特集 「道路交通安全政策の新展開」―第11次交通安全基本計画による対策―
第3章 新たな目標の達成に向けて
第2節 人の観点

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特集 「道路交通安全政策の新展開」―第11次交通安全基本計画による対策―

第3章 新たな目標の達成に向けて

第2節 人の観点

交通機関の安全な運転・運航を確保するため,運転・運航する人間の知識・技能の向上,交通安全意識の徹底,資格制度の強化,指導取締りの強化,運転・運航の管理の改善,労働条件の適正化等を図り,かつ,歩行者等の安全な移動を確保するため,歩行者等の交通安全意識の徹底,指導の強化等を図るものとする。また,交通社会に参加する国民一人一人が,自ら安全で安心な交通社会を構築していこうとする前向きな意識を持つようになることが極めて重要であることから,交通安全に関する教育,普及啓発活動を充実させる。

1 歩行者の安全確保対策

歩行中交通事故死者数(第1・第2当事者)の約7割が,歩行者が横断中の事故であるが,これらの横断中の交通事故のうち,約6割が横断歩道以外の場所を横断している時に発生しており,その中の約7割は,走行車両の直前直後を横断したりするなどの法令違反があった。歩行者のルール遵守の徹底を図ることが重要である(特集-第24図,第26図,第28図)。

また,近年横断中の交通死亡事故について,横断歩道以外の横断中の歩行中交通事故死者数が大きく減少傾向にある中,横断歩道横断中の歩行中交通事故死者数も減少傾向にあるも,横断歩道以外の横断中と比較して,その減少幅は小さい。横断歩道横断中で違反が無いにもかかわらず死亡するケースも多くみられることから,広報啓発や指導取締りを徹底するなどして,歩行中の交通事故死者の減少につなげる(特集-第26図)。

(1)信号機のない横断歩道での歩行者横断時における車の一時停止状況全国調査

(一社)日本自動車連盟が平成28年に実施した「交通マナーに関するアンケート調査」の設問の中で,「信号機のない横断歩道で歩行者が渡ろうとしているのに一時停止しない車が多い」と思う人が86.2%(「とても思う」が43.7%,「やや思う」が42.5%)に達し,このような場面で一時停止しない車が多い傾向であることが判明したことから,「信号機のない横断歩道」に着目し,28年から全国で実態調査をしている。

令和2年では,信号機が設置されていない横断歩道を通過する車両を対象(9,434台)に行ったところ,歩行者が渡ろうとしている場面で一時停止した車は21.3%という結果となった。これは,前年の調査時と比べて4.2ポイントの増加となったが,依然として約8割の車が止まらないという結果となった(特集-第39図)。

特集-第39図 信号機のない横断歩道における車の一時停止率(全国)。一時不停止率、一時停止率。一時不停止率は減少傾向にあるが、一時停止率は増加傾向にある
(2)歩行者優先と正しい横断の徹底に向けた取組

横断歩道における交通死亡事故では,自動車の横断歩道手前での減速が不十分なものが多いため,運転者に対しては,事業所等における交通安全教育や運転者対象の各種広報活動において,横断歩道での歩行者がないことが明らかな場合を除き,直前で停止可能な速度で進行する義務と横断歩道における歩行者優先義務等の遵守による歩行者保護の徹底について再認識させる。また,運転免許証の更新時講習においても,歩行者の保護に関し運転者が遵守すべき事項について説明するとともに,更新時講習等に使用する教本や地方版資料等に,これら特に周知すべき事項を分かりやすく記載するよう努める。

運転者に対する指導取締りについては,歩行者が横断中の交通事故実態に着目し,横断歩行者等妨害等の違反や歩行者の信号無視等の違法行為による影響を分析の上,横断中はもとより,横断しようとする歩行者の保護に資する指導取締りを推進する。

一方,歩行者に対する交通安全教育及び指導啓発については,横断歩道を渡ること,信号機のある所では,その信号に従うといった歩行者としての基本的な交通ルールの周知に加え,歩行者側に違反の無い交通事故の防止にも資するよう,自らの安全を守るための交通行動として

