特集 「交通安全対策の歩み~交通事故のない社会を目指して~」
第2章 人・車両・道路 各々の側面から見た交通安全
第3節 「道路」と社会をめぐる変化

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特集 「交通安全対策の歩み~交通事故のない社会を目指して~」

第2章 人・車両・道路 各々の側面から見た交通安全

第3節 「道路」と社会をめぐる変化

1 「道路」と社会をめぐる変化
(1)道路の観点からみた交通事故の状況

道路に着目し,平成30年中の交通事故件数全体(43万601件)について,道路の種類に応じた概況をみると,高速道路における交通事故は,交通事故発生件数は,7,934件(うち交通死亡事故159件)で,これによる負傷者数は1万3,673人,死者数は173人となっており,交通事故全体の負傷者数の2.6%,交通事故死者数全体の4.9%であった。9割以上の交通事故は,車両と人が共存する一般道路で発生しており,この傾向は平成の30年間を通じて概ね変わらない。

「交差点」「一般単路」の事故が7割――道路形状別交通事故の状況

次に,「道路形状別」に,交通死亡事故発生件数の推移をみると,平成4年までは「一般単路」における事故,5年以降は「交差点」における事故が最も多く,平成の30年間を通じて,この2つの分類の合計で全体の約7割を占めており,「カーブ」,「交差点付近」の事故がこれに続く。30年間の変化をみると,「カーブ」における事故は,30年間で4分の1以下まで大きく減少し,「一般単路」が続き,「交差点」及び「交差点付近」の事故の減少が多かった。

特集-第31図 道路形状別交通死亡事故発生件数の推移。交差点、交差点付近、トンネル・橋、カーブ、一般単路、踏切、その他。いずれも年々減少している。交差点、一般単路の件数が多い

一方,交通事故発生件数については,平成の30年間を通じて「交差点」が最も多く,これに「一般単路」が続き,「交差点付近」,「カーブ」の順となっている。30年間の変化をみると,「カーブ」における事故は,30年間で3分の1以下まで大きく減少している。また,平成元年には「交差点」における事故は,2番目に大きく減少し,元年の発生件数は「一般単路」の約1.6倍であったが,30年間で約85%減となり,25年以降は,全交通事故に占める「交差点」と「一般単路」の割合は同程度となっている。

特集-第32図 道路形状別交通事故発生件数の推移。交差点、交差点付近、トンネル・橋、カーブ、一般単路、踏切、その他。いずれも平成半ばまで増加していたが、以降は年々減少している。交差点、一般単路の件数が多い
(2)平成の30年間の道路の状況

平成の30年間に,道路実延長は平成元年の110万5,578kmから29年には122万3,887kmと約1.1倍増大している(特集-第33図)。また,高規格幹線道路延長は元年の4,548kmから31年には1万1,882kmと,約2.5倍増大している。この間,昭和の時代から計画されてきた大規模な橋梁やトンネル,高速道路などが次々と完成し,例えば,平成初期には,レインボーブリッジ(平成5年),東京湾アクアライン(9年)等,平成中期には,本州四国連絡橋(10年),しまなみ街道(11年)等,平成後期には,首都高中央環状線(27年)等道路インフラ整備は大きく進展した。

特集-第33図 道路延長の推移。年々増加している

歩道については,平成元年3月末の約10万kmから29年3月末現在約17万9,000kmと,30年間で約1.8倍の延長となった(特集-第34図)。

特集-第34図 歩道設置済道路延長の推移。年々増加している

また,交通安全施設等についてみると,例えば信号機については約1.6倍に(平成元年度末13万1,629基,平成29年度末20万8,226基),横断歩道については約1.5倍に(平成元年度末78万2,918本,平成29年度末114万9,977本)などとなっており,このように,道路交通インフラの観点からは,平成の30年間は質,量ともに大きく整備が進展した。

2 「道路」に関する動向

昭和30年代から40年代にかけ,自動車交通の増大が大きな社会問題になっていた当時,交通事故死者数の急激な増加とともに,歩行者・自転車の事故の割合が,欧米諸国と比べて高いことも問題視され,歩道等の交通安全施設の整備が極めて不十分で車道上での混在交通を余儀なくされていた実態が事故の最大要因と認識されていた。このため,事故防止のために,45年道路構造令(昭45政320)で自動車と自動車以外の交通の分離の徹底や,交通安全施設の規定を細かく定めるなどの改正が行われるとともに,防護柵等の基準が定められることにより,歩道や防護柵等の整備が進められた。

