第1編 陸上交通
第1部 道路交通
第2章 道路交通安全施策の現況
第8節 研究開発及び調査研究の充実

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第1編 陸上交通

第1部 道路交通

第2章 道路交通安全施策の現況

第8節 研究開発及び調査研究の充実
1 道路交通の安全に関する研究開発及び調査研究の推進

(1)内閣府本府関係の調査研究

令和8年度からの第12次交通安全基本計画の作成に向けて検討すべき事項を整理するため、第11次交通安全基本計画の評価の検討を行うとともに、国民の交通安全意識等に関するアンケート調査、地方公共団体及び関係団体に対する第12次交通安全基本計画に盛り込むべき事項に関する調査、交通事故被害者等の関係団体からの意見聴取及び道路交通事故の長期予測等を実施した。

(2)警察庁関係の研究

ア 横断歩道の効果的運用に関する研究

ステレオカメラシステムを搭載した実験車両による公道走行等で歩行者等の横断行動を観測する調査を実施し、接近する車両との間の距離や当該車両の速度等から、歩行者が無理なく横断できる状況について明らかにするとともに、横断を意図した歩行者の挙動と道路交通条件の関連を分析することで、効果的な横断歩道の設置・運用条件について検討した。

イ 親子の安全な歩行行動を促進する教育方法に関する研究

家庭における歩行者教育として、就学前のこどもの親向けのフォーカスグループ(司会者が導く小集団討議)を活用した教育方法を提案した。この教育は、親がこどもの模範となるよう意識付けを促すことを目的としたものであり、予備調査等を経て、教育方法の効果検証を行った。

ウ 新たなモビリティの関わる交通事故の研究

普及が進む電動キックボード等の新たなモビリティは搭乗姿勢や走行性能が従来の乗り物とは異なり、交通事故発生時の乗員の挙動や受傷過程が不明である。これらモビリティの事故再現実験によって、交通事故事件捜査の鑑識活動に必要な知見を蓄積し、併せて乗員の外傷について検証した。

(3)総務省関係の研究

電波を用いた自動運転・安全運転支援等を目的とするV2X用通信システムについて、国際的に検討が進められている周波数帯(5.9GHz帯)の追加割当が我が国においても検討されているところ、令和7年度から新東名高速道路(一部区間)において走行実証を行うことを視野に、5.9GHz帯を用いた新たなV2X用通信システムに係る通信プロトコル等の通信要件等に関する技術的検討を行った。

(4)文部科学省関係の研究

国立研究開発法人防災科学技術研究所は、各種気象レーダーを活用したゲリラ豪雨・強風の新しい検知・予測技術、集中豪雪を監視するシステム、路面雪氷状態の分布を把握する技術、大雪・吹雪・雪崩・着雪等の雪氷災害を予測するシステムの開発や降雨時の各種センサーの実験を行った。

(5)国土交通省関係の調査研究

ア 国土交通省本省の調査研究

(ア) 道路空間の安全性向上に資する検討

交通事故が集中している箇所や原因の特性を明確化し、効果的・効率的な交通安全対策を検討するため、過去の事故データ等を経年的に整理し、事故が発生した道路の特徴と交通事故との関係等について分析等を実施した。

(イ) 安全運転の支援

令和3年度から開始した第7期先進安全自動車(ASV)推進計画において、近年の事故実態や技術の動向を踏まえ、産学官連携の下、「自動運転の高度化に向けたASVの更なる推進」を基本テーマに掲げ、①ドライバーの認知ミス又は操作ミスによる明らかに誤った操作に対して、システムの安全操作を優先する安全技術、②車両間の通信により、見通しの悪い交差点での出会い頭の事故等を防止する安全技術、③歩行者等の交通弱者と通信を行い、交通弱者が被害者となる事故を防止する安全技術等の要件について検討を行った。

イ 国土技術政策総合研究所の研究

(ア) 高度道路交通システムに関する研究開発

最先端の情報通信技術(ICT)を活用して人・道路・車両を一体のシステムとして構築するITSに係る研究開発を行うとともに、これまで開発・普及してきた各種ITSシステムの共通的な基盤の構築、国内ITS技術の国際標準化の推進等を積極的に行った。

① 道路交通情報提供・収集の高度化

高精度な道路交通情報の提供・収集のため、プローブ情報の収集及びプローブ情報の活用による道路交通情報提供の高度化を図る研究開発を行った。また、ETCのほか、渋滞回避支援や安全運転支援に関する情報提供を行うETC2.0サービスを推進するなど、着実な取組を実施した。

