トピックス
交通安全フォーラムの開催について

目次]  [前へ]  [次へ

● 内閣府では交通安全意識の高揚を図るため,交通事情に詳しい学識経験者や交通安全に関わる方々をお招きし,地域における交通安全対策に関する講演やパネルディスカッションを行う「交通安全フォーラム」を開催している。

令和2年度は,令和3年1月22日に,東京都との共催により,『安全に移動できる地域を目指して』をテーマに開催し,新型コロナウイルス感染防止のため,交通安全フォーラムの様子をインターネット配信した。

● この日のフォーラムでは,埼玉大学大学院理工学研究科教授 久保田尚氏が「安全に移動できる地域を目指して」と題し基調講演を行った後,警視庁の担当者,心理学部教授,自動車ジャーナリストがパネリストとして加わり,コーディネーターの下討論をしながら,各自の体験を踏まえた安全に移動できる地域に関する提言を行った。

○基調講演及びパネルディスカッションの提言内容

基調講演

久保田 尚氏の写真

埼玉大学大学院理工学研究科 教授 久保田 尚 氏

「安全に移動できる地域を目指して」

日本の歩行者,歩行中の交通事故死者は交通事故死者数の約35.6%を占めます。また,歩行者,歩行中の交通事故死者の約55%は自宅から500m以内の場所で事故に遭っています。市街地での死者が非常に多く,日本の狭い生活道路における走行車両と人との関係が課題であることが分かります。そこで,平成28年に,国土交通省道路局が「凸部,狭窄部及び屈曲部の設置に関する技術基準」を制定しました。凸部とは,道路の路面に緩やかなこぶを作っているハンプのことです。ハンプがあると自動車はスピードを落とします。埼玉県内の設置例について事前事後評価をしたところ,ハンプを設置すると事故が8割減るという非常に大きな効果がありました。もうひとつ大きな効果としては,ドライバーが歩行者に譲るという行動の変化が見られます。

また,子供の事故ゼロを目指し,国際交通安全学会(IATSS)がまとめた通学路Vision Zeroについて触れます。ここでは,通学路総合交通安全マネジメントといい,道路管理者,警察,学校関係者,地元住民などがワークショップで議論して対策を進めることを提唱しています。

最後に,新たな時代は,自転車の通行環境整備と歩行環境が改善されていき,また,道路法の改正により歩行者利便増進道路(通称ほこみち)という歩道の上で滞留したり,たたずんだりすることができることにより歩行環境の改善が図られると思っております。

パネルディスカッション

椎名啓雄氏の写真

警視庁交通部管理官
交通規制課都市交通管理室長
椎名 啓雄 氏

歩行者と自転車を対象とした通行環境整備と安全教育の取組事例についてお話しします。歩行者の通行環境整備の一つ目は,生活道路等の速度抑制,通過交通排除・抑制対策です。最高速度30km/h規制を前提としたゾーン30をはじめ,通学時間帯の車両通行止め規制等も実施するスクールゾーン,保育所のお散歩コースまで対象を拡大したキッズゾーンを設置しています。二つ目は,横断歩道における歩行者保護の徹底です。オーバーハング標識,ダイヤマーク標示は,横断歩道があることを予告しています。また,歩行者の安全性向上対策として二段階横断歩道を設置しています。さらに,信号交差点の右左折車に対し,横断歩行者への注意力を高めるため,横断歩道端部への発光鋲の設置を検討しています。三つ目は,危険箇所における横断抑止です。基本的には歩行者横断禁止の規制標識を設置していますが,中央分離帯と横断抑止柵を設置した構造的な抑止策や,幅員が取れない場所では,簡易横断抑止柵としてラバーポールを設置しています。

自転車の通行環境整備については,歩行者・自動車と分離した自転車通行空間の確保として,縁石・柵等の工作物による自転車道や,規制標示による自転車レーンを設置しています。車道混在のうち,自転車と自動車が並走可能な区間には,都内では自転車ナビラインと呼ぶ矢羽型の路面表示を設置し,自転車と自動車が走行空間を共有せざるを得ない区間には,自転車ナビマークと呼ぶ自転車のピクトグラムのみを設置しています。

最後に安全教育の取組事例です。一般的に学校スタイルで交通安全教室を行っておりますが,事故の怖さを実感していただくスケアード・ストレイト方式の交通安全教室も行っております。また,自助・共助への拡大が期待されるソーシャルデザインの活用も試みているほか,安全教室等に参加できない方のために街頭での指導啓発を行っています。

蓮花一己氏の写真

帝塚山大学学長・心理学部教授
蓮花 一己 氏

子供や高齢者を交通事故からいかに守るか,一つ目は教育,しつけ,訓練という方向。もう一つは道路環境と安全施設等の改良,改善という方向があります。乱横断の防止策として,中央分離帯や植え込みで進行を防ぐことも対策になります。行動をある程度誘導する。ある程度魅力あるものによって誘導するというやり方。これは最近有名な行動経済学のナッジという,そっと後押しするというような行動科学の知見というものを考え,乱横断とか斜め横断とかを防止するときの道路対策としては,道路環境,安全施設にもいろいろな可能性があって,心理的な正の誘因あるいは負の誘因を組み合わせて高齢歩行者の行動を誘導するということができるのではないかと思います。そのためには,工学,心理学あるいは行政の連携が必要だろうと思います。

川端由美氏の写真

自動車ジャーナリスト
川端 由美 氏

2020年2月にストックホルムで開催されたRoadSafety世界閣僚会議に行ってきました。世界保健機関(WHO)とスウェーデン政府の共催で,参加者は150か国から交通関係の大臣・副大臣,各国代表団,国際機関,RoadSafety関連産業及び研究機関の関係者,2,000人弱が参加していました。会議では2030年までの10年で交通事故死者数半減を宣言しましたが,たぶん10年後みんなで集まって議論するのだと思いますが目標を立てるというのは非常に重要だと思います。世界保健機関(WHO)は,パブリックヘルスといって集団の健康を担当しており交通事故の死亡者も含んでいます。交通事故死亡者は年間135万人,死因では世界5位で若者の死因の中では交通事故が最も多いです。グローバルな交通安全において,WHOやFIAはキープレーヤーとなっています。また,ブルームバーグ・フィランソロピーは12年間で2億5900万ドルを投入し,5つの国での交通安全法を強化し,3つの世界地域で新車の衝突試験を開始しています。もう一つ,ユーロNCAPというものがあります。これは,ヨーロッパの衝突安全基準です。ユーロNCAPは,南米,アフリカにも評価手法が取り入られ非常に広い地域での効果性を持ち,車両側の安全を高めるRoadSafetyの一部だと思っています。

目次]  [前へ]  [次へ