第3部 航空交通の安全

航空交通の安全

第1節 航空事故のすう勢と交通安全対策の今後の方向

1 航空事故のすう勢

 航空機の大型化及び高速化並びに航空交通量の増大に対応して、航空交通の安全を確保し、事故発生を防止するため、航空保安施設の整備、航空保安業務の近代化、航空機の安全性を確保する体制の充実強化、航空交通に関する情報システムの整備等の施策が進められてきた。
 これらの施策の成果として、我が国の定期航空運送事業における乗客死亡事故は、昭和61年以来皆無であるが、負傷事故や外国航空機、自家用航空機等による死傷事故が依然として発生している。特に近年、外国航空機を利用する日本人旅客が多い中、平成8年にガルーダ・インドネシア航空の航空機が福岡空港から離陸滑走中にオーバーランして炎上し、3名の死者を出す事故が発生した。また、死亡事故には至らなかったものの、平成13年1月には日本航空の航空機による負傷者を出す事故が発生した。一方、小型機の事故発生件数は、近年は多少の変動はあるものの、ほぼ横ばい傾向を示しており、操縦時の不注意や基本的な操作ミス等による事故が散発している。

2 航空交通安全対策の今後の方向

 我が国では、航空法(昭和27年法律第231号)の一部を改正し(平成12年2月1日施行)、航空運送事業において、路線参入の際の需給調整規制の廃止、運賃設定の届出化等、競争環境の整備の観点に立った規制緩和がなされた。今後は航空運送事業への新規参入が増加し、内外での競争の激化が予想される。そのような中で、安全な運航を確保するためには、我が国の航空交通安全行政も、国際的な動向を踏まえた適切な対処が求められる。特に、今後も国際的に航空の自由化が進展していく中で、「欧米諸国と比較した場合には、我が国の安全監視等の体制は十分とはいえない状況にある」ことから、欧米諸国の水準を目標として航空安全確保体制の整備充実を図る必要がある。
 このような観点から、航空交通環境の整備、航空機の安全な運航の確保、航空機の安全性の確保、救助・救急体制の整備、科学技術の振興等の各般の安全対策を充実し、総合的かつ計画的に推進することとする。
 特に、新規施策として重大インシデント(結果的には事故には至らないものの、事故が発生するおそれがあると認められる事態)の分析及び分析に基づく安全対策の推進、外国航空機への立入検査の充実に取り組むほか、次世代航空保安システムの運用に向けた対策の推進に強力に取り組む。
 なお、平成13年1月に発生した日本航空の航空機による事故を踏まえて、航空管制官の訓練体制の強化、ヒューマンエラーを防止するための管制支援システムの整備、管制空域・航空路の抜本的再編等必要な安全対策を検討し、結論を得たものから、速やかに実施することとする。

第2節 講じようとする施策

1 航空交通環境の整備

 航空輸送需要の増大に対応しつつ、航空交通の安全確保を図るため、次世代航空保安システムの整備等を着実に推進することにより、航空交通環境の整備を推進する。

(1)交通安全施設の整備

 空港の整備、管制施設・保安施設等の航空保安システムの整備等については、第7次空港整備七箇年計画に基づき、総合的かつ計画的に推進する。

ア 航空保安施設の整備
 航空交通の増大や多様化に対応して、航空機の安全運航の確保を最優先としつつ、空域の有効利用方策の充実等による航空交通量の増大を図るため、運輸多目的衛星(MTSAT)を中核とした「次世代航空保安システム」の整備を着実に推進するとともに、新規空港の整備の進ちょくに合わせ、レーダー、計器着陸装置(ILS)、航空灯火等、現行の航空保安システムを整備する。
 また、国際民間航空機関(ICAO)が提唱する新CNS/ATM構想(通信、航法、監視についてそれぞれ新技術を導入することによって、航空機運航者が全世界的に継ぎ目なく、予定する出発、到着時刻と、希望する飛行経路、高度とで飛行することを、最小限の制限で、かつ、安全を損なうことなく実現する構想)に基づき、空域管理、航空交通流管理及び航空交通業務が連携して総合的に働く新しいシステムを確立するために、所要の措置を講ずる。

