第1編 陸上交通
第1部 道路交通
第2章 道路交通安全施策の現況
第6節 救助・救急活動の充実
第1編 陸上交通
第1部 道路交通
第2章 道路交通安全施策の現況
第6節 救助・救急活動の充実
1 救助活動及び救急業務の実施状況
(1)概要
ア 救助活動の実施状況
令和5年中の全国の救助活動実施状況は、第1-20表のとおりである。
救助活動件数 | 救助人員 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 | 対前年 増減率 |
うち交通事故 による件数 |
交通事故件数 による割合 |
人員 | 対前年 増減率 |
うち交通事故 による人員 |
交通事故による 人員の割合 |
||
件 | % | 件 | % | 人 | % | 人 | % | ||
イ 救急業務の実施状況
令和5年中の全国の救急出動件数は、消防防災ヘリコプターによる出動件数を含め、764万987件で、前年と比較し、40万8,869件(5.7%)増加した。また、搬送人員は、664万3,379人で、前年と比較し、42万4,080人(6.8%)増加した。
救急自動車による救急出動件数は、全国で1日平均2万928件であり、約4.1秒に1回の割合で救急隊が出動し、国民の約19人に1人が救急隊によって搬送されたことになる。
(2)交通事故に対する活動状況
令和5年中の救助活動件数及び救助人員のうち、交通事故に際して救出困難な者が生じた場合に、消防機関が救助活動に当たったものは1万2,917件で、救助人員は1万6,126人となっており、それぞれ全体の18.0%、24.1%を占めた。
また、令和5年中の救急自動車による救急出動件数及び搬送人員は、第1-21表のとおりである。
救急業務全体に占める交通事故に起因するものの割合は減少傾向にあるが、救助活動に占める割合は依然として高い水準にあり、事故の種類・態様の複雑多様化に対処するためにも、引き続き救助・救急体制の一層の拡充が必要である。
救急出動件数 | 搬送人員 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
全出動件数 | 全搬送人員 | ||||||
うち交通事故 による件数 |
全出動件数に 対する割合 |
うち交通事故 による人員 |
全搬送人員に 対する割合 |
||||
件 | 件 | % | 人 | 人 | % | ||
2 救助・救急体制の整備
(1)概要
令和6年4月1日現在、救助隊は全国720消防本部の97.6%に当たる703消防本部に1,412隊設置されており、救助隊員は2万4,407人である。救助隊を設置している消防本部の管轄対象となっている市町村は、全国1,719市町村のうち1,653市町村である。また、救急隊は全国で5,415隊設置されており、救急隊員は6万7,006人で、救急業務実施市町村数は、全国1,719市町村のうち1,690市町村である。
より高度化する救助・救急需要に適切に対処するため、引き続き、高度かつ専門的な教育を受けた救助隊員及び救急隊員の配置を推進している。
(2)救助体制の整備・拡充
交通事故の種類・内容の複雑多様化に対処するため、救助体制の整備・拡充を図り、救助活動が円滑に実施されている。
(3)多数傷者発生時における救助・救急体制の充実
大規模道路交通事故等の多数の負傷者が発生する大事故に対応するため、広域災害・救急医療情報システム等による情報の共有や、救護訓練の実施及び消防機関や医療機関等の連携による救助・救急体制の充実が図られている。
(4)自動体外式除細動器(AED)の使用も含めた心肺蘇生法等の応急手当の普及啓発活動の推進
交通事故による負傷者の救命を図り、また、被害を最小限にとどめるためには、救助・救急体制及び救急医療体制の整備・充実に加え、バイスタンダー(事故現場に居合わせた人)による負傷者に対する迅速かつ適切な自動体外式除細動器(AED)の使用も含めた応急手当の実施が重要であり、広く応急手当の普及を図ることが有効である。
このため、運転免許を受けようとする者(指定自動車教習所の卒業証明書を有する者等を除く。)に対して、応急救護処置(交通事故現場においてその負傷者を救護するため必要な応急の処置)に関する講習の受講が義務付けられており、第二種免許を受けようとする者に対して行う応急救護処置に関する講習は、第一種免許に係る講習に比べて高度な内容となっている。また、指定自動車教習所の教習カリキュラムには、応急救護処置に関する内容が盛り込まれている。
消防機関においては、「救急の日」(9月9日)や「救急医療週間」(9月9日を含む一週間)を中心に、「応急手当の普及啓発活動の推進に関する実施要綱」に基づき、一般市民に対する応急手当の普及啓発に努めるとともに、応急手当指導員等の養成や応急手当普及啓発用資器材の整備を推進している。同要綱に基づき令和5年中に行われた応急手当指導員講習(普通救命講習又は上級救命講習の指導に当たる応急手当指導員を養成する講習)の修了者数は7,866人、応急手当普及員講習(事業所又は防災組織等において当該事業所の従業員又は防災組織等の構成員に対して行う普通救命講習の指導に当たる応急手当普及員を養成する講習)の修了者数は1万2,423人であった。