その後,昭和後期から平成初期にかけ,交通事故死者数が再び増加に転じたことから,死者数を減少させることが喫緊の課題となった。

この状況に対しては,高速道路,一般国道等の幹線道路ネットワークの整備により,長距離トリップ交通に対して,幹線道路の分担を高め,生活道路との機能分化を進めるとともに,幹線道路における交差点改良や歩道等の整備を,生活道路ではコミュニティ道路等の面的な整備を推進した。

平成10年代には,幹線道路では,事故データ分析等に基づき緊急度の高い事故多発地点を抽出し,重点的に対策を実施するマネジメント手法を導入した。また,生活道路では,公安委員会の速度規制等とあわせて歩道の設置等の歩行者優先のみちづくりを面的・総合的に実施する「あんしん歩行エリア」の整備等を推進した。

近年は,ETC2.0により収集されるビッグデータを活用し,潜在的な危険箇所を特定することにより,効果的,効率的な対策の立案や実施が可能となり,生活道路では,ビッグデータの分析結果の提供や,可搬型ハンプの貸出等により地方公共団体の取組を支援する「生活道路対策エリア10」による対策を推進している。

10 「生活道路対策エリア」については,トピックス「ビッグデータを活用した生活道路の交通安全対策について」参照。

さらに,技術基準に関しては,平成13年に,道路構造令に凸部(ハンプ11),狭さく部等を位置づけ,平成27年に凸部,狭窄部及び屈曲部の設置に関する技術基準を策定し,要求される性能や標準的な構造等を明確にし,効果的な速度低減策である凸部や狭窄などの設置を推進している。

11 車両の低速走行等を促すための道路に設ける盛り上がり(凸部)

3 交通事故減少に貢献した主な取組

平成の30年間に取り組まれた,交通事故減少に大きく貢献した施策の例として,高速道路等の整備,幹線道路及び生活道路における交通安全対策の中から主な取り組みを上げると以下のとおりである。

○高速道路等の整備

平成30年6月2日に開通した,東京外かく環状道路(三郷南IC~高谷JCT)の例では,高速道路等の開通により,平行する県道における2地点間の通過時間が最大で約4割短縮し,地域の走行環境が改善するとともに,地域の生活道路への流入交通量も約3割,急ブレーキ回数も約5割減少し,地域の生活道路等における安全性が向上したことから,交通事故の削減にも寄与していると考えられる。

東京外かく環状道路(三郷南IC~高谷JCT)周辺の交通状況の変化。生活道路の流入交通量は、開通前が4.8万台/日、開通後が3.4万台に減少している。生活道路のブレーキ回数は、開通前が18.0回/千台、開通後が8.2回/千台に減少している

○幹線道路における交通安全対策

幹線道路における交通事故が特定の箇所に集中して発生しているという特徴を踏まえ,交通事故の発生形態に応じて,道路改良や交通安全施設の設置等,集中的な交通事故対策の実施により事故を削減した。

右折車線延伸+カラー化。右折車線を延伸し、道路を水色で舗装している写真

○歩車分離式信号の整備推進

歩行者等と車両が通行する時間を分離することで交通事故を防止し,歩行者等の安全の確保を図る歩車分離式信号の整備を推進し,平成29年度末までに全国で9,155基の歩車分離式信号を整備した。

○生活道路における交通安全対策

・ビッグデータを活用した交通安全対策

ビッグデータ(ETC2.0プローブデータ)の分析結果の提供や,可搬型ハンプの貸出等により地方公共団体を支援し,「生活道路対策エリア」における取組を推進したことで,交通事故が削減された。

ハンプ。道路の一部が隆起しており、赤色で舗装している写真

・ゾーン30の推進

警察では,市街地等の生活道路における歩行者等の安全な通行を確保するため,平成23年から,道路管理者と連携して,ゾーン30の整備を推進している。ゾーン30とは,区域(ゾーン)を設定して,最高速度30キロメートル毎時の区域規制や路側帯の設置・拡幅を実施するとともに,その区域の道路交通の実態に応じて通行禁止等の交通規制の実施やハンプの設置等の対策により,区域内における速度を規制し,通過交通の抑制・排除を図るものであり,平成30年度末までに全国で3,649か所を整備した。

「ゾーン30」の整備イメージ。ゾーン入口では、区域規制標識の設置、路面表示(法定外)の設置、大型通行禁止規制等の実施。ゾーン内では、最高速度規制の実施、ハンプ等の設置、路側帯の設置・拡幅及び中央線の抹消。ゾーン周辺では、信号制御の見直し、右折車線の設置及び進行方向別通行区分規制の実施
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