特集 高齢者の交通事故防止について
第2章 高齢者の交通事故防止に向けた取組
第1節 高齢歩行者等の交通事故防止のための取組
特集 高齢者の交通事故防止について
第2章 高齢者の交通事故防止に向けた取組
高齢者の交通死亡事故の発生状況や特徴については,前述のとおりであり,政府においては,高齢者の交通事故防止を図るため,「本格的な高齢社会への移行に向けた総合的な高齢者交通安全対策について」,「高齢運転者による交通事故防止対策について」,「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策」,「第11次交通安全基本計画」等に基づき,また,交通事故の発生状況等を踏まえ様々な取組を行っている。
第1節 高齢歩行者等の交通事故防止のための取組
1 生活道路における交通安全対策の推進
警察と道路管理者が連携し,平成23年以降,市街地等の生活道路における歩行者及び自転車利用者(以下「歩行者等」という。)の安全な通行を確保するため,最高速度30キロメートル毎時の区域規制等を実施する「ゾーン30」の整備を推進しており,令和5年度末までに全国で4,358地区を整備している。
令和3年8月からは,最高速度30キロメートル毎時の区域規制と物理的デバイスとの適切な組 合せにより交通安全の向上を図ろうとする区域を「ゾーン30プラス」として設定し,ハンプ,狭さく等の設置による車両の速度抑制対策や通過交通の進入抑制対策,外周幹線道路の交通を円滑化するための交差点改良等により,生活道路における人優先の安全・安心な通行空間の整備の更なる推進を図ることとしており,5年度末までに全国で128地区を整備している(特集-第39図)。
また,高輝度標識等の見やすく分かりやすい道路標識・道路標示の整備や信号灯器のLED化等の安全対策や,外周幹線道路を中心として,信号機の改良,光ビーコン・交通情報板等によるリアルタイムの交通情報提供等の交通円滑化対策を実施している。
さらに,高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平18法91,以下「バリアフリー法」という。)にいう生活関連経路を構成する道路を中心として,音響により信号表示の状況を知らせる音響信号機,高齢者等の安全な交差点の横断を支援する歩行者等支援情報通信システム(PICS),信号表示面に青時間までの待ち時間及び青時間の残り時間を表示する経過時間表示機能付き歩行者用灯器,歩行者と自動車が通行する時間を分離して交通事故を防止する歩車分離式信号機等のバリアフリー対応型信号機等の整備を推進しているほか,歩道の整備等により,安心して移動できる歩行空間ネットワークを整備している。
2 高齢者等の安全に資する歩行空間等の整備
駅,官公庁施設,病院等を結ぶ道路や駅前広場等において,高齢者を始めとした歩行者が安心して安全に通行できるようにするため,幅の広い歩道の整備や歩道の段差・傾斜・勾配の改善,道路の無電柱化,踏切道のバリアフリー対策,昇降装置付立体横断施設の整備,バリアフリー対応型信号機の整備,信号灯器のLED化,道路標識の高輝度化等を推進している。
また,駅前等の交通結節点においては,エレベーター等の設置,スロープ化や建築物との直結化が図られた立体横断施設,交通広場の整備等を推進し, 安全で快適な歩行空間の確保を図っている。
特に,バリアフリー法に基づく重点整備地区に定められた駅の周辺地区等においては,公共交通機関等のバリアフリー化と連携しつつ,誰もが歩きやすい幅の広い歩道,道路横断時の安全を確保する機能を付加したバリアフリー対応型信号機等の整備を連続的・面的に整備しネットワーク化を図っている。
このほか,歩行者,自転車及び自動車が適切に分離された安全で快適な自転車通行空間の計画的な整備を推進するとともに,普通自転車等の歩道通行を可能とする交通規制の実施場所の見直しや自転車の通行位置を示した道路の整備等を通じて自転車と歩行者の安全確保を図っている。
また,自転車通行の安全性を向上させるため, 普通自転車専用通行帯の整備箇所については原則として駐車禁止規制を実施するなど,自転車と自動車が混在通行する道路においては,周辺の交通実態等を踏まえた駐車規制を実施している。
3 交通安全教育及び広報啓発の推進
(1)歩行者の安全確保
国及び地方公共団体は,高齢者に対する交通安全指導者の養成,教材等の開発など指導体制の充実に努めるとともに,高齢者が加齢に伴って生ずる身体機能の変化が行動に及ぼす影響等を理解し,自ら納得して安全な交通行動を実践することができるよう,関係団体,交通ボランティア,医療機関・福祉施設関係者等と連携して,交通安全教室を開催するほか,シミュレーター等の教育機材を活用した参加・体験・実践型の交通安全教育を積極的に推進している。
