I 現況の概要 第1編 陸上交通 第1部 道路交通
第2章 道路交通安全施策の現況

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第1編 陸上交通

第1部 道路交通

第2章 道路交通安全施策の現況

1 道路交通環境の整備
生活道路等における人優先の安全・安心な歩行空間の整備

地域の協力を得ながら,通学路,生活道路,市街地の幹線道路等において,歩道を整備するなど,「人」の視点に立った交通安全対策を推進した。

  1. 科学的データや,地域の顕在化したニーズ等に基づき抽出した交通事故の多いエリアにおいて,国,自治体,地域住民等が連携し,徹底した通過交通の排除や車両速度の抑制等のゾーン対策に取り組み,子供や高齢者等が安心して通行できる道路空間の確保を図った。
    都道府県公安委員会においては,交通規制,交通管制及び交通指導取締りの融合に配意した施策を推進した。生活道路については,歩行者・自転車利用者の安全な通行を確保するため,最高速度30キロメートル毎時の区域規制を実施するとともに,道路管理者と連携して行うものも含め,その他の安全対策を必要に応じて組み合わせて行う「ゾーン30」(平成29年度末までに3,407か所)を整備するなどの低速度規制を実施した。27年度末までに全国で整備したゾーン30(2,490か所)において,整備前年度の1年間と整備翌年度の1年間における交通事故発生状況を比較したところ,交通事故発生件数及び対歩行者・自転車事故件数はいずれも減少(それぞれ23.5%減,18.6%減)するなど,交通事故抑止及びゾーン内における自動車の通過速度の抑止に効果があることが確認された。
    また,高輝度標識等の整備や信号灯器のLED化,路側帯の設置・拡幅,ゾーン規制の活用等の安全対策や,外周幹線道路を中心として,信号機の改良,光ビーコン・交通情報板等によるリアルタイムの交通情報提供等の交通円滑化対策を実施したほか,高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平18法91。以下「バリアフリー法」という。)に基づき,バリアフリー対応型信号機等の整備を推進した。
    道路管理者においては,歩道の整備等により,安心して移動できる歩行空間ネットワークを整備するとともに,都道府県公安委員会により実施される交通規制及び交通管制との連携を強化し,ハンプやクランク等車両速度を抑制する道路構造等により,歩行者や自転車の通行を優先するゾーンを形成するゾーン対策,外周幹線道路の交通を円滑化するための交差点改良やエリア進入部におけるハンプや狭さくの設置等によるエリア内への通過車両の抑制対策を実施した。また,ビッグデータの活用により潜在的な危険箇所の解消を進め,国,自治体,地域住民等が連携して取り組む「生活道路対策エリア」において効果的・効率的に対策を実施した。
  2. 通学路における交通安全を確保するため,定期的な合同点検の実施や対策の改善・充実等の継続的な取組を支援するとともに,道路交通実態に応じ,警察,教育委員会,学校,道路管理者等の関係機関が連携し,ハード・ソフトの両面から必要な対策を推進した。
    高校,中学校に通う生徒,小学校,幼稚園,保育所,認定こども園や児童館等に通う児童・幼児の通行の安全を確保するため,通学路等の歩道整備等を積極的に推進するとともに,ハンプ・狭さく等の設置,路肩のカラー舗装,防護柵の設置,自転車道・自転車専用通行帯・自転車の通行位置を示した道路等の整備,押ボタン式信号機・歩行者用灯器等の整備,立体横断施設の整備,横断歩道等の拡充等の対策を推進した。
    また,通学路における交通規制の担保の手法として,ライジングボラードの活用の効果を検討し,当該結果を踏まえて,ライジングボラードの活用の実現に向けた取組を推進した。
  3. 高齢者,障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保するため,バリアフリー法に基づき,駅,官公庁施設,病院等を結ぶ道路や駅前広場等において,高齢者・障害者をはじめとする誰もが安心して通行できるよう,幅の広い歩道,無電柱化等を整備した。
    また,バリアフリー対応型信号機,エスコートゾーン,昇降装置付立体横断施設,歩行者用休憩施設,自転車駐車場,障害者用の駐車ます等を有する自動車駐車場等を整備するとともに,信号灯器のLED化,道路標識の高輝度化等を推進した。
幹線道路における交通安全対策の推進
  1. 交通安全に資する道路整備事業の実施に当たって,効果を科学的に検証しつつ,マネジメントサイクルを適用することにより,効率的・効果的な実施に努め,少ない予算で最大の効果を獲得できるよう,幹線道路において,「選択と集中」,「市民参加・市民との協働」により重点的・集中的に交通事故の撲滅を図る『事故ゼロプラン(事故危険区間重点解消作戦)』を推進した。
  2. 平成29年1月,特に事故の発生割合の高い幹線道路の区間やビックデータの活用により明らかになった潜在的な危険区間等3,125箇所を「事故危険箇所」に指定し,都道府県公安委員会及び道路管理者が連携して,信号機の新設・改良,歩車分離式信号の整備,道路標識の高輝度化等を推進するとともに,歩道等の整備,交差点改良,視距の改良,付加車線等の整備,中央帯の設置,バス路線等における停車帯の設置及び防護柵,区画線等の整備,道路照明・視線誘導標等を設置するなど集中的な交通事故対策を推進した。
自転車利用環境の総合的整備

