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先端技術について

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官民ITS構想・ロードマップ

官民ITS構想・ロードマップ(以下「ロードマップ」という)は,ITS( Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)・自動運転について我が国の方針を示した,高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議にて決定された国家戦略文書である。このロードマップは,平成26年に初めて策定されたが,本分野における技術・産業の進展がめざましいことから,最新状況を踏まえた形で毎年改定を重ねている。

本ロードマップでは,「世界一のITSを構築・維持し,日本・世界に貢献する」ことを一貫して掲げており,図1の通り2030年までに「世界一安全で円滑な」道路交通社会を構築するという目標を設定している。

【図1】目標とする社会と重要目標達成指標。「2020年までに世界最先端のITSを構築」→「2020年以降、自動運転システム化に係るイノベーションに関し、世界の中心となる」→「2030年までに、「世界一安全で円滑な」道路交通社会を構築」するとしたロードマップ

特に,我が国においては,交通事故の削減に加え,過疎地等における高齢者等の移動手段の確保,少子化に伴うドライバー不足への対応等,多くの社会課題があることを踏まえ,これらの課題解決に貢献することが期待される自動運転の市場化・サービス化に係る目標(図2)を,運転自動化のレベル定義(わが国ではSAE InternationalのJ3016及びその日本語参考訳であるJASO TP18004の定義を採用)(表1)を踏まえつつ設定している。

【図2】自動運転の市場化・サービス実現のシナリオ。〈自家用車〉では、交通事故の削減、交通渋滞の緩和、産業競争力の向上を目指す。〈物流サービス〉では、人口減少時代に対応した物流の革新的効率化を目指す。〈移動サービス〉では、全国各地域で高齢者等が自由に移動できる社会を目指す
【表1】自動運転レベルの定義の概要
レベル 安全運転に係る
監視,対応主体
運転者が一部又は全ての動的運転タスクを実行
レベル0
  • 運転者が全ての動的運転タスクを実行
運転者
レベル1
  • システムが縦方向又は横方向のいずれかの車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行
運転者
レベル2
  • システムが縦方向及び横方向両方の車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行
運転者
自動運転システムが(作動時は)全ての動的運転タスクを実行
レベル3
  • システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行
  • 作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に適切に応答
システム
(作動継続が困難な場合は運転者)
レベル4
  • システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行
システム
レベル5
  • システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を無制限に(すなわち、限定領域内ではない)実行
システム

これらの自動運転の市場化・サービス化を実現するためには,関連する技術開発と制度整備が重要であり,民間及び関係府省庁が一体となって取り組んでいる。

官民ITS構想・ロードマップに基づき,ITS・自動運転を巡る技術・産業の動きは急速に進展し続けており,引き続き世界最先端のITSの構築,自動運転に係るイノベーションの世界の中心地となることを目指して,取組を進めているところである。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)における自動運転に関する取組

総合科学技術・イノベーション会議は,社会的に不可欠で,日本の経済・産業競争力にとって重要な課題に対する取組である戦略的イノベーション創造プログラム(SIP,以下「SIP」という。)の課題の一つとして自動運転を選定し,平成26(2014)年度から5年間にわたり産学官共同で取り組むべき協調領域を中心として研究開発に取り組んできた。

自動運転に必要となる高精度3次元地図情報を含むダイナミックマップの統一仕様を業界横断的に策定し,平成31年3月には,自動車専用道約3万キロの高精度3次元地図を整備するとともに商用配信を開始している。

平成30(2018)年度からは新たにSIP第2期がスタートし,「自動運転(システムとサービスの拡張)」が12の課題の一つとして選定され,自動運転を実用化し普及拡大していくことにより,

・交通事故の低減,交通渋滞の削減

・交通制約者のモビリティの確保

・物流・移動サービスのドライバー不足の改善・コスト低減

等の社会的課題の解決に貢献し,すべての人が質の高い生活を送ることができる社会の実現を目指して,産学官共同で取り組むべき共通課題(協調領域)の研究開発を推進している。

【図3】SIP第2期「自動運転」の取組内容。物流/移動サービスでは、過疎化対策、ドライバー不足対策、移動の自由により、社会的課題解消へ。オーナー・カーでは、交通事故低減、交通渋滞削減、クルマの価値向上により、国際連携、経済的発展へ。究極の自動運転社会を目指す