(ア)管制施設の整備

  1. 次世代航空保安システム
     航空路においては、航空機の位置情報を正確にとらえ管制間隔の短縮を図る「自動従属監視(ADS)」、航空機と地上の管制機関との双方向データ通信を実施するための「管制官パイロット間データ通信」及び米国の周回航法衛星(GPS衛星)を用いた衛星航法システム(GNSS)の信頼性を向上させるための「広域航法衛星ネットワーク(MSAS)」機能の整備を推進するとともに、航空機の縦横管制間隔の短縮等を図る。そのほか、増大する航空交通量に対応し、全国の航空交通状況や空域の運用状況を一元的に把握・管理し、航空交通の円滑な流れと安全を確保するための「航空交通流管理(ATFM)」を拡充整備し、通信、航法、監視それぞれについて導入される新技術を活用して、「空域管理(ASM)」、「国際航空交通管理(新洋上管制)」、「航空交通流管理(ATFM)」等を行う「ATMセンター」の構築を図る。
     空港においては、交通の高密度空域における航空機の監視機能の強化等を図るための「改良型二次監視レーダー(SSRモードS)」の導入を図るとともに、安全で円滑な地上走行を確保するための「先進型地上走行誘導管制システム(A-SMGC)」の導入を図る。
  2. 現行航空保安システム
     航空路においては、航空路上の航空機の位置を探知するための「航空路監視レーダー(ARSR)」網の整備は、主要航空路の二重覆域化等についておおむね所期の目的は達しているが、航空交通量の増加が顕著な国際航空路において、更に「洋上航空路監視レーダー(ORSR)」の整備を進めるとともに、既設ARSRの二次監視レーダー(SSR)の覆域拡大を図る。また、飛行計画に関する情報の処理及び管制機関への配信を行うための「飛行計画情報処理システム(FDP)」並びにARSR情報処理及びレーダースコープ上への便名・高度・速度等の表示を行うための「航空路レーダー情報処理システム(RDP)」について所要の性能向上を図るほか、「遠隔対空通信施設(RCAG)」等の機器の性能向上のための整備を推進する。
     空港においては、空港周辺の航空機の位置を探知するための「空港監視レーダー(ASR)」の新設及び性能向上のための整備を図るほか、ASR情報の処理及びレーダースコープ上への便名・高度・速度等の表示を行うための「ターミナルレーダー情報処理システム(ARTS)」等の性能向上を図る。さらに、低高度における水平又は鉛直方向の急激な風向及び風速の変化である低層ウインドシヤーによる航空機事故を未然に防止するための「ウインドシヤー検出装置」の設置を推進する。

(イ)保安施設の整備

  1. 次世代航空保安システム
     航空路においては、航空機に対して地上局からの方位・距離の情報を提供する方位・距離情報提供施設(VOR/DME)等の地上無線施設や衛星航法システム等の位置情報を基に効率的な飛行経路を提供できる「広域航法(RNAV)」の導入を図ることにより、航空交通容量の拡大を推進する。
     空港においては、RNAV経路のターミナル空域への導入を推進するほか、進入フェーズについて広域航法衛星ネットワークシステム(MSAS)の導入を図るとともに、高カテゴリー精密進入については、地上型のGPS補強システムであるGNSS狭域補強システム(GBAS)の導入についてICAO及び機上装置の動向を踏まえ検討する。
  2. 現行航空保安システム
     航空路においては、国際航空路の複線化を踏まえ、航空路を航行する航空機の安全かつ効率的な運航を確保するため、必要に応じてVOR/DME等を整備する。
     空港においては、新設空港の整備に合わせた計器着陸装置(ILS)、VOR/DME、精密進入用灯火等の新設及び既設空港における性能向上のための整備を推進する。また、就航率や定時性の改善による利便性等の向上を図るため、ILS、航空灯火等の高カテゴリー化を必要に応じて検討する。
     また、次世代航空保安システムの整備状況を踏まえると、無指向性無線標識施設(NDB)を廃止できる環境が整いつつあるため、今後、漸次廃止することを検討する。

