特集 高齢者の交通事故防止について
第1章 高齢者の交通事故の状況
第2節 高齢歩行者等の交通死亡事故の状況
特集 高齢者の交通事故防止について
第1章 高齢者の交通事故の状況
第2節 高齢歩行者等の交通死亡事故の状況
1 高齢歩行者等の交通死亡事故の発生状況
(1)高齢歩行者の交通死亡事故の発生状況
年齢層別歩行中死者数の推移を見ると,平成25年と比較して令和5年の歩行中死者数は,全年齢層及び65歳以上の者ともに減少しているものの,歩行中死者数全体に占める65歳以上の歩行中死者数の割合を見ると,平成25年は70.4%,令和5年は70.6%となっており,おおむね70%を超える高い水準で推移している(特集-第10図)。
さらに,65歳以上の年齢層別歩行中死者数の推移を見ると,平成25年と比較して令和5年の歩行中死者数は,85歳以上を除いた各年齢層において減少しているものの,85歳以上の歩行中死者数は増加している(特集-第11図)。
また,65歳以上の歩行中死者数は,低年齢層よりも高年齢層の方が多い。歩行中死者数全体に占める各年齢層における歩行中死者数の割合を見ると,年齢層が上がるとともに高まり,こうした傾向は近年より顕著になっている。特に,85歳以上の歩行中死者数が占める割合は,平成29年以降,各年齢層の中で最も高く,平成25年が14.5%であるのに対し,令和5年は25.4%と大きく増加している(特集-第12図)。
(2)高齢者の自転車乗用中の交通死亡事故の発生状況
年齢層別自転車乗用中死者数の推移を見ると,平成25年と比較して令和5年の自転車乗用中死者数は,全年齢層及び65歳以上の者ともに減少しているものの,自転車乗用中死者数全体に占める65歳以上の自転車乗用中死者数の割合の推移を見ると,平成25年は63.5%,令和5年は61.0%となっており,60~70%程度の高い水準で推移している(特集-第13図)。
65歳以上の年齢層別自転車乗用中死者数の推移を見ると,平成25年と比較して令和5年の自転車乗用中死者数は,全ての年齢層において減少しているものの,85歳以上の自転車乗用中死者数は他の年齢層と比較して減少率が小さい。また,年齢が若い65~69歳の自転車乗用中死者数が最も少ない(特集-第14図)。
自転車乗用中死者数全体に占める65歳以上の各年齢層における自転車乗用中死者数の割合は,65~69歳においては,増減を繰り返しながら推移しているものの,減少傾向にある。一方,85歳以上においては,増減を繰り返しながら推移しているものの,増加傾向にあり,平成25年が8.4%であるのに対し,令和5年は14.1%と約1.7倍に増加している(特集-第15図)。
※第1当事者
最初に交通事故に関与した事故当事者のうち,最も過失の重い者をいう。
※第2当事者
最初に交通事故に関与した事故当事者のうち,第1当事者以外の者をいう。
2 高齢歩行者等の交通死亡事故の特徴
(1)高齢歩行者の交通死亡事故の特徴
ア 昼夜別に見た死者数
歩行者の昼夜別死者数(平成25年〜令和5年の合計)を見ると,65歳未満の者については,昼間※と比較して夜間※における死者数が多くなっており,昼間における死者数の約3.7倍になっている。
また,65歳以上の者についても,65歳未満の者と同様に昼間より夜間における死者数が多くなっているが,昼間における死者数と比較した夜間における死者数は,65~69歳が約3.3倍,70~74歳が約2.1倍,75~79歳が約2.1倍,80~84歳が約1.8倍,85歳以上が約1.4倍となっており,65歳以上の者の中でも特に高年齢層で,昼間における死者数と夜間における死者数の差が小さくなっている(特集-第16図)。
※昼間,夜間
「昼間」とは,日の出から日の入りまでを,「夜間」とは,日の入りから日の出までをいう。
イ 事故類型別に見た死者数
