特集 通学路における交通安全の確保について
第2章 通学路における交通安全の確保に向けた取組
第2節 「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」への取組

目次]   [前へ]   [次へ

特集 通学路における交通安全の確保について

第2章 通学路における交通安全の確保に向けた取組

第2節 「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」への取組

令和3年6月28日、千葉県八街市において、下校中の小学生の列にトラックが衝突し、5人が死傷する痛ましい交通事故が発生した。このような通学路における交通安全を脅かす交通事故は、いまだ後を絶たない。

政府においては、この交通事故を受け、令和3年6月30日に開催された「交通安全対策に関する関係閣僚会議」における「こどもの安全を守るための万全の対策を講じる」との内閣総理大臣指示を踏まえ、同年8月4日に「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」が決定された。

以下、同緊急対策が決定された経緯及び同緊急対策に基づく通学路における交通安全の確保に向けた主な取組状況について記載することとする

1 緊急対策の経緯

(1)小学生5人が死傷する交通事故の発生

令和3年6月28日、千葉県八街市において、トラックが走行中、電柱に衝突後、下校中の小学生の列に突っ込み、小学生5人が巻き込まれた交通事故が発生した。この交通事故により、5人のうち2人が死亡し、3人が重傷を負った。

なお、トラックの運転者の呼気からは、基準値以上のアルコールが検出された。

(2)第1回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」の開催

この交通事故の発生を受けて、令和3年6月30日に、第1回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」が開催された。

この会議では、内閣総理大臣から、

・通学路の総点検を改めて行い、緊急対策を拡充・強化し、速やかに実行に移すこと

・こどもの安全を守るための万全の対策を講じることとし、必要な対策を速やかに洗い出すこと

との指示があった。

(3)第2回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」の開催

第1回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」における内閣総理大臣指示を受けて、関係省庁による対策の検討を行い、令和3年8月4日に、第2回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」が開催され、「通学路等における交通安全の確保」と「飲酒運転の根絶」を柱とする「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」(以下「緊急対策」という。)が決定された(特集-第19図)。

また、この緊急対策を着実に推進していくため、関係省庁の局長級をメンバーとする「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策に関するワーキングチーム」(令和3年8月4日付け交通対策本部長決定)が設置された。

(4)第1回「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策に関するワーキングチーム」及び第3回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」の開催

緊急対策の進捗状況を把握するため、令和3年12月23日に、第1回「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策に関するワーキングチーム」を持ち回りで開催し、同年12月24日に、第3回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」を開催した。

この会議では、内閣総理大臣から、

・通学路合同点検で抽出された対策必要箇所について、令和5年度末までにおおむね対策を完了できるよう、取組を進めること

・緊急対策の進捗状況については、交通安全対策を担当する内閣府特命担当大臣がしっかり管理し、対策に遅れが生じないようにすること

との指示があった。

特集-第19図 「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」の概要
特集-第19図-2 「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」の概要

(5)第3回「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策に関するワーキングチーム」及び第4回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」の開催

緊急対策の進捗状況を把握するため、令和5年4月4日に、第3回「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策に関するワーキングチーム」を持ち回りで開催し、同年4月5日に、第4回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」を開催した。

この会議では、内閣総理大臣から、

・残された対策必要箇所については、用地買収等に時間が掛かるとの報告も受けたが、このような箇所についても、「こどもまんなか社会」を実現する上で、全てのこどもたちの通学路の安全を確保することが重要である

・残る通学路の安全対策の取組を加速するとともに、暫定的な安全対策の実施を含め、目標期間の令和5年度末までに、通学路合同点検で抽出された対策必要箇所である全国7万6,404か所全てにおいて安全対策を講じることを目指して、取り組むこと

との指示があった。

また、第4回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」から、こども家庭庁が設立されたことに伴い、同庁の、こどもや子育て当事者の視点に立った施策を推進する役割や、こどもの安全・安心に関する取組を進める役割を、通学路の安全を確保していく上でいかしていくこととし、通学路の合同点検については、こども家庭庁において取りまとめていくこととなったほか、「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策に関するワーキングチーム」(令和3年8月4日付け交通対策本部長決定)については、令和5年4月5日付けで改定され、「緊急対策全般に係るワーキングチーム(通学路における合同点検部分を除く)」と「通学路における合同点検に係るワーキングチーム」が設置された。

(6)第2回「通学路における合同点検に係るワーキングチーム」及び第5回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」の開催

目標期間である令和5年度末を迎えたことから、緊急対策の進捗状況を把握するため、6年4月4日に、第2回「通学路における合同点検に係るワーキングチーム」を持ち回りで開催し、同年4月5日に、第5回「交通安全対策に関する関係閣僚会議」を開催した。

この会議では、令和5年度末における対策の実施状況については、集計中であるものの、関係大臣からの説明により、暫定的な安全対策を含めると、全ての対策必要箇所で安全対策が講じられることとなることが分かり、内閣総理大臣から、

・令和6年3月までを目標期間として進めてきた通学路の交通安全対策について、対策が必要と判断された箇所の全てについて、新学期を前に、安全対策が講じられることが確認できた

・令和6年度以降も引き続き、こども家庭庁が司令塔となってこどもが日常的に集団で移動する経路について定期的な合同点検を行い、対策の改善・充実を図るとともに、ハード・ソフトの両面から、こどもを始めとする歩行者の安全確保にしっかりと取り組むこと

