平成22年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第2編 海上交通
第1章 海難等の動向
第2編 海上交通
第1章 海難等の動向
1 近年の海難等の状況
我が国の周辺海域において、交通安全基本計画の対象となる海難に遭遇した船舶（以下「海難船舶」という。）の隻数の推移をみると、第2次交通安全基本計画期間（昭和51～55年度）の年平均隻数では3,232隻であったものが、平成22年では、2,395隻となっており、約3割減少した（第2-1図）。
これを用途別にみると、漁船の海難は1,382隻（全体の43％）であったものが、705隻（29％）まで減少し、貨物船の海難は864隻（27％）であったものが341隻（14％）まで減少した。
一方、モーターボート、ヨット等のプレジャーボート※及び遊漁船（以下「プレジャーボート等」という。）の海難は376隻（12％）であったものが、1,057隻まで増加し、全体の44％を占めるに至った。
※プレジャーボート
モーターボート、ヨット、水上オートバイ等個人がレジャーに用いる小型船舶。スポーツ又はレクリエーションに用いられるヨット、モーターボート等の船舶の総称。
このほか、タンカーの海難は、199隻であったものが88隻まで減少し、旅客船の海難については75隻であったものが50隻まで減少した（第2-2図）。
このような海難船舶の状況から、船舶自動識別装置（AIS）※を活用した次世代型航行支援システムの整備・運用を始め、海難防止思想の普及、民間団体の海難防止活動の展開、気象・海象情報の提供の充実等の各種安全対策を計画的に推進してきた成果が認められる反面、プレジャーボート等の海難の増加については、近年の国民の余暇志向の高まりに伴い、マリンレジャーが急速かつ広範に国民に普及し、運航のための初歩的な知識・技能の不足した運航者の増加が、その背景にあるものと考えられる。
※船舶自動識別装置（AIS）
AISは、船名、大きさ、針路、速力などの航海に関する情報を自動的に送受信する装置で、総トン数300トン未満の旅客船及び総トン数300トン以上の船舶であって国際航海に従事するもの並びに総トン数500トン以上の船舶であって国際航海に従事しないものへの搭載が義務付けられている。
また、交通安全基本計画の対象となる船舶からの海中転落者数の推移をみると、第2次交通安全基本計画期間の年平均人数では313人であったものが、平成22年では147人となっており、5割以上の減少となった（第2-3図）。
海難による死者・行方不明者の数は、第2次交通安全基本計画期間の年平均で426人であったものが、平成22年では103人となっており、7割以上の減少となった。（第2-1図）
また、船舶からの海中転落による死者・行方不明者の数は、第2次交通安全基本計画期間の年平均で268人であったものが、平成22年では94人となっており、6割以上の減少となった。
2 平成22年中の海難等及び海難救助の状況
（1）海難等の状況
- ア
- 海難船舶等の状況
平成22年の海難船舶は、2,395隻、278万総トンであり、次のような特徴がみられる。 - （ア）
- 用途別状況
船舶の用途別では、プレジャーボート等が1,057隻（44％）、漁船が705隻（29％）、貨物船が341隻（14％）、タンカーが88隻（4％）、旅客船が50隻（2％）、その他が154隻（7％）である。 - （イ）
- 海難種類別状況
海難種類別では、衝突が814隻（34％）、乗揚が327隻（14％）、機関故障が352隻（15％）等である。 - （ウ）
- 距岸別状況
距岸別では、港内が917隻（38％）、港内を除く3海里未満が1031隻（43％）、3海里以上12海里未満で発生した海難が317隻（13％）となっており、12海里未満で発生した海難が全体の94％と大半を占めた。 - （エ）
- 海難原因別状況
海難原因別では、見張不十分が558隻（23％）、操船不適切が366隻（15％）、気象・海象不注意が157隻（7％）等運航の過誤によるものが全体の67％を占め、これに機関取扱不良240隻等を加えた人為的要因に起因するものが全体の79％を占めた。
