特集 「交通安全対策の歩み~交通事故のない社会を目指して~」
第2章 人・車両・道路 各々の側面から見た交通安全
第4節 救助・救急活動
特集 「交通安全対策の歩み~交通事故のない社会を目指して~」
第2章 人・車両・道路 各々の側面から見た交通安全
第4節 救助・救急活動
交通事故による被害を最小限にとどめるため,高速自動車国道を含めた道路上の交通事故に即応できるよう,救助・救急体制及び救急医療体制の整備が,救急医療機関,消防機関等の救急関係機関相互の緊密な連携・協力により図られてきた。
1 救助・救急体制の整備の進展
救急業務の法制化
消防機関の行う救急業務は,地方自治法の規定に基づき,一部市町村が任意に条例若しくは規定を制定し,又は単に訓令により実施しており,必ずしも十分な体制のもとに行われているとは言いがたい状況であった。当時,特に交通事故を含む各種災害や事故が急激に増加していた情勢を踏まえ,昭和38年,消防機関の行う救急業務を法制化し,救急業務の実施体制を全国的に整備するため,消防法中に救急業務に関する規定が設けられた。
これに基づき,全国市町村で救急業務実施体制の整備が進み,平成30年4月1日現在,救急業務実施市町村数は1,690市町村(792市,737町,161村)となっており,98.3%の市町村で救急業務が実施され,全人口の99.9%がカバーされている。
救急業務の高度化
平成3年4月,搬送途上の医療の確保を図るため,医師の指示の下に,搬送途上において高度の救急救命処置を行うことのできる新たな資格制度を創設する救急救命士法(平3法36)が制定された。
救急業務は,救急救命士制度の導入及び救急隊員の応急処置範囲の拡大以降,その高度化が推進されているところであり,救急救命士制度については,平成15年4月より医師の包括的指示下での除細動が,16年7月より医師の具体的指示下での気管挿管が,18年4月より薬剤投与(アドレナリン使用)が,さらに,26年4月より心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液,血糖測定並びに低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与が追加された。
また,救急救命士を含む救急隊員が行う応急処置等の質を向上させ,救急救命士の処置範囲の拡大等救急業務の高度化を図るため,メディカルコントロール体制の充実・強化が図られている。
救急救命士として運用されている救急隊員は,平成10年には5,849人,20年には1万8,336人,30年4月1日現在,2万6,581人となり,救急隊のうち救急救命士を運用している割合は99.1%に上る。
2 交通事故発生時の救助・救急活動の状況
交通事故に関する救急出動件数等の推移
救急自動車による救急出動件数及び搬送人員の推移をみると,平成元年には救急出動件数265万6,934件,搬送人員259万3,753人であったところ,29年の救急出動件数は,634万2,147件,搬送人員573万6,086人と,30年間で368万5,213件,314万2,333人増加している。このうち,交通事故による救急出動件数及び搬送人員をみると,元年には,救急出動件数64万5,783件,搬送人員73万3,097人であったが,13年に,68万7,516件,76万5,733人とピークを迎え,29年には出動件数は,48万1,473件,搬送人員46万6,043人まで減少した。30年間を通じて,全救急出動件数,全救急搬送人員に交通事故によるものの占める割合は,一貫して減少している。
救急業務体制の充実
○救急自動車
全国の消防本部における救急自動車の保有台数は,非常用を含め,平成30年4月1日現在,6,329台となっている。このうち高規格救急自動車数は全体の96.5%に当たる6,105台となっている。
○消防防災ヘリコプター
昭和41年に東京消防庁でヘリコプターが導入されて以来,消防防災ヘリコプターの高速性,機動性をいかした,効果的な救急搬送が実施されてきており,平成初期から運用機数も増加し,平成10年代には70機近くに上り,30年11月1日現在,75機が運用されている。
○ドクターヘリ
平成13年度からドクターヘリ導入促進事業が行われ,平成19年「救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法」(平19法103)の趣旨に基づき,全国での導入が促進された。30年現在,43道府県に53機が導入されている。年間搬送件数も増加してきており,28年には2万5,216件となっている。
現場到着,病院収容までの所要時間は延伸
救急要請の通報を受けてから,救急自動車が現場に到着するまでの平均所要時間をみると,全体の平均では,平成元年の5.7分から,29年は8.6分と,30年間で約3分延伸しており,交通事故についても,元年の5.5分から,29年は,9.3分などと全体の平均の変化と同様に延伸している。
また,救急自動車による,救急要請の通報を受けてから病院収容までの所要時間にみると,全体の平均は,平成元年の21.5分から,29年は,39.3分と延伸しており,同様に交通事故についても,平成元年には19.1分であったところ,15年には27.6分,29年は,40.8分と延伸しており,かつ,全体の平均所要時間を平成25年以降超過している。
3 今後の方向性
一層迅速な対応に向けた技術革新に期待
平成の30年間を振り返ると,救急救命士制度の進展等を含め負傷者の救命率・救命効果の一層の向上が図られ,交通事故の死者の減少に大きく貢献したと考えられる。交通事故によって生命に危険を及ぼす傷害を負った場合,医師による治療を受けるまでに時間がかかると,救命率が低下するといわれており,一刻も早く医師による治療を受ける必要がある。高速自動車国道を含めた道路上の交通事故に即応できるよう,救急医療機関,消防機関等の救急関係機関相互の緊密な連携・協力関係を確保しつつづけていく必要があるが,他方, 例えば,エアバッグが展開するような大きな交通事故が発生した際に,車載装置・携帯電話等を通じて,本人や目撃者の代わりに自動車から自動的に事故が発生した地点等をコールセンターに通報することを可能とする「緊急通報システム(HELP12)」や「事故自動通報システム(ACN13)」,「先進事故自動通報システム(AACN14)」等,迅速な通報等に資する技術革新が期待される。