特集 「交通安全対策の歩み~交通事故のない社会を目指して~」
第2章 人・車両・道路 各々の側面から見た交通安全
第1節 「人」と社会をめぐる変化
特集 「交通安全対策の歩み~交通事故のない社会を目指して~」
第2章 人・車両・道路 各々の側面から見た交通安全
本章では,道路交通を構成する,人・道路・車両のそれぞれの側面から,この30年間の大きな特性や交通安全の取組について,第2次交通戦争と呼ばれた交通事故死者数1万1,452人に上った平成4年以降を中心に記述する。
第1節 「人」と社会をめぐる変化
1 人口構成の推移と運転免許取得者の変化
(1)総人口のピークから人口減少社会へ――人口動向
我が国の総人口は,平成に入っても増加し続けたが(平成元年1億2,321万人),平成20年の1億2,808万人を境に減少に転じ,30年10月1日現在,1億2,644万人となった(総務省「人口推計」(確定値))。平成の期間の年齢層別の状況をみると,平成以前から減少していた15歳未満の人口は,2,320万人(18.8%,元年)から1,542万人(12.2%,30年)と,この30年間に更に779万人減少した。15歳以上65歳未満の人口(生産年齢人口)は,7年に8,726万人でピークを迎えた後減少に転じ,30年には7,545万人と,30年間で8,575万人(69.6%,元年)から1,029万人減少し,総人口の59.7%となった。一方,65歳以上の人口(高齢者人口)は,1,431万人(11.6%,元年)から3,558万人(28.1%,30年)と,30年間に2,127万人増加し,総人口に占める割合(高齢化率)は28.1%となった。また,75歳以上の人口は,第1次ベビーブーム世代がこの年齢となる令和7年に総人口の17.8%に達し,令和18年には3人に1人が高齢者になると推計されている。
(2)運転免許保有者数の推移
運転免許保有者数は30年間に2千万人増加――年齢層別・男女別の推移
平成元年に5,916万人であった運転免許保有者数は,増加し続け,20年に8千万人を超え,30年は8,231万人となり,平成を通じて2千万人以上増加した。
若年者は3分の1に,70歳以上の高齢者は10倍に――年齢層別運転免許保有者
年齢層別にみると,16歳から19歳までの運転免許保有者数は平成元年の254万人から年々減少し,30年に88万人と,およそ3分の1になる一方,70歳以上の運転免許保有者は,元年の109万人から増加し続け,30年には1,130万人と10倍以上となった。
女性の運転免許保有者数の増加
男女別に運転免許保有者数の推移をみると,平成元年は男性3,724万人(63.0%),女性2,192万人(37.0%)であったが,30年は男性4,499万人(54.7%),女性3,732万人(45.3%)と,男性の運転免許保有者数は,平成を通じて775万人増加(20.8%増)したのに対し,女性は1,540万人増加(70.3%増)した。平成を通じた男女の割合の推移をみると,元年には女性37.0%,30年には45.3%と女性の割合は8.3%増加した。
(3)女性職業運転者の増加――女性の社会進出
平成の30年間は,女性の社会進出が大きく進展した時代であった。昭和60年「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)」1に続き,平成11年「男女共同参画社会基本法(平11法78)」が施行され,27年「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」(平27法64)が成立した。
こうした時代背景を反映し,運転免許人口の男女比率も,特集-第16図でみたとおり,縮小した(平成30年現在,54.7:45.3)。職業運転者についてみると,バス運転手のうち,女性運転者数は平成7年の186人に対し,29年には1,549人と,22年間で8.3倍に増加した。タクシー運転手については,女性運転手の数は7年に6,474人から12年に8,754人となった後,29年には7,292人とゆるやかな減少傾向にある。
(4)世論調査に見る男女別・年齢層別にみた運転の状況
世論調査により,男女別・年齢層別に自動車やオートバイなどの運転に関する状況をみると,「ほとんど毎日運転している」及び「ときどき運転している」と回答した者の合計が男性は80%を上回り,女性は約58%である。年齢層別にみると60代及び70歳以上の年齢層については,「ほとんど毎日運転している」及び「ときどき運転している」と回答した者の合計の男女差が大きく,また,70歳以上の女性の70.2%が「運転免許は持っていない」と回答している。一方,18~29歳及び20代の年齢層については,「ほとんど毎日運転している」及び「ときどき運転している」と回答した者の合計の割合が女性が男性の割合を上回っており,20代については「運転免許は持っていない」と回答した者は男性の方が多い。