クリーンかつエネルギー効率の高い持続可能な都市内交通体系の実現に向け,自転車の役割と位置付けを明確にしつつ,交通状況に応じて,歩行者・自転車・自動車の適切な分離を図り,歩行者と自転車の事故等への対策を講じるなど,安全で快適な自転車利用環境を創出する必要がある。このことから,自転車ネットワーク計画の作成やその整備を促進するため,国土交通省と警察庁が共同で,平成28年7月に「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」を改定した。また,平成29年5月に施行された自転車活用推進法(平28法113)に基づき,安全で快適な自転車利用環境の創出に関する取組を推進した。

高度道路交通システムの活用

最先端の情報通信技術等を用いて,人と道路と車両とを一体のシステムとして構築する新しい道路交通システムである「高度道路交通システム」(ITS)を引き続き推進している。そのため,平成25年6月に閣議決定され,26年6月,27年6月,28年5月,29年5月に改定された「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」に基づき,産・官・学が連携を図りながら,研究開発,フィールドテスト,インフラの整備,普及及び標準化に関する検討等の一層の推進を図るとともに,ITS世界会議等における国際情報交換,国際標準化等の国際協力を積極的に進めた。

  1. 最先端の情報通信技術等を用いて交通管理の最適化を図るため,高度化光ビーコン等の機能を活用して公共車両優先システム(PTPS),現場急行支援システム(FAST),安全運転支援システム(DSSS)を始めとする新交通管理システム(UTMS)の開発・整備を行うことにより,ITSを推進し,安全・円滑かつ快適で環境負荷の低い交通社会の実現を図った。
  2. 平成27年8月より本格的に車載器の販売が開始されたETC2.0は,29年12月時点で約235万台が出荷されている。ETC2.0では,事故多発地点,道路上の落下物等の注意喚起等に関する情報を提供することで安全運転を支援するほか,収集した速度データや,利用経路・時間データなど,多種多様できめ細かいビッグデータを活用して,渋滞と事故を減らす賢い料金や,生産性の高い賢い物流管理など,道路を賢く使う取組を推進していく。

※フィールドテスト
 実地試験,屋外試験等のこと。

2 交通安全思想の普及徹底
段階的かつ体系的な交通安全教育の推進

交通安全教育指針(平10国家公安委員会告示15)等を活用し,幼児から成人に至るまで,心身の発達段階やライフステージに応じた段階的かつ体系的な交通安全教育を実施した。特に,高齢化が進展する中で,高齢者自身の交通安全意識の向上を図るとともに,他の世代に対しても高齢者の特性を知り,その上で高齢者を保護し,また,高齢者に配慮する意識を高めるための啓発指導を強化した。さらに,自転車を使用することが多い小学生,中学生及び高校生に対しては,交通社会の一員であることを考慮し,自転車利用者に関する道路交通の基礎知識,交通安全意識及び交通マナーに係る教育の充実に努めた。

高齢者に対する交通安全教育の推進

関係団体,交通ボランティア,医療機関・福祉施設関係者等と連携して,高齢者の交通安全教室等を開催するとともに,高齢者に対する社会教育活動・福祉活動,各種の催し等の多様な機会を活用した交通安全教育を実施した。特に,運転免許を持たないなど,交通安全教育を受ける機会のなかった高齢者を中心に,家庭訪問による個別指導,見守り活動等の高齢者と日常的に接する機会を利用した助言等により,高齢者の移動の安全が地域ぐるみで行われるように努めた。この場合,高齢者の自発性を促すことに留意しつつ,高齢者の事故実態に応じた具体的な指導を行うこととし,反射材用品等の普及促進にも努めた。