との指示があった。

(7)第4回「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策に関するワーキングチーム」の開催

目標期間である令和5年度末における緊急対策の進捗状況を把握するため、6年6月28日に第4回「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策に関するワーキングチーム」を持ち回りで開催し、通学路合同点検結果に基づく対策の進捗状況について、暫定的な安全対策の実施を含めると、全ての対策必要箇所で安全対策が講じられたこと等を確認した。

特集-第20図 「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」に関する経緯
2 緊急対策の取組状況

緊急対策のうち、通学路の交通安全の確保に向けた主な施策の取組状況を以下に記載する。

(1)通学路における合同点検の実施及び合同点検結果に基づく対策の実施状況

小学校の通学路を対象に合同点検を実施し、全国で7万6,404か所の対策必要箇所を抽出した。

抽出した対策必要箇所については、地域の実情に対応した、効果的な対策を検討し、可能なものから速やかに実施した。このうち、当初想定された対策の完了までに一定の期間を要する箇所については、暫定的に注意喚起看板を設置するなどの安全対策を講じており、こうした暫定的な安全対策を含め、令和5年度末までに、通学路合同点検で抽出された全国7万6,404か所全ての対策必要箇所において、安全対策が講じられた(特集-第21図、第22図)。

特集-第21図 通学路における合同点検結果に基づく対策の実施状況(令和5年度末)
特集-第22図 通学路における合同点検結果に基づく対策の例

(2)子供の安全な通行を確保するための道路交通環境の整備の推進

対策を講じるために必要な予算を措置し、警察においては、歩車分離式信号の導入、押ボタン式信号機の整備、横断歩道の設置・更新、道路標識・道路標示の更新・高輝度化等を行うとともに、速度規制や登下校時間帯に限った車両通行止め等の交通規制等の対策を実施したほか、道路管理者においては、歩道の整備、路肩のカラー舗装、防護柵等の設置等を実施した。

また、最高速度30キロメートル毎時の区域規制等を実施する「ゾーン30」を始めとする低速度規制を的確に実施するとともに、警察と道路管理者が連携し、通学路及びその周辺の道路構造、交通実態、沿道環境等を踏まえ、地域住民、道路利用者等の合意形成を図りながら、最高速度30キロメートル毎時の区域規制とハンプ、狭さく等の物理的デバイスとの適切な組合せにより交通安全の向上を図ろうとする区域を「ゾーン30プラス」として設定、整備し、通学路における速度抑制・通過交通の進入抑制対策を推進した(特集-第23図)。

特集-第23図 「ゾーン30」、「ゾーン30プラス」の概要
トピック スムーズ横断歩道の設置
トピック 物理的デバイス設置による効果

(3)「可搬式速度違反自動取締装置」の更なる整備の推進及び効果的な速度違反取締り

警察では、通学路等における速度規制の実効性を確保するため、取締り場所の確保が困難な道路や警察官の配置が困難な時間帯においても効果的かつ合理的な取締りが行えるよう、可搬式速度違反自動取締装置の整備を推進し、令和5年度末において全国で149台を整備した。

可搬式速度違反自動取締装置の積極的かつ効果的な活用により、令和5年は1万4,428回運用し、取締りを実施した。

可搬式速度違反自動取締装置による取締り状況

(4)子供を始めとする歩行者の安全確保のための交通安全教育・指導取締り

第1章第2節でみたとおり、歩行中の小学生の交通死亡事故・重傷事故件数のうち、その多くが横断中であることを踏まえ、横断歩行者の安全確保に向けて、歩行者には、運転者に対して横断する意思を明確に伝えるなど、自らの安全を守るための交通安全教育を、運転者には、歩行者等の保護意識の向上を図る交通安全教育を推進した。

また、歩行者が横断中の交通事故が多発している路線における交通事故を減少させるため、交通事故の発生状況を分析し、横断歩行者等妨害等の違反を始めとした歩行者保護に重点を置いた交通指導取締りを実施した。

令和3年秋、4年春・秋及び5年春・秋の全国交通安全運動において、「こどもと高齢者を始めとする歩行者の安全の確保」や「こどもを始めとする歩行者の安全の確保」等を全国重点として掲げ、歩行者の交通ルールの遵守の徹底、運転者の歩行者等への保護意識の向上等の広報啓発活動を推進したほか、全国交通安全運動期間中等に通学路における全国一斉取締りを実施し、無免許運転、酒気帯び運転、最高速度違反等の交通違反を検挙した。

さらに、教職員や小学生等の交通安全等に関する意識の向上を図り、こどもたち自身に安全に身を守るための能力を身につけさせる安全教育を推進しているほか、新1年生向けリーフレット(交通安全等に関する注意事項をクイズ形式で学べるもの)を作成し、全国の小学校等に配布した。

(5)登下校時の子供の安全確保

登下校時の安全確保に向け、登下校時における見守り活動の充実を図るため、スクールガード養成講習会やスクールガード・リーダー育成講習会を開催し、スクールガード等ボランティアの養成・資質向上を促進したほか、スクールガード・リーダーへの活動支援の充実を図るなど、警察や保護者、PTA等との連携の下で見守り体制を一層強化した(特集-第24図)。

また、令和3年9月から4年3月まで、千葉県八街市において、登下校時の小学生等の安全確保のための取組として、小学生等への安全教育の実施や、スクールバスの運行、見守り要員、警備員等の配置などを実施するとともに、その効果や課題の検証を行った。

通学路における交通安全教育
新1年生向けリーフレット「たいせつないのちとあんぜん」
特集-第24図 登下校時の安全確保に向けた取組
目次]   [前へ]   [次へ