特集 「道路交通安全政策の新展開」―第11次交通安全基本計画による対策―
第4章 第11次交通安全基本計画の概要
第3節 道路交通の安全

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特集 「道路交通安全政策の新展開」―第11次交通安全基本計画による対策―

第4章 第11次交通安全基本計画の概要

第3節 道路交通の安全

1 道路交通事故のない社会を目指して
(1)道路交通事故のない社会を目指して

高齢化の進展への適切な対処とともに,子育てを応援する社会の実現が強く要請される中,時代のニーズに応える交通安全の取組が今,一層求められている。

今後も,道路交通事故による死者数及び命に関わり優先度が高い重傷者数をゼロに近づけることを目指し,究極的に道路交通事故のない社会の実現に向けて,政府を挙げて更に積極的な取組が必要である。

(2)歩行者の安全確保

人優先の交通安全思想の下,歩道の整備等により歩行者の安全確保を図ることが重要である。

(3)地域の実情を踏まえた施策の推進

交通安全に関しては,都道府県,市区町村等それぞれの地域の実情を踏まえた上で,その地域に最も効果的な施策の組合せを,地域が主体となって行うべきである。

さらに,地域の安全性を総合的に高めていくためには,交通安全対策を防犯や防災と併せて一体的に推進していくことが有効かつ重要である。

(4)役割分担と連携強化

行政のほか,学校,家庭,職場,団体,企業等それぞれが責任を持ちつつ役割分担しながらその連携を強化し,また,住民が,交通安全に関する各種活動に対して,その計画,実行,評価の各場面において様々な形で積極的に参加し,協働していくことが有効である。

(5)交通事故被害者等の参加・協働

交通事故被害者等は,交通事故の悲惨さを我が身をもって経験し,理解していることから,交通事故被害者等の参加や協働は重要である。

2 道路交通の安全についての目標
(1)道路交通事故の現状

我が国の交通事故による24時間死者数は,昭和45年に1万6,765人を数えたが,平成28年には3,904人と4,000人を下回り, ピーク時(昭和45年:1万6,765人)の4分の1以下となった。

第10次計画の最終年である令和2年中の死者数は2,839人となり,初めて3,000人を下回り,ピーク時の約6分の1となったが,令和2年までに24時間死者数を2,500人以下とするという目標は遺憾ながら達成するに至らなかった。

なお,近年,死傷者数と交通事故件数については,平成16年をピークに減少が続いており,令和元年中の死傷者数は464,990人,2年中は372,315人となり,第10次計画の目標を2年連続して達成している。

(2)第11次計画における目標

道路交通事故のない社会を達成することが究極の目標であるが,一朝一夕にこの目標を達成することは困難であると考えられることから,まずは死者数及び命に関わり優先度が高い重傷者数をゼロに近づけることを目指し,本計画の計画期間である令和7年までには,以下のとおり設定することとする。

① 世界一安全な道路交通の実現を目指し,年間の24時間死者数を2,000人以下とする。

この年間の24時間死者数2,000人に,平成28年から令和元年の間の24時間死者数と30日以内死者数の比率の平均(1.20)を乗ずると,2,400人となる。年間の30日以内死者数が2,400人となると,人口10万人当たりの30日以内死者数は1.96人となる。国際道路交通事故データベース(IRTAD)がデータを公表している34か国中の人口10万人当たりの30日以内死者数をみるに,我が国は2018年では3.29人と8番目に少ないが,この目標を達成した場合には,他の各国の交通事故情勢が現状と大きく変化がなければ,最も少ない国となる。

② 年間の重傷者数を22,000人以下にする。

本計画における最優先の目標は死者数の減少であるが,重傷者が発生する事故防止への取組が,死者数の減少にもつながることから,本計画においては,命に関わり優先度が高い重傷者に関する目標値を設定するものである。また,先端技術や救急医療の発展等により交通事故の被害が軽減し,従来であれば死亡事故に至るような場合であっても,重傷に留まる事故も少なくない。このため,日常生活に影響の残るような重傷事故を減らすことにも,さらに着目していくため,目標値とするものである。