(ウ)通信施設の整備

  1. 次世代航空保安システム
     航空路においては、明瞭な音声のみならずデータの通信も可能となる「VHFデータリンク」を整備し、通信の高度化を推進する。また、これら空地間データ通信及び地上管制機関間のデータ通信を効率的に伝達し得る世界的な「航空通信ネットワーク(ATN)」の整備を図る。
  2. 現行航空保安システム
     航空路においては、航空交通情報等の伝達・処理を行うための「航空交通情報システム(DTAX、AFTAX、IDP)」及び洋上を航行する航空機との通信を行う「国際対空通信施設(HF)」等の性能向上のための整備を図る。
     空港においては、航空機の安全かつ効率的な運航を確保するための情報を一元的に監視できる「運航管理卓」等の整備の推進及び性能向上を図る。

イ 空港の整備

(ア)大都市圏拠点空港等の整備
 国内・国際航空需要の増大に対応するため、大都市圏における拠点空港の整備を最優先課題として推進するとともに、一般空港等についても、既存施設の高質化等所要の整備を推進する。
 また、航空旅客ターミナル施設においては、旅客の安全確保のため、高齢者、身体障害者等の安全利用に配慮した、段差の解消等のバリアフリー化を推進する。

(イ)空港安全技術の強化
 航空機の安全な運航を確保するためには、滑走路等の施設が定められた基準に従って確実に建設され、かつ、常に諸施設が完全な状態で機能するよう維持管理されることが極めて重要である。このため、空港内の工事に伴う運航の安全確保、飛行場標識施設等の高規格化、オーバーラン等した航空機に対する安全対策、また、舗装構造物の劣化診断、施設の破壊、故障等を未然に防止する予防保全、積雪地における迅速な除雪・融雪等、航空機運航の安全に直接かかわる空港安全技術の強化を図る。
 さらに、空港安全技術に係る新技術を積極的に導入すべく試験研究を推進する。

ウ 空港・航空保安施設の耐震性の強化
 阪神・淡路大震災においても関西国際空港や大阪国際空港の空港・航空保安施設は大きな被害を受けず、両空港は緊急輸送や鉄道・道路の代替輸送拠点として活躍した。しかし、各種施設の被害の甚大さ、重大さにかんがみ、また、大震災時の航空輸送の役割の重要性を踏まえ、空港・航空保安施設について耐震性強化を図る。

(ア)既存の土木施設・建築施設の耐震補強等
 既存の土木施設、建築施設には、旧設計基準によって建設された施設や老朽化等により初期の耐震性能が損なわれている施設がある。これらの施設については、少なくとも現行の設計基準が求める耐震性能を持つように補強する。

(イ)管制施設の多重化等の推進
 一般的な地震動はもとより、高レベルの地震動に際しても、航空機事故防止のため、適切な航空管制が行われなければならない。そのため、管制施設の機能が停止することのないよう、航空路管制施設の抜本的危機管理対策の策定に取り組むものとする。

(ウ)空港の新しい耐震構造の在り方の検討等
 他の機関の耐震強化策の検討動向を考慮しつつ、更に空港の耐震設計基準等の検討を行うとともに、既存空港の液状化対策工法の研究等耐震性強化のための試験研究を推進する。

(2)航空交通管制に係る空域の整備

 我が国周辺の限られた空域を安全かつ有効に利用するため、必要に応じ調整の上、各種空域についての整備を進める。
 また、大都市圏における拠点空港の整備に対応するため、空域利用について関係機関と調整を進めるとともに、次世代航空保安システムに対応した航空路等についての調査等を行う。

(3)飛行検査の充実

 航空交通の安全確保に不可欠な飛行検査業務について、老朽化の著しい現用のYS-11型飛行検査用航空機を次世代航空保安システムにも対応可能な高性能新型機に順次更新するとともに、航空衛星を中核とした次世代航空保安システムの導入に対応させるため、新しい飛行検査体制の整備及び強化を推進する。