○手を上げる・差し出す,運転者に顔を向けるなどして運転者に対して横断する意思を明確に伝えること

○安全を確認してから横断を始めること

○横断中も周りに気を付けること

等を促す交通安全教育等を推進する。

また,横断歩行者の優先のためには,その前提として,横断歩道の道路標識・道路標示が適正に設置されていることが極めて重要であることから,破損,滅失,褪色,摩耗その他の理由によりその効用が損なわれることのないよう適正な維持管理に努める。

特に,横断歩道の道路標示が摩耗等により消えかかったままにすることは,横断歩行者を危険にさらすものであることから,早急に更新を行う。ハンプや狭さくといった物理的デバイスは,速度抑制効果が認められることから,適切な箇所への整備に努める。

横断歩道を渡ることに関する交通安全教育の様子。横断歩道が映ったモニターを見ている子供が手を挙げている
2 高齢運転者の安全対策(道路交通法改正(運転技能検査の導入,「安全運転サポート車」等限定免許の導入))

令和2年6月,第201回国会において,高齢運転者対策の充実・強化を図るための規定の整備等を内容とする道路交通法の一部を改正する法律(令2法42)が成立した。この改正では,75歳以上の運転免許を受けた者で一定の要件に該当するものは,運転免許証の更新時に,運転技能検査を受けていなければならないこととされるとともに,都道府県公安委員会は,運転技能検査の結果により運転免許証の更新をしないことができることとされた。また,運転免許を受けた者は,都道府県公安委員会に,運転することができる自動車を一定の機能を有する自動車(安全運転サポート車等)に限定する条件その他の一定の条件を,その者の運転免許に付することを申請することができることとされた(特集-第40図)。

特集-第40図 改正道路交通法の概要。高齢運転者の運転免許証の更新制度の見直し、安全運転サポート車等限定条件付免許の導入、改正の概要が記されている
3 事業用自動車の安全対策(事業用自動車安全プラン)

世界に誇る安全な輸送サービスの提供を実現するために,行政・事業者・利用者の'安全トライアングル'により,総力を挙げて事故の削減に取り組む必要があり,これまでも,平成29年に策定した「事業用自動車総合安全プラン2020」に基づき推進してきたところ,第11次計画と期間を合わせた新たな事業用自動車の安全プランとして,「事業用自動車総合安全プラン2025」を令和3年3月に策定した。

当該プランでは,死者数(24時間死者数225人以下,バス,タクシーの乗客死者数ゼロ),人身事故件数(16,500件以下)に加え,重傷者数(2,120人以下),各業態の特徴的な事故に対する削減目標を設定し,依然として発生する飲酒運転,健康起因事故等への対策,先進技術の開発・普及を踏まえた対策,超高齢社会におけるユニバーサルサービス連携強化を踏まえた事故防止対策,新型コロナウイルス感染症拡大,激甚化・頻発化する災害等に対し,新たな日常への移行に伴う事業環境変化における安全対策等を盛り込んでいる(特集-第41図)。

特集-第41図 事業用自動車総合安全プラン2025の概要。ポイントとして、飲酒運転、健康起因事故等への対策、先進技術の開発・普及、超高齢社会におけるユニバーサルサービス連携強化などを挙げている。重点施策、事故削減目標も記されている

具体的には,例えば,抜本的対策による飲酒運転,迷惑運転等悪質な法令違反の根絶として,運転者に対する,自身の飲酒傾向の自覚を促す指導監督の推進等が盛り込まれている。

4 妨害運転対策(道路交通法改正(妨害運転))

令和2年6月,妨害運転(「あおり運転」)に対する罰則の創設等を内容とする道路交通法の一部を改正する法律が成立し,同月30日から施行された。また,本改正と併せて,道路交通法施行令(昭35政270)の一部が改正され,妨害運転に関する基礎点数等が整備された。これらの改正により,他の車両等の通行を妨害する目的で,急ブレーキ禁止違反や車間距離不保持等の一定の違反をした者について,最大で5年の懲役に処するとともに,運転免許の取消処分を課し,悪質・危険な運転者をより効果的に道路交通の場から排除することが可能となった。