なお,諸外国と比べて歩行中及び自転車乗用中の死者数の構成率が高いことから,交通事故死者数を減少させるに当たっては,道路交通事故死者数全体の減少割合以上の割合で歩行中及び自転車乗用中の死者数を減少させるよう取り組むものとする。

3 道路交通の安全についての対策
(1)今後の道路交通安全対策を考える視点

高齢者の人口10万人当たりの死者数は,年々減少傾向である一方で,令和2年は,全年齢層の人口10万人当たりの死者数の約2倍であり,道路交通事故死者数全体の56.2%を占めるなど,いずれも引き続き高い水準となっている。

状態別人口10万人当たり死者数を見ると,歩行中,自動車乗車中が多く,事故類型別人口10万人当たり死亡事故発生件数を見ると,正面衝突等,歩行者横断中,出会い頭衝突の順に多い。

このため,従来の交通安全対策を基本としつつも,経済社会情勢,交通情勢,技術の進展・普及等の変化等に柔軟に対応し,また,変化する状況の中で実際に発生した交通事故に関する情報の収集,分析を充実し,より効果的な対策への改善を図るとともに,有効と見込まれる施策を推進する。

〈重視すべき視点〉

ア 高齢者及び子供の安全確保

欧米諸国と比べても,我が国は交通事故死者数に占める歩行者及び自転車利用者の割合が高く,これらの約7割が高齢者となっている。

高齢者については,主として歩行及び自転車等を交通手段として利用する場合の対策とともに,自動車を運転する場合の安全運転を支える対策を推進する。さらに,運転免許返納後の,高齢者の移動を伴う日常生活を支えるための対策は,この計画の対象となる政策に留まらないが,これらの対策とも連携を深めつつ推進することが重要となる。

・ 高齢者が歩行及び自転車等を交通手段として利用する場合については,歩道の整備や生活道路の対策,高齢者の特性を踏まえた交通安全教育や見守り活動などのほか,多様なモビリティの安全な利用を図るための対策,地域の状況に適った自動運転サービス等の活用なども重要と考えられる。また,年齢等にかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境を設計するとの考え方に基づき,バリアフリー化された道路交通環境を形成する。

・ 高齢者が運転する場合の安全運転を支える対策については,身体機能の衰え等を補う技術の活用・普及を一層積極的に進める必要がある。また,運転支援機能の過信・誤解による事故が発生しており,運転支援機能を始めとする技術とその限界,技術の進展の状況について,交通安全教育等を通じて幅広く情報提供していく。

子供の交通事故死者数は減少してきているが,次代を担う子供の安全を確保する観点から,未就学児を中心に子供が日常的に集団で移動する経路や通学路等の子供が移動する経路において,横断歩道の設置や適切な管理,歩道の整備等の安全・安心な歩行空間の整備を積極的に推進する。また,子供を保育所等に預けて働く世帯が増えている中で,保育所等を始め地域で子供を見守っていくための取組も充実させていく。

イ 歩行者及び自転車の安全確保と遵法意識の向上

歩行中の死者数は,確実に減少してきている一方で,状態別の中で最も多く,横断歩道において自動車が一時停止しない等,歩行者優先の徹底は未だなされていない。歩行者の安全を確保することが必要不可欠であり,特に,高齢者や子供にとって身近な道路の安全性を高める必要がある。

人優先の考えの下,未就学児を中心に子供が日常的に集団で移動する経路,通学路,生活道路及び市街地の幹線道路において横断歩道の設置や適切な管理,歩道の整備を始め,安全・安心な歩行空間の確保を積極的に進めるなど,歩行者の安全確保を図る対策を推進する。

また,横断歩行者が関係する交通事故を減少させるため,運転者には横断歩道に関する交通ルールの再認識と歩行者優先の徹底を周知するなど,運転者の遵法意識の向上を図る。

一方,歩行者に対しては,横断歩道を渡ること,信号機のあるところでは,その信号に従うことといった交通ルールの周知を図るとともに,安全を確認してから横断を始め,横断中も周りに気を付けること等,歩行者が自らの安全を守るための行動を促す交通安全教育等を推進する。

