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第5次交通ビジョンについて

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「第5次交通ビジョン」の策定

「第5次交通ビジョン」の策定

令和4年5月に国土交通大臣から交通政策審議会長へ「新たな時代における船舶交通をはじめとする海上の安全のための取組」について諮問し,5年3月28日,交通政策審議会から「第5次交通ビジョン」が答申された。

交通ビジョンは,海上保安庁に交通部が発足した平成15年度から5年ごとに,海上保安庁が行う海上安全行政の基本的な方向性や具体的な施策の在り方について,安全対策の評価や航行環境の変化等を踏まえ策定しているものである。

近年の我が国の海上の安全を取り巻く環境は,台風等の自然災害の激甚化,頻発化や,次世代エネルギー船舶燃料や洋上風力発電の進展,自動運航船の実用化の動き,マリンレジャーの活発化,多様化等,大きな変化を遂げてきている。さらに,デジタル技術等の活用による海上安全行政の更なる高度化,効率化も期待されている。

海上保安庁では,このような環境の変化や新たな時代の要請に的確に応えるべく策定された「第5次交通ビジョン」に基づく施策を着実に推進し,海上交通の安全の確保に取り組んでいく。

各分野における重点的に取り組むべき施策

<船舶交通安全に関する諸対策>

1 大阪湾海上交通センターの監視,情報提供体制の強化の継続

・大阪湾海上交通センターの監視海域及び情報聴取義務海域の拡大

・明石海峡航路の航路管制と阪神港の港内交通管制の統合

2 海上交通センター等における諸対策

・海上交通センターの機器更新,運用管制官の業務支援となる機能の実用化

・運用管制官の育成・技能の維持向上のための訓練装置の更新,研修の充実強化

3 次世代エネルギー燃料船への燃料供給に対する安全対策(図2)

・LNGを始めとする次世代燃料の燃料供給について,燃料特性や航行環境などの地域特性を踏まえた安全性の確保

4 洋上風力発電設備の設置海域における安全対策(図3)

・再エネ海域利用法に基づく地域協議会への参画・連携

・洋上風力発電設備の建設や運用・維持管理等における付近航行船舶の安全確保

5 自動運航船の実用化等に対する安全対策

・船舶衝突予防のための国際条約改正等に関する議論への対応

・条約に準拠した国内法の改正等に関する検討

6 その他継続的に取り組む安全対策

・潮岬沖に新たに設定する推薦航路の効果検証と更なる対策の必要性の検討

・船舶自動識別装置(AIS)の搭載義務のない小型船への普及促進

・事故実態を踏まえた安全対策の推進

※情報聴取義務海域:海上保安庁が提供する交通方法に関する情報等を聴取しなければならない海域。

※推薦航路:国際海事機関(IMO)において指定される航路の一つで,通航する船舶はその中心線の右側を航行することが推奨される限定されない幅の航路。

※船舶自動識別装置(AIS):船舶の位置,針路,速力等の安全に関する情報を自動的に送受信するシステム (AIS:Automatic Identification System)。

図1.大阪湾北部海域における情報聴取義務海域の拡大
図2.バンカー船によるLNG燃料供給の様子
図3.洋上風力発電設備の様子
図4.潮岬沖の推薦航路

<マリンレジャーに関する安全対策>

1 プレジャーボートの機関故障対策

・事故隻数の多いプレジャーボートの機関故障対策として,情報拡散効果の高いSNS等(図5)を利用して整備事業者等による定期的な点検整備の有用性を効果的に周知

2 プレジャーボートの操船経験の浅い者に向けた取組

・近年増加傾向にある操船経験の浅い者の事故防止のため,小型船舶教習所等と連携した免許証の取得,更新時の安全啓発

・販売店やショッピングサイトと連携した,船舶購入時等の機会を捉えた安全啓発

3 安全啓発に取り組む個人,団体等との協議

・インフルエンサーと連携した情報発信

・通信販売業者等と連携したマリンレジャー用品発送時の安全啓発

・マリンレジャー愛好者団体の連携促進による安全意識向上

4 現場指導体制の強化

・パトロールや海難防止講習会などで効果的な安全指導ができるよう,活発化,多様化するマリンレジャーについての特性や事故防止に関する知識を付与する研修体制を構築

図5.安全啓発動画の配信
図6.アマゾンジャパンと連携したウォーターセーフティガイドの周知

<海上交通基盤の充実強化>

1 灯台等の耐災害性の強化の推進

・近年の自然災害の激甚化,頻発化に対応するため,海水浸入防止対策工事等の改修(図7),設備の更新を実施

2 海上デジタル通信システム(VDES)※による新たな情報提供の検討(図8)

・AISに比べ高速大容量の新たな海上デジタル通信システムの実用化に向けた具体的な活用方法の検討

3 XR技術※の活用による業務の効率化

・XR技術の活用による灯台等の保守点検の効率化

・XR技術の研修等への活用に向けた検討

4 WEBによる通報の導入

・電話や電子メールで行われている航路入航前の通報についてWEBで通報することのできるシステムの整備を推進

5 航路標識協力団体制度の活用による維持管理の充実化,効率化

・公募,指定の継続による協力団体の裾野拡大

・制度の効果的運用の検討により灯台等の活用,維持管理の充実

図7.海水浸入防止対策工事の様子
図8.VDESを用いた情報提供イメージ図

※海上デジタル通信システム(VDES):AISによる情報交換を高度化・高速化した双方向デジタル通信システム (VDES:VHF Data Exchange System)。

※XR技術:AR(拡張現実),MR(複合現実),VR(仮想現実)などの技術の総称。

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