また、船舶からの海中転落者数は147人で、これを船舶の用途別にみると、漁船が87人（59％）で最も多く、次いでプレジャーボート等が28人（19％）、一般船舶が32人（22％）である。 - イ
- 死者・行方不明者の発生状況
平成22年における、海難による死者・行方不明者数は103人（前年より39人減少）であり、このうち78％が漁船、16％がプレジャーボート等によるものである。
また、船舶からの海中転落による死者・行方不明者数は、94人（前年より46人減少）であり、このうち63％が漁船、14％がプレジャーボート等によるものである。
なお、第8次交通安全基本計画においては、年間の海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数を平成22年までに220人以下とすることを目指しているが、22年は197人（21年は282人）であった。
（2）海難救助の状況
- ア
- 海難船舶等の救助状況
平成22年は、海難船舶2,395隻の中で自力入港した880隻を除いた1,515隻のうち、1,334隻が救助され、救助率（自力入港を除く海難船舶隻数に対する救助された隻数の割合）は88％であった。海上保安庁は、巡視船艇延べ2,504隻、航空機延べ482機及び特殊救難隊員延べ120人を出動させ、海難船舶531隻を救助した。また、それ以外の海難船舶についても、巡視船艇・航空機による捜索、救助手配等を行っており、合わせると1,627隻の海難船舶（全体の68％）に対して救助活動を行った（第2-4図）。 
- （CSV形式：1KB）
- イ
- 人命の救助状況
平成22年は、海難船舶の乗船者1万3,198人の中で自力救助の8,759人を除いた4,439人のうち4,364人が救助され、救助率（自力救助を除く海難船舶の乗船者に対する救助された人数の割合）は98％であった。
また、船舶からの海中転落者147人の中で自力救助の12人を除いた135人のうち41人が救助され、救助率（自力救助を除く海中転落者に対する救助された人数の割合）は30％であった。海上保安庁は、巡視船艇延べ253隻、航空機延べ155機を出動させ、海中転落者（自力救助を除く。）4人を救助した。
3 平成22年中のプレジャーボート等の海難等及び海難救助の状況
（1）海難等の状況
平成22年のプレジャーボート等の海難船舶隻数は1,057隻であり、前年より18隻減少した。これに伴う死者・行方不明者数は13人であり、前年より15人減少した。
この1,057隻についてみると、次のような特徴がみられる。
- ア
- 船型別状況
船型別では、モーターボートが720隻（68％）、遊漁船が94隻（9％）、ヨットが91隻（9％）、水上オートバイが91隻（9％）、手漕ぎボートが61隻（6％）である（第2-5図）。 
- （CSV形式：1KB）
- イ
- 海難種類別状況
海難種類別では、機関故障が234隻（22％）、衝突が218隻（21％）、運航阻害が151隻（14％）、乗揚が147隻（14％）、推進器障害が80隻（8％）、浸水が65隻（6％）、転覆が39隻（4％）、安全阻害が30隻（3％）等である（第2-6図）。 
- （CSV形式：1KB）
- ウ
- 海難原因別状況
海難原因別では見張り不十分が205隻（19％）、機関取扱不良が170隻（16％）、船体機器整備不良が157隻（15％）、操船不適切が112隻（11％）、気象・海象不注意が83隻（8％）等の人為的要因に起因するものが全体の80％を占めた（第2-7図）。 
- （CSV形式：1KB）
- また、プレジャーボート等からの海中転落者数は28人で前年より17人減少した。このうち、死者・行方不明者数は13人で前年より16人減少した。
（2）海難救助の状況
平成22年は、プレジャーボート等の海難船舶1,057隻の中で自力入港した212隻を除いた845隻のうち772隻が救助され、救助率は91％であった。海上保安庁は、巡視船艇延べ945隻、航空機延べ136機及び特殊救難隊員延べ49人を出動させ、404隻を救助した。また、それ以外の海難船舶についても、巡視船艇・航空機による捜索、救助手配等を行っており、合わせると814隻の海難船舶（プレジャーボート等の海難船舶全体の77％）に対して救助活動を行った。