自転車については,自動車等に衝突された場合には被害者となる反面,歩行者等と衝突した場合には加害者となるため,全ての年齢層へのヘルメット着用の推奨,自転車の点検・整備,損害賠償責任保険等への加入促進等の対策を推進する。

さらに,自転車利用者については,自転車の交通ルールに関する理解が不十分なことも背景として,ルールやマナーに違反する行動が多いため,交通安全教育等の充実を図るなど,自転車利用者を始めとする道路利用者の自転車に関する安全意識の醸成を図る。

加えて,通勤や配達目的の自転車利用者による交通事故の防止についての指導啓発等の対策や駆動補助機付自転車や電動車椅子等多様なモビリティの普及に伴う事故の防止についての普及啓発等の対策を推進する。

ウ 生活道路における安全確保

ゾーン30の設定の進展に加え,物理的デバイスのハンプ等が普及段階を迎えている。引き続き,自動車の速度抑制を図るための道路交通環境整備を進めるほか,可搬式速度違反自動取締装置の整備を推進するなど,生活道路における適切な交通指導取締りの実施,生活道路における安全な走行方法の普及,幹線道路を通行すべき自動車の生活道路への流入を防止するための対策等を推進していく必要がある。

エ 先端技術の活用推進

サポカー・サポカーSの普及はもとより,運転者の危険認知の遅れや運転操作の誤りによる事故を未然に防止するための安全運転を支援するシステムの更なる発展や普及,車車間通信,レベル3以上の自動運転の実用化や自動運転車へのインフラからの支援など,先端技術の活用により,交通事故の更なる減少が期待される。そのためにも,安全な自動運転を実用化するための交通ルールの在り方や安全性の担保方策等について,技術開発等の動向を踏まえつつ検討を進める。

技術の発展については,車両分野に留まらず,例えば,交通事故が発生した場合にいち早く救助・救急を行えるシステムなど,技術発展を踏まえたシステムを導入推進していく。また,少子高齢化等により,職業運転手等の人手不足が深刻化している中で,先端技術の活用により,人手不足を解決しつつ,安全の確保を実現していく。

オ 交通実態等を踏まえたきめ細かな対策の推進

道路交通事故について,分析システムの活用やETC2.0から得られたビッグデータ等のミクロ分析を行い,様々なリスク行動を分析し,対策にいかすための方策を具体化する必要があることから,ビッグデータ等や専門家の知見を一層幅広く活用していく。

カ 地域が一体となった交通安全対策の推進

都道府県,市区町村などそれぞれの地域における行政,関係団体,住民等の協働により,地域に根ざした交通安全の課題の解決に取り組んでいくことが一層重要となる。

このため,地域の実情を知悉した専門家の知見を,地域の取組にいかすとともに,地域住民の交通安全対策への関心を高め,交通事故の発生場所や発生形態など事故特性に応じた対策を実施していくため,インターネット等を通じた交通事故情報の提供に一層努める。

(2)講じようとする施策

ア 道路交通環境の整備

我が国の歩行中・自転車乗用中の死者数の割合は諸外国と比べて高いことから,歩行者や自転車が多く通行する生活道路における安全対策をより一層推進する必要がある。このため,今後の道路交通環境の整備に当たっては,自動車交通を担う幹線道路等と歩行者中心の生活道路の機能分化を進め,身近な生活道路の安全の推進に取り組むこととする。

また,少子高齢化が一層進展する中で,子供を事故から守り,高齢者や障害者が安全にかつ安心して外出できる交通社会の形成を図る観点から,安全・安心な歩行空間が確保された人優先の道路交通環境整備の強化を図っていくものとする。

そのほか,道路交通の円滑化を図ることによる交通安全の推進に資するため,道路利用の仕方に工夫を求め,輸送効率の向上や交通量の時間的・空間的平準化を図る交通需要マネジメント(TDM)施策を総合的に推進するとともに,最先端のICT等を用いて,人と道路と車とを一体のシステムとして構築し,安全性,輸送効率及び快適性の向上を実現するとともに,渋滞の軽減等の交通の円滑化を通じて環境保全に寄与することを目的とした高度道路交通システム(ITS)の開発・普及等を推進する。

