部を改正する法律」という。)が令和2年5月に成立した。

イ 高齢期における職業生活の多様性に対応した年金制度の構築

国民年金法等の一部を改正する法律においては、在職定時改定の導入、在職老齢年金制度の見直し、年金の受給開始時期の選択肢の拡大等を盛り込んだ。

在職中の年金受給の在り方の見直しの一環として、現在は、老齢厚生年金の受給権を取得した後に就労した場合は、資格喪失時(退職時・70歳到達時)に、受給権取得後の被保険者であった期間を加えて、老齢厚生年金の額を改定しているが、就労を継続したことの効果を早期に年金額に反映して実感していただけるよう、65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者について、年金額を毎年10月に改定する在職定時改定制度を導入することとした。

また、60~64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度(低在老)について、就労に与える影響が一定程度確認されているという観点、令和12年度まで支給開始年齢の引上げが続く女性の就労を支援する観点等から、支給停止の基準額を、現行の28万円から65歳以上の在職老齢年金制度(高在老)と同じ47万円に引き上げることとした。

受給開始時期の選択肢の拡大については、高齢期の就労の拡大等を踏まえ、高齢者が自身の就労状況等に合わせて年金受給の方法を選択できるよう、現在60歳から70歳の間となっているものを、60歳から75歳の間に拡大することとした。

ウ 働き方に中立的な年金制度の構築

国民年金法等の一部を改正する法律において、働きたい人が働きやすい環境を整えるとともに、短時間労働者に対する年金等の保障を厚くする観点から、短時間労働者に対する被用者保険の適用について、現行の500人超規模から、令和4年10月に100人超規模、令和6年10月に50人超規模の企業まで適用範囲を拡大することとした。また、5人以上の個人事業所に係る適用業種に、弁護士、税理士等の資格を有する者が行う法律又は会計に係る業務を行う事業を追加することとした。

エ 年金生活者支援給付金制度の円滑な実施

社会保障・税一体改革の一環として成立した「年金生活者支援給付金の支給に関する法律」(平成24年法律第102号)に基づいて、消費税を10%に引き上げた時に増加する消費税収を活用して、令和元年10月より年金生活者支援給付金制度が創設された。この制度は、年金を含めても所得が低く、経済的な支援を必要としている方(前年の所得額が老齢基礎年金満額以下の方等)に対し、年金に上乗せして支給するものである。令和2年度においては、すでに給付金を受給されている方のうち引き続き支給要件に該当する方について、新たな手続を要すること無く、継続して支給を実施するとともに、国民年金法等の一部を改正する法律における所得・世帯情報の取得対象者の拡大により、令和2年10月以降、新たに給付対象となる方々にはがき型の簡易な請求書を送付する等の取組を行った。

(3)資産形成等の支援

ア 資産形成等の促進のための環境整備

勤労者財産形成貯蓄制度の普及等を図ることにより、高齢期に備えた勤労者の自助努力による計画的な財産形成を促進した。

企業年金・個人年金については、令和元年6月21日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」により、高齢期の長期化と就労の拡大・多様化等を踏まえた私的年金の加入可能年齢等の引上げや、中小企業への企業年金の普及・拡大等について、社会保障審議会での議論を経て、速やかに制度の見直しを行うこととされ、令和元年12月に、社会保障審議会企業年金・個人年金部会において、議論の整理が取りまとめられた。これらを踏まえ、確定拠出年金(DC)加入可能年齢の引上げと受給開始時期等の選択肢の拡大、中小企業向け制度の対象範囲の拡大、企業型DC加入者の個人型DC(iDeCo)の加入の要件緩和等の措置を講ずる国民年金法等の一部を改正する法律が令和2年5月に成立した。また、iDeCoについて、更なる普及を図るため、各種広報媒体を活用した周知・広報を行った(加入者数は、令和3年2月末時点で189.2万人)。退職金制度については、中小企業における退職金制度の導入を支援するため、中小企業退職金共済制度の普及促進のための周知等を実施した。

さらに、NISA(少額投資非課税)制度に関して、「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)において、つみたてNISA(非課税累積投資契約に係る少額投資非課税制度)については期限を5年間延長、一般NISA(少額投資非課税制度)についてはより多くの国民に積立・分散投資による安定的な資産形成を促す観点から制度を見直した上で、2024年から5年間の制度として措置、ジュニアNISA(未成年者少額投資非課税制度)については延長せず、新規の口座開設を2023年までとすることとされた。また、つみたてNISAの普及の観点から、個人投資家を対象とするオンラインイベントの開催、金融庁ウェブサイトやSNSを通じた情報発信を行った。

イ 資産の有効活用のための環境整備

リバースモーゲージの普及を図るため、住宅金融支援機構において、公的保証による民間金融機関のバックアップ等を行い、資産の有効活用のための環境を整備した。

また、低所得の高齢者世帯が安定した生活を送れるようにするため、各都道府県社会福祉協議会において、一定の居住用不動産を担保として、世帯の自立に向けた相談支援に併せて必要な資金の貸付けを行う不動産担保型生活資金の貸与制度を実施した。

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