交通事故被害者の支援 第5章 交通事故被害者支援関係者の対応
危機介入がライフライン回復のために、支援者から危機に陥っている人たちへ半ば強引に手助けをすることと考えるならば、緊急カウンセリングは危機に陥った人が助けを求めて、支援者に歩み寄ってくることに対する精神的ケアと考えられる。
しかしながら、日本では「緊急カウンセリング」がその明確な意味の下に活用されることは極めて稀であるように思われる。特に重い傷を負った被害者自身に対する緊急カウンセリングは、治療を含めて医療機関に委ねられるものであり、支援者が直接関わることはほとんどないであろう。
むしろ、直接支援として行われる危機介入と同時に、カウンセリングマインドを軸に据えた情報提供、コンサルテーションと捉えたほうが実状に合っているように思われる。
交通事故は、元気な姿で再会できるという確約があったはずの家族が、何の予告もなく無言の帰宅をするという非情な事態である。混乱状態にある被害者の自宅が支援の現場になることが多く、茫然自失の被害者に付き添い、心理状態、身体状態に気を配ることから支援が始まる。このような行為は、言葉のないカウンセリングといえるかもしれない。
被害者が父・母・子ども・祖父母・その他の場合によって多少は支援の仕方が違ってくるが、家族の一員が亡くなるようなことがあれば、通夜・葬儀の問題が起こってくる。
まず、宗教的な違いなどがあるが、葬儀社を探すことから始まり、選択・依頼・費用については、当事者である家族では決断ができず、業者の言いなりになる場合が多い。これに対して遠くから駆けつけた親族は、地域性や近所との付き合いが分からないため、どこまで介入してよいのか判断がつきにくい。また、それぞれが主導権を取ろうと見えない争いなども起こり、客観的な立場で助言できる支援者の力が必要と思われる。
混乱している最中では、親類や親しい人への通知などでも、かなり手間取ることが予想される。支援者はその場の状況をすばやくキャッチして、当事者が安心して故人の世話ができるような体制を保てるように行動しなければならない。その際、気をつけなければならないことは、細かなことでも一つ一つキーパーソンの当事者に確認をしながら進めていくことである。これは大切なことである。
場合によっては、買い物、子どものお守りなど、身の回りの具体的な支援の希望もあるが、カウンセリングということであれば、時間の経過のなかで被害者の心身に起こりうる症状などについての情報を、無理のない形で伝えることも大切である。
また、加害者から連絡(自宅訪問、通夜・葬儀への出席、お見舞い金、示談など)がきた場合の対応についてのアドバイスも必要である。被害者は、何も決められない精神状態にあるため、支援者は被害者のおかれている状況を的確に判断しつつ、その気持ちを受け止め細心の注意を払いながら行う必要がある。
いずれにしても、通常の形をとらない緊急カウンセリングは、その後の被害者の回復に大きな影響を及ぼすことになる。事故からしばらくは無我夢中で生活をしているが、親戚縁者が帰り、通常の生活パターンに戻ったときに、以前とは全く違った生活になっていることを思い知らされ、衝撃を受けることがあるという精神状態についても説明しておくことが必要なケアとなる。
状況によっては、その場にいる親類や知人を介して被害者に継続的支援を提供できるように、電話をかけたり手紙を送ったりするような関係をつくっておくことも大切である。定期的に連絡を取ることにより、被害者に「いつでも助けを求めることができる人がいてくれる」という気持ちを持ってもらうことは、回復の第一歩となる。
緊急カウンセリングは、被害者がたどる長く険しい回復の過程を支え、危機介入以降の継続的支援につなげていくという大切な役割を担っている。