2 航空機の安全な運航の確保

 航空従事者の技量の充実等を図るとともに、外国航空機への立入検査などの安全対策を推進することにより、航空機の安全な運航を確保する。

(1)航空従事者の技量の充実等

 定年退職者の増加等により、今後も長期的には、航空運送事業者における航空機操縦士の採用数の増加が見込まれていることから、航空大学校において、航空運送事業者の主力となる操縦要員を養成し、その安定的確保を図るとともに、航空運送事業者の行う自社養成についても、十分な指導を行い、操縦要員の質を確保する。
 航空機の安全運航を確保するためには航空機乗組員の心身の状態が健全であることが極めて重要であるため、航空機乗組員の身体検査を行う医師及び医療機関等について国土交通大臣の指定制度を設けているが、講習会を通じ判定基準の統一的な運用を指導するとともに、航空運送事業者に対して航空機乗組員の日常の健康管理等を十分に行うよう指導する。また、航空運送事業者等に安全に関する情報を周知徹底するとともに、安全意識の高揚を図るよう事業者を指導する。

(2)航空保安職員の教育の充実

 航空衛星システムを中心とする次世代航空保安システム等の導入の進展等に合わせ、職員研修コース・カリキュラム等の見直しを行うとともに、訓練施設の充実を図る。さらに、国際化、経済社会ニーズ等の環境変化に対応できるよう、研修制度の改善、研修体制の強化を推進する。

(3)航空運送事業者等に対する指導・監督の実施、航空安全確保体制の強化による需給調整規制廃止後の安全確保の推進

 需給調整規制廃止に対応し、新規参入事業者の運航・整備体制の審査を充実させるとともに、既存の事業者を含め、その運航・整備体制が引き続き安全基準に適合していることを確認するため、審査体制の強化を図る。
 これらに合わせて、航空機の運航又は整備に関する業務の管理の受委託についても、安全基準への適合性を確実に審査し、航空輸送の安全の確保を図る。
 また、運航の安全に関する情報については、既にホームページ上で公開しているところであるが、更に容易に情報が入手できるようにマスメディア等情報媒体の多角的活用、情報公開基盤の整備等についても検討する。

(4)大型航空機の安全確保に関する対策の強化

 近年の航空機のハイテク化に伴うヒューマンファクター問題、衛星を利用した新たな運航方式等に適切に対応するため必要な対策を推進するとともに、大型航空機を運航する航空運送事業者に、法令及び関係規程の遵守、教育訓練の徹底、安全運航に資する装置の装備促進の指導等を行う。

(5)小型航空機等の事故防止に関する指導等の強化

 小型航空機の事故を防止するため、法令及び関係規程の遵守、小型航空機の運航者に対する教育訓練の徹底、的確な気象状況の把握等について指導を強化する。また、近年普及してきたレジャー航空については、関係団体を通じ事故防止の指導を行う。さらに、災害時における救援航空機等について、ふくそうする航空交通の中での安全運航確保のための施策の充実を図る。

(6)外国航空機の安全の確保

 近年、外国航空機の事故が我が国において発生していること、外国航空機を利用する日本人旅客が多いこと等から、外国航空機の安全性についても関心が高まってきており、我が国においても外国航空機の安全の確保に資することを目的として、諸外国の航空当局が我が国の航空運送事業者の航空機等に対して実施している国際民間航空条約に基づく駐機中の外国航空機への立入検査(ランプ・インスペクション)を平成11年12月から開始したところであり、今後は国際便の就航する地方空港も含め、広くランプ・インスペクションの展開を図る。
 また、国際的な航空輸送における安全性の向上を図るために、ICAOが推進している安全監視プログラムへの参画等を積極的に推進する。

(7)航空機の運航安全システムの充実

 航空機の運航回数の増加に対応して一層の安全を図るため、機能強化型対地接近警報装置等の装備の義務化について検討する。

(8)危険物輸送の安全基準の整備

 医療技術等の発展に伴う放射性物質等の航空輸送量の増加、化学工業の発展に伴う新規危険物の出現等による危険物の航空輸送量の増加及び輸送物質の多様化に対応し、ICAO及び国際原子力機関(IAEA)において国際的にも危険物輸送に関する安全基準の整備・強化が進められているところであり、これらの動向を踏まえ所要の基準の整備を図る。
 特に、航空輸送のみに適用となる大量又は高放射能の放射性物質を輸送するためのC型輸送物基準がIAEA及びICAOにおいて新設されたことに伴い、今後航空関係の専門家等による検討を行い、所要の基準の整備を図る。
 また、航空運送事業者等については、危険物輸送従事者に対する社内教育訓練の徹底を指導する。