2 ライフスタイルの変化と車
平成の30年間に人々の暮らしや社会には,核家族化,郊外化,週休2日制の拡大等様々な変化がもたらされ,生活の中で車を使う場面も変化した。
(1)郊外化と車社会の進展――郊外型ショッピングセンターの発達
都市人口の増加に伴い,地方の県庁所在都市の人口集中地区の面積は,昭和45年から平成22年の間に2倍強に拡大した。首都圏へと流入した人口は,住居を求めて郊外へと転出し,都心部の人口は昭和55年には835万人に減少し,一方,郊外の人口は55年に1,449万人,平成2年には1,688万人へと増加した。こうした中,昭和50年代以降,郊外や農村部の幹線道路沿いでは,農地転用や産業構造の変化に伴い閉鎖された大規模工場跡等で大型ショッピングセンターの出店が増加した。
平成元年に1,429店舗であったショッピングセンターは,6年に2,000店,21年には3,000店を上回るまで増加し,30年には3,224店舗(速報値)となっている。なお,このうち,中心地域以外の所謂郊外型と考えられるショッピングセンターについては,25年に定義が変わり正確な比較はできないものの,13年の1,881店舗から29年には2,746店舗と増加した。
一方,平成の間,中心市街地の商店街の空洞化が進んだ地域も多く,徒歩で駅前等の商店街に出かけるのではなく,車で郊外のショッピングセンターに買い物に行くライフスタイルが広がっていったことがうかがえる。
郊外における車依存のライフスタイル
「公共交通に関する世論調査」(平成28年)において,鉄道やバスの利用頻度を尋ねた問いに対し,「主に自動車を使うのでほとんど利用しない」と回答した者の割合は,大都市では24.7%であるのに対し,中都市51.2%,小都市67.3%,町村67.2%と,大都市以外では日常生活において鉄道やバスといった公共交通機関を利用せず日常の交通手段として自動車が利用されている。
(2)生活行動の夜間化と交通事故
夜間外出の増加
平成中期頃から,国民生活や経済活動の24時間化,夜間化が顕著となり,24時間営業の飲食店やコンビニエンスストアの増加,大都市近郊への深夜バス路線の相次ぐ開設,鉄道の終電の延長等にもみられるように,生活時間が夜型に移行するなど,国民のライフスタイルにも大きな変化がみられた。
増える夜間の死亡事故
交通死亡事故件数に占める夜間の死亡事故件数の割合の推移をみると,昭和50年代前半は50%前後であったが,50年代後半から増加し,平成3年に約58%とピークとなる。その後,反射材の普及啓発,夜間帯における交通安全教室の開催等夜間の交通事故に対する各種交通事故防止対策が進展する中,夜間の交通死亡事故は減少に転じ,19年に50%を下回り,以降50%前後で推移している。
なお,交通事故全体でみると,この期間,夜間の交通事故件数の割合は,30%前後となっている。
3 交通安全の普及への取組
交通安全教育については,「運転者」や「歩行者」に必要な知識及び技能を普及するため,多様な取組が続けられてきた。平成の期間を中心に主な動きを以下に記述する。
(1)交通安全教育指針
平成9年の道路交通法の一部を改正する法律において,適正な交通の方法及び交通事故防止について住民の理解を深めるため,都道府県公安委員会が住民のために交通安全教育を行うことが定められた。さらに,10年,国家公安委員会は,地方公共団体,民間団体等による適切かつ効果的な交通安全教育に資するとともに,都道府県公安委員会が行う交通安全教育の基準とするため,「交通安全教育指針2」を公表した。警察では,関係機関・団体等と連携し,以降,この指針を基準として,年齢等に応じた体系的な交通安全教育を実施してきている。近年では,例えば横断中の高齢者等が左方向から進行する車両と衝突する死亡事故が多いことが判明したことから,29年,指針を一部改正し,高齢者等に対する交通安全教育において,このような車両の動きに十分に注意するように指導することとしている。このように交通事故の現状を踏まえ,随時指針に反映させ,交通安全教育に活かしてきた。
(2)学校教育における交通安全教育
学校における交通安全教育については,昭和42年に「交通安全指導の手びき」が作成され,43年以降の一連の学習指導要領改訂によって,交通安全教育の推進が図られてきた。
平成元年3月に告示された学習指導要領においては,中学校及び高等学校における「保健体育」の指導内容の一つとして,新たに「交通事故の防止について」を明示し,交通安全教育の一層の充実が図られた。その後も,「交通安全教育指針」や「学校安全の推進に関する計画」(平成24年4月27日閣議決定3)を踏まえ,家庭及び地域や関係機関・団体との連携・協力を図りながら,体育科・保健体育科や特別活動及び各教科等の特質に応じ,学校の教育活動全体を通じて取り組んできている。29年に告示された「小学校学習指導要領」では,体育において「けがの防止」として,さらに同年告示された「中学校学習指導要領」においても,保健体育において「傷害の防止」として交通安全教育について取り上げている4。
