特集 「先端技術を活用した交通安全の取組」
I 交通安全対策における先端技術の必要性

目次]  [前へ]  [次へ

I 交通安全対策における先端技術の必要性

1 近年の道路交通事故の状況

平成29年中の交通事故発生件数は47万2,165件で,これによる死者数は3,694人,負傷者数は58万850人であり,前年と比べると,発生件数は2万7,036件(5.4%),死者数は210人(5.4%),負傷者数は3万8,003人(6.1%)減少した。

交通事故発生件数及び負傷者数は13年連続で減少しているほか,死者数も減少傾向にあり,現行の交通事故統計となった昭和23年以降で最少となった。しかし,近年では交通事故死者数の減少幅が縮小する傾向にある(特集-第1図)。

特集-第1図 道路交通事故による交通事故発生件数,死者数及び負傷者数の推移。近年はいずれも減少傾向にある

(1)近年の道路交通事故の特徴

近年は,他の年齢層に比べて致死率が約6倍高い65歳以上の高齢者(以下「高齢者」という。)の人口は年々増加しており,交通事故死者数全体に占める高齢者の割合も高い水準で推移している(特集-第2・3図)。このことが,全体の死者数の減少幅の縮小や,全体の致死率の上昇にもつながっていると考えられる。

特集-第2図 交通事故死者数及び致死率の推移。死者数は減少傾向にあるが、致死率が上昇傾向にある
特集-第3図 高齢者及び高齢者以外の交通事故死者数の推移。いずれも減少傾向にあるが、高齢者の減少幅は小さい
  平成19 20 21 22 23 14 25 26 27 28 29年
高齢者の割合(%) 47.4 48.4 49.9 50.3 49.2 51.4 52.6 53.3 54.6 54.8 54.7

注 警察庁資料による。

高齢者の状態別死者数についてみると,歩行中972人(48.1%)は,他の状態(自動車乗車中579人(28.7%),自転車乗用中326人(16.1%),原付乗車中88人(4.4%),自動二輪車乗車中48人(2.4%))と比較して高い水準にある(特集-第4図)。

特集-第4図 高齢者の状態別交通事故死者数の推移。自動車乗車中、自動二輪車乗車中、自転車乗用中、歩行中のうち、歩行中がほぼ半数を占める

(2)交通死亡事故の要因

交通死亡事故発生件数の推移を法令違反別にみると,原付以上運転者(第1当事者1)では,漫然運転,脇見運転又は運転操作不適による死亡事故件数は,他の法令違反による死亡事故件数と比較して,多くなっている(特集-第5図)。

1 第1当事者:交通事故の当事者のうち,過失が最も重い者又は過失が同程度の場合は被害が最も軽い者をいう。

特集-第5図 法令違反別の交通死亡事故件数の推移(原付以上運転者(第1当事者))。いずれも減少傾向にある。29年は、漫然運転、運転操作不適、脇見運転の件数が多い

また,75歳以上の原付以上運転者(第1当事者)による死亡事故の人的要因としては,操作不適が最も多く,特にブレーキとアクセルの踏み間違いの割合が75歳未満の運転者と比較して高い(特集-第6図)。

特集-第6図 75歳以上・75歳未満の原付以上運転者(第1当事者)の人的要因別死亡事故件数。75歳以上の高齢運転者では操作不適が最も多く、75歳未満の運転者では安全不確認が最も多い

以上にみるとおり,交通事故の多くが運転者の不注意に起因していることを踏まえれば,例えば自動運転技術等の発展は,事故の減少に大きく貢献する可能性があり,また,自動ブレーキ等の先進安全技術についても,事故削減効果が大きく期待される。

一方,先進安全技術は運転者の安全運転を支援するものであり,その機能には限界があることから,運転者は,その機能の限界や注意点を正しく理解し,機能を過信せず,責任を持って安全運転を行うことが必要である。

