交通事故被害者の支援 第5章 交通事故被害者支援関係者の対応
交通事故の被害者からの電話相談への対応は、その他の犯罪の被害者への対応と、さまざまな共通部分があるように思われる。
被害者が自ら受話器をとって、相談機関に電話をかけるためには、かなりの勇気とエネルギーが必要であると思われるので、相談を受ける側はまずそのことを心に留めて話を聴かなければならない。
交通事故の被害者からの相談は、被害状況によって求められる支援の内容がかなり違ってくる。
(社)被害者支援都民センターへの電話相談では、事故後の補償に関するものが一番多い。そのような相談では自賠責保険、任意保険についての質問、示談への対応、支払い能力のない加害者への対応、民事裁判への対応など、アドバイスや情報を求められる場合がほとんどなので、ある程度の知識は必要である。
場合によっては、弁護士を紹介するなど、現実生活の中で具体的に対処していかなければならない事柄を手助けしていくという支援になる。
交通死亡事故及び重傷を負うような事故の被害者の場合は、直後に相談がくることはほとんどなく、数週間後、数カ月後あるいは数年後のこともある。
その内容は精神的ケアを必要とするものが多く、具体的には「なかなか立ち直れない、辛い状態がいつまで続くのか。本当に立ち直れるのか」というように、不安や焦りなど、心理的な問題を抱えている。
なかには「夫(妻)と気持ちを共有することができず、助け合うことができない」、「残された子供に心を配ることができない」など、家族が危機的状況になっていて、それぞれにケアが必要なケースもある。
また、警察・検察への対応、遺族の場合は、通夜や葬儀などの対応に追われたり、周囲の人からの心ない言葉に傷ついたりと、心身共に疲れ果てて、相談電話をかけてくる被害者や、刑事裁判に納得できず、その怒りをぶつけてくる被害者も多い。
このような被害者の相談に対応するに当たって留意すべき点がいくつか挙げられる。
1) | まず傾聴すること。怒り、悲しみ、苦しみの気持ちをじっくり聴く。相談者が安心感を持つと事故や被害の内容、自分の感情などについて話せるようになる。客観的な話ばかりする場合でも、その背後には電話をかけたいとの気持ちがあるはずなので、心配りが必要である。 |
2) | 相談者の言葉を簡単に言い換えたり、要約したりしない。相談者が支援者との間にずれを感じはじめると、次第に話すことができなくなり「分かってもらえない」という失望感につながってしまう。 |
3) | 死亡事故の場合、亡くなった人との生前の関係で、遺族のなかでも思いに差があることを理解する。そのことを伝えることが、相談者の気づき、安心感につながることもある。 |
4) | 裁判中の場合、現実の対応に追われて心身のケアがおろそかになっていることがあるので、気づいたことは伝える。本人の準備ができていないのに、周囲の動きに押されて心身共に行き詰まっている場合には、応答の積み重ねの中で、何が大切か気づかせたり、一緒に考えていくことを提案する。 |
5) | 悲しみや怒りの感情が出てきて、ちょっとしたことで泣いてしまったり、不安定になることを訴えたり、生活感覚(食べる、着る、寝るなど)や季節感覚が失われていることを訴える場合は、「当然で、正常な反応である」ことを伝える。 |
6) | これから起きるかもしれないフラッシュバックや、記念日反応についてもあらかじめ伝えたほうがよい場合もある。 |
交通事故に限らず、事件や事故に巻き込まれてしまった被害者は、それまでの人生を理不尽にも寸断されてしまった状況にある。日常生活、人間関係、将来の展望、それらに付随する喜びや楽しみ、充足感などの感情もすべて失ってしまう。それは、想像することすら困難な被害者にとっては厳しい現実なのである。
相手の姿が見えない電話相談において、そのような過酷な状況に置かれている被害者に対してできる支援は限られている。しかし、自らその電話の受話器をとる被害者のために、電話だからこそできる支援もあるはずである。
被害者は「言えるときに、言える人に、言える言葉を伝えたい」という思いを持っている。その被害者の思いを心に留めて、電話相談に向かうことが大切である。