また、地域住民に対する応急手当普及啓発活動については、普通救命講習受講者数が83万9,270人、上級救命講習受講者数が6万8,886人となっている。
さらに、(公社)日本交通福祉協会は、安全運転管理者、運行管理者等を対象に、実技指導を主体とする交通事故救急救命法教育講習会を全国的に実施した。
(5)救急救命士の養成・配置等の促進
ア 救急救命士制度
重度傷病者が病院若しくは診療所に搬送されるまでの間又は重度傷病者が病院若しくは診療所に到着し当該病院若しくは診療所に入院するまでの間(当該重度傷病者が入院しない場合は、病院又は診療所に到着し当該病院又は診療所に滞在している間)に、重度傷病者の症状の著しい悪化を防止し、又はその生命の危機を回避するために緊急に必要な救急救命処置を行う救急救命士の資格保有者数は、令和6年末現在で、7万5,898人であり、搬送途上の医療の確保が図られている。
また、令和6年4月1日現在、全国の消防機関における救急救命士有資格者数は4万4,919人、うち救急隊員は3万3,350人である。
なお、救急救命士の資格を有する救急隊員のうち気管挿管を実施することのできる者は1万6,605人、ビデオ硬性挿管用喉頭鏡を実施することのできる者は9,342人、薬剤投与(アドレナリン)を実施することのできる者は3万558人である。また、心肺機能停止前の重度傷病者に対する静脈路確保及び輸液を実施することのできる者は2万9,886人、血糖測定並びにブドウ糖溶液の投与を実施することのできる者は2万9,798人である。
イ 救急救命士資格の取得
救急隊員に救急救命士資格を取得させるための教育訓練は、各都道府県からの出捐金により設立された(一財)救急振興財団の救急救命東京研修所及び救急救命九州研修所や、政令指定都市等が設置している救急救命士養成所において実施されている。また、専門学校や大学においても救急救命士養成課程を設置しているところもある。
(6)救助・救急資機材等の装備の充実
救助工作車、交通救助活動に必要な救助資機材を充実させるとともに、救急救命士等がより高度な救急救命処置を行うことができるよう、高規格救急自動車、高度救命処置用資器材等の整備を推進している。さらに、救急医療機関等へのアクセスを改善するため、高速自動車国道における緊急開口部の整備を推進している。
(7)消防防災ヘリコプターによる救急業務の推進
消防防災ヘリコプターによる救急搬送に関しては、昭和41年に東京消防庁でヘリコプターが導入されて以来実施されているが、平成10年の消防法施行令(昭36政令37)の一部改正、15年の消防組織法(昭22法226)の改正等により、消防防災ヘリコプターによる救急活動のための救急隊員の配備や装備等の基準に加え、都道府県の航空消防隊による市町村消防の支援について、法的根拠を明確にするなど、消防防災ヘリコプターの機動性をいかした、効果的な救急業務の実施を促進している。
(8)救助隊員及び救急隊員の教育訓練の充実
複雑多様化する救助・救急事象に対応すべく救助隊員、救急隊員及び准救急隊員の知識・技術等の向上を図るため、継続的な教育訓練を推進している。
(9)高速自動車国道等における救急業務実施体制の整備
東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社及び本州四国連絡高速道路株式会社並びに関係市町村等は、通信連絡体制の充実を図るなど連携を強化し、高速自動車国道等における適切かつ効率的な人命救護の実施に努めている。
現在、高速自動車国道等の全ての区間について、市町村の消防機関が救急業務を実施しており、沿線市町村においてはインターチェンジ近くに新たに救急隊を設置するなど、高速自動車国道等における救急業務実施体制の充実を図っている。
(10)現場急行支援システムの整備
人命救助その他の緊急業務に用いられる車両を優先的に走行させる信号制御等を行い、現場到着時間の短縮及び緊急走行に伴う交通事故防止を図る現場急行支援システム(FAST)の整備を図った。
(11)緊急通報システム・事故自動通報システムの整備
事故発生時等に車載装置、携帯電話等を通じてその発生場所等の位置情報を通報すること等により、緊急車両の現場到着時間を短縮し、負傷者の早期救出及び事故処理の迅速化を図る緊急通報システム(HELP※)及び事故自動通報システム(ACN)の普及を図った。また、緊急通報サービスを行う事業者(接続機関)と救援機関の接続環境次第では、交通事故等緊急事態に適切な救助・救急活動が行えなくなる可能性があることから、接続機関が救援機関に自動車からの緊急通報の内容を連絡する際に遵守すべき内容を定めた「接続機関における自動車からの緊急通報の取扱いに関するガイドライン」(平成30年5月策定)の浸透を図り、緊急通報サービスの普及と高度化のための環境を整備した。
※HELP:Help system for Emergency Life saving and Public safety
3 救急医療体制の整備
(1)救急医療機関等の整備
救急医療機関の整備については、救急隊により搬送される傷病者に関する医療を担当する医療機関としての救急病院及び救急診療所を告示し、医療機関の機能に応じた初期救急、入院救急(二次)及び救命救急(三次)医療機関並びに救急医療情報センターからなる体制の体系的な整備を推進した。
