特集 高齢者の交通事故防止について
第1章 高齢者の交通事故の状況
第3節 高齢運転者による交通死亡事故の状況
特集 高齢者の交通事故防止について
第1章 高齢者の交通事故の状況
第3節 高齢運転者による交通死亡事故の状況
1 高齢運転者による交通死亡事故の発生状況
65歳以上の運転者による交通死亡事故件数の推移を年齢層別に見ると,平成25年と比較して令和5年の交通死亡事故件数は,全ての年齢層において減少しているものの,85歳以上の運転者による交通死亡事故件数は,他の年齢層の運転者による交通死亡事故件数と比較して減少率が小さい(特集-第31図)。
このため,交通死亡事故件数全体に占める65歳以上の運転者による交通死亡事故件数の割合の推移を,平成25年と令和5年の比較で見ると,65歳以上の運転者による交通死亡事故件数の割合が7ポイント以上増加し,どの年齢層でも増加が見られる(特集-第32図)。
免許人口10万人当たり交通死亡事故件数の推移を年齢層別に見ると,全年齢層の件数は,平成25年が4.72件であるのに対し,令和5年は2.87件と減少している。
65歳以上の運転者の件数は,年齢層が高くなるとともに多くなる傾向にある。特に80~84歳及び85歳以上の運転者については,令和5年はそれぞれ全年齢層の件数の約2.0倍,約3.4倍となっている。こうした傾向は,平成25年と令和5年を比較しても変わらないが,65~69歳,70~74歳, 75~79歳,80~84歳及び85歳以上の運転者の件数は,平成25年がそれぞれ4.14件, 5.44件,8.27件,12.82件,20.26件であるのに対し,令和5年は,それぞれ3.18件,2.92件,4.19件,5.67件,9.75件と減少している(特集-第33図)。
※令和5年中の「原付」は,一般原動機付自転車及び特定小型原動機付自転車をいう。
2 高齢運転者による交通死亡事故の特徴
(1)昼夜別に見た発生状況
交通死亡事故の昼夜別発生状況(平成25年〜令和5年の合計)を見ると,65歳未満の運転者による交通死亡事故については,昼間と比較して夜間における交通死亡事故件数が多くなっており,夜間における交通死亡事故件数の割合は, 55.9%となっている。
一方,65歳以上の運転者による交通死亡事故については,夜間よりも昼間における交通死亡事故件数が多くなっており,昼間における交通死亡事故件数の割合は,65~69歳が60.3%,70~74歳が67.5%,75~79歳が76.6%,80~84歳が82.2%,85歳以上が85.9%と,年齢層が上がるとともに高くなっている(特集-第34図)。
(2)道路種類別に見た発生状況
交通死亡事故の道路種類別発生状況(平成25年〜令和5年の合計)を見ると,65歳未満の運転者及び65歳以上の運転者による交通死亡事故のいずれについても,高速道路よりも一般道路における交通死亡事故件数が多い。
また,交通死亡事故件数全体に占める一般道路における交通死亡事故件数の割合は,65歳未満の運転者による交通死亡事故については93.3%, 65歳以上の運転者による交通死亡事故については, 65~69歳が96.9%,70~74歳が98.1%,75~79歳が97.7%,80~84歳が98.6%,85歳以上が98.8%となっており,65歳以上の運転者の方がより高い割合になっている(特集-第35図)。
(3)事故類型別に見た発生状況
交通死亡事故を事故類型別(平成25年〜令和5年の合計)に見ると,65歳未満の運転者による交通死亡事故と比較して,65歳以上の運転者による交通死亡事故については,年齢層が高くなるとともに車両単独事故による交通死亡事故件数の占める割合が高くなっている。具体的類型としては, 道路を進行中に運転を誤って車線を逸脱し電柱や家屋等に衝突するといった工作物衝突や,車線を逸脱し崖下に転落するなどの路外逸脱による交通死亡事故件数の占める割合が高くなっている。
また,車両相互事故における出会い頭や正面衝突による交通死亡事故件数が占める割合も高く,これらの傾向は,75~79歳,80~84歳及び85歳以上の運転者による交通死亡事故において顕著になっている(特集-第36図)。
(4)人的要因別に見た発生状況
交通死亡事故の人的要因(平成25年〜令和5年の合計)を見ると,65歳未満の運転者による交通死亡事故と比較して,65歳以上の運転者による交通死亡事故については,年齢層が高くなるとともに操作不適による交通死亡事故件数が占める割合が高くなっており,75~79歳, 80~84歳及び85歳以上の年齢層においては,それぞれ最も高い割合を占めている。
また,操作不適による交通死亡事故のうち,ハンドル操作不適や,ブレーキとアクセルの踏み間違いによる交通死亡事故件数が占める割合が高くなっており,特にブレーキとアクセルの踏み間違いによる交通死亡事故については,80~84歳及び85歳以上の運転者による交通死亡事故件数全体に占める割合が,65歳未満の運転者による交通死亡事故件数全体に占める割合のそれぞれ約20.5倍,約17.8倍になっている(特集-第37図)。
(5)高速道路における逆走に起因する交通死亡事故の発生状況
高速道路における逆走に起因する交通死亡事故の発生状況(平成25年〜令和5年の合計)を見ると,65歳未満の運転者による交通死亡事故件数が占める割合が45.8%であるのに対し,65歳以上の運転者による交通死亡事故件数が占める割合は54.2%となっており,半数以上を占めている(特集-第38図)。
(6)交通事故防止対策の必要性
これらを踏まえると,高齢者の特性として,個人差はあるものの,一般的に加齢により身体機能や認知機能が低下するとされており,こうした身体機能や認知機能の変化が運転行動に影響を及ぼし,車両単独事故による交通死亡事故や,車両相互事故の出会い頭及び正面衝突による交通死亡事故の割合を高くしているほか,ハンドル操作の誤りや,ブレーキとアクセルの踏み間違いといった運転操作自体に要因がある交通死亡事故の割合を高くしている可能性が考えられる。
このため,加齢に伴う身体機能や認知機能の低下を踏まえた高齢運転者対策の強化や教育の充実,高齢運転者の交通事故防止に資する先進安全技術の開発や普及促進,安全に運転できる道路交通環境の整備,運転に不安を覚える高齢者への支援,自らの運転によらなくても安心して移動できる手段の確保等に取り組んでいく必要がある。