歩行者の事故類型別死者数(平成25年〜令和5年の合計)を見ると,65歳未満の道路横断中の死者数の割合は,歩行者の死者数全体の50.6%であり,横断歩道横断中の死者数の占める割合が19.6%であるのに対し,横断歩道以外横断中の死者数の占める割合は,31.0%と約1割高くなっている。
一方,65歳以上の事故類型別死者数について,各年齢層における歩行者の死者数全体に占める道路横断中の死者数の割合は,65~69歳は66.7%,70~74歳は71.8%,75~79歳は77.1%,80~84歳は79.9%,85歳以上は82.1%となっており,年齢層が高くなるとともに道路横断中の死者数の割合が高くなっている。
また,65歳以上の各年齢層における横断歩道横断中の死者数の割合と横断歩道以外横断中の死者数の割合は,年齢層が高くなるとともに横断歩道以外横断中の方が高くなっており,85歳以上については,横断歩道横断中が21.9%であるのに対し,横断歩道以外横断中は約2.7倍の60.2%となっている(特集-第17図)。
ウ 道路横断中の交通死亡事故の発生状況
歩行者が道路横断中に死亡した交通死亡事故の発生状況(平成25年〜令和5年の合計)を見ると, 交差点,単路のいずれにおいても,65歳以上の者の交通死亡事故件数が65歳未満の者の交通死亡事故件数より多く,特に夜間に左からの進行車両と衝突する交通死亡事故が多く発生している。
さらに,65歳以上の歩行者が道路横断中に死亡した交通死亡事故の発生状況について,年齢層別に見ると,いずれの年齢層においても,交差点, 単路ともに夜間に左からの進行車両と衝突する交通死亡事故が多く発生しており,交差点と単路を合わせた交通死亡事故件数は,年齢層が高くなるとともに多くなり,85歳以上の者が死亡する交通死亡事故が最も多くなっている(特集-第18図,第19図)。
エ 道路横断中の交通死亡事故における歩行者の法令違反状況
歩行者が道路横断中に死亡した交通死亡事故における歩行者の年齢層別法令違反状況(平成25年〜令和5年の合計)を見ると,横断違反※の割合は,65歳未満の者が34.2%であるのに対し,65歳以上の者については,65~69歳が41.5%,70~74歳が38.1%,75~79歳が42.6%,80~84歳が45.4%,85歳以上が46.1%と年齢層が高くなるとともに割合が高くなる傾向がある。
信号無視の割合は,65歳未満の者が17.6%であるのに対し,65歳以上の者については,65~69歳が11.8%,70~74歳が10.9%,75~79歳が10.1%,80~84歳が8.2%,85歳以上が7.1%と年齢層が高くなるとともに割合が低くなっている。
一方,違反なしの割合は,65歳未満の者が36.0%であるのに対し,65歳以上の者については,65~69歳が38.8%,70~74歳が45.3%,75~79歳が41.9%,80~84歳が40.9%,85歳以上が39.5%と65歳以上の者の方が65歳未満の者より割合が高くなっている。
これらのことから,65歳以上の者は,いずれの年齢層においても,65歳未満の者と比較して法令違反全体の割合は低いものの,法令違反のうち横断違反の割合が高いことが分かる(特集-第20図)。
※横断違反
横断歩道外横断,走行車両直前直後横断等。
オ 交通事故防止対策の必要性
これらを踏まえると,高齢者は,道路を横断する際に,左右から進行してくる車両に対する安全確認が十分に行えていない可能性があるほか,安全に横断できると判断して横断し始めても,加齢による身体機能の変化等により思うように歩くことができず,横断し終わる前に左右から進行してくる車両と衝突している可能性が考えられる。特に,夜間,左から進行してくる車両と衝突する交通死亡事故が多く発生していることについては,高齢者は夜間は進行してくる車両全体がはっきりと見えないことが多く,進行してくる車両との距離を適切に判断できていない可能性が考えられる。
