特集 「道路交通安全政策の新展開」―第11次交通安全基本計画による対策―
第4章 第11次交通安全基本計画の概要
第6節 海上交通の安全

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特集 「道路交通安全政策の新展開」―第11次交通安全基本計画による対策―

第4章 第11次交通安全基本計画の概要

第6節 海上交通の安全

1 海難のない社会を目指して

四面を海に囲まれている我が国において,海上輸送は,我が国の経済産業や国民生活を支える上で欠くことのできないものとなっている中で,一たび海上における船舶の事故が発生した場合には,人命に対する危険性が高いことはもちろん,大量の油が流出するなどの二次災害や航路の閉塞等,我が国の経済と自然環境に甚大な影響を及ぼすことにもつながりかねない。

一方で,小型船舶の事故は依然として全体の8割を占め,近年では免許や検査を要しない新たなウォーターアクティビティが多様化・活発化している。

こうした状況を踏まえ,海上交通全体の安全確保の見地から,全ての関係者が連携・協力して,ハード・ソフトの両面にわたる総合的かつ計画的な安全施策の推進,船舶事故等の原因究明に向けた調査体制の充実,また,人命救助率の向上を図るために,海難が発生した場合の乗船者等の迅速・的確な捜索・救助活動を引き続き強力に推進するとともに,自己救命対策の強化等が必要である。

2 海上交通の安全についての目標
(1)海難の状況

平成28年から令和2年までの船舶事故隻数(本邦に寄港しない外国船舶によるものを除く。以下同じ。)は,年平均2,030隻であり,それ以前の5年間の平均と比べると,約10%減少している。平成28年から令和2年までの船舶事故又は船舶からの海中転落による死者・行方不明者数は,年平均約157名であり,それ以前の5年間の平均と比べると,約17%減少している。平成28年から令和2年までの人身事故者数は,年平均2,628名であり,平成28年から徐々に減少してきている。

(2)第11次計画における目標

1 2020年代中に我が国周辺で発生する船舶事故隻数を第9次計画期間の年平均(2,256隻)から約半減(約1,200隻以下)することを引き続き目標とし,我が国周辺で発生する船舶事故隻数を令和7年までに1,500隻未満を目指す。

2 ふくそう海域における航路を閉塞するような社会的影響が著しい大規模海難の発生数をゼロとする。

3 海難における死者・行方不明者を減少させるためには,高い救助率を維持確保することが重要であることから,救助率95%以上とする。

3 海上交通の安全についての対策
(1)今後の海上交通安全対策を考える視点

1 ヒューマンエラーによる事故の防止

2 ふくそう海域における大規模海難の防止

3 旅客船の事故の防止

4 人命救助体制及び自己救命対策の強化

(2)講じようとする施策

ア 海上交通環境の整備

船舶の大型化,海域利用の多様化,海上交通の複雑化や激甚化する自然災害等を踏まえ,船舶の安全かつ円滑な航行,港湾における安全性を確保するため,航路,港湾,漁港,航路標識等の整備を推進するとともに,海図,水路誌,海潮流データ等の安全に関する情報の充実及びICTを活用したリアルタイムの監視・情報提供体制の整備を図る。

また,近年,激甚化する台風等の自然災害に伴う航路標識の倒壊等を未然に防止し,災害時でも海上交通安全を確保するために,航路標識等の強靱化,高度化等を図る。

さらに,荒天時における船舶の走錨等に起因する事故を防止するため,走錨等により船舶が衝突するおそれのある施設の周辺海域において,錨泊制限等の対策を継続的に実施するとともに,気象・海象や船舶の状況を踏まえた各船の走錨リスクを判定するシステムの開発・普及や海域監視体制の強化を図る等,事故防止に係る取組を推進する。