1 高速道路から一般道路への拡張に向けて(東京臨海部実証実験等)

交通環境が複雑な一般道においては,車両が交差し,歩行者や自転車等が往来するため,車両に搭載されたセンサー等からの情報のみでは,自動運転を実現することは難しい状況があり,信号情報や道路交通情報等の道路交通インフラより取得される情報が有用である。この課題を解決する観点から,自動運転の社会実装に必要な基盤技術の検証を目的として,東京臨海部の臨海副都心地域,羽田空港地域,羽田空港と臨海副都心等を結ぶ首都高速道路において,ITS無線路側機や,ETC2.0設備といった道路交通インフラの整備を進め,自動車メーカー等の参加のもと,公道の実交通環境下におけるインフラ協調型の自動運転システムの実証実験を開始している。その際,ITS無線路側機による信号情報の提供の高度化を目指して自動車メーカー等と自動運転の実用化に有用な信号情報の提供方法等について検討を行い,これら信号情報を提供できるITS無線路側機の東京臨海部への整備等を実施した。また,自動運転車における一般道路から高速道路への安全で円滑な合流やETCゲートの通過に対する支援を目的として,本線を走行する車両情報やETCゲートの開閉情報を提供する為のETC2.0設備等の道路交通インフラの整備を進めた。

※東京臨海部実証実験:令和元年10月15日内閣府プレスリリース
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20191015jidouunten.htmll

【図4】実証実験【東京臨海副都心~羽田地区】。2019年10月から、オリンピック・パラリンピック東京大会を見据え、東京臨海地域でオープンに参加者を募り、動的な交通環境情報に関する実証実験を開始。実証内容は、信号情報提供、高速道本線合流支援、公共交通システム(自動運転バス)となっている

さらに羽田空港と臨海副都心等を結ぶ首都高速道路において,道路の車道レベルの情報だけでなく,道路の車線レベルでの道路交通情報も有用であり,自動車・ナビメーカ等の有する民間のプローブ情報及び官の情報(落下物情報,事象規制情報等)を収集し,道路の車線レベルでの道路交通情報を作成するために必要な研究開発を実施している。

2 地方部等における移動サービスの実用化に向けて

SIP第1期で取り組んできた実証実験での技術検証結果を踏まえ,第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」では地方での移動サービスの実用化に向けて,過疎地,地方都市等において,長期の実証実験により物流サービス・移動サービスに対する自動運転の事業性を検証し,実用化を加速する取組を推進している。

具体的には,中山間地域における人流・物流の確保を目的として,物販をはじめ診療所や行政窓口など,生活に必要なサービスが集積しつつある道の駅等を拠点とした自動運転サービスの2020年の社会実装を目指した実証実験を進めている。2019年11月には道の駅「かみこあに」において,本格導入を実施した。その他の地域でも長期間(1~2か月程度)の実験を実施し,順次社会実装を実現する。

3 安全性評価環境の構築に向けて

自動運転車としての安全性評価のために,公道において起こる様々な事象をすべて実車で評価するのは困難である上にその評価工数も膨大である。こうした状況を打開するため,様々な対象物(車両・オートバイ・自転車・歩行者),様々な気象条件(雨・雪・逆光等),様々な交通環境(高速道路・一般道など)を模擬するバーチャルな評価・実証シミュレーション環境の構築に取り組んでいる。

また,自動運転の高度化に伴い,通信でやり取りされる情報量が増加するにつれ重要となる情報セキュリティ対策技術につき,継続的に進化させるための技術開発に取り組んでいる。

4 国際連携の推進と社会的受容性の醸成に向けて

国際的に研究テーマをリードする専門家を交えて,自動運転に関わる課題の共有とその解決に向けた取組を議論する国際会議「SIP-adus Workshop」の開催により,国際的な共同研究の連携と標準化活動を推進している。

また,情報発信を含む社会的受容性の醸成に関しては,自動運転により得られる便益・効用や,生じ得るリスク,将来像やルール等を含め,社会全体の認知度の向上と正しい理解を得ることを目的として,双方向性を確保しつつ,市民参加型イベントの実施や,自動運転の正しい理解を促す情報コンテンツの作成・情報発信を推進している。