先進安全自動車に関する国民の認識調査

「先進安全自動車に関する消費者の使用実態」について,独立行政法人国民生活センターが先進安全自動車を購入し使用していた2,000人に対して実施したインターネットアンケート調査の結果によれば,2,000人のうち,約2割の回答者が想定外の出来事を体験し,そのうち約2割に物的損害があったと回答している。また,「現在実用化されている先進安全装置は,完全な自動運転ではなく,ドライバーは機能を過信せずに安全運転をする必要があること」について,約8割が「理解している」又は「よく理解している」と回答した一方で,2割弱が「聞いたことはあるが理解していない」又は「理解していない」と回答している。

先進安全自動車は交通事故削減の効果が期待されるが,装置の機能の理解が十分でなかったり,機能を過信して使用したりすると,予期せぬ時に機能が作動したり,逆に作動せずに事故につながる危険性も考えられる。

消費者に対し,「先進安全装置の機能には限界があること」や「機能を過信せず,安全運転を心がけること」等のアドバイスを行うとともに,自動車の製造や販売等の業界に対し,「消費者への分かりやすい説明」や「先進安全装置の注意事項に関する徹底した消費者への周知」することが重要となる。

(平成30年1月18日付 独立行政法人国民生活センター報道発表資料に基づき内閣府において作成。)

2 交通事故発生時の救助・救急活動の状況

(1)事故発生から医療機関への搬送まで

交通事故により負傷者が発生した場合,通常,事故当事者等(同乗者や目撃者を含む。以下同じ。)から消防本部に対して,事故の発生場所や状況等について通報がなされ,通報を受けた消防本部から事故現場に救急隊等が出動する。現場に到着した救急隊等により,受傷者の応急処置や受傷の程度を踏まえた受入医療機関の選定が行われ,救急自動車やドクターヘリ等により,救急医療機関に搬送される。

(2)交通事故に関する救急搬送等の状況

ア 交通事故に関する救助・救急状況

平成28年中の救急自動車による救急出動件数は,620万9,964件,搬送人員562万1,218人となっている。このうち,交通事故による救急出動件数及び搬送人員は,それぞれ48万8,861件(7.9%),47万6,689人(8.5%)となっている(特集-第1表)。

特集-第1表 救急自動車による救急出動件数及び搬送人員の推移
  区分 救急出動件数 救急搬送人員
全出動件数 全搬送人員
    うち交通事故
による件数
全出動件数に
対する割合
  うち交通事故
による人員
全出動人員に
対する割合
 
平成24年 5,802,455 543,218 9.4 5,250,302 539,809 10.3
25 5,915,683 536,807 9.1 5,346,087 529,544 9.9
26 5,984,921 518,372 8.7 5,405,917 508,013 9.4
27 6,054,815 501,321 8.3 5,478,370 490,797 9.0
28 6,209,964 488,861 7.9 5,621,218 476,689 8.5

注 総務省消防庁資料による。

イ 現場到着,病院収容までの所要時間の状況

救急要請の通報を受けてから,救急自動車が現場に到着するまでの平均所要時間をみると,平成28年は,全体が8.5分であるのに対し,交通事故については9.2分と全体の平均より長く,また,内訳をみると,他の種別に比べ,10分以上要している件数の割合が多くなっている(特集-第2表)。

特集-第2表 事故種別の平均現場到着所要時間(平成28年 単位:件)
  現場到着
所要時間
3分未満 3分以上
5分未満
5分以上
10分未満
10分以上
20分未満
20分以上 平均(分)
事故種別
件数   79,574 467,980 3,778,131 1,768,940 115,339 6,209,964 8.5
(1.3) (7.5) (60.8) (28.5) (1.9) (100)
44,417 269,790 2,463,003 1,139,735 58,435 3,975,380 8.5
(1.1) (6.8) (62.0) (28.7) (1.5) (100)
交通事故 6,037 33,789 279,297 150,705 19,033 488,861 9.2
交通事故の場合,平均より時間がかかっている
(1.2) (6.9) (57.1) (30.8) (3.9) (100)
一般負傷 11,086 63,393 555,965 277,227 18,685 926,356 8.7
(1.2) (6.8) (60.0) (29.9) (2.0) (100)
その 18,034 101,008 479,866 201,273 19,186 819,367 8.2
(2.2) (12.3) (58.6) (24.6) (2.3) (100)
注 1
総務省消防庁資料による。
2
( )内は構成比(単位:%)を示す。
3
端数処理(四捨五入)のため,割合・構成比の合計は100%にならない場合がある。