○ 生活道路等における人優先の安全・安心な歩行空間の整備

・ 最高速度30キロメートル毎時の区域規制「ゾーン30」の整備推進

・ 車両速度の抑制や通過車両の抑制によるエリア対策

・ ビッグデータの活用による潜在的な危険箇所の解消

・ 通学路や未就学児を中心に子供が日常的に集団で移動する経路における交通安全を確保するため,関係機関が連携して対策を推進

・ 高齢者,障害者等の安全に資する歩行空間等の整備

○ 高速道路の更なる活用促進による生活道路との機能分化

・ 高規格幹線道路等,事故率の低い道路利用の促進と生活道路における通過交通の排除による,人優先の道路交通の形成

○ 幹線道路における交通安全対策の推進

・ ワイヤロープの設置,逆走対策の推進,環状交差点の適切な箇所への導入

○ 高齢者等の移動手段の確保・充実

・ 地域公共交通計画に基づく公共交通サービスの改善,地域の自動運転サービスの社会実装や地域課題の解決に資するMaaSのモデル構築等を推進

○ 自転車利用環境の総合的整備

・ 自転車活用推進計画に基づき,交通状況に応じた歩行者・自転車・自動車の適切な分離を図り,安全で快適な自転車利用環境を創出

○ ITS( 高度道路交通システム)の活用

・ 光ビーコン,ETC2.0等のインフラの整備の推進及びリアルタイムの自動車走行履歴(プローブ)情報等の広範な道路交通情報を集約・配信

○ 災害に備えた道路交通環境の整備

・ 警察や道路管理者,民間事業者が保有するプローブ情報から運行実績情報を生成し提供することで災害時における交通情報の提供を推進

○ 交通安全に寄与する道路交通環境の整備

・ 冬期積雪・凍結路面対策として,広範囲で躊躇ない予防的・計画的な通行規制や集中的な除雪作業,道路利用者への情報提供

イ 交通安全思想の普及徹底

交通安全教育は,自他の生命尊重という理念の下に,交通社会の一員としての責任を自覚し,交通安全のルールを守る意識と交通マナーの向上に努め,相手の立場を尊重し,他の人々や地域の安全にも貢献できる良き社会人を育成する上で,重要な意義を有している。交通安全意識を向上させ交通マナーを身に付けるためには,人間の成長過程に合わせ,生涯にわたる学習を促進して国民一人一人が交通安全の確保を自らの課題として捉えるよう意識の改革を促すことが重要である。また,人優先の交通安全思想の下,子供,高齢者,障害者等に関する知識や思いやりの心を育むとともに,交通事故被害者等の痛みを思いやり,交通事故の被害者にも加害者にもならない意識を育てることが重要である。

○ 段階的かつ体系的な交通安全教育の推進

・ 運転免許を持たない若者や成人が交通安全について学ぶ機会の設定

・ 高齢者自身の交通安全意識の向上や地域一体となった高齢者の安全確保

○ 交通安全に関する普及啓発活動の推進

・ 横断歩行者の安全確保

・ 全ての年齢層の自転車利用者に対してヘルメットの着用を推奨

・ 配達目的で自転車を利用する関係事業者等への交通安全対策の働き掛け等を推進

○ 交通の安全に関する民間団体等の主体的活動の推進

・ 交通ボランティア等への幅広い年代の参画

ウ 安全運転の確保

安全運転を確保するためには,運転者の能力や資質の向上を図ることが必要であり,このため,運転者のみならず,これから運転免許を取得しようとする者までを含めた運転者教育等の充実に努める。特に,今後大幅に増加することが予想される高齢運転者に対する教育等の充実を図る。運転免許制度については,最近の交通情勢を踏まえて必要な改善を図る。

また,運転者に対して,運転者教育,安全運転管理者による指導,その他広報啓発等により,横断歩道においては,歩行者が優先であることを含め,高齢者や障害者,子供を始めとする歩行者や自転車に対する保護意識の向上を図る。

○ 運転者教育等の充実

・ 認知機能検査,安全運転相談等の機会を通じて,認知症の疑いがある運転者等の把握に努め,臨時適性検査等の確実な実施により,安全な運転に支障のある者については運転免許の取消し等の行政処分を実施