自動運転に係る制度整備

官民ITS構想・ロードマップで設定された自動運転の市場化・サービス化に係る目標実現のために必要となる制度の見直し方針である「自動運転に係る制度整備大綱」を平成30年4月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議にてとりまとめた。

【図5】自動運転に係る制度整備大綱の概要と現在までの進捗。制度整備大綱に基づいた主な取組事項は、車両の安全確保の考え方、交通ルールの在り方、安全性の一体的な確保(走行環境条件の設定)、責任関係。2019年3月末までの進捗も示している

本大綱に基づき各省庁で検討を進め,以下の進捗があった。

■車両の安全確保の考え方

・自動運転車が満たすべき安全性の要件や安全確保のための方策について,「自動運転車の安全技術ガイドライン」を平成30年9月に策定及び公表した。

・自動運転車等の設計・製造過程から使用過程にわたる安全性を一体的に確保するため,「道路運送車両法の一部を改正する法律」が,令和元年5月に成立・公布された。同法の自動運転関係の規定は,令和2年4月から施行された。

■交通ルールの在り方

・自動車の自動運転の技術の実用化に対応した運転者等の義務に関する規定の整備等を内容とする「道路交通法の一部を改正する法律」が,令和元年5月に成立し,同年6月に公布された。同法の自動運転関係の規定は,令和2年4月から施行された。また,自動運転と国際条約との関係の整理等に関し,国際連合経済社会理事会の下の欧州経済委員会内陸輸送委員会に置かれた「道路交通安全グローバルフォーラム(WP.1)」における議論に引き続き参画した。

・限定地域での無人自動運転移動サービスにおいては,現在の実証実験の枠組みが事業化の際にも利用可能とされている。

■責任関係

・自動車損害賠償保障法において,自動運転システム利用中の事故により生じた損害についても,従来の運行供用者責任を維持することとされた。

今後も引き続き検討を進め,例えば自動運転車の導入初期段階である2020年以降2025年頃の,公道において自動運転車と非自動運転車が混在し,かつ自動運転車の割合が少ない,いわゆる「過渡期」における制度のあり方を検討していく。

ラストマイル自動走行実証(自動運転による移動サービス実証)

1 将来像と実証目的

ラストマイル自動走行など自動運転による移動サービスは,運営コストを抑制し,運転手不足を解消するとともに,高齢者等の安全かつ円滑な移動に資するものとして,地方部等において自治体や地域交通事業者,地域住民からの期待が大きい。

これらニーズに応じた移動サービスの実現に向けて,経済産業省及び国土交通省にて2016年9月より実証事業を開始した。

2 これまでの実証事業の進捗状況

2019年度の実証では,福井県永平寺町及び沖縄県北谷町において,2018年度までの1カ月実証から6カ月程度に期間を延ばし,長期の移動サービスの検証を実施した。

さらに,2018年度まで日立市にて小型自動運転バスの実証実験を実施してきたが,事業性を向上するためには,より乗車人数が多いバスによる自動運転が必要であるとの意見を受け,2020年度からの中型自動運転バスによる実証実験に向けたバス開発を実施するとともに,5つのバス運行事業者を選定した。

■福井県永平寺町(2019年度実証結果)

福井県永平寺町は,走路環境として自転車歩行者専用道路を用いており,一般車両の流入が無いなどの限定空間(約6キロメートル)である。実証結果は,以下のとおり。

・季節や曜日による需要変動は大きく,事業化には土日祝日のみの運行,冬期間の運行の可否の検討が必要。

・空車便が多く,時間帯利用率も差があるため,運行時間帯や頻度の見直し,定時型デマンド運行によるランニングコストの削減などの必要性を確認。

これまでの総走行キロ数は1万5,000キロメートルを超えているが,接触や事故,ヒヤリハットは無く,歩行者や自転車への対応で,ドライバーによる早めのブレーキ操作による手動介入は44件であった。

自動ブレーキ用のセンサーは,正常に反応していたことから,ドライバーの感覚に合った減速仕様などに調整すると共に,歩行者等の認識の強化や音声での注意喚起の調整などの今後の改善策を検討した。

■沖縄県北谷町(2019年度実証結果)

走路環境としては,一般車両の往来があり,交差点等もあるため,技術的難易度は永平寺に比べて高い(約1.6キロメートル)。しかし,一部の走路で道路幅が広いことから,低速自動運転車両の走路を道路左側に設定し,他の車両の通行可能性が低い空間を設定することができた。実証結果は,以下のとおり。