イ 海上交通の安全に関する知識の普及

海上交通の安全を図るためには,海事関係者のみならず,マリンレジャー愛好者,更には広く国民一人一人の海難防止に関する意識を高める必要がある。そのため,あらゆる機会を通じて,海難防止思想の普及に努める。

ウ 船舶の安全な運航の確保

船舶の安全な運航を確保するため,船舶運航上のヒューマンエラーの防止,船員や海上運送事業者等の資質の向上,運航労務監理官による監査,事故の再発防止策の指導・徹底,運輸安全マネジメント評価等を推進するとともに,我が国に寄港する外国船舶の乗組員の資格要件等に関する監督を推進する。

エ 船舶の安全性の確保

船舶の安全性を確保するため,国際的な協力体制の下,船舶の構造,設備,危険物の海上輸送及び安全管理システム等に関する基準の整備並びに検査体制の充実を図るとともに,我が国に寄港する外国船舶の構造・設備等に関する監督を推進する。

オ 小型船舶の安全対策の充実

小型船舶の船舶事故の主な原因は,ヒューマンエラーによるものが大半であることから,小型船舶操縦者による自主的な安全対策の促進,事故防止に資する技術の活用・普及,情報提供等を通じた安全意識の向上に取り組む。

また,ユーザーに対する定期的な点検整備の推奨,適切なタイミングでの機関整備の啓発を推進するとともに,ライフジャケットの着用効果の周知・啓発とその着用の指導徹底の取組を強化する。

カ 海上交通に関する法秩序の維持

海上交通に係る法令違反の指導・取締りを行い,海上交通に関する法秩序を維持する。

キ 救助・救急活動の充実

ヘリコプターの機動性,高速性等を活用した機動救難体制の拡充によるリスポンスタイムの短縮,救急救命士・救急員による高度な救急救命体制の充実を図るとともに,関係機関及び民間の海難救助団体等と連携した救助・救急活動の円滑化を推進するなどにより,海中転落の救助率が低い20トン未満の船舶における海中転落者の救助率の向上を含む,全体の救助率の向上を目指す。

また,「緊急通報用電話番号『118番』及び聴覚や発話に障害を持つ方を対象とした『NET118』の利用」等に関する指導・啓発及び広報活動等の施策を推進することで海難発生後2時間以内での海上保安庁の関知率を85%以上にすることを目指すとともに,迅速的確な救助勢力の体制充実・強化を図る。

ク 被害者支援の推進

船舶事故により,第三者等に与えた損害に関する船主等の賠償責任に関し,保険契約の締結等,被害者保護のための賠償責任保障制度の充実に引き続き取り組む。

また,プレジャーボートによる人身事故や物損等で生じた損害の賠償に対処するため,船舶検査等の機会を捉え,プレジャーボートのユーザーに対しプレジャーボート保険を周知し,保険加入の促進を図る。

ケ 船舶事故等の原因究明と事故等防止

船舶事故及び船舶事故の兆候(船舶インシデント)の原因究明をさらに迅速かつ的確に行うため,調査を担当する職員への専門的な研修を充実させ,調査技術の向上を図るとともに,ドローン等を活用した新たな調査手法の構築,過去の事故等調査で得られたノウハウや各種分析技術,同種事故の比較分析など事故調査結果のストックの活用等により,調査・分析手法の高度化を図る。

また,海上技術安全研究所に設置している「海難事故解析センター」において,海難事故発生時に迅速に情報を分析して事故原因の解析を行うとともに,重大海難事故では,シミュレータや試験水槽等を活用した事故の再現等の詳細な解析を行い,海上交通における安全対策に反映させる。

コ 海上交通の安全対策に係る調査研究等の充実

海上技術安全研究所において,新しい貨物・燃料を扱う先進的な船舶の安全性を評価する手法を開発するとともに,安全性評価の結果に基づき,船舶の安全性向上と社会負担のバランスを確保する合理的な安全規制体系を構築し,これを安全基準や船舶設計へ反映する方策についての研究を行う。

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