(9)航空事故原因究明体制の強化等

 航空事故及び重大インシデントの原因究明の調査を迅速かつ適確に行い、航空事故の防止に寄与するため、調査要員の研修の充実を図るとともに、各種調査用機器の整備の推進に努める。
 また、重大インシデント以外の安全運航に影響を及ぼすおそれのあった事態に関しても情報を収集・分析し、安全施策への反映に努める。

(10)航空交通に関する気象情報等の充実

 航空交通に影響を及ぼす自然現象を的確に把握し、飛行場予報・警報、空域を対象とする気象情報、航空予報図、航空路火山灰情報等の航空気象情報の質的向上と適時・適切な発表及び関係機関への迅速な伝達に努める。また、気象及び火山現象等に関する観測施設を適切に整備・配置し、観測・監視体制の強化を図るものとする。

(11)スカイレジャーに係る安全対策の推進

 超軽量動力機、パラグライダー、スカイダイビング、滑空機、熱気球等のスカイレジャーの愛好者が今後も更に増加することが予想されるため、日本航空協会、関係スポーツ団体等の関係団体を通じた安全教育の充実を図る。

2 航空機の安全性の確保

 技術基準等の整備、情報の収集及び処理体制の充実、検査体制の充実等の安全対策を推進することにより、航空機の安全性の確保を図る。

(1)航空機、装備品等の安全性を確保するための技術基準等の整備

 航空機の安全性の一層の向上を図るため、我が国の航空機の重大故障に関する情報や外国政府、外国メーカー等から得られる安全確保に関する情報を収集、分析及び提供するとともに、技術の進歩等に対応した安全基準の策定、安全性の向上に資する技術に関する調査等の充実を図る。

(2)航空機の安全性に係る情報の収集、処理体制の充実等

 航空機の運航回数の増加に対応して、航空機の安全性に関する情報の収集及び処理体制を強化し、適切な対策を事前に講ずることによって、機材故障等の発生を未然に防止する。
 また、航空機の安全性に関する情報については、運航の安全に関する情報とともに公開されており、今後、情報媒体の多角的活用、情報公開基盤の整備等について検討する。

(3)航空機の検査体制の充実

 国産及び輸入航空機に対する型式証明等における設計検査を充実するとともに、国の検査に代わり基準適合性の確認を行う民間事業者の指導・監督等に万全を期すこと等により、航空機の検査体制の充実を図る。
 また、航空機検査官に対する研修の充実等により、検査の質的向上に努める。

(4)航空機の整備審査体制の充実

 航空機の安全運航に重要な日常の点検整備について、航空機の安全性に関する技術研究の成果、我が国及び外国における運用経験、事故等の原因の解析結果並びに製造国からの情報を的確に把握し、我が国での航空機の使用形態に適合した適切な整備方式を確立するよう、今後とも事業者を指導する。
 また、定期整備の海外委託等整備を取り巻く新しい環境に対応できるよう、航空機の整備に対する審査及び指導体制の充実を図る。

(5)航空機の経年化対策の強化

 ICAOに設置されている耐空性継続パネルにおける審議状況及び体系的な経年機対策が進展している米国の動向等を踏まえ、航空機の経年化対策として疲労及び腐食対策を推進する。

4 救助・救急体制の整備

 航空機の遭難、事故等の事態に迅速かつ適切に対応するため、関係機関相互の連携を強化する等救助・救急体制の整備を図る。

(1)捜索・救難体制の整備

 航空機の遭難、行方不明等に際して、迅速かつ的確な捜索・救難活動を行うため、関係行政機関の合議体である救難調整本部においては、種々の緊急状態に対応した活動計画、訓練、情報の収集・処理体制等を充実するとともに、施設の性能向上等により、連絡・協調体制の強化を図る。

(2)消防体制及び救急医療体制の整備

 国の管理する第1種及び第2種空港の消防体制については、国際的な基準に準拠して、化学消防車の配備等所要の措置を講じて、その充実強化を図る。新東京国際空港及び関西国際空港並びに地方公共団体の管理する第2種及び第3種空港についても、上記に準じ、消防施設等の整備に努めるよう空港管理者を指導する。
 また、空港における救急医療体制については、年次計画に従い救急医療活動に必要な医療資機材の配備等を進めるとともに、救急医療活動が的確かつ円滑に実施できるよう関係医療機関等との連携の強化を図る。
 さらに、空港の所在する市町村における消防・救急体制については、関係消防機関による消防施設の整備を始め、所要の措置を講ずるよう指導する。また、早期に応急手当を実施するため、空港職員の応急手当講習の受講を推進する。