また,年齢層によって割合に違いはあるものの,道路横断中に死亡した高齢歩行者に横断違反が多いことも,道路横断中における交通死亡事故が多い要因の一つとして考えられ,これは,高齢者は身体機能の変化等に伴い,道路を横断する際,周辺に横断歩道が設置されていても当該横断歩道まで歩いて行くことの負担が大きくなり,横断歩道が設置されていない道路を横断している可能性等が考えられる。
このため,高齢者に対し,正しい横断方法を始めとした交通ルールの遵守,加齢に伴う身体機能の変化等を自覚した行動,夜間等における反射材用品の着用等が行われるよう,効果的な交通安全教育,広報啓発等を行っていく必要がある。
(2)高齢者の自転車乗用中の交通死亡事故の特徴
ア 昼夜別に見た死者数
昼夜別自転車乗用中死者数(平成25年〜令和5年の合計)を見ると,65歳未満の者については, 夜間と昼間でほぼ同じ割合となっている。
一方で,65歳以上の者については,65~69歳を除いた各年齢層において,夜間より昼間における死者数が多くなっており,夜間における死者数と比較した昼間における死者数は,70~74歳が約1.6倍,75~79歳が約2.0倍, 80~84歳が約2.9倍,85歳以上が約4.2倍と,年齢層が高くなるとともに昼間における死者数の方が多くなっている(特集-第21図)。
イ 相手当事者別に見た発生状況
自転車乗用中に死亡した交通死亡事故について相手当事者別の発生状況(平成25年〜令和5年の合計)を見ると,65歳未満の者及び65歳以上の者ともに自動車の割合が最も高く,次に相手なし単独が高くなっており,65歳未満の者については, 自動車が74.1%,相手なし単独が23.0%となっている。
また,65歳以上の者については,年齢層が高くなるとともに自動車の割合が増加して,相手なし単独の割合が減少する傾向にあり,85歳以上は自動車が79.3%,相手なし単独が17.8%となっている(特集-第22図)。
ウ 衝突地点別に見た発生状況
自転車乗用中に死亡した交通死亡事故について衝突地点別の発生状況(平成25年〜令和5年の合計)を見ると,65歳未満の者と65歳以上の者のうち65~69歳を除いた各年齢層ともに単路よりも交差点の割合が高くなっている。また,全ての年齢層において,交差点の割合は約4~5割程度,単路の割合は4割程度となっている(特集-第23図)。
エ 事故類型別に見た発生状況
自転車乗用中に死亡した交通死亡事故について事故類型別の発生状況(平成25年〜令和5年の合計)を見ると,65歳未満の者については,出会い頭の割合が32.8%,右左折時の割合が18.2%,追突の割合が12.4%と続いている。
一方,65歳以上の者については,いずれの年齢層においても出会い頭の割合が最も高く,路外逸脱の割合や右左折時の割合などが続いている。また,出会い頭の割合は,年齢層が高くなるとともに増加しており,いずれの年齢層においても65歳未満の者より高くなっている(特集-第24図)。
このうち,交差点において出会い頭に車両と衝突する交通死亡事故が,左右いずれからの進行車両と発生しているか内訳を見ると,65歳以上の者については,いずれの年齢層においても,昼間, 夜間ともに自転車が交差点直進中に左から進行してくる車両と衝突する交通死亡事故の割合が高くなっている。これに対し,65歳未満の者については,左から進行してくる車両と衝突する交通死亡事故の割合は,昼間,夜間ともに65歳以上の者を下回り,昼間は逆に,右から進行してくる車両と衝突する交通死亡事故の割合の方が高くなっており,年齢によって交通死亡事故の発生状況に違いが見られる(特集-第18図,第25図)。
オ 法令違反別に見た発生状況
自転車乗用中に死亡した交通死亡事故について法令違反別の発生状況(平成25年〜令和5年の合計) を見ると,65歳未満の者については,安全運転義務違反の割合が35.3%,交差点安全進行義務違反の割合が7.9%,信号無視の割合が7.8%と続いている。