新設された罰則等も活用しながら,引き続き,妨害運転に対する厳正な取締りを推進するとともに,妨害運転の根絶を図るため,改正規定の内容や「思いやり・譲り合い」の気持ちを持った運転の必要性,ドライブレコーダーの有効性等について,処分者講習等の機会を通じた教育や,家庭,学校,職場,地域等と一体となった広範なキャンペーン等を通じた広報啓発に努めていくこととしている。

5 自転車に対する交通秩序の維持(自転車に対する指導取締り)

警察では,歩道上において自転車と歩行者のふくそう等から重大事故の発生が懸念される地区・路線及び自転車が関係する事故の多発地区・路線を「自転車指導啓発重点地区・路線」と定め,当該地区・路線を中心に,自転車利用者による無灯火,二人乗り,信号無視,一時不停止等の交通違反に対して積極的に指導警告を行う。また,警告に従わず違反行為を継続したり,違反行為により通行車両や歩行者に具体的危険を生じさせたりするなど悪質・危険な自転車利用者に対しては,交通切符等を適用した検挙措置を講じている(特集-第42図)。

自転車指導取締りの状況。自転車から降りている人が警察官の聴取に応じている
特集-第42図 自転車利用者に対する指導取締り状況(令和2年)
取締り
件数(件)
指導警告
件数(件)
信号無視 通行禁止 遮断踏切
立入り
指定場所
一時不停止
制動装置
不良
酒酔い その他
14,344 236 6,005 1,804 446 119 2,513 25,467 1,437,748

注 警察庁資料による。

6 自転車配達員への交通事故防止対策

自転車を用いた配達員の交通事故を防止するため,自転車配達員に対する安全講習や自転車シミュレーターを活用した参加・体験・実践型の交通安全教室を実施し,基本的な交通ルールやマナーの周知を図っている。

引き続き,関係団体や関係事業者に対し,自転車配達員への交通ルール遵守等に関するメール配信や交通安全講習会の開催による交通安全教育,広報啓発活動の実施について働き掛けるほか,自転車配達員への街頭における指導啓発や,飲食店を通じた配達員への交通ルール遵守の呼び掛け等の諸対策を推進するなど自転車の安全利用の促進を図る。

トピック
自転車及び原動機付自転車を用いた飲食物のデリバリーにおける交通事故防止対策について

昨年来,新型コロナウイルス感染症防止のための外出自粛要請,新しい生活様式の普及等の影響により,電子商取引(EC)需要の拡大する中,自転車又は原動機付自転車を用いて飲食物の商品を消費者に配達するデリバリーサービスへのニーズが高まっている。

こうした中,自転車又は原動機付自転車によるデリバリーの途中で,配達員が交通事故でけがをしたり,通行人に危険を及ぼしたりすることがあり,配達中の交通事故を防止することが課題となっている。

このような状況を踏まえ,令和2年10月に,関係の5府省庁連名で通知を発出し,飲食店等(飲食物をデリバリーで提供することのある事業者及び飲食物のデリバリーサービスのプラットフォームを提供する事業者)に対して,

・自社の配達員に対する指導・教育

・配達を委託する場合の配達員への呼び掛け

・プラットフォームを提供する事業者から配達員への交通安全に必要な情報の提供等

交通事故防止のための具体的な注意喚起等の取組を行うよう働き掛けを行った。また,リーフレット(事業者向け及び配達員向け)による注意喚起を行った。

今後も,関係事業者等に対する交通安全対策の働き掛け,飲食店等を通じた配達員への交通ルール遵守の呼び掛け等を推進していく。

▲配達員の皆様へ。「配達中の交通事故を防ぐために」と題したリーフレット
▲事業者の皆様へ。「配達中の交通事故を防ぐために」と題したリーフレット
配達員に対する講習会の様子。交通機動隊とバイクを前に講習を受けている参加者。交差点で右手にトラックがいる状態で自転車が直進する様子
7 交通ボランティアの育成

安全安心な交通社会の実現に向けては,各地域の行政や関係団体だけでなく,交通ボランティア等も含めて地域一体となった交通安全対策を推進する必要がある。このため,交通ボランティア等に対して,資質の向上に資する援助を行うことなどにより,その主体的な活動及び相互間の連絡協力体制の整備を促進する。