・年末や夏季の観光需要があること,また,夕方から夜にかけて観光客利用が多い特徴などから,運行時間帯や頻度の見直しが事業化には必要であることを確認。

・利用率向上策として,車両のラッピングを変えた結果,約13%の向上が見られた。地域にあったデザインなどを取り入れることの有用性が示された。

実証中,接触や事故は無かった。しかし,商業施設に挟まれた一部の走路においては,歩行者が車道に進入(写真撮影,後ろ向きも有)したことによる手動介入が12件,駐車場への進入左折車との接近時のドライバーによる早めのブレーキ操作が1件あった。また,観光客の他,物資搬入のための特定の業者による駐車が頻繁に発生した。

(福井県永平寺町)。自動運転車に乗っている人と、道路脇に「自動走行実証実験 実施中」と書かれた看板の写真
(沖縄県北谷町)。道路脇で自動運転車に乗っている人の写真

3 長期実証を受けた車両技術開発

これまでの実証を通じての技術的課題に対する開発は,レベル4での運用に向けた開発としても進めており,周辺認識技術などの向上として,AI技術を活用した画像認識システムの導入より,横断歩行者やスマホ操作者の認識,乗降判断などによる自動発進や制御判断部分の開発を行い,模擬実験などで検証した。歩行者の認識については,永平寺町などの走路での試行を行い,安全性を向上できることを確認している。さらに駐車車両などへの対応には,遠隔操作用の通信として,極低遅延通信装置の導入や誘導線上に駐車車両が存在する際の回避の支援のため,三次元のLiDARを用いた駐車車両回避支援ソフトウェアの開発を行った。

4 事業化に向けた更なる取組

今後は,2019年度に実施した地域事業者による長期移動サービス実証に基づき,2020年度内での事業化に向けて,移管可能な運用システムの構築と移管準備期間としての試験運用による検証を行い,事業化への道筋を明確にし,橋渡しを検討していく。

また,これまでのレベル2での実証評価から,事業性や運用性をより向上するために,遠隔型自動運転及びレベル3以上での移動サービスの実現のための実証実験を実施していく。さらに,事業性の向上には,遠隔型自動走行システムでの3台以上の複数台車両の無人回送実証を実施していく。

安全運転支援システムの技術

「先進安全自動車(Advanced Safety Vehicle,ASV。以下「ASV」という。)」とは,先進技術を利用して,車両単体での運転支援システム,通信利用による運転支援システム等のドライバーの安全運転に資するシステムを搭載した自動車を指す。

国土交通省では,ASVの開発・実用化・普及の促進により開発・実用化・普及の促進により,交通事故死傷者数を低減し,世界一安全な道路交通を目指すプロジェクト「先進安全自動車(ASV)推進計画」(以下ASV推進計画)に平成3(1991)年度から取り組んでいる。ASV推進計画では,有識者,日本国内の四輪・二輪の全メーカー,自動車部品メーカー,自動車関係団体,関係省庁などで構成されるASV推進検討会を設置し,この検討会において先進安全技術の技術要件をまとめたガイドラインの策定やASVの普及方策に関する検討などを行っている。

【図6】先進安全自動車(ASV)推進計画。第6期(2016~2020年度)では、「自動運転の実現に向けたASVの推進」を掲げている。主な検討項目は、自動運転を念頭においた先進安全技術のあり方の整理、路肩退避型等発展型ドライバー異常時対応システムの技術的要件の検討、Intelligent Speed Adaptation(ISA)の技術的要件の検討、隊列走行や限定地域における無人自動運転移動サービスの実現に必要な技術的要件と課題、実現されたASV技術を含む自動運転技術の普及

平成28(2016)年度から始まった第6期ASV推進計画では自動運転も検討の対象に含め,「自動運転の実現に向けたASVの推進」をテーマに,①自動運転を念頭においた先進安全技術のあり方の整理,②路肩退避型等発展型ドライバー異常時対応システムの技術的要件の検討,③Intelligent Speed Assistance(ISA)の技術的要件の検討,④実現されたASV技術を含む自動運転技術の普及,などに取り組んでいる。

※ISA:ISAとは,道路ごとの制限速度に応じて自動で速度制御を行う装置をいう。

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