平成22年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況
第2編 海上交通
第2章 海上交通安全施策の現況
第3節 船舶の安全な運航の確保
第2編 海上交通
第2章 海上交通安全施策の現況
第3節 船舶の安全な運航の確保
1 船員の資質の向上
深刻な海難を機に締結された「1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」(STCW条約)においては、船舶の航行の安全性を担保するための船員の知識・技能に関する国際基準が定められている。同条約に対応し、船舶職員及び小型船舶操縦者法(昭26法149)に基づく海技士試験の際、一定の乗船実務経験を求めつつ、最新の航海機器等に対応した知識・技能の確認を行うとともに、5年ごとの海技免状の更新の際、一定の乗船履歴又は講習の受講等を要求することにより、船舶職員の知識・技能の最新化を図った。
また、実践的な訓練を実施するための練習船の整備を促進し、船員教育訓練の充実に努めた。
さらに、船舶の安全な運航を確保し海難事故の未然防止等を図るため、船員法(昭22法100)に基づき、発航前検査の励行、操練の実施、航海当直体制の確保、救命設備及び消火設備の使用方法に関する教育・訓練等について指導を行うとともに、これらの適確な実施を徹底するため、運航労務監理官による監査を行った。
2 船舶の運航管理等の充実
(1)運航労務監査の強化
適切な船舶の運航管理の強化や船員の労働環境の整備等を通じた航行の安全を確保するため、全国の地方運輸局等に配置された運航労務監理官は旅客船・貨物船等を対象として、海上運送法、内航海運業法等に基づく監査を行うとともに、監査手法の改善と体制の充実に努め、その強化を図った。また、事業者の安全統括管理者及び運航管理者に対する研修等を実施し、安全意識の向上と海難防止に向けた取組の改善等を推進した。
さらに、大量の輸送需要が発生する年末年始における交通機関の安全性向上を図るため、平成22年12月10日から平成23年1月10日までの間、「年末年始の輸送等に関する安全総点検」として、海運事業者による自主点検や地方運輸局等による現地確認を行った。特に平成22年度は事業者による自主点検の実施率向上を図るため、業界団体を通じた周知の実施や点検事項の見直しを行った結果、約3%の自主点検の実施率向上が図られた。
(2)重大事故等の再発防止対策
悪質な法令違反や重大事故等が発生した場合は、運航労務監理官による迅速かつ機動的な監査を実施し、原因の究明、安全管理体制の再構築や運航管理の徹底に向けた法令に基づく関係者の処分や指導、全国における同種事故の再発防止対策等を実施している。例えば、平成22年6月、熊本県天草市沖において、法定職員不在のまま運航していた事業者による衝突事故発生を受け、立入検査を実施した結果、同年8月に海上運送法に基づく「輸送の安全確保に関する命令」を発出した。また、平成21年11月に発生したフェリー「ありあけ」事故に関して、平成22年5月から平成23年3月にかけて「フェリー大傾斜事故防止対策検討委員会」を開催し、再発防止対策の検討を進めた。平成23年2月に公表された運輸安全委員会の調査結果において、<1>追い波中の危険な状況下を航行していたことで復原力が低下し大傾斜が発生したこと、<2>大傾斜の際に固定措置が不十分であった貨物の荷崩れが発生し船体傾斜が戻らなくなったこと、が原因として挙げられたことを踏まえ、3月に、<1>大傾斜防止のための操船、<2>貨物の移動防止のための固定措置、の2つの観点から再発防止対策の取りまとめを行った。
(3)運輸安全マネジメント制度の充実
平成18年10月に導入された「運輸安全マネジメント制度」により、事業者が経営トップから現場まで一丸となって安全管理体制を構築し、国がその実施状況を確認する運輸安全マネジメント評価を22年12月末までに延べ2,181社に対して実施した。
3 船員災害防止対策の推進
第9次船員災害防止基本計画(5か年計画)に基づき、平成22年度船員災害防止実施計画を作成し、安全衛生管理体制の整備とその活動の推進、死傷災害の防止を図るとともに、生活習慣病を中心とした疾病予防対策及び健康増進対策の推進を図るなど、船舶所有者、船員及び国の三者が一体となって船員災害防止対策を強力に推進した。また、船舶所有者等が自主的に船員災害に係るリスクアセスメントとPDCAサイクルという一連の過程を定めて継続的な改善を行うことにより安全衛生水準の継続的かつ段階的な向上を図る「船内労働安全衛生マネジメントシステム」の普及を図った。
4 水先制度による安全の維持・向上
水先とは、船舶が輻輳する水域等、交通の難所において水先人が乗り込み船舶を導く制度である。水先人が着実に業務を遂行できるような環境の整備を行うため、水先制度の抜本改革の一環として平成19年に導入された水先人養成制度の適切な運用に努めることで、安全で円滑な船舶交通の確保を図った。
5 海難原因究明等の充実
運輸安全委員会は、船舶事故及び船舶事故の兆候(インシデント)に関し、当該事故等が発生した原因や、事故による被害の原因を究明するための調査を行うとともに、その調査結果をもとに、国土交通大臣に意見を述べること等により、船舶事故等の再発防止や船舶事故による被害の軽減に努めている。
船舶事故等の原因究明の調査を迅速かつ適確に行い、船舶事故等の防止に寄与するため、各種調査用機器の活用による分析能力の向上に努めるとともに、事故等調査を担当する職員の専門調査技術の向上を図るため、最新の航海機器や運航技術等に関する各種専門研修に参加した。
また、アジア船舶事故調査官会議(MAIFA)の開催及び国際船舶事故調査官会議(MAIIF)等への積極的な参加を通じて、国際協力体制の構築を推進したほか、国際海事機関(IMO)における各国の船舶事故調査報告書の分析に係る会合に参画し、事故の再発防止に役立つ教訓を導き出す作業に貢献した。
さらに、(独)海上技術安全研究所に設置されている「海難事故解析センター」において、事故解析に関して高度な専門的分析を行うとともに、重大海難事故発生時の迅速な情報分析・情報発信を行っている。
6 海難審判による懲戒処分等の状況
平成22年中に行われた海難審判の裁決は計330件であり、海技士若しくは小型船舶操縦士又は水先人の職務上の故意又は過失により海難が発生したとして、業務停止235人、戒告197人の計432人を懲戒処分とした。
懲戒を受けた者を免許種類別にみると、一級小型船舶操縦士免許受有者が226人と最も多く、次いで二級小型船舶操縦士免許受有者が73人、四級海技士(航海)免許受有者が42人、五級海技士(航海)免許受有者が42人、三級海技士(航海)免許受有者が15人である。(第2-1表)
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