65歳以上の者については,いずれの年齢層においても,安全運転義務違反の割合が約4割と最も高くなっている。また,年齢層によって割合は異なるものの,指定場所一時不停止等,信号無視,交差点安全進行義務違反といった交差点での交通死亡事故につながる違反の割合が高くなっている。
一方,違反なしの割合は,65歳未満の者が28.6%であるのに対し,65歳以上の者については,65~69歳が23.5%,70~74歳が21.2%,75~79歳が20.9%,80~84歳が15.5%,85歳以上が17.5%と年齢層が高くなるとともに違反なしの割合が低くなる傾向がある(特集-第26図)。
カ 乗車用ヘルメットの着用状況
乗車用ヘルメットの着用は,自転車利用者の頭部を保護し,交通事故発生時における被害軽減効果があり,乗車用ヘルメットを着用していなかった場合の致死率は,乗車用ヘルメットを着用していた場合の致死率の約2.2倍となっている(平成25年〜令和5年の合計。特集-第27図)。
自転車利用者が死傷した交通事故について乗車用ヘルメットの着用率を見ると,令和5年4月に自転車利用者に対する乗車用ヘルメットの着用が努力義務化されたことに伴い,いずれの年齢層においても5年の着用率は上昇している。令和5年の着用率は,65歳未満の者が14.7%であるのに対し,65歳以上の者については,65~69歳が10.2%,70~74歳が9.0%,75~79歳が7.9%,80~84歳が8.1%,85歳以上が8.8%となっており,65歳未満の者より低い水準となっているものの,4年の着用率から増加した割合は,65歳未満の者よりも大きくなっている(特集-第28図)。
キ 前照灯の点灯状況
夜間,自転車で道路を走るときに前照灯を点灯することは,前方の安全確認だけでなく,歩行者や自動車に自転車の存在を知らせるためにも有効であり,夜間の交通事故発生時における前照灯消灯又は設備が無い場合の致死率は,前照灯を点灯していた場合の致死率の約1.7倍となっている(平成25年〜令和5年の合計。特集-第29図)。
自転車利用者が死傷した交通事故について前照灯の点灯率の推移を年齢層別に見ると,振れはあるものの,おおむねどの年齢層でも上昇傾向が見られる。年齢層別に比較してみると,65歳未満の者の点灯率は,70~80%前後で推移し,65~69歳もほぼ同水準である。70歳以上は年齢が上がるにつれて点灯率が低下する傾向にあるが,令和5年の点灯率は,おおむね70%を超えている(特集-第30図)。
ク 交通事故防止対策の必要性
これらを踏まえると,高齢の自転車利用者は,交差点を進行する際に,左右から進行してくる車両に対する安全確認が十分に行えていない可能性があるほか,安全に進行できると判断して進行し始めても,加齢による身体機能の変化等により思うように進行することができず,交差点を通過し終わる前に左右から進行してくる車両と衝突している可能性が考えられる。特に,夜間,左からの進行車両と衝突する交通死亡事故が多く発生していることについては,高齢者は夜間は進行してくる車両全体がはっきりと見えないことが多く,進行してくる車両との距離を適切に判断できていない可能性が考えられる。
このほか,年齢層によって割合は異なるものの, 自転車乗用中に死亡した高齢者に法令違反があることや,乗車用ヘルメットの着用率が低いことも高齢の自転車利用者の交通事故死者数が多い要因の一つとして考えられる。また,夜間における前照灯点灯率は,65歳以上のいずれの年齢層においても5割を超える水準で推移しているものの,年齢層によって差があり,前照灯消灯又は設備が無い場合と点灯時の致死率に相応の差があることを踏まえれば,点灯率を更に向上させる必要がある。
このため,高齢者に対し,自転車を利用する際の交通ルールの遵守,加齢に伴う身体機能の変化等を自覚した運転等が行われるよう交通安全教育,広報啓発等を行っていく必要がある。