トピック
地域一体となって活動している交通ボランティアの取組について
1 神奈川県相模原市「光が丘地区交通安全母の会」の活動

光が丘地区交通安全母の会は,昭和59年の設立以来,地元警察,交通安全協会や自治会連合会,地域の学校等の団体と密接な連携を図りながら,自転車事故や高齢者事故など地域の実情に即した交通安全活動に積極的に取り組んでいる。

光が丘地区内4つの小学校の児童を対象に交通安全標語の募集を毎年行い,集まったおよそ1,400の標語について,警察署長や交通安全協会長,自治会連合会会長など地域の協力を得て審査,表彰し,子供が日頃の自分たちの行動を振り返り,交通安全のために大事なことや命の大切さを家族や友達同士で考える機会としている。

また,全国交通安全運動の機会に,小学校の児童に交通安全の願いを込めた千羽鶴を折ってもらい,各小学校や公民館に寄贈しているほか,保護者を対象とした自転車ルールの勉強会の開催や高齢者の自宅を訪問する高齢者セーフティーアドバイス事業の実施など,様々な交通安全対策を推進している。

最優秀標語を横断幕にして学校前に設置。横断幕のバックにするボランティアの人々
児童が折った千羽鶴を一つにまとめる様子。折り紙の千羽鶴をまとめるボランティア人々
2 茨城県水戸市「高校生による交通安全啓発活動」

茨城県水戸市では,水戸地区交通安全協会水戸支部のパトロール隊や水戸警察署等と連携しながら,交通安全教室の開催,季節ごとの交通安全街頭キャンペーン,定期的な立哨活動など,あらゆる機会を通じた交通安全に関する啓発活動に取り組んでいる。

新型コロナウイルス感染症の影響により,駅頭などにおける大人数の啓発活動が困難な中,市民の自転車を安全に利用する意識を高めようと,市と大成女子高等学校の生徒会が市民に向けたメッセージ動画を作成し,秋の全国交通安全運動に合わせた取組として,水戸市公式ウェブサイトやツイッターで配信した。

また,市内のスーパーマーケットや街頭放送,市が管理する自転車等駐車場では,音声で放送されるとともに,新聞等のメディア報道を通じて周知されるなど,市民の交通安全意識の向上に大きく貢献した。

大成女子高等学校における収録の様子。「秋の全国交通安全運動」のテロップが表示された動画で生徒がメッセージを読み上げている
8 交通事故被害者支援(重度後遺障害者支援)

自動車事故による被害者の救済対策の中核は自動車損害賠償責任保険及び政府保障事業による被害者に対する損害賠償の保障であり,「損害」の「賠償」を「保障」することにより,「被害者の保護」を図っている一方,例えば,自動車事故により重度の後遺障害を負った場合,専門的な治療を受けられる機会の確保や在宅での療養生活における被害者やその家族の負担軽減など,保険金の支払いのみでは解決できない課題も存在している。

こうした課題に対応するため,平成14年に定められた自動車事故対策計画(平14国土交通省告示52)及び当該計画の策定後の状況に係る検証を経て,18年に取りまとめられた「今後の自動車損害賠償保障制度のあり方に係る懇談会報告書」において示された考え方に基づき,自動車事故による重度後遺障害者の治療に係る専門病院(療護施設)の設置・運営や在宅での療養生活をされている自動車事故による重度後遺障害者を対象とした介護料の支給などの支援をこれまで継続して実施している。

これらの支援に加え,在宅で療養生活を送る自動車事故による後遺障害者の介護者が,様々な理由により介護が難しくなる場合(「介護者なき後」)への対応として,平成30年度より,障害者支援施設及びグループホームに対し,設備導入や介護人材確保等に係る経費を補助する制度を創設するなど,自動車事故に起因して生じる様々な負担の軽減に取り組んでいる(特集-第43図)。

特集-第43図 国土交通省における自動車事故被害者への支援事業。重度後遺障害被害者への支援として、療護施設の設置・運営、介護料の支給、訪問支援の実施、短期入院・入所協力事業の実施、在宅生活支援環境整備事業の実施。このほか、自動車事故に係る相談や遺児への支援等を実施
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