特に,歩行中の交通死亡事故における歩行者の法令違反については,第1章第2節で見たように,65歳以上の者は65歳未満の者と比較して横断違反の割合が高い実態を踏まえ,交通ルールの遵守を促す交通安全教育の実施に努めている。
また,運転免許を持たないなど,交通安全教育を受ける機会の少ない高齢者を中心に,家庭訪問による個別指導,見守り活動等の高齢者と日常的に接する機会を利用した指導等において,高齢者の事故実態に応じた具体的な指導や交通安全教育を行い,高齢者の移動の安全が地域全体で確保されるよう努めている。
電動車椅子を利用する高齢者に対しては,電動車椅子の製造メーカーで組織される団体等と連携し,購入時等における安全利用に向けた指導・助言を徹底するとともに,継続的な交通安全教育の促進に努めている。
このほか,運転者に対し,高齢者を始めとする歩行者に対する保護意識の向上を図るため,運転者教育や安全運転管理者等による指導,広報啓発活動等により,歩行者の特性を理解させる効果的な交通安全教育等の実施に努めるとともに,歩行者の保護が図られるべき横断歩道上においても,歩行者が被害者となる交通事故が発生していることから,運転者に対し,横断歩道における歩行者の優先義務※の周知に取り組んでいる。
※横断歩道における歩行者の優先義務
車両等が横断歩道に接近する場合には,歩行者がいないことが明らかな場合を除き,直前で停止することができるような速度で進行するとともに,横断中又は横断しようとする歩行者があるときは,一時停止等をしなければならない義務。
(2)自転車の安全利用
令和5年4月,全ての自転車利用者に対する乗車用ヘルメット着用の努力義務化を内容とする道路交通法の一部を改正する法律(令4法32)が施行された。
これを機会に,自転車に関する交通秩序の更なる整序化を図り,自転車の安全利用を促進するため,改正内容を盛り込むなどした「自転車の安全利用の促進について」(令和4年11月1日中央交通安全対策会議交通対策本部決定)が決定され,これにより改めて示された「自転車安全利用五則※」は,「車道が原則,左側を通行 歩道は例外,歩行者を優先」,「交差点では信号と一時停止を守って,安全確認」,「夜間はライトを点灯」,「飲酒運転は禁止」及び「ヘルメットを着用」となった。
国,地方公共団体,関係機関等は連携し,「自転車安全利用五則」を活用するなどして,自転車乗車時の頭部保護の重要性や,乗車用ヘルメット着用を始めとした交通ルール・マナーについて効果的な広報啓発活動を推進するとともに,高齢者が加齢に伴って生ずる身体機能の変化が行動に及ぼす影響等を理解し,自ら納得して安全な交通行動を実践することができるよう,自動車教習所等の練習コース,視聴覚教材,シミュレーター等を活用した参加・体験・実践型の交通安全教育を推進している。
また,第1章第2節で見たように,自転車乗用中の交通死亡事故における自転車利用者の法令違反について,65歳以上の者は65歳未満の者と比較して何らかの法令違反がある割合が高いほか,自転車乗用中における死傷者の乗車用ヘルメットの着用率が65歳未満の者と比較して低い水準となっていることから,高齢者を対象とした自転車大会の開催等を通じ,交通ルール遵守の意識向上を図るなど,自転車の安全利用に向けた取組を推進している。
さらに,警察では,車道における自転車の右側通行,信号無視等の実態から自転車関連事故が現に発生し,又は発生が懸念され,自転車交通秩序の実現が必要と認められる地区・路線を「自転車指導啓発重点地区・路線」(以下「重点地区等」という。)として選定しており,重点地区等においては,重点的・計画的に,指導啓発活動等を推進している。
※自転車安全利用五則
自転車の交通ルールの広報啓発に活用することとされている「自転車の安全利用の促進について」の別添に定められているもの。
4 薄暮時から夜間における交通安全対策
第1章第2節で見たように,夜間,65歳以上の者が道路横断中に死亡する交通死亡事故が多く発生していることなどから,薄暮時から夜間における歩行者等の交通事故防止に効果が期待できる反射材用品等の普及を図るため,各種広報媒体を活用して積極的な広報啓発を推進するとともに,反射材用品等の視認効果,使用方法等について理解を深めるため,参加・体験・実践型の交通安全教育を推進している。
反射材用品等の普及に当たっては,衣服や靴,鞄等の身の回り品への反射材の組み込みを推奨するとともに,適切な反射性能を有する製品についての情報提供に努めているほか,高齢者が利用する機会の多い施設等における反射材用品の配布等に取り組んでいる。
また,薄暮時から夜間における歩行者等や対向車の早期発見による交通事故防止対策として,前照灯の早めの点灯や,対向車や先行車がいない状況におけるハイビームの使用の促進を図っている。
さらに,道路標識の大型化・高輝度化・自発光化及び道路標示の高輝度化を推進している。