救急病院及び救急診療所は、厚生労働省令に定める基準に基づいて都道府県知事が告示することとなっており、令和5年4月1日現在の救急病院及び救急診療所は、全国で4,094か所である。
ア 救急医療機関の整備
(ア) 初期救急医療機関の整備
初期救急医療体制は、地方公共団体等に設置する休日夜間急患センター及び地域医師会で実施している在宅当番医制からなり、令和5年4月1日現在で、休日夜間急患センターについては、547か所、在宅当番医制については、668地区整備している。
(イ) 入院救急(二次)医療機関の整備
入院治療を必要とする重症救急患者を受け入れる救急医療体制は、二次医療圏(おおむね都道府県を数地区に分割した区域)を単位とする病院群輪番制及び共同利用型病院方式からなり、令和5年4月1日現在で、それぞれ389地区、19か所整備している。
また、入院を要する小児救急医療体制を構築するため、輪番制方式等により夜間・休日に小児救急患者を受け入れる医療機関について、令和5年4月1日現在で、140事業(小児救急医療支援事業)、小児救急医療支援事業の実施が困難な複数の二次医療圏から小児重症救急患者を受け入れる小児救急医療拠点病院について、5年4月1日現在で、27か所整備している。
(ウ) 救命救急(三次)医療機関の整備
重症及び複数の診療科領域に渡る全ての重篤救急患者の救命医療を担当する24時間診療体制の救命救急センターについては、令和7年1月現在で、309か所整備している。
また、救命救急センターのうち広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒等の特殊疾病患者に対応する高度救命救急センターについては、令和7年1月現在で、50か所整備している。
イ 救急医療情報システムの整備
救急医療機関の応需体制を常時、的確に把握し、医療機関、消防本部等へ必要な情報の提供を行う救急医療情報センターについては、令和5年4月1日現在で、39か所整備している。
(2)救急医療担当医師・看護師等の養成等
救急医療を担当する人材を確保するため、救急医療を担当する医師・看護師等を対象に、救急医療に関する講習及び実習を関係団体に委託して実施した。
また、医師の卒前教育・臨床研修において救急医療に関する内容の充実に努めるとともに、看護師養成課程においても、救急医療に関する教育を行っている。
(3)ドクターヘリ事業の推進
救急現場や搬送途上における医療の充実を図るため、ドクターヘリについては、平成19年6月27日に施行された救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法(平19法103)に基づき、普及推進を図っているところであり、令和7年2月末現在で、46都道府県、57機のドクターヘリが運航されている。
4 救急関係機関の協力関係の確保等
(1)傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に関する基準
傷病者の搬送及び受入れの円滑な実施を図るため、消防法(昭23法186)では、都道府県における「傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に関する基準」(以下「実施基準」という。)の策定、実施基準に関する協議会(以下「法定協議会」という。)の設置が義務付けられている。各都道府県は、法定協議会において実施基準に基づく傷病者の搬送及び受入れの実施状況を調査・検証した上で、その結果を実施基準の改善等に結び付けていくことが望まれる。
(2)メディカルコントロール体制の強化
救急業務におけるメディカルコントロール体制とは、医学的観点から救急救命士を含む救急隊員が行う応急処置等の質を保障する仕組みをいう。具体的には、消防機関と医療機関との連携によって、①医学的根拠に基づく、地域の特性に応じた各種プロトコルを作成し、②救急隊が救急現場等から常時、迅速に医師に指示、指導・助言を要請することができ、③実施した救急活動について、医師により医学的・客観的な事後検証が行われるとともに、④その結果がフィードバックされること等を通じて、救急救命士を含む救急隊員の再教育等が行われる体制をいう。
消防機関と医療機関等との協議の場であるメディカルコントロール協議会は、各都道府県単位及び各地域単位で設置されており、令和6年8月1日現在において、各地域単位のメディカルコントロール協議会数は251となっている。救急業務におけるメディカルコントロール体制の役割は、当該体制の基本であり土台である「救急救命士等の観察・処置を医学的観点から保障する役割」から、「傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準の策定を通じて地域の救急搬送・救急医療リソースの適切な運用を図る役割」へと拡大し、さらに「地域包括ケアにおける医療・介護の連携において、消防救急・救急医療として協働する役割」も視野に入れるなど、各地域の実情に即した多様なものへと発展しており、今後もメディカルコントロール体制の一層の充実強化が必要である。