このほか,平成の期間の主な取組としては,二輪車事故の急増に対応した二輪車の交通安全教育の充実(平成6年度以降)5,平成27年からは全国の小学校1年生を対象に,交通安全の内容を含む「小学校低学年向け学校安全教室用リーフレット」を配布している。
また,平成24年4月,京都府亀岡市における事故をはじめ,登下校中の児童等が巻き込まれる交通事故が相次いで発生したことを受け,文部科学省,国土交通省,警察庁の3省庁の連携の下,同年5月末から全国約2万の公立小学校等の通学路を対象に,学校,教育委員会,道路管理者,警察が連携し,保護者や地域住民等の協力を得た合同点検を実施して,判明した危険箇所に対する対策を行うなど,学校における交通安全に取り組んできている。
(3)全国交通安全運動
全国交通安全運動は,昭和23年の国家地方警察本部による「全国交通安全週間」を起源とし,27年以降は春・秋の年2回実施されてきた6。
運動の主体
全国交通安全運動は,関係省庁,都道府県,13の主催団体,153の協賛団体(平成31年2月現在)により実施されてきており,平成の30年間に,運動を協賛する団体の活動分野としては,交通関係はもとより,平成に入って発展してきた,ピザ等の宅配業関係,コンビニエンスストア,フランチャイズの飲食業関係の団体といった新しい業種も加わっている。
平成の30年間の主な取組等
運動の全体に関わる平成の30年間の主な進展として,まず,平成12年に,中央省庁再編に伴い7,「全国交通安全運動の推進に関する基本方針について(平成12年12月26日中央交通安全対策会議決定)」に基づく新たな交通対策本部(本部長:内閣府特命担当大臣)が,実施の都度「全国交通安全運動推進要綱」を定め,推進してきた。
また,平成13年から22年の間,春の運動では,「全国交通安全運動中央大会」が開催され,内閣総理大臣,国家公安委員会委員長等が,都内小学校における交通安全教室に参加するなど,普及啓発を図った。
平成20年には,各運動期間中,日付にゼロの付く日が必ず1日あることから,この日を「交通事故死ゼロを目指す日」とし(中央交通安全対策会議交通対策本部決定),全国交通安全運動と連動した取組が行われている。
全国交通安全運動の重点推進項目の移り変わり
効果的な安全運動の実施に向け,毎回の運動の重点項目を定め,これを広く周知することにより市民参加型の交通安全運動の充実・発展を図ってきた。
平成の期間の全国の重点項目の移り変わりをみると,若年ドライバーの事故の増加を反映して,平成初期(平成元~3年秋まで)には「若年運転者による無謀運転の防止」が,また,2年秋から5年秋までは「違法駐車の締め出し」が掲げられていた。
道路交通法の改正施行(特集-第10図)に合わせた重点項目も多く,11年春から,同年の改正によりチャイルドシートの使用義務付けが規定されたことに対応し,それまでの「シートベルト着用の徹底」に加えて,「チャイルドシートの着用促進(後に徹底)」が追加され,19年改正を念頭に18年から,「飲酒運転の根絶」,「後部座席を含むシートベルトとチャイルドシートの正しい着用の徹底」が項目として設定されている。また,16年からは,春の運動において「自転車の安全利用の推進」,秋に,「夕暮れ時と夜間の事故防止」,17年から秋に「自転車乗用中の交通事故防止」が掲げられ,近年では,高齢運転者の交通事故が問題となっていることから,29年秋から「高齢運転者の交通事故防止」が加わるなど,その時々の課題を反映した運動が行われてきた。
また,全国運動とともに,都道府県独自に「夏の交通安全運動」等時期に即した独自の安全運動が行われてきている。
全国運動等における手法の変遷,新たな手法の導入等
全国運動に際しては,主催団体・協賛団体の協力を得てポスターやちらしを掲示・配布するほか,政府広報・ラジオ・テレビ等,平成に入ってからは,さらに,インターネットのホームページやツイッター等SNSも活用した啓発活動が行われている。
各都道府県においては期間中に地域の交通安全の課題や実情を踏まえ,子供や学童,お年寄り向けの交通安全教室,自転車やバイクの安全運転教室といった多様な取組が行われてきた。近年では,スケアード・ストレイトやシミュレーターを活用した安全教室等参加・体験・実践型の工夫を凝らした様々な施策が展開されている。
なお,毎年内閣府が行う意識調査において,「春・秋の全国交通安全運動」などが行われていることを知っているかどうか,質問したところ,「知っている」の割合が全体では70.6%,年代別で見ると,70代までは年齢が高くなるほど「知っている」と回答した者の割合が大きく,70代では85.8%に達するが,10代,20代については50%台に留まる(2018年調査)。