第7次交通安全基本計画の概要

まえがき

 我が国においては,20世紀初めに自動車が実用化され、半ばに50万台程度であった自動車保有台数が後半に急増し、世紀末には7,600万台程度に達した。20世紀は,正に自動車の世紀であったと言えよう。このような自動車の増加に並行して交通事故も増加し、昭和34年に1万人を超えた交通事故死者数は、45年には1万6、765人に達した。このため、交通安全の確保は焦眉の社会問題となり、交通安全対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、45年6月、交通安全対策基本法(昭和45年法律第110号)が制定された。これに基づき、6次にわたる交通安全基本計画を作成し、46年度以降、国、地方公共団体、関係民間団体等が一体となって陸上、海上及び航空交通の各分野において交通安全対策を強力に実施してきた。

 近年の状況を見ると、道路交通事故件数はほぼ一貫して増加しており、平成11年まで4年連続して減少していた道路交通事故による死者数は、12年には微増に転じたところである。21世紀のできるだけ早い段階で安全性を飛躍的に高めた新たな交通システムが出現することが期待されるが、当初は「くるま社会」が更に進展し、一層多くの死傷者が生じることが予想される。また、鉄軌道、海上及び航空交通の各分野においても、大量・高速輸送システムの進展の中で、一たび交通事故が発生した場合には重大な事故となるおそれが常にある。

 交通事故の防止は、国、地方公共団体、関係民間団体だけでなく、国民一人一人が全力を挙げて取り組まなければならない緊急かつ重要な課題であり、人命尊重の理念の下に、21世紀の安全な交通社会の形成に向けて、交通安全対策全般にわたる総合的かつ長期的な施策の大綱を定め、これに基づいて諸施策を強力に推進していかなければならない。

 この交通安全基本計画は、中央省庁再編後の新しい組織体制の下に、交通安全対策基本法第22条第1項の規定に基づき、21世紀初頭の平成13年度から17年度までの5年間に講ずべき交通安全に関する施策の大綱を定めたものである。

 この交通安全基本計画に基づき、国の関係行政機関及び地方公共団体においては、交通の状況や地域の実態に即して、交通の安全に関する施策を具体的に定め、これを強力に実施するものとする。

計画の基本的考え方

 21世紀の安全な交通社会の形成に向けて、人命尊重の理念に立つことはもちろんのこと、交通事故がもたらす大きな社会的・経済的損失をも勘案して、交通事故及びこれによる死傷者根絶の究極目標を目指す立場から、経済社会情勢の変化を踏まえつつ、交通事故の実態に対応した安全対策を講じていく必要がある。

 本計画においては、このような観点から、交通社会を構成する人間、車両・船舶・航空機等の交通機関及びそれらが活動する場としての交通環境という三つの要素について、それら相互の関連を考慮しながら、科学的な交通事故の調査・分析や、交通安全対策に関する効果評価・予測等を充実させ、その成果をも踏まえ、適切かつ効果的な施策を総合的に策定し、かつ、これを国民の理解と協力の下、強力に推進する。

 第一に、人間に対する安全対策については、交通機関の安全な運転・運航を確保するため、運転・運航する人間の知識・技能の向上、交通安全意識の徹底、資格制度の合理化、指導取締りの強化、運転・運航の管理の改善、労働条件の適正化等を図り、かつ、歩行者等の安全な移動を確保するため、歩行者等の交通安全意識の徹底、指導の強化等を図るものとする。また、交通社会に参加する国民一人一人の交通安全思想の高揚と交通安全意識のかん養を図ることが極めて重要であることにかんがみ、交通安全に関する教育、普及啓発活動を充実させる。

 第二に、交通機関が原因となる事故の防止対策としては、不断の技術開発によってその構造、設備、装置等の安全性を高めるとともに、各交通機関の社会的機能や特性を考慮しつつ、高い安全水準を常に維持させるための措置を講じ、さらに、必要な検査等を実施し得る体制を充実させるものとする。

 第三に、交通環境に係る安全対策としては、機能分担された道路網の整備、交通安全施設等の整備、交通管制システムの充実、効果的な交通規制の推進、交通に関する情報の提供の充実等を図るものとする。また、交通環境の整備に当たっては、特に、混合交通に起因する接触の危険を排除するため、必要な方策を講じて、交通の流れを秩序付け、もって安全な通行・運航に資するものとする。

 三要素に関する有効かつ適切な交通安全対策を講ずるに当たっては、その基礎として交通事故原因の総合的な調査・分析の充実・強化、交通の安全に関する科学技術の振興及びそれらの成果の普及を図るものとする。また、交通事故が発生した場合に、その被害を最小限に抑えるため、迅速な救助・救急活動の充実、負傷者の治療の充実、損害賠償の確保等被害者の救済に必要な措置に万全を尽くすよう努めるとともに、被害者等が事故相談を受けられる機会の充実,被害者等への事故概要、捜査経過等の情報の提供,被害者連絡制度の充実等被害者等の心情に配慮した対策を推進するものとする。

 交通の安全に関する施策は、このように多方面にわたっているが、相互に密接な関連を有するので、有機的に連携させ、総合的かつ効果的に実施することが肝要である。また、これらの施策は、高齢化、情報化、国際化等の社会情勢の変化や交通事故の状況、交通事情等の変化に弾力的に対応させるとともに、その効果等を勘案して、適切な施策を選択し、これを重点的かつ効果的に実施するものとする。

 さらに、交通の安全は、交通需要や交通の円滑性・快適性と密接な関連を有するものであるので、自動車交通量の拡大の抑制等によりこれらの視点にも十分配慮するとともに、沿道の土地利用や道路利用の在り方も視野に入れた取組を行っていくものとするほか、防災の観点にも適切な配慮を行うものとする。

 交通事故防止のためには、関係機関・団体の緊密な連携の下に施策を推進するとともに,国民の主体的な交通安全活動を積極的に促進することが重要であることから、国及び地方公共団体の行う交通の安全に関する施策に計画段階から国民が参加できる仕組みづくり、国民が主体的に行う交通安全総点検等により,市民参加型の交通安全活動を推進する。