また,救急自動車による,救急要請の通報を受けてから病院収容までの所要時間にみると,全体の平均が39.3分に対し,交通事故については40.6分と全体の平均より長く,内訳についても,一般負傷に次いで30分以上の時間を要している人数の割合が多くなっている(特集-第3表)。

特集-第3表 事故種別の平均病院収容所要時間(平成28年 単位:人)
  収容所要
時間
10分未満 10分以上
20分未満
20分以上
30分未満
30分以上
60分未満
60分以上
120分未満
120分以上 平均(分)
事故種別
搬送
人員
  1,361 187,105 1,422,948 3,473,367 515,436 21,001 5,621,218 39.3
(0.0) (3.3) (25.3) (61.8) (9.2) (0.4) (100)
524 102,881 917,106 2,279,667 297,070 10,694 3,607,942 38.9
(0.0) (2.9) (25.4) (63.2) (8.2) (0.3) (100)
交通事故 76 13,379 111,147 298,506 51,599 1,982 476,689 40.6
交通事故の場合,平均より時間がかかっている
(0.0) (2.8) (23.3) (62.6) (10.8) (0.4) (100)
一般負傷 165 22,225 190,322 537,262 94,017 3,880 847,871 41.0
(0.0) (2.6) (22.4) (63.4) (11.1) (0.5) (100)
その
(上記以外)
596 48,620 204,373 357,932 72,750 4,445 688,716 38.6
(0.1) (7.1) (29.7) (52.0) (10.6) (0.6) (100)
注 1
総務省消防庁資料による。
2
( )内は構成比(単位:%)を示す。
3
端数処理(四捨五入)のため,割合・構成比の合計は100%にならない場合がある。
ウ 迅速な対応の必要性

交通事故によって生命に危険を及ぼす傷害を負った場合,医師による治療を受けるまでに時間がかかると,救命率が低下するといわれており,一刻も早く医師による治療を受ける必要がある。したがって,事故が発生した場合,直ちに事故当事者等から消防本部に対して,事故の発生場所や事故の状況が正しく通報(119番通報)されることが重要である。

また,交通事故の場合,単独の事故や深夜帯の事故において,生命に危険を及ぼす傷害を負った場合に,事故当事者等が直ちに通報できない事案もみられることから,その重要性は高く,迅速な通報に資する技術革新が期待される。

3 先端技術の必要性

近年の道路交通事故の発生状況やその要因を踏まえつつ,第10次交通安全基本計画の目標である「平成32年までに24時間死者数を2,500人以下とし,世界一安全な道路交通」を実現するためには,事故が起きにくい環境を作っていくことが重要であり,これまでの施策を一層充実させるとともに,交通安全に資する先端技術の普及活用の促進,研究開発を強力に推進していく必要がある。

道路交通の安全に関わる先端技術は多岐にわたる中で,まず,「車両」に関わる技術,「道路」に関わる技術,運転者や歩行者等「人」に関わる技術,の大きく3つがあり,これら複数の対象に関わる技術も考えられる(特集-第7図:先端技術のイメージ)。

特集-第7図 先端技術のイメージ。車両、道路、人の3種の領域があり、それぞれ一部は他と重なっている

また,交通事故の類型毎に効果的な対策を実施するためには,事故類型に対応した技術,すなわち,人対車両の事故,車両対車両の事故,車両単独の事故などに応じた技術開発も重要である。

さらに,事故の発生自体の予防に資する技術(例:定速走行・車間距離制御装置)とともに,事故が発生した場合の被害を軽減するための技術(例:エアバッグ,現場急行支援システム等)の双方が重要である。世界一安全な道路交通の実現に向けて,それぞれの技術の特徴を正しく理解し,人口構造や社会経済の変化,技術への期待とニーズの変化を的確にとらえ,多様な先端技術の開発,普及を推進していく必要がある。

目次]  [前へ]  [次へ