特集 「道路交通安全政策の新展開」―第11次交通安全基本計画による対策―
第4章 第11次交通安全基本計画の概要
第4節 鉄道交通の安全
特集 「道路交通安全政策の新展開」―第11次交通安全基本計画による対策―
第4章 第11次交通安全基本計画の概要
第4節 鉄道交通の安全
1 鉄道事故のない社会を目指して
人や物を大量に,高速に,かつ,定時に輸送できる鉄道は,年間250億人が利用する国民生活に欠くことのできない交通手段であり,国民が安心して利用できる,一層安全な鉄道輸送を目指し,重大な列車事故やホームでの事故への対策等,各種の安全対策を総合的に推進していく必要がある。
2 鉄道交通の安全についての目標
(1)鉄道事故の状況
鉄道の運転事故は,長期的には減少傾向にあり,令和2年は518件であった。
また,令和2年の死者数は245人であり,負傷者数は202人であった。
なお,平成17年には乗客106人が死亡したJR西日本福知山線列車脱線事故及び乗客5人が死亡したJR東日本羽越線列車脱線事故が発生したが,平成18年から令和2年までは乗客の死亡事故は発生していない。
(2)第11次計画における目標
① 乗客の死者数ゼロを目指す。
② 運転事故全体の死者数減少を目指す。
3 鉄道交通の安全についての対策
(1)今後の鉄道交通安全対策を考える視点
鉄道の運転事故は長期的には減少傾向にあり,これまでの交通安全基本計画に基づく施策には一定の効果が認められる。しかしながら,一たび列車の衝突や脱線等が発生すれば,多数の死傷者を生じるおそれがあることから,重大な列車事故の未然防止を図る必要がある。
また,ホームでの接触事故等の人身障害事故と踏切障害事故を合わせると運転事故全体の約9割を占めており,このうち利用者等の関係する事故が多いことから,対策を講じる必要がある。
(2)講じようとする施策
ア 鉄道交通環境の整備
鉄道交通の安全を確保するためには,鉄道施設,運転保安設備等について常に高い信頼性を保持し,システム全体としての安全性を確保する必要がある。このため,運転保安設備の整備等の安全対策の推進を図る。
また,多発する自然災害へ対応するために,防災・減災対策の強化が喫緊の課題となっている。このため,切土や盛土等の土砂災害への対策の強化,地下駅等の浸水対策の強化等を推進する。切迫する首都直下地震・南海トラフ地震等に備えて,鉄道ネットワークの維持や一時避難場所としての機能の確保等を図るため,主要駅や高架橋等の耐震対策を推進する。
さらに,駅施設等について,高齢者・視覚障害者を始めとするすべての旅客のプラットホームからの転落・接触等を防止するため,ホームドアの整備を加速化するとともに,ホームドアのない駅での視覚障害者の転落事故を防止するため,新技術等を活用した転落防止対策を推進する。
イ 鉄道交通の安全に関する知識の普及
学校,沿線住民,道路運送事業者等を幅広く対象として,関係機関等の協力の下,全国交通安全運動や踏切事故防止キャンペーンの実施,鉄道事業者・携帯電話業者等が一体となって,鉄道利用者にホームの「歩きスマホ」による危険性の周知や酔客に対する事故防止のための注意喚起を行うプラットホーム事故0(ゼロ)運動等において広報活動を積極的に行い,鉄道の安全に関する正しい知識を浸透させる。
ウ 鉄道の安全な運行の確保
鉄道事業者に対し,定期的に又は重大な事故等の発生を契機に保安監査を実施し,輸送の安全の確保に関する取組の状況,施設及び車両の保守管理状況,運転取扱いの状況,乗務員等に対する教育訓練の状況等について適切な指導を行うとともに,過去の指導のフォローアップを実施する。また,計画的な保安監査のほか,同種トラブルの発生等の際にも臨時保安監査を行うなど,メリハリの効いたより効果的な保安監査を実施するなど,保安監査の充実を図る。
また,鉄道事業者に対し,大型の台風が接近・上陸する場合など,気象状況により列車の運転に支障が生ずるおそれが予測されるときは,一層気象状況に注意するとともに,安全確保の観点から,路線の特性に応じて,前広に情報提供した上で計画的に列車の運転を休止するなど,安全の確保に努めるよう指導する。
情報提供を行うに当たっては,在留外国人及び訪日外国人にも対応するため,事故等発生時における多言語案内体制の強化も指導する。
エ 鉄道車両の安全性の確保
発生した事故や科学技術の進歩を踏まえつつ,適時,適切に鉄道車両の構造・装置に関する保安上の技術基準を見直す。
オ 救助・救急活動の充実
鉄道の重大事故等に備え,避難誘導,救助・救急活動を迅速かつ的確に行うため,訓練の充実や鉄道事業者と消防機関,医療機関その他の関係機関との連携・協力体制の強化を図る。
また,鉄道職員に対する,自動体外式除細動器(AED)の使用も含めた心肺蘇生法等の応急手当の普及啓発活動を推進する。
カ 被害者支援の推進
関係者からの助言を頂きながら,外部の関係機関とのネットワークの構築,公共交通事故被害者等支援フォーラムの開催,公共交通事業者による被害者等支援計画作成の促進等,公共交通事故の被害者等への支援の取組を着実に進めていく。
キ 鉄道事故等の原因究明と事故等防止
鉄道事故及び鉄道事故の兆候(鉄道重大インシデント)の原因究明をさらに迅速かつ的確に行うため,調査を担当する職員への専門的な研修を充実させ,調査技術の向上を図るとともに,ドローン等を活用した新たな調査手法の構築,過去の事故等調査で得られたノウハウや各種分析技術,同種事故の比較分析など事故調査結果のストックの活用等により,調査・分析手法の高度化を図る。
また,事故等調査結果等に基づき,必要な施策又は措置の実施を求め,鉄道交通の安全に寄与する。
ク 研究開発及び調査研究の充実
交通安全環境研究所及び鉄道総合技術研究所において,鉄道の安全性向上に関する研究開発及び調査研究を推進する。
その他,踏切がある等の一般的な路線を対象として,センサ技術やICT,無線を利用した列車制御技術などの最新技術も利活用し,鉄道分野における生産性革命にも資する自動運転の導入について,安全性や利便性の維持・向上を図るための技術的要件を検討する。