・ 運転技能検査制度の導入や安全運転サポート車に限定するなどの限定条件付免許制度の導入等を内容とする改正道路交通法の円滑な施行

○ 事業用自動車の安全プラン等に基づく安全対策の推進

・ 事業用自動車の交通事故死者数・重傷者数・人身事故件数・飲酒運転件数の削減等を目標とする事業用自動車総合安全プランに基づき,関係者が一体となり総合的な取組を推進

エ 車両の安全性の確保

従来取り組んできた衝突時の被害軽減対策の進化・成熟化を図ることに加え,事故を未然に防止する予防安全対策について,自動運転技術を含む先進安全技術のより一層の普及促進・高度化等により,更なる充実を図る必要がある。

ただし,先進安全技術を円滑かつ効果的に社会に導入していくためには,最低限の安全性を確保するための基準の策定等に加え,運転者がその機能を正確に把握して正しく使用してもらうための対策も重要である。

また,不幸にして発生してしまった事故についても,車両構造面からの被害軽減対策を拡充するとともに,事故発生後の車両火災防止や車両からの脱出容易性の確保等,被害拡大防止対策を併せて進める。

○ 車両の安全性に関する基準等の改善の推進

・ 車両の安全対策の基本である自動車の構造・装置等の安全要件を定める道路運送車両の保安基準について,適切に拡充・強化を推進

・ 運転者の先進技術に対する過信・誤解による事故を防止するため,先進技術に関する理解醸成の取組を推進

・ 高齢運転者が自ら運転をする場合の安全対策として,安全運転サポート車の性能向上・普及促進等の高齢運転者への車両安全対策を推進

○ 自動運転車の安全対策・活用の推進

・ 令和2年3月に限定的な自動運転機能等に係る安全基準を導入したところであるが,より高度な自動運転機能についても基準策定を推進

・ 地方部における高齢者等の移動に資する無人自動運転移動サービス車両の実現に向けて,実証実験や技術要件の策定等の取組を促進

○ 自動車アセスメント情報の提供等

・ 自動車の安全性に関する情報を自動車使用者に伝え,自動車使用者の選択を通じて,より安全な自動車の普及拡大を促進すると同時に,自動車製作者のより安全な自動車の研究開発を促進

○ 自転車の安全性の確保

・ 自転車が加害者となる事故に関し,賠償責任を負った際の支払い原資を担保し,被害者の救済の十全を図るため,損害賠償責任保険等への加入を促進

オ 道路交通秩序の維持

交通ルール無視による交通事故を防止するためには,交通指導取締り,交通事故事件捜査,暴走族等対策を通じ,道路交通秩序の維持を図る必要がある。

このため,交通事故実態等を的確に分析し,死亡事故等重大事故に直結する悪質性,危険性の高い違反や,駐車違反等の迷惑性の高い違反に重点を置いた交通事故抑止に資する交通指導取締りを推進する。

また,交通事故事件の発生に際しては初動段階から組織的な捜査を行うとともに,危険運転致死傷罪の立件も視野に入れた捜査の徹底を図るほか,研修等による捜査力の強化や客観的な証拠に基づいた事故原因の究明等により適正かつ緻密な捜査の一層の推進を図る。

○ 交通指導取締りの強化等

・ 無免許運転,飲酒運転,妨害運転,著しい速度超過,交差点関連違反等の交通事故に直結する悪質性,危険性の高い違反,国民から取締り要望の多い迷惑性の高い違反に重点を置いた交通指導取締りを推進

・ 交通指導取締りの実施状況について,交通事故の発生実態等を分析し,その結果を取締り計画の見直しに反映させる,いわゆるPDCAサイクルをより一層機能

・ 自転車利用者による無灯火,二人乗り,信号無視,一時不停止等に対して積極的に指導警告を行うとともに,悪質・危険な交通違反に対する検挙措置を推進

○ 交通事故事件等に係る適正かつ緻密な捜査の一層の推進

・ 危険運転致死傷罪の立件を視野に入れた捜査の徹底

・ 交通事故事件等に係る科学的捜査の推進

カ 救助・救急活動の充実

交通事故による負傷者の救命を図り,また,被害を最小限にとどめるため,高速自動車国道を含めた道路上の交通事故に即応できるよう,救急医療機関,消防機関等の関係機関における緊密な連携・協力関係を確保しつつ,救助・救急体制及び救急医療体制の整備を図る。特に,負傷者の救命率・救命効果の一層の向上を図る観点から,救急現場又は搬送途上において,医師,看護師,救急救命士,救急隊員等による一刻も早い救急医療,応急処置等を実施するための体制整備を図るほか,事故現場からの緊急通報体制の整備やバイスタンダー(現場に居合わせた人)による応急手当の普及等を推進する。