② 安全運転の支援

全国の高速道路上に設置された約1,800か所の路側機を活用し、画像や音声を用いた前方障害物情報提供等の様々な安全運転支援を行うETC2.0サービスを推進するなど、着実な取組を実施した。

③ 国際標準化の推進等

効率的なアプリケーション開発、国際貢献、国内の関連産業の発展等を図るため、ISO等の国際標準化機関において、国内のITS技術の国際標準化を推進するとともに、既存の国際標準との整合を図った。さらに、国際会議で情報交換を行うなど、国際協調活動を推進した。

(イ) 道路空間の安全性向上に資する研究

交通安全対策のより効果的、効率的な実施に資するために、PDCAサイクルに基づく交通事故対策マネジメントの効率化に関する研究、交通事故対策の事故削減効果分析に基づく効果的な事故対策の推進に関する研究、安全・安心な自転車通行空間の設計・整備に関する研究、科学的分析に基づく生活道路の交通安全対策に関する研究を実施した。

ウ 気象庁気象研究所等の研究

道路交通の安全に寄与する気象情報等の精度向上を図るため、気象庁気象研究所を中心に、気象・地象・水象に関する基礎的及び応用的研究を行っている。主な研究は、以下のとおりである。

(ア) 台風・集中豪雨等対策の強化に関する研究

気象災害を防止・軽減するために、予報・警報等の防災気象情報を避難等防災活動の早期準備や迅速・的確な実施に対して一層活用可能なものにしていくことを目的として、台風・集中豪雨等の災害をもたらす現象に対する観測・解析技術及び予測技術の高度化に関する研究を行った。

(イ) 地震・津波・火山対策の強化に関する研究

地震、津波及び火山に関する防災情報をより的確なものとし、それらによる災害を、防止・軽減するために、地震活動及び火山活動をより的確に観測・解析する技術を開発するとともに、地震動、津波及び火山噴火の予測技術の高精度化を進めた。

エ 独立行政法人自動車技術総合機構の研究

(ア) 自動運転車両に求められる機能要件に関する研究

ドライバーの運転する車両と混在して円滑かつ安全・安心に走行するため、ドライビングシミュレーターを活用し、自動運転車両に求められる機能要件を検討した。

(イ) 自動運転車両における電子制御装置の安全性・信頼性評価の研究

自動運転車両のセンシング機能について分析し、その正確性並びに誤認知が生じる場面及び条件を体系的に整理するなど、自動運転システムの安全性・信頼性評価に関する研究を実施した。

オ 国立研究開発法人土木研究所の研究

(ア) 冬期道路交通サービスの提供に関する研究

冬期路面管理支援のため、車載カメラや道路CCTVカメラ画像をAIで処理し安価かつリアルタイムで路面すべり摩擦係数や定性的な路面性状(湿潤、圧雪等)及び路面の凹凸深さを推定するシステムを構築した。また、積雪地域で効果的な物理的デバイスとしてアスファルト製のハンプを生活道路に常設し有効性を確認した。

(イ) 雪氷災害に対応する防災・減災技術の開発に関する研究

冬期道路交通の安全確保及び管理の判断を支援するため、気象の現況及び予測値を用いて過去の暴風雪・大雪の類似事例を抽出する技術を開発し、これらの情報をウェブ上で公開するツールを作成し情報提供を行った。また、吹雪時にドライバーの判断を支援する視程障害予測技術の精度向上や吹雪対策施設の性能向上に関する検討を行った。さらに、厳冬期の大雨等に伴う雪崩災害に対する道路管理の判断支援技術の開発や、吹雪対策施設の性能向上に関する検討を進め、冬期交通の安全性向上に寄与する技術開発を推進した。

(6)厚生労働省関係の研究

交通事故被害者も含めた、PTSD等持続的な精神的後遺症を持つ者に対する治療法の普及に係る研究を実施するとともに、PTSD等に適切に対応できる医療従事者等の人材を育成する研修を実施した。

2 道路交通事故原因の総合的な調査研究の充実強化

道路交通法の交通事故調査分析センターの指定を受けている(公財)交通事故総合分析センターは、官民それぞれが実施する交通安全対策をより一層効果的なものとし、安全で快適な交通社会の実現に寄与するため、交通事故と人・道・車に関する各種の分析・調査研究を行った。

同センターでは、交通事故、運転者、道路、車両等に関する各種データを統合したデータベースを構築し、幹線道路において事故が多発している地点を抽出するなど、交通安全対策に直結する多角的な統計分析を行った。

交通事故の原因をより総合的かつ科学的に検討するために、実際の交通事故現場への臨場や医療機関との連携による事故例調査を全国で実施しており、マクロ、ミクロ両面からの総合的な交通事故分析・調査研究を進めた。

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