(3)非常脱出確保と非常脱出時の方法の点検

 平成8年に発生した旅客機からの非常脱出時の負傷事故にかんがみ、非常脱出の安全性を向上するために取りまとめられた以下の改善方策を、航空運送事業者に対し、徹底する。

 1) 非常脱出スライドの滑り方等旅客に周知すべき安全情報の周知徹底
 2) 非常脱出時における援助者の確保

5 科学技術の振興等

 航空交通の安全に関する研究開発及び航空事故の原因究明のための調査研究を推進し、その結果を速やかに安全対策に反映させることにより、航空交通の安全の確保を図る。

(1)航空交通の安全に関する研究開発の推進

 独立行政法人の試験研究機関においては、航空通信のネットワーク化に関する研究、衛星航法補強システムに関する研究、自動従属監視に関する研究、空域の有効利用等を目的とした航空交通の管理手法に関する研究、空港面における航空機の視覚誘導システムに関する研究、航空機の安全な離着陸のための滑走路等空港土木施設の研究、事故時の搭乗者保護のための客室安全性向上技術に関する研究、乱気流等を機上で事前に検知する技術の研究等を推進するとともに、関連試験研究機関相互の連絡協調体制の強化による総合的な研究開発を推進する。

(2)航空事故の原因究明のための総合的な調査研究の推進

 航空事故及び重大インシデントの原因究明の調査を迅速かつ適確に行うため、航空機に搭載されている種々型式を異にする飛行記録装置から航空機の運航状態を正確に再現する汎用性のある飛行記録解析システムのハードウェア及びソフトウェアの開発等総合的な調査研究を推進し、その成果を原因の究明に反映させる。

(参考)交通安全基本計画における目標の考え方

<道路交通>

I 死者数の目標値

1 「交通事故の長期予測及び交通安全計画策定に関する調査研究」(平成12年3月)によれば、従前から実施されている交通安全対策が従前と同様に継続される場合、平成17年における交通事故死者予測数は9,000~10,800人になるものと試算されているが、11年及び12年の実際の交通事故死者数を踏まえると、今後高位に推移する蓋然性が高く、17年に10,800人程度になると予想される。

2 以下の新規・拡充施策を実施することにより、800~900人低減させる。

新規・拡充施策を実施図

3 2以外の新規・拡充施策等を実施することにより、「交通事故の長期予測及び交通安全計画策定に関する調査研究」における推計値10,800人から低位推計値(9,000人)と中位推計値(9,900人)の中間値まで1,400人低減させる。

4 これらの新規・拡充施策等を実施することにより、合わせて2,200~2,300人低減させることとなり、平成17年の交通事故死者数は8,500~8,600人程度になると見込まれる。

II 自動車保有台数当たりの死傷者数の目標

  1. 交通事故死傷者数は,昭和52年以降基本的に増加傾向にあり、平成12年では116万4,763人(対前年比9.9%増)と,3年連続して過去最悪を更新している。
  2. 自動車保有台数1万台当たりの死傷者数は,近年は130人台前半で推移していたが,平成11年には141人となるなど大幅な増加に転じている。
  3. 以上のような近年の情勢にかんがみると、自動車保有台数当たりの死傷者数を可能な限り減少させる必要がある

<海上交通>

1 第1次交通安全基本計画が策定された昭和46年から平成11年までの海難及び船舶からの海中転落による死亡・行方不明者数データを用いて回帰分析(時系列分析)を行うと、従前から実施されている交通安全対策が従前と同様に継続される場合、平成17年における海難及び船舶からの海中転落による死亡・行方不明者数は、260人になるものと試算される。

2 以下の新規・拡充施策を実施することにより、60人低減させる。

新規・拡充施策を実施図

3 2の新規・拡充施策を実施することにより、平成17年の海難及び船舶からの海中転落による死亡・行方不明者数は200人程度になるものと見込まれる。