○ 救助・救急体制の整備

・ 交通事故の種類・内容の複雑多様化に対処するため,救助体制を整備拡充

・ 救助工作車や交通救助活動に必要な救助資機材を充実

○ 救急医療体制の整備

・ 初期救急医療機関,第二次救急医療体制,第三次救急医療体制の整備推進

・ 交通事故等で負傷した患者の救命率の向上や後遺症を軽減させるため,医師等が同乗し救命医療を行いながら搬送できるドクターヘリを配備し,地域の実情に応じた体制を整備

キ 被害者支援の充実と推進

交通事故被害者等は,交通事故により多大な肉体的,精神的及び経済的打撃を受けたり,又はかけがえのない生命を絶たれたりするなど,深い悲しみやつらい体験をされており,このような交通事故被害者等を支援することは極めて重要であることから,犯罪被害者等基本法(平16法161)等の下,交通事故被害者等のための施策を総合的かつ計画的に推進する。

また,近年,自転車が加害者になる事故に関し,高額な賠償額となるケースもあり,こうした賠償責任を負った際の支払い原資を担保し,被害者の救済の十全を図るため,関係事業者の協力を得つつ,損害賠償責任保険等への加入を加速化する。

○ 自動車損害賠償保障制度の充実等

・ 自賠責保険(自賠責共済)による救済を受けられないひき逃げや無保険(無共済)車両による事故の被害者への救済の観点から引き続き政府の自動車損害賠償保障事業の適正な運用

○ 損害賠償の請求についての援助等

○ 交通事故被害者等支援の充実強化

・ 在宅で療養生活を送る自動車事故による後遺障害者の介護者が,様々な理由により介護が難しくなる場合に備えた環境整備を推進

・ 交通事故被害者等の支援の充実を図るため,自助グループの活動等に対する支援を始めとした施策を推進

・ 不起訴処分について,交通事故被害者等の希望に応じ,処分の内容及び理由について十分な説明の推進

・ 国土交通省に設置した公共交通事故被害者支援室における公共交通事故の被害者等への支援の取組を着実に推進

ク 研究開発及び調査研究の充実

道路交通の安全に関する研究開発の推進を図るとともに,死亡事故のみならず重傷事故等も含め交通事故の分析を充実させるなど,引き続き,道路交通事故要因の総合的な調査研究の推進を図る。

研究開発及び調査研究の推進に当たっては,交通の安全に関する研究開発を分担する国及び独立行政法人の試験研究機関について,研究費の充実,研究設備の整備等を図るとともに,研究開発に関する総合調整の充実,試験研究機関相互の連絡協調の強化等を図る。さらに,交通の安全に関する研究開発を行っている大学,民間試験研究機関との緊密な連携を図る。

加えて,交通の安全に関する研究開発の成果を交通安全施策に取り入れるとともに,地方公共団体に対する技術支援や,民間に対する技術指導,資料の提供等によりその成果の普及を図る。また,交通の安全に関する調査研究についての国際協力を積極的に推進する。

○ 安全な自動運転を実用化するための制度の在り方に関する調査研究

・ 従来の「運転者」の存在を前提としない場合における交通ルールの在り方や自動運転システムがカバーできない事態が発生した場合の安全性の担保方策等について,技術開発等の動向を踏まえつつ検討

○ 道路交通事故原因の総合的な調査研究の充実強化

・ 救命救急医療機関等との医工連携による新たな交通事故データベースの構築及び活用を推進

・ イベントデータレコーダーやドライブレコーダー,作動状態記録装置のデータ等のミクロデータの充実を通した交通事故分析への活用を推進

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