自転車の安全利用の推進

自転車利用者に対し,自転車は車両であり,道路を通行する場合は車両としての交通ルールを遵守するとともに交通マナーを実践しなければならないことの理解を図るため,交通対策本部決定で示された「自転車安全利用五則」を活用するなどにより,関係機関・団体等が連携して,交通ルールの遵守,歩行者や他の車両に配慮した通行等自転車の正しい乗り方,自転車乗車時の頭部保護の重要性とヘルメットの着用,幼児2人同乗用自転車の安全な利用と座席シートベルトの着用等についての広報啓発活動や,自動車教習所等の練習コース,視聴覚教材,シミュレーター,スケアード・ストレイト方式(スタントマンによる交通事故再現等により,恐怖を直視する体験型教育手法)等を活用した参加・体験・実践型の自転車教室等の交通安全教育を推進した。

3 安全運転の確保
高齢運転者対策の充実

高齢者講習は,受講者に実際に自動車等の運転をしてもらうことや運転適性検査器材を用いた検査を行うことにより,運転に必要な適性に関する調査を行い,受講者に自らの身体的な機能の変化を自覚してもらうとともに,その結果に基づいて助言・指導を行うことを内容としており,この講習を受講した者は,更新時講習を受講する必要がないこととされている。平成29年中の高齢者講習の受講者は244万2,811人であった。

道路交通法の改正に合わせて,運転免許証の更新時の高齢者講習について,認知機能検査で認知症のおそれがある又は認知機能が低下しているおそれがあると判定された者に対する講習は,ドライブレコーダー等で録画された受講者の運転状況の映像を用いた個人指導を含むこととし,講習時間を3時間として高度化を図る一方,このほかの者に対する講習は,講習時間を2時間として合理化を図った。

また,更新時講習では,65歳以上70歳未満の者を対象とした高齢者学級を編成し,高齢運転者の運転特性や交通事故の特徴等を内容とする講習を行うよう努めた。

事業用自動車の安全プラン等に基づく安全対策の推進 

「事業用自動車総合安全プラン2009」に代わる新たなプランとして,「事業用自動車総合安全プラン2020」を平成29年6月に策定し,32年までの事業用自動車の事故による死者数を235人以下,事故件数を2万3,100件以下とする新たな事故削減目標の設定に行い,その達成に向けた各種取組を進めている。

また,平成28年1月に発生した軽井沢スキーバス事故を踏まえ,二度とこのような悲惨な事故を起こさないよう,同年6月3日にとりまとめた85項目に及ぶ「安全・安心な貸切バスの運行を実現するための総合的な対策」を着実に実施している。

運輸安全マネジメントを通じた安全体質の確立

平成18年10月より導入した「運輸安全マネジメント制度」により,事業者が社内一丸となった安全管理体制を構築・改善し,国がその実施状況を確認する運輸安全マネジメント評価を,29年において742者に対して実施した。特に,29年7月の運輸審議会の答申を踏まえ,33年度までに全ての事業者の運輸安全マネジメント評価を行うとした貸切バス事業者に対しては,29年には,715者に対して実施した。

4 車両の安全性の確保
安全に資する自動運転技術を含む先進自動車(ASV)の開発・普及の促進

先進安全自動車(ASV)の開発・実用化・普及を促進するため,平成28年度より開始した第6期ASV推進計画において,自動運転の実現に必要な先進安全技術について,産学官連携の下,実用化されたASV技術の本格的な普及戦略及び路肩退避型等発展型ドライバー異常時対応システムの技術要件等の検討に取り組んだ。

自動運転システムの安全基準について国際的に議論するため,WP29傘下の自動運転分科会及びWP29のブレーキ・走行装置分科会(GRRF)傘下の自動操舵専門家会議において,それぞれ英国及びドイツとの共同議長として,自動運転に関するセキュリティガイドラインや高速道路での自動運転を可能とする自動操舵の技術基準の策定活動を主導した。その結果,自動操舵のうち,運転者がハンドルを握った状態での車線維持支援機能等に関する国際基準が平成29年10月に成立したことを受け,これを国内に導入した。

5 救助・救急体制等の整備
ドクターヘリ事業の推進

救急現場や搬送途上における医療の充実を図るため,ドクターヘリについては,平成19年6月27日に施行された「救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法(平19法103)」に基づき,普及推進を図っているところであり,30年3月現在で,42道府県,52機のドクターヘリが運航されている。

消防機関と医療機関等の連携体制の充実

救急搬送において,受入医療機関の選定困難事案が発生している状況を踏まえ,消防庁では平成21年,厚生労働省と共同で,都道府県に対する「傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に関する基準」(以下「実施基準」という。)の策定及び実施基準に関する協議会の設置の義務付け等を内容とする消防法改正を行った。この改正消防法は,同年10月30日に施行され,現在,すべての都道府県において協議会が設置されるとともに,実施基準も策定されているところである。

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